Trial18―――雨―――

      なぁ、不二。


      そんな顔をするな。

      もう、お前のそんな姿を見たくはなかった。

      だから…

      『んぁ、いぬ……何をっ』

      降りしきる雨の中、傘も差さず墓石の前で一人佇むお前の薬指から銀色に輝くリングを外

      して夢中でキスをした。

      俺はどうかしている。

      道徳的社会的の前に人として脆くもガラスの破片のように営利さを残したまま壊れてしまっ

      た俺。

      嫌がる不二をその場で押し倒して抱いてしまっているのも俺。

      どうせ壊してしまうのならば俺の下で崩れ去って欲しかった。

      そうすれば、今、苦しんでいるお前は俺達の間に消えてしまうから。

      『やめっ……あ、あ…』

      お互い服は泥まみれになったが、それが欲情した俺を余計に煽った。
 

      濡れた唇のまま叫ぶ不二だったが、胸の突起を口に含むのと同時に片手でゆっくりなぞった

      下半身の感触ですっかり抵抗が収まってしまう。

      ふふっ、お前のその感度の良さはデータ通りだな。


      なぁ、不二。

      知っていたか?

      俺は青学時代からずっとお前のことが好きだったんだぞ。

      アレから八年、お互いテニスプレイヤーとしての人生を踏み出したばかりだ。

      それなのに、不二。

      お前はさっさと大学時代知り合った彼女と婚約をしてしまった。

      俺はこの想いは永久に自分の胸の内で留めておこうと覚悟さえしていた。

      そして、三ヶ月前事故は起こった。

      その日も今のように雨が降っていた夜、帰宅途中の彼女が交通事故に遭った。

      原因は運転手のスピードオーバーに加え雨でブレーキが遅れた所為だった。

      両方あったはずのエンゲージリングが一つだけになり、不二が雨雲を呼び始める。

      確かに、彼女は六月の花嫁になるはずだったのに……。

      皆がお前に同情する中、俺は一人喜んでいた。

      最低な人間だよな。

      ただ、不二が壊れてしまうのだけが不安だったなんてね。


      『あ、んんっ』

      最初は抵抗していたはずのお前が喘ぐ声は甘く、窮屈になったズボンを下着ごと下ろすと、

      白い蜜が静かに溢れ出している。

      そんなに感じてくれるんだな。

      本来ならば彼女を求めたはずだった。

      だからだろうか、天を仰いだまま滴り落ちるその様が哀しくて妬ましくて愛しくて粉々に

      壊したくなる。

      『んあっ』

      馴染ませないままで一気に貫く。

      お前は俺のことだけ見ろ。

      反る華奢な体を抱きしめ、腰を動かすのと同時にまだ花が咲いていない場所に啄ばむような

      キスをする。

      消えない証とは言えないが、不二を独占する威力くらいはあるだろう。

      そんなことを考えていると、細い掌が頬を覆った。

      …お前だった。


      『なんでっ…泣いてるの……?』

      俺が泣いてる?

      目の前には顔を激痛で歪めている不二が滲んで見えた。

      俺はお前の掌に重ねて眼鏡をすり抜けて目元を触ればその通りに濡れていた。

      ……俺は何て情けない奴なんだろう。

      自分を選ばなかった不二を恨んでいるはずなのに、やはり、まだ恨みきれずに愛している。

      『ずっと…お前が好きだった』


      やはり、不二には勝てないな。

      お前が微笑むとキスを強請っては俺の耳元で囁く。


      『待ってたよ。……ずっと、ね』



      ♯後書き♯

      Trial18「雨」はいかがだったでしょうか?

      …何と言いましょうか、大人の恋?

      ちょっと、前半を暗めの強姦チックにしてみました。

      まぁ、甘々なブライダルばかりにはいかないのが当サイトですからねv←何、拘ってるんだ

      か初乾×不二裏BL手紙名のですが、お楽しみ頂けたでしょうか。

      ビターにするためとはいえ、今作のものは長いですよね?

      えっと、深く突っ込まないで下さいね。(汗)

      多分と言いましょうか必ず痛い話になるので。(苦笑)

      それでは、皆様のご感想をお待ちしております。