Trial51―――風が吹きぬけた―――

      飛行機雲が低い青空。

      太陽が容赦なく、照り付けてくる。

      こんな日は、どこかに自転車を飛ばしたくなる。

      家から飛び出した俺は愛車のペダルを勢い良く踏んだ。

      こんな日はどんな所に行こうかと考えていると、いきなり真っ白なワンピースに

      麦 わら帽子を 被った女の人がこっちに向かって手を振っている事に気付いて、


      動き出 したばかりの自転車に ブレーキを掛けた。

      その人は、アンタだった。

      麦わら帽子から上げた顔はいつもの泣き出したものとは違って笑っていた。


      なぁ、さん。

      アンタにはやっぱ、笑っている方が似合っているぜ。

      美人が台無しじゃいけねーな、いけねーよ。

      スカートを気にしながら後ろに横座りをするアンタは片手を帽子にそして、もう片方は

      俺の腰に回した。


      さんは遠慮している部分もあるけれど結構積極的な所もあるんだなって、

      ちっと
嬉しくなった。

      これはいつもの夢。

      だけど、それとは違った夢を今、俺は見ている。


      なぁ、さん。

      アンタがそんなカッコウをするのも女の仕草をするのもこの夢の中でしかありえない。

      たどり着いた河川敷に座った俺をよそにサンダルを脱いで川に足を着けて

      遊び始める。

      こんな姿をいつまでも見ていたい。

      冷たい、と言って笑っていたアンタのことがこんなにも好きな俺。


      なぁ、さんは気付いているか?

      俺がこんな気持ちだって事を…。

      『武君っ!』

      その声に、風が吹きぬけた。

      おいおい、さん。


      今、俺のことを「武君」って呼んだのかよ?

      上がったアンタは俺の手を取って川の中に誘う。

      当たり前に石のごつごつとした感じは足の裏にはない。

      これが現実じゃないことは、はなっから知ってるけど。

      それでも、アンタが俺を呼んだ声はこの耳から離れない。

      なぁ、……もっと、俺の名前を呼んでくれよ。



      ♯後書き♯

      Trial51「風が吹きぬけた」はいかがだったでしょうか?

      「ガラスのシンデレラ」桃城side手紙第三弾はご覧になられた方にはお解かりか

      と思いますが、小説中に青学メンバーが第三章「涙の約束」でそれぞれ見た

      夢の手紙です。

      次号には終章を迎えるわけですが、これまでご愛顧頂き誠にありがとうございました。

      今作と同時にこれからもどうぞ宜しくお願い致します。