Trial66 ―――もみじ―――

       殿…。


       拙者が殿と出会ってからもう何年になるのか、今年も見事に紅葉した。

       はらはらと落ちるその様を黙って見つめる。

       舞い降るもみじに先日の出来事を思い出していた。

       拙者達は山の紅葉が大分深まった頃を見計らって出かけた。

       拙者の後ろに付いて来る肩を抱くように隣へと移動させる。

       ぎこちない調子で歩みを進める殿がこんなに小さかったとはまるで初めて知ったか

       のように驚いたのを今も覚えている。

       顔をほのかに赤らめた殿がもみじのようで、思わず笑ってしまって悪かったでござる。

       拙者達の間には互いの手を繋ぎ合っている。

       すっかり冷え切ってしまった秋風で、殿の掌も冷たかった。


       殿…。

       拙者の中で次第に大きくなる温かな気持ち。

       だが、それは抱いてはいけないもの。

       そう、拙者にはそのようなことが出来る身分ではない。

       一人の女性も幸せに出来なかった拙者が殿をお慕いすることなど許されるはずなど

       ないのだ。

       しかし、そんなことを考えても結局は、いつの間にか絡み合っている。

       不思議でござるな、殿は……。

       何も口にしなければ、誰も拙者のことに巻き込まなくて済むと思っていた。

       だが、それは返って殿を悲しませてしまうことに繋がってしまう。


       拙者はどうすれば良いでござるか?

       先日は下駄の鼻緒が切れた殿をこのもみじの下で抱き止めた。

       舞い降る紅が美しすぎてしばらくそのまま目を閉じた。


       殿…。

       胸の奥で本音が零れそうになってそっと肩を押した。
 

       拙者は殿をお慕いすることは許されない。

       だが、こうしてもみじを眺めていると、何故だか、殿に会いたくなる。

       目の前をはらはらと舞う紅を掌に納める。

       葉の先までは染まりきっていない。

       拙者の心と同じで、また、留まりきれない想いもそこに表れている。


       殿…。

       夢の中では確かに言えた言葉は、このもみじのみ知っている。



       ♯後書き♯

       皆様、こんにちは。

       「WJモノ書きさんへのお題―101のお題―」をかざりました「るろうに剣心」

       初剣心手紙はいかがでしょうか?

       久し振りにWJ作品を新しくupしてみました。

       今作を仕上げて思ったことですが、「るろうに剣心」のアニメが終了して七年目

       なんだなぁと沈んでしまいました。

       それでは、皆様のご感想を心よりお待ち申し上げております。