Trial98 ―――きっと、ここにいる―――

      ねぇ、。

      俺達、話し合ったんだ。

      みんな同じ夢を見るって…。

      そして、俺達は恋をしているんだ。

      あの名前も知らない女の人に。


      ねぇ、さん。

      それはアンタ?

      でも、みんなと話し合った結果、答えは自然とさんに繋がった。

      そんなことあるはずもないのに、俺達はなんだか解らないけど、無性にさんに

      会いたく
なって部室を飛び出した。

      だけど、コートにはさんはいなかった。

      これは、あの夢と同じ!?

      解らない。

      けど、みんな考えていることは同じで俺の後から出てきた大石も桃も怖い顔をしていた。

      きっと、俺もこんな顔をしているんだろうと思うと、頭を強く振った。

      ウチのあの桜の樹の下で蹲って泣いている女の人。

      俺は何か言ってあげたくても声を掛けることが出来なくて、悲しかった。

      『私を助けて……っ!』

      それだけを言ったかと思うと、あの人はまるで空気の中に解けていくみたいに消えていった。

      取り残されるのはいつも俺だけで、ほかに誰もいない。

      目が覚めると、俺はいつも泣いている。

      助けられなかったことに何度も後悔して、何度も恋をしていた。

      そんなのを現実にしたくない。

      「英二、さんの居場所が解るの?」

      不二がそう聞いてきたけど、俺は確信していた。

      きっと、ここにいる。

      そう信じて俺はみんなを連れて正門前まで走った。

      さんはあの桜が好きだった。

      それは俺達が練習をしている間も勉強している時もそこが居場所だって 言うみたいに

      いつだって傍で笑っているんだ。

      ねぇ、さん。

      その笑顔……俺達には見せられない?

      アンタのその顔、俺…結構好きだよ?

      だけど、いつもはまるで作り物のように笑っている。

      それは、あの夢みたいに悲しかった。

      正門にたどり着いた俺達が見たのは、あの桜の樹の下に横たわった

      さんの姿だった。

      無防備なその寝顔に安心しながらも何か熱い感情が湧いてきて胸が苦しかった。

      きっと、みんなも同じ気持ちなんだろうな。

      そう思うと何だかとても自分が嫌な奴みたいで、もう一度頭を強く振って 出来るだけの

      笑顔をしてみた。

      (やっぱり、ここにいたんだね)

      その時、俺はずっと夢の中で会っていたあの人にやっと巡り会えたんだって確信した。



      ♯後書き♯

      Trial98「きっと、ここにいる」はいかがだったでしょうか?

      今作は菊丸君の手紙初作です。

      こちらはご覧になられた方ならお解かりと思いますが、「企画」で私が主催しております

      ネット同人雑誌『Streke a vein』に連載しています「ガラスのシンデレラ」side
の手紙です。

      まだ二章しか出していない地点で作業しましたのは他ならぬ皆様のおかげです。

      まぁ一応始めての連載なんですけど、「ガラスのシンデレラ」がこんなにも大好評を
頂く

      とは思ってもみませんでした。

      『Streke a vein』は三ヶ月に発行する形を取ってますので、それではせっかくの
読者様に

      歯がゆい思いをさせてしまうのではないかと考え、こうして手紙をupする
とにしました。

      それでは、これからも『Streke a vein』と『Raw Ore』の応援をよろしく
願いします。