Trial10―――ジャージ―――
なぁ、橘さん。
もうすぐ、あんたは卒業しちまうんですね。
この二年間で作り上げた不動峰のテニス部を後にして…。
こんなの書いたら愚痴を言っているみたいですね。
だけど、俺が言いたいのはそんなことじゃない。
橘さんには俺は、俺達は感謝しているんです。
毎日卒業式の練習とかで忙しいのにこうして俺達のことを考えてコーチ
してくれることが。
でも、俺は時々それが怖くなるんです。
こうして同じコートに立てるのは後僅か。
それが経てばあんたはどこか別のコートにいる。
本当は凄いとか喜ばなければいけないことなのに、俺には出来ません。
そもそも橘さんをこの不動峰以外の場所で華々しく活動して欲しくない。
俺達が今まで頑張ってきたのは何だったんですか?
……だめですね、俺。
やっぱ、俺はあんたを責めてる。
こんなのガキが駄々こねているのと変わんないですよね。
限られた時間、橘さんはもう、不動峰のジャージを着ない。
もう、二度と袖を通さないだろう。
春からはどこかのジャージの色を背負って立つあんたがやっぱ俺は
悔しかった。
悔しくて悲しくて、どうこのムチャクチャな感情を伝えればいいのか
分かりません。
今日は3月14日。
本当ならば男が関わることじゃないんだろうが、そんなことを
言ってられない。
俺は部活終了後、橘さんのジャージを下さいと頼んだ。
やっぱ、あんたは驚いた顔をしていたなぁ。
部室には俺達以外誰もいない。
俺は見下ろして橘さんの目を見ていた。
やっぱ、単刀過ぎただろうか。
こんな卒業式恒例のボタンムシリみたいなことを男の俺が言うなんてさ。
でも、俺はあんたとの思い出が欲しいんです。
橘さんが俺と・・・俺達といた時間が欲しいんです。
もういいです、そういう前に目の前に取り出されたもの。
それは俺達が勝ち抜いた漆黒のジャージだった。
サイズを気にしていたあんただったけど、俺はそれ以上に自分の想いが
届いたのが嬉しかった。
橘さんはこう言う時、背が高いのって反則だよなって笑って抱きしめて
くれた。
なぁ、それってそのジャージと一緒にあんたの気持ちを受け取って
いいってことだよな?
俺が気が動転していると、また橘さんが笑って自分の背中に俺の両腕を
移動させた。
それってやっぱ期待してもいいんすよね?
こんな姿誰かに見られたら一方的に慰められているようだと言うあんたに
お返しにキスをする。
橘さん、大好きです。
四日後にはここから巣立っちゃうけど、俺はあんたと繋がっているから。
辺りがすっかり夜に変わったと同時に俺は誓います。
俺、うんと勉強して橘さんがいる高校に行きます。
そしたら、あんたはまた、テニスを教えてくれますか?
♯後書き♯
Trial10「ジャージ」はいかがだったでしょうか?
今作もTrial9「眠い」と同じく白い吐息企画に向けて作業したものです。
橘×石田。
多分、またもや柊沢が表舞台に出したBLではないでしょうか?
今年はまだ不動峰を作業していないと今更ながら気づいて慌ててup
したものです。
それではこれをご覧になられた方々にも白い吐息がありますように。