Trial21―――髪型―――

         水族館の中を一人歩く。

         もうすぐ閉館時間なのか俺以外誰もいない。

         俺は三ヶ月前に、答えを訊いたはずだった。

         なのに、俺はあなたを求めてしまうんです。



         さん。

         あなたは俺が、俺達が毎夜の如く夢の中で出会っている女性。

         そう確かに、訊いたんだ。

         それなのに……


         『…俺はだよ。性別は正真証明の男。何なら脱いでもいいよ、勿論、

          
部室でだけど』

         何かを言いかけて首の後ろで留めていた長い髪を勢い良く解いた。

         それは、あなたの中に眠るもう一人の存在ですか?


         『じゃあ、俺に一度でも良いから1ゲーム取ってごらん。そしたら、

          女
装して君達とデートしてやる』

         真っ黒な簾から再び現れたさんは笑っていた。

         それは、何かが失われた気がして悲しかった。

         胸が痛くて…呼吸が苦しくて…この感情は俺だけではないことは解っている

         けど…。

         鯨の水槽の前に来ると、いきなり潮を噴いた時だった。

         肩を叩かれた気がして振り返ると、前髪を引っ張られた。

         俺しかいないと思っていたのに、それも、こんな近距離に自分以外の人が

         いたなんて気付きもしなかった。

         笑い声にその人の顔を見ると、あの人が口元を押さえていた。


         これは夢?

         頬を抓りたい気持ちを抑えてあなたをじっと見る頬が熱くなる。

         夢ならば、ずっと覚めないで欲しい。

         今まで見ていたどれもがさんを泣かせてしまう。

         だけど、目の前にしているのは、顔中で微笑んでいるあなた。

         それが本当のあなたなんですね。


         あの、さん。

         俺は、三ヶ月前、抱き締めたかったんです。

         あなたにそんな悲しい顔をさせたくなくて。

         そして、どうか笑っていて欲しくて。




         ♯後書き♯

         
Trial21「髪型」はいかがだったでしょうか?

         今作は「ガラスのシンデレラ」side手紙です。

         第三章「涙の約束」で大石君が見た夢を作業してみましたが、いかが

         だったでしょうか?

         それでは、皆様のご感想の方を楽しみにしております。