水族館の中を一人歩く。
もうすぐ閉館時間なのか俺以外誰もいない。
俺は三ヶ月前に、答えを訊いたはずだった。
なのに、俺はあなたを求めてしまうんです。
さん。
あなたは俺が、俺達が毎夜の如く夢の中で出会っている女性。
そう確かに、訊いたんだ。
それなのに……
『…俺はだよ。性別は正真証明の男。何なら脱いでもいいよ、勿論、
部室でだけど』
何かを言いかけて首の後ろで留めていた長い髪を勢い良く解いた。
それは、あなたの中に眠るもう一人の存在ですか?
『じゃあ、俺に一度でも良いから1ゲーム取ってごらん。そしたら、
女
装して君達とデートしてやる』
真っ黒な簾から再び現れたさんは笑っていた。
それは、何かが失われた気がして悲しかった。
胸が痛くて…呼吸が苦しくて…この感情は俺だけではないことは解っている
けど…。
鯨の水槽の前に来ると、いきなり潮を噴いた時だった。
肩を叩かれた気がして振り返ると、前髪を引っ張られた。
俺しかいないと思っていたのに、それも、こんな近距離に自分以外の人が
いたなんて気付きもしなかった。
笑い声にその人の顔を見ると、あの人が口元を押さえていた。
これは夢?
頬を抓りたい気持ちを抑えてあなたをじっと見る頬が熱くなる。
夢ならば、ずっと覚めないで欲しい。
今まで見ていたどれもがさんを泣かせてしまう。
だけど、目の前にしているのは、顔中で微笑んでいるあなた。
それが本当のあなたなんですね。
あの、さん。
俺は、三ヶ月前、抱き締めたかったんです。
あなたにそんな悲しい顔をさせたくなくて。
そして、どうか笑っていて欲しくて。
♯後書き♯
Trial21「髪型」はいかがだったでしょうか?
今作は「ガラスのシンデレラ」side手紙です。
第三章「涙の約束」で大石君が見た夢を作業してみましたが、いかが
だったでしょうか?
それでは、皆様のご感想の方を楽しみにしております。