Trial3 ―――ケガ―――


      大和部長。

      いえ…もう、あなたは部長ではありませんでしたね。

      俺の肩を大和さんは卒業するまでずっと気に掛けてくれた。

      理由を聞かずに、ずっと俺の傍にいてくれた。

      時に強く、時に優しく、あなたは当時の俺には見えなかったケガに気づいていた。

      『お帰りなさい。手塚君』

      俺は学校から大和さんの家にお邪魔すると、出迎えてくれたあなたは強く俺を

      抱きしめてくれた。

      大和さん。

      俺はあなたの声も深い色のサングラスに隠された瞳も好きだ。

      逢いたかった。

      向こうに行ってからずっと大和さんのことばかり考えていた。

      今は、一体何しているだろうか。

      あなたのことだからきっとまわりを驚かせることをしているのだろうと、思い出し

      笑いをしたこともあった。

      だが、そこには俤の大和さんしかいない。

      声が聞きたい。

      俺の左肩にキスして欲しい。

      あなたはいつも俺を抱きしめる時、ケガを慰めるかのように口づけを寄せてくれるから。

      『大和さっ…ああっ』

      その夜、出会ってから三年後、ようやくあなたは俺を抱いてくれた。

      後で聞いたら、大和さんは俺のケガにキスをすることで欲情を抑えていたそうだ。

      俺はずっとしてくれないことに不安を感じていた。

      大和さんの口づけはとても優しくて跡も残らない。

      だから、俺はそれに苛立ちを覚えていた。

      跡が残っていないと、あなたを慕う俺が勝手に妄想した陽炎にすぎないと悩んでいた。

      だが、大和さんは俺を欲していた。

      その事実がたまらなく嬉しくてあなたの名前を呼び続けた。

      俺自身を片手で握り締められても、背後から胸の頂を弄ばれても…。

      気がつくと、隣で寝ていたはずの大和さんがいなくて俺は、はしたなくもベッドの上で

      混乱した。

      昨夜のことを思い出して体が瞬時の内に熱くなる。

      早く戻ってきて欲しい。

      そして、もう一度見えないケガに跡を……。


      『おはようございます。よく眠れましたか?』

      俺の考えていることが伝わったのだろうか、あなたは部屋の扉から軽めの朝食を手にして

      入ってきた。

      俺が起き上がろうとすると、大和さんがそっとベッドに押し返す。

      その行為だけで昨夜の一部始終が思い起こされ、力が抜けた。

      しかし、あなたは口を押さえて笑ってから洗濯したと思われる俺のジャージを

      差し出した。

      『そのままでも宜しいのですが、そちらを拝見していますと私の理性が保てなくなる

       ので、着用して頂けませんか?』


      大和さんの言葉の意味が解らなくて、俺は布団の中に隠れている自分の体を見て

      思わず目を見開いた。

      そこには、新たなる無数のケガが残されていた。



      ♯後書き♯

      Trial3「ケガ」はいかがだったでしょうか?

      今作は「原作 アニメ共に手塚国光君お帰り!!」キャンペーンに作成しました。

      今回の大和×手塚はメジャーな方ではないでしょうか?

      手塚君のケガの原因をアニメで知った私は、こう言ったものの言い方は変でしょう

      が、辛いものとしてではなく幸せなものとして感じてくれればと気に掛かっていました。

      単に辛い記憶として彼の中に残って欲しくないというのが、私の描いた「ケガ」です。

      それでは、皆様のご感想を楽しみにしております。