何だって2月も終わるってのに雪なんかが降っちゃってるんでしょうか…



           Magical Love Power! Type-S



           「も――っ寒いっつーのッ」

           親友・亜惟と下校中のあたし、は声をあげた。

           「こんなに積もるなんてびっくりだよね〜」

           「全ッ然嬉しくないけどね!うぅ寒い…」

           雪を踏み締めながら、ふと前方を見やると…

           「きゃっ!」

           可愛らしい女の子の悲鳴が聞こえたかと思うと、足を滑らせた女生徒が隣の男子生徒に支えられて

           いた。

           「大丈夫?」

           「うん、びっくりしたー」

           幸せそうに寄り添って歩く2人。

           「…」

           あたしは隣にいる亜惟と見つめあった。

           「何さ。イチャこきやがって」

           「だって彼氏作ろうと思えばいつでも出来るじゃん。昨日だってほら、2組の橘くんにだっけ?呼ばれ

           てたじゃん」

           「そんな人知らない」

           「…まあの場合はもっと現実見るべきだと思うけどね。えーと誰だっけ。テニプリの…ああ、フジイ

           くん」

           「…不二くん。いーじゃん別に!しょうがないじゃない、とにかく理想どおりなんだもんっ」

           「まあうちのガッコにの理想どおりの人がいるとは思えないけど…じゃあさ、他校生は?」

           「えー…めんどくさい。」

           「そいえばさっき他校生が校門で人待ってるって言ってた」

           「まじ?彼女待ち〜?」

           「多分ねー。かっこいーんだって。」

           「へぇ〜…こんな雪の中わざわざねえ…」

           そんな女同士の会話をしながら校門を通り過ぎようとした、その時だった。

           「ぅわっ!」

           あたしはすっとんきょうな声をあげて思いっきりすっ転んだ。もちろんさっきの女生徒みたいに支えて

           くれる彼氏がいるわけでもなく、おしりがじんじん痛かった。

           「…大丈夫?」

           笑うのを堪えている亜惟の声が聞こえる。

           「笑うんなら笑ってよ」

           あたしが起き上がろうとすると手が差し出された。

           「ありがと」

           その手をとって起き上がろうとすると、亜惟が叫んだ。

           「ちょっと、?!」

           「何よ、イキナリ」

           あたしは手を引っ張ってくれているはずの亜惟を見上げた。


           「…へ?!」

  
           あたしの目に映ったのはどう見ても亜惟じゃなくて。
  
           よく考えればこの手だって明らかに女の手じゃないし。

           ううん、それよりも。




           め、めっちゃ好み。


           ってかこの顔は…








           「ふ、不二くん?!」


           そんなわきゃないってわかってるのに思わず口から出てしまう。

           だけどあたしは、この後彼が放つ言葉に、またしりもちをつく羽目になる。

           「うん、そうだよ」

           べちゃっ


           つい、手の力が抜けてしまった。

           「ちょっと、?!」

           亜惟は訳が分からないと言う顔で立ち尽くしている。

           訳が分からないのはあたしのほうだよ。

           目の前の男はあたしと目線が合うようにしゃがみ込む。

           「…腰、抜けちゃった?」

           「い、いや…大丈夫です」

           あたしはもう1度彼の手を借りて立ち上がった。

           「冗談やめてくださいよ、もう」

           「うーん、本気なんだけど…それより、僕、君を待ってたんだ。この後あいてるよね?」

           「うん、…ってえ?!」

           「じゃいこっか。あ、借りてくね。」

           不二くんは亜惟に微笑むと、あたしの手を取った。

           「え?!何、どこ行くのっ?」

           訳も分からないまま、あたしは不二くんそっくりのこの人に連れ出されてしまった。


           ―さっきのは冗談にしても、この人は一体誰なんだろう?

           こんなかっこいい知り合いなんていないし…
 
           はっ もしかして噂のスティンガー?!

           いやあたし彼氏いないし…

           「うーんあんまり僕この辺に詳しくないんだ。、どこ行きたい?」

           「あの…あたし、本当にあなたのことわかんないんですけど…どうしてあたしのこと知ってるの?」

           「いやだなぁ、さっき言ったじゃない?僕は不二周助だよ。」

           だって…あたしの知ってる「不二周助」はマンガの人だけだしなぁ…

           「ねえ、、本屋、何処かな?」

           「…え?」


           何故かあたしはこの”不二周助”さんと本屋に向かった。

           本屋に着くやいなや、”不二周助”さんはコミックス売り場に向かった。

           あ…テニプリ…

           ”不二周助”さんは15巻を手に取った。




           が。





           「え?!」






           そこにあるのは、ただ青いだけの表紙…

           「うそっ何で…」


           だってここには、不二くんが描かれてたはずなのに―…

           あたしは9巻を手に取ったが、何とそこに描かれていたのは裕太だけだった。

           まるで不二くんが抜け出してしまったかのように…

           「僕、抜けでてきたんだ」

           「えっ?!」

           「に会いたくて」

           「じゃああなたは本当に…不二くんなの?!」

           「そうだよ、信じてもらえた?」

             不二くんはくすりと笑った。

             「…う、うん」



             「よかった。ねえ、とりあえずどこか行こう?の知ってる店、どこでもいいから連れていってよ」








  
           ―ってな訳で、一体全体何がどうなったのかサッパリ分からないまま、あたしは何と不二周助くんと

           お茶できることになった。

           あたしはかねてから、デートするならここ行く!と言っていた喫茶店へ不二くんを連れていくことにした。

           やっぱり不二くんは歩いてるだけで注目されちゃう人で、なんかあたしまで見られてるようで恥ずかし

           くなってしまう。

           それでも不二くんはただ笑ってるだけだけど―。

           「へえ、おしゃれな店だね」

           「実はあたし入ったことないんだけど」

           まさか不二くんと制服デートできるなんて思ってもみなかったし。

           中に入ると、他にも何組かのカップルが楽しそうに話してて、あたしはちょっと気まずくなってし

           まった。

           でも不二周助くんは何にも気にせずに、あたしを雪景色の見える窓際の席にエスコートしてくれる。

           それから不二くんはコーヒーを、あたしはミルクティーを頼んだ。

           今更だけど緊張してうつむいていたら、不二くんはくすくすとほほ笑んだ。

           「そんなにかたくならなくていいよ」

           「う、うん」

           目が合うたびに、心臓が高鳴るのがわかる。

           「綺麗だね、雪…」

           「そだね。…滑るけど」

           不二くんはコーヒーを少しだけ口にすると、少し真剣な表情を見せた。

           …吸い込まれそうな程、深い蒼の瞳。

           「…あんまり、時間がないんだ」

           少し悲しそうに俯いた。

           「言いたいことがあるんだ」

           あたしはただ、ティーカップの取っ手を握っていた。

           「ココには、今日1日しか居られないんだ。」

           「そんな!」

           「僕はに会いに来た。…のことがずっと好きだったから」
















           身体が芯から震え上がった。







           手を添えたままのティーカップが、カタカタと鳴った。







           でも妙に頭はスッキリしていて、あたしの口はちゃんとあたしの気持ちを言葉にしてくれた。





           「あたしも好き。不二くんが好き」





           世界が違うと思ってた。

           存在しないと思ってた。

           でもここにいる。


           不二くんはここにいる。




           「不二くん、あたしもね、不二くんに言いたかったことがあるの」

           「お誕生日おめでとう…」

           そう。今日は、2月29日ではないけれど。

           あなたが生まれた日に、1番近い日だから。



           それから少し経って、あたし達は喫茶店を出た。

           「こっちにいられる間に、といろんな場所を歩きたい」

           あたし達は手を繋いで、白い息を吐きながら、町中を眺め歩いた。

           …ねえ、あたし、今だけでも良いから、不二くんの彼女面してもいいんだよね?

           「不二くん、あたし、不二くんにプレゼントしたいよ」

           「いいよ、気を使わなくて。僕はと一緒にいられればそれで良い」

           「でも思い出になるものが欲しいよ。ね?」

           あたしは、ちょっと季節遅れだけど、お揃いのマフラーを買った。

           「…こんな物しかプレゼントできなくてごめんね」

           「そんなことない。暖かいよ。大事にする。ありがとう…」

           少しずつ日が沈む公園のベンチ。

           あたし達はどちらからともなく、冷えた唇を合わせた。

           「…やっぱ嫌だよ!!」

           あたしは思わず不二くんにしがみついてしまう。

           不二くんはあたしを抱きしめてくれた。

           不二くんはここにいるんだよ?

           こんなに、暖かいんだよ?

           「折角逢えたのに…離れるなんて嫌だよ…」
  
           本当なら、出逢えた奇跡に感謝するべきなんです。

           これ以上のことを望んだりしては行けない筈なんです。

           わかってるけど。わがままだけど。

           「、僕もツライ…」

           困らせちゃいけないのに。

           あたしの目には、涙が溜まっていく。

           「泣かないで、…」

           不二くんは、頬を伝い始めた涙をそっと拭ってくれる。

           「…周助…抱きしめて…」

           もっと。

           もっと強く。

           あなたの温もりを、絶対忘れないから。

           「、好きだよ…」

           「あたしも大好き」

           太陽がもう沈もうとした時。

           周助の身体に異変が起き始めた。

           「周助…足が…」

           足が透けてる…!

           「…もう、帰らなくちゃいけない…」

           「…周助っ…」

           「、お願いだから、僕に笑顔を見せて?僕、いつもを見てたよ。の笑顔が大好き

           なんだ。」


           あたしは鼻を啜ると、一生懸命、笑った。

           周助の身体は、もう完全に透けて、向こうの景色を写していた。

           「…また、逢いに来てくれる?」

           「うん、約束するよ」

           「絶対ね。じゃなきゃあたしがそっち行っちゃうから」

           「僕のこと忘れないで」

           「いつも見てる。応援してるよ。周助も浮気しないでね」

           「ずっとだけを見てるよ」

           周助は、あたしの大好きな笑顔で、そっとあたしにキスをした。

           唇に最後の、周助の温もり。







           「またね、。」






           目を開けると、そこにはもう、周助の姿はなかった。


           「またね、周助…」






           こうして、あたしのマジカルな1日は終わりを告げた。











           「ちょっとー!!何よ昨日!!カレシいないとか言ってちゃっかり!」

           「ごめんごめん!今度埋め合わせするから!」

           「じゃあさ、今日付き合ってほしいトコあるんだけど〜」

           「あ、ごめん!今日はジャンプの発売日なので速攻帰宅でーす!じゃ、まったねー!」

           「ちょっとー!!」






           ずっとずっと、あなたを見てるよ。






           Fin.



           c後書きd

           珍しく前半が気に入っています。

           ってか後半がおかしい。

           タイトルがいい加減恥ずかしくなってきました。

           一応ラグフェアのタイトルだったと思うんですけど。

 



           ‡Plun'derer=柊沢の有難くもないお礼状‡

           お友達の月影れゆ様のサイト「wisteria」から頂いて参りました。

           切ない系が苦手な私が最後まで読み切った作品です。(最初に読ませて頂いて感動しました)

           素直ではない柊沢は心の中で泣きました。

           私は英語は全然駄目なので、英文のタイトルが羨ましいです。

           素敵な作品をありがとうございました。