Trial13――眼鏡―――
仁王君。
『んっ』
あなたはいつも私が口づけの余韻に浸っている時、
水を差しますよね。
『のう、柳生。いつもキスする時くらい外せって…』
『知りません、そんなこと!』
そんな時、私は毎度拗ねたフリをするだけで精一杯なのです
が、きっとお解かりですよね?
ゴルフ部に所属していた私をスカウトなさった仁王君は
すべて見抜いてしまうのですから。
ですが、私とて意地があります。
あなたが何度も眼鏡を外せというサインを送ったとしても、
私はいつだって見ないフリを続けるでしょう。
しかし、「コート上の詐欺師」と言われている仁王君です。
きっと、いつかのように私を惑わすでしょう。
そんなことを例え思っていたとしても結局はあなたの策に
溺れてしまう。
それは、単に見抜けなかっただけでしょうか?
それともこの出口のないラビリンスを自ら望んでいるの
でしょうか?
『本来、二人の話なのだから俺が訊いて良いものではないの
だが、何故、仁王の言うことを聞こうとしないんだ?』
偶々、部室で柳君と二人きりなった時、彼は私に
そう言いました。
私は相談に乗って頂くつもりで遂、口外してしまった
のが、運のツキでした。
視力は至って眼鏡を外すと全く見えないと言うわけでは
ありません。
ですが、掛けていないと返って見え難いんです。
すべてのものがぼやけて見えてしまう。
それがイヤなんですよ。
早い話、私が口づけを交わしても眼鏡を外さないのは
仁王君の顔が見え難くなることを拒んでいるからです。
かと言って、コンタクトレンズは失くすと大変ですし、
そもそも私は眼鏡の方が性に合っています。
私が着替えを終えて部室から出てくるとあなたは何やら
おかしなことでもあったかのように笑っていました。
私はその意味を自宅に帰るまで知りませんでした。
『お前の眼鏡好きじゃ』
自宅前での口づけの後仁王君は意味深いことを私の耳元に
囁いてから駆け出しました。
仁王君。
私はまたあなたの詐欺に掛けられたのですね。
♯後書き♯
Trial13「眼鏡」はいかがだったでしょうか?
この試練はもう彼がすぐ浮かんできました。
「コンタクト姿も拝んでみたいけれど、やっぱり眼鏡よ」と
突っ込まれそうなことを考えてしまいました。(笑)
単に私が面倒臭がりなだけですが。(苦笑)
それでは、これにて失礼しました。