夏が終わる前に…―――真田編―――
「えっ…?」
「大丈夫か!?」
差し延べられた掌は強く、鍛え上げられた力ですっかり傾きかけた体制を
右足が砂利道の上に降ろしたことにより問題は解決したようには安易に
考えてしまったのがそもそも天然過ぎた。
乾パンのように敷き詰められた石畳から宙に瞳を泳がせ、無地の黒とまで
いかない深い青の浴衣から伸びる腕ががっしりとした筋肉を帯びてあるのにまず
驚き、さらに恐る恐ると、肩から首、首から頬、頬から瞳と確認すればやはり
その本人があの伝言を部員である幼馴染みに頼んだ彼と判明して体が一瞬
呼吸するのを拒んだ。
体中からは今夜の熱気とは違った汗が吹き出し、イヤな緊張感が雑踏の中に
紛れて声を発しようとしてもそれは言葉にさえもならずに夜に溶けてしまう。
視線を交わしているだけなのに、こんなにも胸がざわめくとは知らなかった
など、今まで恋というものを経験したことがない少女のようなことは思わない。
ただ、胸に過ぎるのは真田の頬が次第に朱に染まるのを見ている内に導火線の
ようにジリジリと体中が熱くなる。
いつも遠くから見ていた彼がこんなに近くにいる、それだけで気がどうにか
なってしまいそうなのに何故そんな顔をするのか。
大して運動もしてないのに、妙に空気が恋しくて少し鼻に含んで肺に送っては
みるが、せっかく送られたものも受け取らず二酸化炭素として送り返す。
それが何十回繰り返されたのかは数えてはいないが、また、前列が動き出すのと
同時に何を決心したのか彼女を握りしめている手の力が少し強められる。
「っ!?」
今度は転ばないように、と足を運ぼうと視線を前方へと外した直後のことだから
あまりの驚きに危うくまた砂利に弄ばれる所だったが、下駄の底でズル。
握りしめられた手が痛い訳ではない。
どちらかと言えば、一人夜遅く自宅に帰ってきて家族を起こさないように
ヘッドホンを付けながら観る録画しておいたドラマのワンシーンに似ている。
確か……そう、主人公が言葉の代わりに気持ちを唇に込める切ない告白に…。
それもあまり喋らない真田とダブって、余計な考えさえも巡らしてしまう。
例えば、今、三人で祭に来てその内の一人に手を握りしめられている場面が
ドラマの撮影だったら。
琥珀色の月が照らす今なら、勇気を振り絞って彼の大きな手の甲に空いて
いる左手を乗せることができるはず。
だが、動かそうと指一本を動かしたところでそれは無様に震えてしまい、
普段男子生徒が指を打撲しただの紙で切っただのといくらだって触ったことが
あるくせに、今になればそれさえも無防備なことだと思い知らされてしまう。
延ばしかけた指を情けなくも引っ込めればいきなり空が暗くなり、それに
驚いて見上げた
の瞳の中に一粒の雫が落ちた。
反射的に空を仰いだまま目配せしてしまうと、それが合図になったのか
雨がしとしとと降り始める。
群れは一瞬にして周囲の木々や建物の中へと散り散りに駆け出す。
残ったのは勿論、雨を瞳の中に宿した彼女達三人だけで呆然と
立ちつくしている。
「おらっ、何ボケっとしてんだよ!俺達もさっさと行くぞ……っ!」
そのうち、何かに弾かれたように丸井はそれだけ口走ると視線を落とし、
の右手を掴もうとしてその指先は宙で止まった。
彼の向けた視線の先には左手を握られた彼女が同じように体を硬直させている。
その頬の赤さとしっかりとした強さで放さない右手を交互に見比べて数分後、
髪の色と大差のないくらいに赤くさせた丸井はキッと真田を睨む。
まるで、今まで大切に取って置いたデザートを横から取られた子供のように。
「てめぇっ!」
「や、やめて、ブン太君!こ、これは、さっき私が転ぼうとしたからのことで」
「じゃあ、離せよ!今すぐ離れろよ。離せねぇよな、お前はいつだって
俺より強情で一度手にしたモンを離さねぇもんな」
掴みかかろうとした彼はの声というよりもうすうすとこの結果が分かっていた
のか、両手を拳に変えて膝の横で待機させていたが、やがて力無く言葉を
吐き捨てると散り散りに走る雑踏の中に消えていってしまう。
残された二人は何も言わず、そのまま雨に打たれていた。
まるで、それが懺悔だと偽善を被りたがっている浪士のようだ。
「ど、どうしよう……」
真田の掌の中で握り拳を小刻みに震わせる。
掌の中にはじとじととイヤな湿気とは違った冷たさを保ったままの水分も
汗と一つになる。
「…」
耳には雨音と雑踏から聞こえる黄色い声しか入らない。
彼は何かを言おうとしているのか自分の名を呼んだだけで黙り込んだ。
きっと、真田なり気をつかっているつもりなのだろう、この教師の皮を
被った愚者に同情して。
「私が傷つかせちゃったんだっ!」
「おいっ、待て!」
彼の手と声を振り切ってその場を慣れない下駄で走る。
すっかり水気を含んでしまったため、下駄のあちらこちらが石畳で削れるのが
足の裏を伝わって脳に辿り着いたが心には届かず、それに気がついたのは
障害物もない道でまたもや転びそうになった頃のことだった。
「っ!」
反射的に強く瞼を下ろした。
曲がり角に差し掛かり、職業柄なのか不器用に生まれた彼女はうまく曲がり
きれないのと夜露に濡れた下駄に滑って体制を崩し転倒するはずだった。
しかし、その痛みはいつまでも訪れず、逆に、体中に無重力を感じて足下に
力が入らない。
恐る恐る瞳を開いてみれば10p以上だろうか、往来する車が上げる水しぶきの
音でかき消されて落ちる。
「離してよ、真田君!」
誰かなんて振り向かなくても、すれ違い様に感じていた体臭と威圧感で
分かっている。
体を捩ったり肘で突いたりと抵抗はしてみるがびくともしない。
まぁ、練習量もきついあのテニス部の監督の前に、何と言ったか忘れたが
道場の宗家に当たる人物だ、ちょっとやそっとのことでどうにかできる
相手でないくらい分かっている。
ただ、これ以上惨めな自分を見て欲しくなくてできる限りの力で抵抗して
みたが、学生時代の体育のランクはいつも「1」評価だった彼女は疲れ
切ってみっともないのも承知でぜぇぜぇと、呼吸を繰り返した。
「もう、終わりか?」
肩から抱きしめている彼はこんなに抵抗しているにも関わらず、何事も
なかったような声でそう尋ねてきたのがに完敗を無情にも告げる。
言葉で答えるのが悔しくて涙が溢れそうで、頭を垂れて答えた。
「…あのぉ」
彼女は声を出すだけでやっとだった。
転びそうになった所をまたもや真田に助けられ、しかも、その方法が背後から
抱きしめられたのだ。
路上で数分抱きしめられた後、地上に下ろされお互い何も話さないまま歩いた。
真田の横顔をちらりと盗み見ると、何度もその視線と合ってしまいその度に
胸の鼓動が煩くて気がどうにかなってしまいそうだった。
我に返った頃には一件の豪邸に入ることを勧められた頃で、今でも脳裏では
どうしてなんて言葉が血流と一緒に体中を駆けめぐっているのでは、と
バカなことを真剣で心配してしまう。
それは、まだ今も同じで、彼の自室前の障子を開けた所で突っ立ってもじもじと
焦れったく発する言葉を選んでいる。
自室に案内されたは覚悟を決めて生唾を呑んだ。
だが、次に用意された真田の声は思いの外冷静で、タンスの中から
何やら取り出し彼女に差し出した。
「俺ので悪いがこれを着ろ。そのままでは風邪を引くだろう」
「あっ、ありがとう」
差し出されたものを受け取ると、今、着ているものと変わらない漆黒の浴衣だ。
隣の部屋を借りて着替えさせてもらったのだが、やはり男物で帯を強く
腰に巻いても肩幅の問題があったり丈の問題があったりする。
裾を踏まないよう十分気を付けたつもりだが、それよりも返って意識させるよう
な無防備過ぎる場所はないかと探し、見つけ次第裾を持ち上げたり痛みは
あるが腰に帯を巻いたりすることで何とか形は取れたがやはり現状は心許ない。
障子を開け、おずおずと袖の中にすっぽり隠れた手を強く結び、降り注がれる
既に藍色の浴衣に着替え終えた彼の瞳に耐える。
真田はどんな評価を自分にくれるのだろう、緊張だけが先走りして顔が
熱くなるのを覚える頃、またしても冷静な声が水を刺した。
「さっさと、部屋に入れ。そこにいては着替えた意味がなかろう。先程、
が着替えている間に湯を沸かして置いたから少しここで待ってくれ茶を」
「待って!」
独りで言い放つ彼に思わず耐えきれなくて、彼女はその隣をすり抜けようと
した裾を強く掴む。
「……何だ?」
しかし、恥ずかしさを捨てて呼び止めたと言うのに、真田はの顔さえ見ない。
雨戸で締め切った廊下にはまだ外から雨音だけが聞こえる。
こんなに長時間降り続いていることを考えれば容易に今夜は雨足が
納まらないだろう。
雨に閉じこめられたこの家には今、二人きりなのか人の気が全くしない。
まぁ、ここは道場を構えている宗家なのだから気を消すくらい当たり前に
なっているのかもしれない。
「用がないなら行くぞ」
「イヤっ!」
何を言うべきか、小さい頭をフルに活動させた時間はそう長くはないのに
数分もしない内に彼女の掴んでいる袖を振り払うが、それにさっと反応して
今度は彼の右腕をぎゅっと抱きしめる。
胸の谷間に当たっているが恥ずかしいなんて言ってはいられない、こっち
だって本気だって所を見せてやる。
「っ、離せ!」
案の定、真田は顔中を真っ赤にして体を固まらせ彼女の顔を数分ぶりに睨んだ。
だが、そんな攻撃はには通用しないことは学生時代から知っているし、
それにどれだけの感情を抱いているかも気づいている。
「離さないし、行かせない。だって、ずっと私の顔を見てくれないし、
言葉が突き放しているくらい判るよ。ねぇ、私何か気に障ることした?
それともお祭り、本当はブン太君と一緒に行きたかった?」
「なっ!?気色悪いことを言うな!誰が男と行きたがる。俺はと…」
言われてカッとなったのか、ついに本心を口走った彼を照れ笑いのように
微笑んで迎える。
「私と?」
答えはお互い知っている。
真田はその表情にすべての意地を投げて捨てたように彼女の隠された両手を
握りしめてからまるで、スローモーションのように左腕で肩を抱き寄せ
てから頬に掌を乗せその愛らしい唇を奪った。
真っ白な蒲団に押し倒されたは荒い呼吸を繰り返す青年の背中をさすり、
何度も啄むような短いキスをする。
彼女も明らかに他人事ではなく、かなり余裕がない。
しかし、見上げた先の愛しい男性が辛そうな顔をしているのを黙って見て
いるほど薄情ではない。
「はぁ、はぁ…っ」
「あんっ」
真田が初めて名前を呼び捨てにして思わず敏感な鳴き声を上げてしまい、
自分の口を自ら両手で塞ごうとするがそうはさせまいと、首筋に舌を走らせる。
その効果はすぐに表れ、の華奢な体がそれだけのためにびくっと、震え
開かれた瞳には先程とは明らかに違う熱が宿り出す。
「好きだ…お前を…あいつになど渡さんっ」
浴衣の胸元を大きく開かれ、黒いブラジャーを上に持ち上げられると、
躍り出るように彼の目の前に震えて現れた双丘に美しいな、と絶賛を評し、
その頂を惜しげもなく口に含む。
「ふっ……うん……」
舌先で突っつかれるのにも舐められるのにも声が漏れてしまう。
もしかしたら、部屋のどこかで家族の誰かが聞き耳を立てているかもしれない
のに、抑えられない。
必死に両手で塞ぐが、またしても片方の手で下半身の方へと這わせる感覚が
それを邪魔し、余計に声が漏れてしまう。
「ひゃっ」
驚いて背筋が大きく跳ねたのを何かに耐えるような声で宥める。
「声を殺すなっ…の声が聞きたい」
額に優しいキスを落とすと、今度は唇にそれが注がれる。
真田はキスが巧い。
上唇を甘噛みするような濃厚さが彼女を次第に虜にさせる。
「はぁ……ああ、んっ」
それともそれがきっかけになっただけなのだろうか、首に腕を回し太股を
大きくクロスさせ、彼を抱き寄せる。
それはまるで男を煽っている悪女そのものだろう。
「それではお前が触れない」
「や、やだぁ…んっ…あ」
唇を解放されたと思えば耳を舐められ、胸の先端を指の間で転がされる。
大して力の入らない腕と太股をゆっくり外せば良い子だ、と優しいキスを
頬に施し片手で下着の上から秘所を触った。
びくりと反応するに照れたように笑い掛け、耳元に触って良いか、と委ねる。
もう、どうしてこの人はそんな解りきったことをわざと聞いてくるのだろう。
「……うんっ……あぁ!」
こんなに下半身が疼いて無意識にひくひくと動いているのが分からない
のだろうか、今にも消え入りそうな声で何とか答える。
それが合図だったのか真田の大きな掌が下着の中に入り、指を刺し込んだ。
刺し込まれた方はあまりの痛さに瞳を強く閉じ、声を甲高く上げ、背筋を
弓に描かずにはいられない。
「ああっ……っ…さなだ…くん」
下着を取り去られてしまい、脚を大きく開かれる。
もう、彼女にはひとかけらも理性は残ってはいない。
今、残っているとしたら養護教諭としての恨めしき知識だ。
これから起こるべきことが体中で繰り返す呼吸より先に分かって、これから
彼のモノになるんだなぁ、と思うとまた緊張してくる。
「…くっ」
「はあぁ……」
肉壁を分け入ってきた熱は先程の痛みよりも激しい。
まるで、火を灯した蝋燭を体の中に突き刺されたような感覚だ。
当たり前のことだが、指よりも奥の方に進んでいるだけなのに、息を
吸うにもこんなに辛い。
「ああっ、っん……あうっ」
だが、通る度肉壁のあちらこちらに擦れる度にそれは新たなる甘い痛みと
変わりもっと、と言わんばかりにまたその腰に脚をクロスさせる。
の中では、明らかに自分のモノではない異物が同じように脈を打っている。
生きているんだ…なんて妙に感動しているのも束の間で、真田が何度か
呼吸を繰り返し、今までよりもさらに苦しそうな瞳でを見下ろした。
「動くぞ」
「はぁっはぁ…っ」
本当はまだ処女膜が裂かれたばかりでまだ痛い。
しかし、それとは裏腹に彼を求めている自分がいる。
それは体内にいる熱の重さずるりと引き抜かれると、助かったと思うのと
抜いちゃダメと思う気持ちでも言えた。
「はっ、あ……んん…」
真田が動き出せば、ぶつかり合う肉質や雨の降った後にできる水溜まりより
も艶めかしい水音が下半身から響く。
あんなに苦しそうだった彼が自分と一つになったことで押さえきれなくなった
のか、引き抜き、もっと奥へと突き上げられる。
「はああっ!」
痛みで我を忘れているのか何も考えられなくてただ喘ぐ声が煩く聞こえる。
いつもは冷静な真田が今、自分を組み敷いてアソコで繋がっているだ
なんて信じられない。
せっかくのシーツをイヤらしい蜜で濡らしている、自覚してはいても
しつこい癖と同じでコントロールすることも制御することもできない。
ただ今は、雨に濡れた舗装されてはいない獣道を駆ける足音しか聞こえない。
「…んっ…ああっ」
突き上げられる度、痛いはずなのに段々麻痺してきたのか甘美なモノ
に変わり、自らも腰を動かしてしまう。
こんな恥ずかしいことをしてしまうのはきっと彼の前だけだ。
「うぅ……っ」
突き上げてくる熱も次第に大きさを増しているように感じる。
もう、限界が近いと言うことだろう、彼女もまた肉壁で真田を締めつける。
「っ……ああ……もうっ」
悲しくもないのに涙が頬を伝って白いシーツを汚す。
きっと、今頃下半身の方は大きな水溜まりができているのではないだろうか。
「イクか」
彼の声も今にも消え入りそうなくらい震えている。
そんなことを答えさせないで、と言いたいのに真田の逞しい両肩に彼女の足を
乗せて隙間のなくなった腰と腰の距離に頷いて答える。
視線を交わす度の貪るようなキスをされ、名前を呼ばれるだけで肉壁が
彼を柔らかく締めつける。
「ふぅ…くっ……」
もう、何度目だろう、この人の名前を呼ばれたのは。
たったそれだけなのに、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
そう、大事そうに彼女の名を呼び、それまでの激しさに拍車を掛けたように
勢いが増す。
「ああ」
強く体が揺さぶられると、ずぢゅずぢゅと言うイヤらしい音が余計に
煩く聞こえる。
苦しさに顔を歪め、の右手に指を絡めて左手で胸を揉みしだき堅く尖った
先端を潰したり転がしたりする。
もう、これ以上されたら自分が自分ではいられない。
「くぅ……っ……」
「アアアッ!」
体内の真田が一瞬大きく波打った気がする。
それと同時に放たれたモノが温かくてそのまま眠りに落ちた。
夢とも現ともつかない狭間で誰かが「愛している」と囁くのを聞きながら…。
あれから一年後の夏、真田家の次男には嫁が嫁いでいた。
馴れ初めた母校でもある勤め先の立海大附属中学校の養護教諭を辞め、
ただ一人の専業主婦の道を選んだ。
「はぁ…っ」
時は深夜、射し込まれた熱の熱さに思わず吐息を吐いてしまう。
こんなになるまで自分を想ってくれていた、それがとても嬉しくてその愛を
必死で受け止めようとする。
「…うっ」
しかし、そう強く願えば願うほどに夫を締めつけてしまう。
今も腹部にいる彼が早く脈打っているのを肉壁から感じ、まるで神経が
繋がってしまったようだ。
次第に動き出す荒々しさに声が押さえられないけれど、彼女は後悔していない。
それは自分で決めた道だから。
夜、すべての部屋から人の気が消える頃を見計らって夫の部屋を訪ねる。
慣れた手つきで日本刀の手入れをし、白い夜着の妻の存在に気づくと笑顔で
呼び寄せそれを鞘に納める。
「俺は良いが……その……は毎夜のことで大丈夫なのか?」
言葉を選びながら声に出す彼の顔は赤い。
刀を持っている時の鋭い表情も好きだが、この表情も胸の中を狂おしい気持ちで
いっぱいにさせてとても好きだ。
「何言っているの。私はこの道場の跡継ぎと結婚したんですよ、早く男の子を
産まないとお義母さん達に悪いし、それに……こうして抱かれている時が
一番弦一郎さんを近くに感じられるから…っ」
そこまで言って唇が塞がれた。
少し口を開けば性急な舌が彼女のモノを絡め、口の端には銀の糸が溢れ
首筋を流れるのと同時に下半身が疼いて蜜で太股を濡らす。
白い夜着の中には何も付けていない。
いつも風呂を最後に入り、その足で夫の部屋の障子を開けるのだ。
弦一郎には上に兄が一人いる。
だが、道場は継がず念願だった警察官になってしまったため弟は夢を諦め、
その代償に学生時代から慕い続けた女性を妻に娶った。
夜毎繰り返される行為に幸せを感じながらまた白い意識の中に飛び込む。
「……愛してるっ、だけを……ずっと…っ」
下半身の動きが一層荒々しいものに変わると、無意識に彼女は腰を
浮かせてしまう。
しかし、逃がしはしないとでも言いたそうな手つきはぐっとのそれを抱き寄せ、
唇を貪る。
耳を掠める息も荒く、自分の下に組み敷かれた彼女を見る目は獲物を見る
咆哮を想像させる。
「はぁ…ん…っ」
普段は物静かな弦一郎がこんなにも乱れているのは、全部自分の所為だと
知っているからもっと、気持ち良くしたい。
もう、何度も彼の妻になる前からもこうして抱かれていたと言うのに、
初めての夜のように腰を無意識に動かして催促してしまう。
長い時を経て、あの夏が終わる前にお互いに気づいた二人は、同じ時を
歩き出す。
まだ知らぬ新たな命と共に…。
―――・・・終わり・・・―――
♯後書き♯
『夏が終わる前に・・・』の真田編はいかがだったでしょうか?
今作は那樹
遊離様から「真田君とブン太君のVSドリーム小説」とのリクエスト
頂きましたので作成致 しました。
那樹様には大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
おまけに久しぶりにVS小説を書いたためか長々となってしまい、
度々申し訳ありません。
こんな仕様もない管理人ですが、また遊びに来て下さると光栄です。
それではありがとうございました。