The RoSe FraGranCe



  

              ―卒業式でひとしきり泣いたなら、夜はいよいよ舞踏会…。



             夢にまで見た、お慕いしているあの方とのダンス…。


              ―きっときっと、あの方は私をお誘いくださるわ― 


                             夜空には紫の星座が輝き、白い馬車は煌めく風をきる。 

  

              ―なんて麗しい夜なの?― 

 
               「私、何か飲み物取ってくるわ」

              友人たちと別れて、はやる気持ちを押さえたくて、飲み物を手に取った。

              ―いつあの方に会えるかしら?

              早く誘っていただきたいのに…



               ―飲み物を手に、扉を開けた私の目に映ったもの…



                                                  ―信ジラレナイ光景―




              そこには想いを寄せるあなたの姿―

              だけどその手に重ねられているのは見知らぬ美女の姿… 


                                   何故ナノ? 


               ―私は急いであなたのそばに駆け寄り、 

                           彼女のドレスの裾をヒールで踏み付け、 

                                           振り向くあなたを手袋でハタいて―


              そうね、その位してやりたかったわ、でも。


  

                                 もう私、帰るわ。。。


  

               パーティードレスには少し肌寒い夜の風が容赦なく私に突き刺さる。

              相変わらず輝く星座の下で私はひとりぼっちで涙を流すの…。


                 ―あんなに憧れていた舞踏会の夜に、こんなふうに泣いているなんて!― 

              頭に来ているわ、情けないわ!逃げ帰るなんて!

              履きなれないハイヒールにかかとが腫れてきて、
              痛みに踞ると、あの光景が甦る。


                                     今も瞳に焼け付いて離れないわ、消えてよ!


               もう何も考えたくない。 

              私、裏切られたのね…



               ひとり部屋に戻ると、窓際に飾られた薔薇の花束が目に入る。

              あの方が私にくださった薔薇。

               『この薔薇に愛を込めて送ろう』 

              そう言ってくださったあなたも、この薔薇も、全部嘘だったのね! 

              私は乱暴に綺麗な花瓶から花束を抜くと、バスタブに投げつけた。



              綺麗な嘘なんて必要ないわ!
              全部流れ去ってしまえばいいのよ――… 


               薔薇の散ったバスタブにうずくまれば、堪えていた涙が次から次へと溢れだして。 

                                     ああ私、もうすぐ涙の海に溺れてしまいそう。 


              ―だけどそれもいいかもしれないわ― 

                    どうせ今の私が掴めるものなんて、ゴム製のアヒルだけなのだから。。。 



               偽物の愛で着飾ったドレスなんて脱ぎ捨てて。

              ペリエをなみなみとグラスに注ぐ―…


              ひどいわ、ひどいわ!
              どうして、どうしてこんなことになってしまったの…?


              …だけどもうどうだっていいわ。
              このグラスを飲み干したなら、すべて忘れてしまいましょう。


                        ――こんなに煌めく醜い愛なんて捨てるわ―…


              ああ…こんなことならあのとき… 


              あなたのそばに急いで駆け寄り、 

                          あの人の綺麗なドレスの裾を踏みつけ、 

                           真っ赤なワインを頭から飲ませてやればよかったわ――… 


              いいえ、そんなことできないわね…

              いくらあなたの愛が精巧に創られたイミテーションでも、
              確かに私の愛はたったひとつの原石だったんだもの!


              だけどもう戻らない、帰れない。 

                                     もう私、涙の海に溺れてしまったんだもの。 

              私がどんなにあなたを愛しても―… 

                                せつないけれど、もうこの恋は助からないのね―…


  

                                    コツン。


              そのとき。花瓶だけが虚しく飾られた窓に、何かが当たる音がして。


              私は無意識にカーテンを開けた。