Trial１６ ―――待ちぼうけ―――
まったく、今日はけったいな日やった。
せやけど、ええ思いさせてもらったで。
ありがとな、。
俺の自慢の彼女であるお前は、ここいらじゃ有名な藍青高校に通っとる。
あそこはそんじょそこいらの女が通える所じゃあらへん。
エリートの集まった女子校やからな。
俺らが初めて会うたのは、映画館やった。
なぁ、。
お前は泣いとったな。
俺の隣で声を殺して涙を流しているを見た瞬間、何や抱きしめとうなった。
気がついたら、お前にハンカチを差し出してしもうたわ。
あれから何回日が落ちたやろうか。
放課後、携帯にメールが届きおった。
差出人は、やった。
〝今日、会いたい〟
その言葉だけ寄越しおった俺の彼女とは、最近忙しゅうてろくにデートもで
きへん。
せやから今日だけは…俺の誕生日の今日だけは、それに答えなあかんと思
うて
時間と場所を送ったんや。
時間は、１８時ちょうど。
俺は氷帝のテニスコートで、壁打ちをしておった。
待ち合わせの時間になってもお前は現われへん。
いつもやったら、十分前には顔出すやっちゃがや。
まぁ、待ち合わせの場所をここにしよった俺が悪いんやけどな。
ため息交じりで何十回壁を相手に練習してたやろか。
後ろからボリュームマックスに上げた着メロが俺を呼んどった。
それは間違いなく、何度も聴いているのものや。
『侑士、ごめんね。学校終わるのが遅くなっちゃって』
そう弁解するお前が何や可愛えくて、抱きしめとうなって腕を回すと、
待ってと制されてしもうた。
今日が何の日か覚えとるかと聞くに惚けて首を振った。
この展開は、お約束っちゅうもんやろ。
案の定、お前は長方形のラッピングされたものをえらいウキウキした顔
で
取り出した。
あかんわ。
なぁ、。
そんなん不意打ちやで。
『誕生日おめでとう！』
そう言って手渡すお前にそういや今日やったなと大根役者並の棒読みを
した。
でも、やっぱそんな見え透いた嘘でも信じとるは無邪気な顔して俺にその
中を
開けることを勧めよる。
俺は内心苦笑しながらもお前が用意してくれたプレゼントを開けた。
その中には俺らが初めて会うた時の映画のDVDが入っておった。
正直言うと、驚いたわ。
まさか、が覚えているとは思わへんかった。
俺がそれを見たまま声を失っておると、お前は照れながら言うたな。
『何にしようかと思ったけど、この前、私達が最初に会った時のDVDが
発売され
ているのを見つけてこれに決めたの。
私にとっては大切な思い出だから……』
何かを口にしようとするの唇を奪った。
俺が覚えてへんと、本気で思っとったんかいな。
忘れることなんかできへん。
俺はお前の隣に座ったとたんに、俺達の運命は決まっていたのかもしれんな。
こうして場所も考えんと、レギュラー専用部室のソファーの上で愛し合うた。
何度もキスを降らせ、何度もに腰を動かせた。
今もまだソファーで眠っとるお前の体には俺が着けた紅い花が咲き乱れとる。
なぁ、。
たまには、こんな待ちぼうけもええな。
こんなことを言うたらお前は怒るやろうな。
せやからこの手紙は大事に閉まっておくで。
愛しとるで、。
♯後書き♯
皆様、こんにちは。
今作は忍足君の誕生日創作です。
「Trial」部屋の最初にして裏手紙を作成してしまった柊沢です。(反省)
しかも、忍足君を部室でさせてしまいました。(爆)
初めはテニスコートで…と考えていたのですが、ちょっとこの時期になって
寒くなってきたので、それは二人に可哀想かなと思い、部室に変更したと
言うわけです。←待て
今作を入れまして裏手紙を六作upして、ようやくそれらしいものに仕上げる
ことができました。
ちなみに、今回彼の台詞がなくて彼女の台詞だけあるのは、私が関西弁を
習得していないからです。
それでは、皆様のご感想を心よりお待ちしております。