Trial30 ―――おやすみ―――


      はぁ……。

      この顔に弱いんだよなぁ。


      なぁ、


      今日はありがとうな。

      誕生日プレゼントなんてわざわざ用意してくれてよ。

      お前と俺はいとこ同士で隣人でもある。

      だから、運動神経の良い俺たちは互いの家を行き来していた。

      だが、それも俺が中学へ上がる頃になると、めっきり無くなった。

      その理由は簡単で、俺たちが年頃の異性として認識しだしたからだ。

      俺が中学に入っても後一年間あるは赤いランドセルを背負っていた。

      一度だけそれを懐かしんで見ていたら、お前は泣いたよな。


      『どうせ、私は十次君より子供だもんっ!』

      あの言葉を捨て台詞に俺たちの関係はそこで途切れてしまった。

      そんなにが歳の差を気にしていたなんて思わなかった。

      だけど、俺はお前の涙を見て言い返すのが怖かったんだ。

      何を言えば良いのか解らずに、ただ時間だけが流れた一年間。

      歳の差なんてたかだか、一歳。

      でも、の中ではされど一歳なんだろうな。

      俺が中学に入っても自分は小学校に残る。

      その差がお前には辛かったんだろうな。

      こうして、部屋で眠るの瞼におやすみと、キスをする。

      男と女と意識してから解った事実。

      俺はお前が好きということ。

      今年になって俺を追い駆けてくるように山吹中に入ってきたは俺が知って

      いる女の子じゃなかった。

      明るくて可愛いイメージがなかった。

      表情もどこか冷たくて俺の事なんて他人のフリをする。

      これも自業自得かなって正直、諦めていた。

      なのに、今夜、俺が自室に戻ると、机の上にキレイにラッピングされた

      包みを発見した。

      赤いリボンの間に挟まっていたバースデーカードには見慣れた文字が

      書かれていた。


      『十次君、誕生日おめでとう!そして、あの時はごめんなさい』


      それを見た途端、俺は嬉しくて昔みたいに屋根伝いにお前を迎えに行った。

      だけど…。

      ベランダから侵入した俺は窓を恐る恐る開けた。


      年頃の女の子の部屋ほど気を使うことはないぜ?

      隙間から入り込んだ俺は、机に突っ伏しているを見つけた。

      案の定、お前は小さな寝息を立てて眠りこけていた。

      想像以上に長いまつげと触れてくれと言わんばかりの唇。

      あの頃よりもキレイになったにドキドキしている俺。

      すると、お前がドリルを下敷きにしているのに今更ながら気づいた。

      科目は国語。

      しかも、中二用だ。

      俺は胸が痛かった。

      もっと、目を凝らせば筆の弱い独特の字が目に付いた。


      『十次君が好き』

      心の底から驚いた後、お前に負けない筆圧でその隣にはっきりと書いた。


      『俺もが好きだぜ』



      ♯後書き♯

      皆様、こんにちは。

      Trial30「おやすみ」はいかがだったでしょうか?

      今作はBD手紙として作業した分けですが、前回の「返事のない手紙」と

      比べると、ちょっと現代では通じないものになってしまいましたね。(汗)

      私は運動神経ゼロですから、屋根伝いはかなり憧れがあるのですが。

      それでは、皆様のご感想をお待ちしております。