Trial35 ―――誕生日―――


      私の愛するさんへ

      今日は、本当にありがとうございました。

      私の誕生日など祝って下さいまして。

      そして、……無理などさせてしまって本当にすみません。

      貴女は、私の良く行く書店にアルバイトをしている方でした。


      『いらっしゃいませ!』



      さんは笑顔がとても可愛らしい方です。

      ですから、私も貴女に惹かれたのでしょう。

      以前、私が会計を済ませようとしている時でした。


      『お客様は良くこちらにいらっしゃいますね』

      『あっあの、私のこと覚えてくれていたのですか!?』

      嬉しかったんです。


      さんが私のことを覚えていてくれるなんて夢のまた夢だと諦めていましたから。

      それから貴女があの有名な女子大、明媛大学に通う学生だと知りました。

      年上だと知っていましたが、まさか女子大生とは想像もしませんでした。

      ですが、私の気持ちは留まるどころかますますさんを求めだしました。

      舞い落ちる枯葉を見ては貴女を想い、木枯らしが吹けばあの笑顔に会いたいと胸が

      苦しむ私は病気でしょう。


      と言う女性に溺れてしまった私の姿は貴女にはどう映っているでしょうか?


      私達はあれから月日が経ち、自然と惹かれあいそして、付き合い始めました。

      そして、今日は、私の十五回目の誕生日です。

      部活が終了して、私はさんと待ち合わせのカフェに向かいました。

      店内のガラス越しに色彩鮮やかなラッピングを見つめながら百面相する貴女が見えて

      笑みを堪えドアの中に入りました。


      『比呂士君っ!』

      すると、貴女は無邪気にこちらに向かって駆け寄ってきました。

      なんて、可愛らしい人なんでしょう。

      人目がなかったら、つい、抱きしめてしまう所でした。

      それから私達はクラシックコンサートを聴きに行った帰りにちょっとしたレストランで食事

      を済ませ、お互いの家路に着く筈でした。

      『さんっ』

      『比呂士君・・・』

      私は貴女の華奢な体を抱き寄せて口づけをしました。

      そう言えば、私達がキスをしたのはこれが初めてでしたね。

      勿論、今までそうしたい気持ちはありましたが、私は中学生でさんは大学生です。

      どうしても時間が合わず、逢瀬は決まって土日なってしまいます。

      貴女には淋しい思いばかりさせてしまいますね。

      唇を離すと、さんは泣いていましたね。

      私がなぜだと聞けば、貴女はあの美しい顔で嬉しいからと答えました。

      もう、さんを独りにはしたくはありません。

      私は少々乱暴に貴女を腕に抱き上げ、自宅に連れて帰りました。

      今日は私が遅く帰るということで家族はそれぞれスケジュールを入れてしまったため、

      今は私達しかいません。

      私は玄関に鍵を閉めてから深く口づけ、自室のベッドに組み敷いてから承諾を得ました。

      私を感じて涙を流すさんも甘い吐息と一緒に呼ぶ女性も一緒に愛してしまいたかった。

      全てを自分の色で染め上げ、私達は欲望と共に果てました。

      同時に目が覚めた私に貴女は微笑みながら仰っていましたね。


      『誕生日おめでとう。プレゼントはちゃんと用意してあるんだけれど、今年は私自身

      があなたのプレゼントになっちゃったね』

      お互いに笑い合いながらさんは、明日が創立記念日で休日だと仰っていました。

      もしかして、と思いますが、今日のことは計算されていたのでしょうか?

      それでは、私と愛し合うことも予想していたと言うことになります。

      私が不思議がっていますと、貴女はいつもの微笑みを浮かべて愛を囁くんです。

      ですから、私も貴女に何度目かの口づけをして答えます。

      私もさんのことを愛しています。



      ♯後書き♯

      皆様、こんにちは。

      第三弾のTrial35「誕生日」は如何だったでしょうか?

      手紙としては珍しく手紙形式で書いてみました。

      このようなもので皆様が夢をご覧になられましたら、幸いです。

      今回のヒロインに彼を呼ばせるのには、ちょっと戸惑いました。(笑)

      なぜかと申しますと、10年前に某アニメでヒロインが幼馴染兼彼氏の呼び名だからです。

      でも、覚えていらっしゃる方はあまりいらっしゃらないでしょう。

      それでは、皆様のご感想をお待ちしております。