Trial5 ―――空中遊泳―――


       あれは、いつもの家業の帰りだった。

      俺はウィズの翼で夜空を飛んでいると、何だかこの世には俺しかいない

      気分になってくる。

      そんなことはどうだっていい事なのに、ふと柄にも無く淋しく思ったりする。


      なぁ、お前はどう思う?

      ウィズだって黒翼の化身だ。

      俺達は氷狩の手によって作られた生きた芸術品。

      まっ、こんなにイカした良い男なんだから当たり前なんだけどな。


      『あっ…』

      ふと、眺めていた大きな屋敷から声がした。

      俺は追っ手か何かと思い、思わず身構えるが、それはあっさりと俺の中で

      ため息と一緒に消えた。

      そこにいたのは、部屋の窓辺に肘を付いてこちらを見上げている

      女の子だった。

      その子は今も俺を見つめたまま固まっている。

      そりゃ、そうだろう。

      伝説の大怪盗が目の前を飛んでいたんだ。

      何とも思わないはずはない。

      俺はいつかのように対処しようとすると、一瞬、目を輝かせたと思ったら

      にこりとその子は笑った。


      『キレイに飛びますね』

      『へっ?』

       その言葉に思わず、マヌケな声を返した。

      あの超有名なダークが自分の目の前を飛んでいたのに、それだけで済ます

      のかよっ!!

      真面目なのか天然なのか、お前はニコニコと笑っていた。


      『良いですねぇ。私も飛べたらどんなに気持ちが良いだろうなぁ』

      特典なんて何もないぜと言いそうになって、唇を強く噛んだ。

      いくら外見的に軽く見られる俺でも用心はする。

      日渡総司令が用意した巧妙なトラップかもしれねぇしな。

      前もこんなことがあった。

      俺が最初で最後に愛した女。

      そう言えば、どことなく似ている。

      俺もついに幻影が見えるようになっちまったかと、唇の端をつり上げて

      片手を彼女に差し出した。


      『では、お嬢さん。私と一緒に夜空を散歩しませんか?』

      『はいっ!』

      一瞬、驚いた顔をしたが、すぐにまた微笑みの中に消えて俺の手を取った。

      俺達は星空の下で軽く自己紹介をすると、何分間か空中遊泳を楽しんだ。

      やっぱり、は俺のことなんて知らなく周りが騒いでいるから名前くらいは

      という程度だった。

      まぁ、どんな女だろうと俺の好みだが、さすがにここまで天然だと退くものがある。


      だけど、何だろうな?

      お前のきらきらしている瞳を見ているといつかの誰かを思い出しちまうぜ。

      俺にはどうしようも出来ない事実。

      だから、受け入れるしかないって諦めているのに、やっぱ、どこかで

      欲しがっていた。

      俺は、代々の丹羽家の男の体にしか宿れない。

      俺自身、体は持ってない。

      だから、お礼にと奪ったキスだって本当は大助がしている。

      妬ましいと思っても俺にはどうすることもできない。

      俺はこの苦痛が地獄のように感じている。

      一番大切にしたいものでも指を銜えて死に絶えて行くのを見ていることしかできない。

      自分は出会った時と同じ姿のままで…。

      こんなことを考えるなんて俺らしくないっては思うだろうな。

      あれから大分俺達も恋人らしくなってきた。

      キスだって一日に何回も交わすようになった。

      何度も好きだって囁きながら抱きしめた。

      だけど、それ以上はできない。


      『俺は…人間じゃないんだ……』

      いつかお前に話したことがあったな。

      でも、は出会った頃のように笑って言った。


      『そんなの最初から解っていたよ。でもね、私、あなたのことが好きなの。

       それじゃ、ダメかな?』


      上目遣いに俺を見上げるお前が愛しくて何度もキツク抱きあった。


      なぁ、

      もう、くだらないことを考えない。

      だから、いつまでも俺のそばにいてくれ。




      ♯後書き♯

      
皆様、こんにちは。

      
Trial5「空中遊泳」は如何でしょうか?

      
今作は、久々に、「D・N・ANGEL」を作業してみました。