Trial8―――木登り―――
青空に響くボールの音。
俺はそれに親父を思い浮かべながら打ち返していた。
そう、あの夢を見る前はそれが当たり前だった。
だけど、今は、あの人とさんのことばかり考えている。
まだ名前も知らないのに俺を夢中にさせたアンタ。
ムチャクチャ強いくせに俺を馬鹿にした奴。
それが悔しく俺はもっと強くなりたかった。
ねぇ、さん。
俺はアンタのことを諦めちゃいないから。
その強さも弱さも、ね。
何?
バレないとでも思っているわけ?
さんがどう先輩達に釘を刺したかは知らないけど、俺は
そんなに甘くないからね。
アンタをこれ以上言い訳ができないくらいに追い込んで、
絶対白状させてやる。
不意に見上げた木の上。
そこには、あの人が手を振っていた。
ちょっと待ってよ。
これは夢?
だって、アンタには現実には会っていない。
俺が知っているのは、男で俺達のコーチのさんだから。
女の人のカッコウをしたこの人には、まだ会っていない。
赤と白のボーダーTシャツにジーンズ姿からして最初から木登り
するつもりだった
みたいだ。
俺と目が合ってすぐ隣を指差す。
どうやら、ここまで登って来いっていっているらしかった。
ねぇ、さん。
それって、挑発してる?
それとも、誘ってる?
登りつめた先には何が待っているんだろう。
……なんて俺は考えたことがない。
差し出された掌を握り締める。
俺はアンタの隣に腰を下ろし、一緒に寺を眺めていた。
ねぇ、さん。
この握った手をずっと離さないからね。
♯後書き♯
Trial8「木登り」はいかがだったでしょうか?
今作は「ガラスのシンデレラ」side手紙第二段です。
柊沢は木登りができないので彼女にやってもらったというだけの
ことですが。(汗)
それでは、ご感想と応援をお待ちしております。