茶の味

      「すみません、さん」

      「知りません!」

      慶応三年、水無月。

      もう、すっかり夏色に染まった西本願寺の新選組屯所ではそんなやり取りが

      繰り返されていた。

      沖田は夜着の姿のまま困り果てた顔をして一人の平隊士を見つめていた。

      その眼差しは誰よりも熱く、何よりも愛おしく感じられる。

      女性がい男性とは言え、今にも消えていってしまいそうなくらいに美しい彼には

      一人だけ守りたい大切な人がいた。

      一緒にいて心安らぐ人で自分より年下なのにとても強く、そしてあの彼が是が非でも

      傷つけたくないと心に誓った者。

      「すみません…さん」

      「あっ…」

      もう一度愛する女性の名を呼ぶと、背を向けているを抱きすくめる。

      衣が擦れる音と共に沖田を虜にさせる彼女の匂いが鼻を掠めるだけでドキドキした。

      「すみません。あなたは僕のことを心配して下さっているのに、勝手なことを

       してしまって」

      「私のことはどうでも良いんです。それよりご自分の体をもっと大切にして下さい」

      「ふふっ、さん以上に大切になんて思えませんよ」

      そう言って、彼は彼女を抱きしめる腕に力を込めた。

      「お、沖田さんっ!」

      ここ西本願寺に屯所を移してから数ヵ月後、あの有名な松本良順が訪ねてきた。

      その際、彼に脅迫めいた言葉を言い残した後、今は病床に臥せっているのだ。

      頬を染めて恥らう彼女が愛しくてもっとこのままでいたい。

      だが、体の自由は日に日に減少して行っていることくらい解っていた。

      だから、今日は調子の良いこの一日だけは、飛び出したかった。

      もう一度だけ自分に翼があったことを確認したかった。


      今から五ヶ月前の睦月、新選組唯一の女隊士であるは悩んでいた。

      最近やたらと一番隊長の沖田総司から避けられている。

      立場上、挨拶程度なら交わすが、それ以外のコミュニケーションは一切拒まれていた。

      (このまま避けられ続けるのはイヤ。もし、平助君の言うとおり私の所為ならガツンと

       言ってくれるよう頼もう。それが沖田さんのためなら)

      謹慎処分が解けた今、その意味を直接本人に確かめようと彼の部屋へと足を

      向かわせたのだった。

      「感触が…」

      しかし、そこで待っていたのは驚くべき真相だった。

      「感触が残っているんですよ。さんを斬った感触が」

      「私を斬った感触」

      「剣を持つとね…あなたを斬った感触が両手に甦ってくるんです」

      「そしてあの時の…僕を見て怯えたあなたの顔を思い出してしまう…」

      確かに、あの瞬間の彼に恐怖を感じたのは事実だし、否定はしない。

      だが、沖田にこれ以上無情な殺生はして欲しくなかった。

      「それを思うと、剣を振る手が止まって…」

      誰よりも剣を愛している彼だから。

      誰よりも好いている異性だからこそ止めさせたかった。

      「…私」

      何か言おうとしてもそれがうまく言葉にならない。

      「あなたの体から流れる血を見てからというもの…僕は剣を振ることが怖く

       なってしまった」

      「僕が誰かを斬ろうとすると…僕の目の前にいないはずのあなたが

       立ちふさがるんです」

      止めて欲しかった…。

      ただ、その思いの一心であの人達を庇うようなことをしてしまった。

      彼のためになるのならば、恐怖なんて二の次だ。

      「あなたの言う通りでしたね…考えなしで斬り続けているうちに剣すら振れなく

       なってしまった」

      「そばにいて…心安らぐ人、その人を斬ってしまうことが…これほど辛いなんて」

      「想像すらできなかった…」

      その言葉が彼の唇から漏れたと思うと、心がとても温かい感覚に捕らわれた。

      しかし、それは一瞬で萎れる。

      沖田が自分のことを仲間以上に思ってくれるとは考えられなかった。

      一度瞳を伏せてから、湧き上がってきた感情に自ら終止符を打ってから開く。

      こんなことには慣れていた。

      彼に心奪われていることに気づいてから彼女が唯一知り得る対処法である。

      「もう、僕は…どうしてよいのか分かりません」

      目の前にいる青年はそう肩を落として俯いてしまった。

      一体、何が新選組の沖田総司をこんなにしてしまったのだろうか。

      いつも隙を感じなかったのに、今では平隊士であるでも一本を取れそうだ。

      体中から漲っていた異常なまでの剣を愛しているという気持ちがすっかり

      消え去ってしまっていた。

      それは…自分の所為。

      「沖田さん…」

      「何ですか…?」

      心なしか先程よりも声色が低かった。

      しかし、今はそれに怖気づいていることなんてできない。

      「沖田さんは・・・きっと、小さな頃から剣が上手すぎたんですね」

      「…え?」

      「私は貧乏道場の娘でしたけど、最初は下手だった。力もそれほどなくて、剣を

       振るのも一苦労でした」

      自分の言葉を遮ろうともせず、聞き入る彼の視線に内心鼓動を高鳴らせながらも言葉は

      すらすらと唇から出ていった。

      まるで、彼女の中で違うが操作しているような錯覚がする。

      「それでも私…」

      「例え傷だらけになっても、勝てるまで相手に取りすがって戦いました」

      色素の薄い髪とは違って濃い黒の瞳には、驚くほど真剣な自分の顔が映し出され

      ているのではないだろうか。

      内心ガチガチに緊張していると言うのに、顔が強張っているのを少しも感じない。
      
      平隊士の中でそれも女の身分である自分が一番隊長に向かってお説教をしている。

      だが、沖田は少しも否定も肯定もせずに黙って聞き入っている。

      それはどんな意図だろうと、そんなことはどうだって良かった。

      彼が自分を取り戻すために頑張ってくれているというのが直に解って嬉しい。

      「だから…戦うことは自分も傷つくことだし、相手を傷つけることだと身をもって

       知っていました…」

      「剣を持つ人は多少の速いはあってもそんな感じで育ったと思います」

      「でも・…沖田さんは傷つけられる前に必ず勝ってきたんですね」

      「だから…沖田さんは負けた時の気持ちが、傷つけられた者の苦しみが

       分からなかった」

      一瞬、彼が何かを考え込むような仕草をしたが、そんなことにはお構いなしで続けた。

      後、どれくらい図々しい、身の程知らずな言葉を浴びせれば以前の沖田総司に戻って

      くれるのだろうか。

      この部屋に出向く前に藤堂から言われたことがを妙に焦らせていた。

      「だから…今になって、辛いんですね。仲間同士で傷つき、傷つけあって成長して

       いくことがなかったから…」

      「そんな…僕だって負けたことはありますよ」

      その時、今まで黙って聞き入っていた男が始めて唇を開いた。

      「でも決定的な力の差を感じたことはないはずです」

      しかし、一端火が点いた彼女の方が上手で、彼はその言葉を聞いてまた黙って

      しまった。

      (ごめんなさい、沖田さん。もう少しだけだからそれまで我慢していて下さい。

       もう少しで、あなたを取り戻せる…ううん、取り戻してみせるっ!)


      「でも…沖田さんはもう以前の沖田さんじゃない」

      「偶然にも私を傷つけたことで、傷つけられた者の苦しみを想像できるように

       なったじゃないですか」

      「でも、これから先あなたを…いいえ、人を傷つけなければならない時…」

      「斬り捨てなければならない時はどうすればよいのですか?」

      「相手の苦しみを背負ってあげるんです。例え許してもらえなくとも…」

      「そうですか…」

      序所に確信に近づいてきたのだろうか、それまで生気がなかった男が自分の話に

      食らいついてきた。

      だが、自身でも想像はしていたのだろう。

      次にの唇から放たれた言葉が深い所まで突き刺したかのように一言だけ呟くとまた、

      俯いてしまった。

      しかし、問題を乗り越えるためには多少の障害は付き物である。

      その際に、善意と言う残酷な掌で彼の差し出した手を握ることはできないことは

      経験上知っていた。

      「私は…沖田さんから見たらへっぽこ剣士ですけど、それでも一応は剣士です」

      「そして沖田さんの仲間です。誤って斬ってしまっても決して気にはしないで下さい」

      「『ごめんね』って一言だけ言ってくれればいいです」

      「そうすれば『いいよ』と言って笑って許してあげますから」

      「あはは…あなたらしいですね…」

      その時、弱々しいものだったが、初めてこの男らしく笑った。

      多少乾いていたって良い。

      彼女はそんな彼がとても好きだった。

      「さんは僕よりも強い。ただ剣を振るしかできない僕よりも、ずっと…」

      こんな笑顔は何ヶ月ぶりだろうか、清々しく笑う青年がとても大きく見えた。

      きっと、もう、大丈夫と、そう思った瞬間懐かしい頭に片手を回した彼特有の

      照れ笑いを浮かべる。

      「その…今からでもいいですか?ごめんって言うのは…」

      「もちろんです!」

      「ごめんなさい…僕はもう二度とあなたを傷つけない。いえ、傷つけたくない」

      「僕にとってあなたは…傷つけてはいけない人だから…」

      「あ…あの、今のってどういう意味なんですか?」

      それまで流れていた時間が急に止まった気がした。

      今、この青年は何を口にしたのだろうか?

      彼は無造作に片手を後頭部に預けたままちらりと、こちらを盗み見るような

      仕草を取る。

      その眼差しには今にも壊れそうで何か熱いものが揺らめいているような錯覚を

      起こさせた。

      もしかして、何て自分に都合の良いことを考えてしまうのはやはり、いけないこと

      なのだろうか。

      沖田が言い迷っているのがとても長く感じられ、次第に胸の動悸も速くなる。

      どうか、この想いに気づかないで。

      願わくは、この時を止めて。

      そんな相対する二つの言葉がを自由にさせない。

      できるとすれば、それは…ただ一人。

      「今まで、僕の周りにいた仲間は近藤さんみたいにすごく強い人たちばかりだった…」

      しばらく考えた末に口に出した声は確実に先程までの男ではなかった。

      一つの言葉を語るにしろ、心の奥で眠っていた自分自身の答えを探し出したかの

      ような燐としたものだ。

      この第一声に落胆しながらも、この青年らしいものにどこか落ち着く心がいた。

      良い意味で新選組の沖田総司はこういう人間なのだと、確かめられたから。

      「傷つけてはいけないなんて考えてもみなかった…」

      「うらやましいなぁ…」

      本当にそう思った。

      彼を取り戻せたのはやはり剣のことであって近藤達との埃が被ることのない思い出の中

      には彼女がいない。

      解っていたはずなのに、そう言わずにはいられなかった。

      ……これは、この青年が愛している剣と近藤達への嫉妬だろうか。

      こんなにも自分は彼のことを想っているのに、こんなにも近くにいるのに、遠い

      ことへの苛立ちが時にを不安にさせる。

      どんな言葉を使ってもどんな手段をとっても伝わらない。

      気を抜いていたら涙を落としそうで、健気に笑ってみせた。

      「私も近藤さんたちみたいに手加減なしで、沖田さんとけいこできたらいいのに…」

      「違うんです。そういうのじゃないんです」

      「沖田さん…?」

      それに何か意を決した表情をした彼はいきなり彼女の両手を握り締めた。

      「あなたが剣を使わない人であっても僕以上の剣士であっても、これだけは言えます」

      掌の冷たさが心地よいほど、熱に浮かれされているのが解った。

      沖田は一端に熱い眼差しを送ってからそして、信じられないような言葉を口にする。

      「僕はあなたを好きになった。だから傷つけたくないんです!」

      「ただ…それだけなんです」

      そう言うと、冷ややかな手の温もりぎゅっと収縮したような気がした。

      横目で盗み見ればやはり、彼女の掌を掴んだ彼がまるで逃しはしないと言うような

      勢いで握り締められているのが解る。

      「沖田さんが…私を?」

      信じられなかった。

      だが、雪が降り積もっているはずの場所はこんなにも確かな温もりがある。

      信じても良いのだろうか。

      「あの、沖田さん…」

      「はい?」

      訊いてみたい。

      待ちわびてしまう自分を受け止めて欲しいから。

      「そのぉ…すごく些細なことかもしれないんですけど…」

      「何ですか?」

      「私には…沖田さんのことが好きかどうか、聞いてくれないんですか?」

      「あ…」

      この青年がもっともらしく何かに弾かれたような顔をした。

      重要な場面で求めている答えに触れない所は決してわざとではない。

      それは本来の沖田総司と知っているからは溢れるほどの微笑みを湛えることができた。

      「私に好かれたら迷惑ですか?」

      その頃はまだ彼に忍び寄る青には気づかずに…。
  


      「〜っ、放して下さい」

      「イヤですよ」

      白い清潔感のある夜着を身にまとっている本人はその色とは違って頑固だった。

      先程からこの調子で抱きしめ抱きしめられ続けている。

      勿論、こんな大胆なことをされて彼女は全く嬉しくないわけじゃない。

      むしろその反対で、幸福で胸がいっぱいになっていた。

      しかし、その一方でこの男をこれ以上このままにはさせていられないと焦っている。

      アレから六ヶ月、労咳と告知されてからと言うものは身の回りの世話をしていた。

      ふと過ぎるのはこれが秒読みの夫婦生活なのかもしれない。

      だが、それでも良い。

      それならば少しの間だけでも長く覚えて欲しい。

      確かに二人で生きていた時間を。

      「ごめんなさい…僕はもう二度とあなたを傷つけない。いえ、傷つけたくない=v

      あの日の言葉を呟くと、鎖骨に回されていた細い腕が胸元までゆっくり位置を変えた。

      今なら簡単に振り解くことができるはずなのに、体の自由が利かない。

      目に見えるものよりも見えない縄にキツク縛られている感覚に似ているが、背中は

      とても温かかった。

      それは、誰よりも大切な人が傍にいてくれるから。

      「沖田さん…」

      おずおずとした掌を抱きしめる腕に置いた。

      以前は華奢だと思っていたのに剣を振るう勇ましさに驚いたことを思い出す。

      「何ですか?」

      背後から耳元で囁く彼の声がいかにも官能的で無意識に鼓動を速めてしまう。

      そんな掠れた返答は勿論この二人にしか聞こえていない。

      しかし、現在は昼の時刻を軽く過ぎている程度だ。

      こんなに体を密着させて耳元で囁かれてしまったら、いやでも想像してしまうの

      が一般的だろう。

      「もう……いやなんです。沖田さんが私の目の前で倒れてしまうのは」

      「…ごめんなさい。僕はあなたの心の中まで傷つけてしまったんですね」

      「いえ!私が言いたいのはそう言うことじゃなくて…」

      一気に押し寄せてきた感情が破裂して腕を握り締めたまま勢い良く振り返る。

      その先に待っていた甘い瞳に捕らえられるのを知らずに…。

      こんな時、彼はずるいと感じてしまう。

      病人と言う肩書きを利用して必要以上にこうしてを見つめてくる。

      こっちはそれを背中で感じる度どうして良いのか分からなくなるのに。

      「泣かせて…しまいましたね」

      白き細い指で振り返った彼女の目元を優しく拭った。

      「あ」

      その感触がどうと言うこともないのに、妙に体が反応してしまう。

      頬が一瞬にして熱くなるのが解って目を反らそうとするが、それと相対する彼の

      冷たい掌が添えられてしまった。

      それが、もう逃げ場は用意されていないことを沈黙が告知している。

      ひんやりとした心地よい冷たさに瞳を閉じた。

      「さん…」

      すると、青年が驚いたような喜んでいるような声での名を呟いた。

      この言葉を直に聞くことができるのもあと何日なのだろう。

      そう考えると、また涙がこぼれてしまう気がした。

      夕日が暮れた夜は彼女を不安と言う底なしの沼に溺れさせる。

      瞳を閉じて寝返りを打たない沖田がまるで遠くに感じてしまうから。

      だが、それを打ち砕いてくれるのもまた彼の小さな寝息だった。

      「んっ…」

      声を耳にしてから数分も経たないうちに何かに唇を奪われた。

      想像していた通り、それも冷たい。

      彼の腕を握り締めていた手を自分の頬を覆う男のものに乗せた。

      思わず漏らした吐息が理性を遠退かせ、すべての感情をとろけさす。

      「愛していますよ。僕のさん」

      気づけば既に放され、初めての接吻の余韻で瞳を閉じたままでいる彼女の名を呼んだ。

      瞳を開けて欲しいから。

      それだけで自分がこの少女に愛されているのだと確認できるから…。

      「……冷たい」

      「え?」

      再び光を受けたは頬を染めたまま唇を指でなぞった。

      「沖田さんの…唇…冷たい」

      「ははっ…なら温めてくれますか?」

      「えっ……んんっ」

      二度目の接吻は先程のものとは比べ物にならないくらい濃厚で強引なものだった。

      角度を変えるうちに呼吸が恋しくなった彼女の口内に見事侵入をし、痺れて硬直

      している舌を絡めとる。

      「ふぁ…んぅ」

      その動きに翻弄され続けるの思考回路はもう着いていけなくなり、彼の胸に

      凭れ掛かったのが最後、布団の上に押し倒された。

      唇の端から銀色の蜜が溢れ、少女の首筋をゆっくりと犯す。

      「茶の味がしますね」

      ようやく離した唇は二人の唾液で濡れていた。

      それを知るのがイヤで着物の胸元を無意識で掴み、瞳を泳がせる。

      「…僕にも頂かせてくれますか?さんのすべてを…」

      「沖田さん…今、お昼ですよ?こんな…明るいのに」

      「明るくなければ良いんですか?」

      「う…意地悪」

      「あなたがはっきり言ってくれないからですよ」

      濡れた唇のまま顔中に接吻をし、最後にのものに再び下ろした。

      「んっ…はぁ」

      思わず自分でも色っぽい声を出してしまったことに気づいても後の祭りだった。

      「ははっ…体は…正直みたいですね」

      「イヤっ、見ないで…」

      見下ろす彼は笑うと、胸元の衣を掴んだ甲に掌を乗せる。

      その温度は先程のものとは思えないくらいに熱を帯びていた。

      「駄目ですよ。もう、僕はあなたを抱きたくて仕方がありませんから」

      その温もりはこんなにも緊張していると言うのにどこか安心させるものがある。

      「あのっ、沖田さん……」

      「何ですか?」

      見下ろす青年の瞳がいつも以上に優しいことに重くなった唇を震わせながら動かした。

      彼女とてあの激しい接吻をされては触れて欲しくないわけはない。

      ただ、少女からいきなり大人の女性の仲間入りを果たすのが怖いのだ。

      「……や、優しくして下さいね。私、初めてですから」

      「はい……僕も同じですから心配はいりませんよ」

      心の中で先程の荒々しさを覚えている彼女は嘘だと思ったが、降り注がれた言葉

      と衣を次第に肌蹴させられる恥ずかしさにどうでもよくなってしまった。

      「愛しています、。あなたは僕だけのものです」


      「ん?おーい、総司。寝てなくて大丈夫なのかよ」

      彼女が席を外してから自室を飛び出した沖田を呼び止めたのは新選組局長の

      近藤勇だった。

      駆け寄ってきた彼は心配そうな顔をしている。

      「あ、近藤さん。大丈夫ですよ。今日は調子が良いんです。こんな日ぐらい元気な所を

       見せないと、せっかく僕の看病をしてくれているさんに悪いですから」

      アレから六ヶ月、病床に臥した彼を健気にも看病する少女の姿に人としても男と

      しても拭いきれない気持ちがあった。

      勿論、が四六時中傍にいてくれるのは嬉しいが、自分は何も出来ないことが苦痛以外

      何ものでもない。

      愛する女性にこれ以上心配は掛けたくはないと思っていても体は日々床に強く縛られる

      かのように言うことが利かなくなってしまった。

      だから、今日こそはもう一度立つことが許される足で彼女を探し、この腕で

      抱きしめたかった。

      そして、いつも苦労を掛けてすまないと一言でも良いから謝りたかった。

      長身の近藤は顎に手を当てたまま彼を見下ろすと、意味深に唇の端を吊り上げる。

      「じゃあ、お前が今日一日で君を安心させられれば良いわけだよな?」

      「はい」

      こんな表情をした彼はろくなことを考えてないが、純粋と言おうか天然と言おうか

      沖田にはそれを疑う術を持ち合わせていなかった。

      教えを乞うような眼差しで見上げられるとますますこの青年が可愛くて仕方がない

      近藤はそっと肩に手を置いて微笑む。

      「なら、彼女を抱いてやりゃ良いじゃねぇか」

      「さんを!?」

      「何だ、総司。イヤなのか?お前も一人前の男だろうが」

      「いえ、そう言う意味ではなくて……僕で本当に良いのかなと思って。だって、

       僕は病人ですよ?それも労咳です。以前ならともかくこんな弱々しい僕がさんを

       どうにかするだなんて」

      「おいおい、何をやっちまう前から弱気になっているんだよ。君にはお前しか

       映っていないことくらい解っているだろ?」

      「……」

      「彼女に一時でも良いから安心させたいだなんて総司も大人になったもんだ。だがよ、

       だからこそ抱いてやれよ」

      「…どういうことですか?」

      「もしかしたら、今日みたいに調子が良い日なんて少なくなるかもしれない。なら、

       総司はどうしたい?」

      「思い出を…僕が確かに愛していることを刻みつけたいです」

      「だろ?だったら、さっさと自分の部屋に戻れよ。今頃、お前がいなくて心配して

       いるんじゃねぇか」

      「あ、そうですね。それでは、近藤さんありがとうございました」

      「おう。頑張れよ、女の子は雰囲気に弱いからな。ちょいと強引に迫ればどうに

       かなるって」

      「解りました」

      ゆっくりとした足取りで来た道を戻る沖田の背後を見つめる近藤は何処となく悲しそう

      な視線を送っていた。



      ―――終わり―――



      ♯後書き♯

      皆様、こんにちは。

      沖田総司Dream小説「茶の味」はどうだったでしょうか?

      今作は一昨年までupしておりましたNormal小説作り変えてupしました。

      今回のタイトルはその作品のことも考えてなのですが自称凝り性の私としてはシンプル

      なものになったなぁと振り返っています。

      これで「幕末恋華 新選組」は三作目になったのですが、三作目にして健全と言うより

      微エロを作業することができました。(汗)

      これは、キャラが一人歩きしてしまった所為なのですが、管理人は、微エロは裏で

      はないと思い込んでいるのであくまでも裏DreamではなくDream扱いをしていると言う

      ことをご了承下さい。

      最近、宣言通りアンケートを意識して年下ヒロインにすることが多いのですが、

      それが皆様に吉と出るか凶と出るか楽しみです。

      それでは長々と失礼しました。