Trial25―――山吹中―――

      亜久津先輩。

      僕、やっぱり戻ってきて欲しいです。

      都大会は僕にとってもみんなにとっても忘れられない日になりました。

      山吹中は青学に一勝して負けました。

      でも、それ以上にみんなが忘れられないことがあります。

      それは先輩、あなたなんです。

      越前君と試合した後、亜久津先輩はテニス部を辞めてしまいました。

      だけど、みんな待っているです。

      亜久津先輩がいた頃は怖がっていた人でもやっぱり期待しているんです。

      その強さに、その優しさに……。

      僕は先輩が戻ってきたコートで試合したいです。

      だけど、まだまだ強くなれない弱い自分。

      こんな僕を相手にしてくれる亜久津先輩が怖くて惨めで気がついたら

      いつも逃げていました。


      「太一っ!」

      今日は敬老の日で学校は休みでした。

      僕は自主トレをする気もなくて自分の部屋でごろごろしていたら、外で

      聞き慣れた声が聞こえました。

      今一番会いたくないのに、僕はすぐ窓を開けてその人の名前を

      呼んでしまいました。

      「亜久津先輩っ!」

      誰かと聞き間違えるはずなんてないです。

      僕はずっと先輩のことしか考えられないからです。

      足は自然と駆け出し、呼吸を整えることなんてお構いなしに玄関から飛び

      出して僕は亜久津先輩に抱きついた。

      大きな体、優しい腕…。


      僕は何に拘っていたんだろう?

      先輩の傍にいられればそれだけで良いのに。

      亜久津先輩に連れられてやってきたのは先輩のお母さんが働いている喫茶店。

      僕はカウンターの席に腰掛け、半分愚痴のように今までのことを話しました。

      でも、亜久津先輩は怒るわけでも呆れるわけでもなくて、ただじっと僕の

      話を聞いてくれます。

      そして、僕が俯くとじゃあ行くかと言ってお店の裏のテニスコートに連れて

      行きました。


      「打って来い、太一」

      向こうのコートに立つ先輩。

      その姿は僕がずっと待っていた亜久津先輩なんです。

      でも、結果は惨敗でした。

      だけど、僕は嬉しいんです。

      あなたと同じ時間が過ごせた、それだけで僕はもっと先輩を好きになるんです。

      きっと、この気持ちはずっと変わりません。

      「練習に付き合ってやったんだから報酬をもらうぜ」

      不意打ちに亜久津先輩がキスをしてくる。

      僕はきっと強くなります。

      あなたのためにも…そして、僕自身のためにも。

      きっと、山吹中の柱になってみます!


 


      ♯後書き♯

      Trial25「山吹中」はいかがだったでしょうか?

      初亜久津×壇BL手紙なのですが、お楽しみいただけたでしょうか。

      最近、オーソドックスなBLをupしている柊沢はまたまた突拍子のないことを

      考えています。

      内容はここでは申しませんが、詳しくはメールで!←ずいぶん前にあったCMか!

      それでは、用件のみですがこれにて失礼しました。