なぁ、。
俺がどうしてあんなことを言ったか解かるか?
『ねぇ……乾…君っ』
『……辞めてくれないか』
『へっ?』
『気持ち悪いんだ。その呼び方』
あれから三年の月日が経ち、俺たちは共に三年生になった。
『乾―、ちょっとノート写させて』
あの言葉の代償は大きかった。
あの日からの性格が変わった。
それまでクラス中で一番大人しかった君が今では人気者の地位にいる。
別に中学三年間の成長は外見だけじゃない。
だが、その翌日から人は他人の如く豹変することができるのだろうか?
なぁ、。
俺はずっと君の事を見ていた。
クラスメートとしてじゃなく、一人の女性として……。
それは、あの入学式から恋していたのかもしれない。
当時の俺は、それをそう呼ばれることを拒否していると考えた。
だが、それは誤算だった。
泣きながら黄昏で染まった廊下を駆けて行く君の後ろ姿に、俺は今更ながら自分の
気持ちに気づいた。
あの時の胸の痛みは今もある。
そして、愛しさも…。
あの時伝えられなかった気持ちを言葉にしようとしてもあの場所での光景が脳裏に
映し出され無意識的に臆病になっていた。
だから、俺は野菜汁を作ることに没頭することにした。
何かに集中していると、少しの間だけでものことを忘れられるから。
……忘れる?
違う、俺が忘れたいんじゃない。
君の気持ちが俺に流れ込んでいるんだ。
あんな風に傷つけてしまったから。
『ねぇ……乾』
いつもの放課後、俺は部室のすぐ傍にある水道で顔を洗っている時、声を掛けられた。
それは、忘れたくても忘れることが出来ない声で。
顔も拭かずに振り返るとぼやけた世界の中心で顔を赤らめたと目が合った。
きっと、俺の素顔初めて見たから驚いたんだろうな。
自分で言うのもなんだけど、人前では眼鏡を外したことはない。
修学旅行など他人とどうしても睡眠を取らなくてはならない時は常にアイマスクを
持参している。
君は俺が顔を拭いて眼鏡を掛ける前に駆け寄り、俺の両手を掴んだ。
『何?』
こんな時に良く冷静な対処が出来たものだと、我ながら関心した。
だが、心の中では次にどうしたらいいのかと過去のデータをあさっている。
俺もやっぱり人間の男だ。
好きな女性を目の前にしては何も出来ずにただただ焦るしかできない。
『ごめんね。きっと、眼鏡を掛けていない今なら私の顔があまり見えていないだろうか
ら聞いて欲しいことがあるの』
今なら、自分が言うことが明日になったら真冬が見せた陽炎になるからと、続けたの声が
悲しく聞こえた。
…いや。
君は間違っているよ。
例え、どんな辛い事だって俺は覚えている。
それをくれるのは、いつだってだから。
『本当はあの日に諦めようと思っていた。……けど、どうしてもできなかった。
乾君のことが好きだから!』
不意打ちだよ。
俺の手首をぎゅっと握り締めている君なら解かるだろ?
心拍数が急上昇してグラウンドを100周しているくらいになっている。
だけど、は鈍感だからそんなことに気づきもしないだろう。
俺は君を抱きしめるついでに無防備な唇を奪った。
……何だ……簡単なことだったんだな。
なぜ、あの時こうしてしまわなかったのだろう?
の唇は一辺で俺を虜にする。
いきなりの刺激で酔ったのか、俺が舌を滑り込ませても体をビクッとさせるだけで
抵抗はしなかった。
『あっ…あ…』
部室裏、壁に背凭れしている形で、俺は君を愛した。
唇を開放した後、何度も愛してると耳元で囁いた。
我ながら結構悩殺力があるのかもしれないな。
事実、は俺の為すがままになっている。
それもまた、君の美点。
本当は声を聞きたいけど、まだ部活中で誰が部室の中に入ってくるか解からないし、
空き教室に場所を移したくても俺の理性が持たなかった。
俺が然も美味しそうに自分の敏感な部分を舐めているのを見ている所も可愛い。
ねぇ、。
今、あの場所で幼過ぎた俺が傷つけてしまった責任をつけるよ。
♯後書き♯
Trial5「野菜汁」はいかがだったでしょうか?
もう、この試練は乾君のためのものと確信したのですが、皆様にはどう映ったのか
知りたいところです。
乾裏dream手紙は初作業でしたので、まだまだ寒い時期なので室内でヤラセてあげた
かったのですが、情事の熱(言うな)や理性の関係ありますので、野性的な乾君に
してしまいました。
それでは、皆様のご感想などお待ちしております。