あなたしか見えない

          「ねぇ、。明日、俺の家来ない?明日、両親が従姉の結婚式に出かけていないんだ」

          夏休みに入り、宿題で毎日を過ごしていた彼女に、彼から急に電話が掛かって

          きた。

          「うん!わかった。じゃあ、明日」

          長い休みに入ってからめっきり会うことがなくなり、受験もかねて勉学に力を

          入れていたので、すぐにOKした。

          子どものようにはしゃいで受話器を置くと、彼と最初に帰ったあの日の言葉を

          思い出す。

          『もし、見られるとしたらベッドで抱く時だろうけどね』

          脳裏にその言葉が過ぎると、顔が火照り二階の自室まで駆け走り勢いよくドアを

          閉めた。

          「っ!大きな音を立てて閉めるんじゃありません!!」

          一階の方から母親の声が聞こえてきたが、今は何も応える事ができない。


          (どうしよう……もし…そういう意味だったら。でも、乾君なら)


          鼓動を押さえてその後、勉強する気にはなれなかった。

          「……ということなんだけど、アリバイ手伝って」

          善は急げと親友の因幡那智に電話を掛ける。

          「解ったわよ。親友の頼みだもの。一肌も二肌も脱いでやろうじゃない。

           その代わりに…」

          「解ってる。後で、冷たいものを奢ってあげるよ」

          「ふふっ。その約束、忘れないでよ?ではでは、幸運を祈る。じゃね」

          最初、それを耳にすると、長い沈黙が続いたが彼女は快く承諾してくれた。

          冗談めいた口調で切られると、しばらく自室の天井を見上げてぼーっとする。

          そこには何故か彼の顔が浮かんできてドキドキしてきた。

          勉強が余り好きではない彼女は青学高等部に入るため、今、頑張っている。

          夏休み前の三者面談で推薦は無理だと言われ、それならば一般に賭ける事にした。

          滑り止めは二,三校は用意してあるが、それでも一時も気を抜くことは許され

          ない。

          それは、ジンクスを重んじての考えかもしれないが、どうせならば乾と同じ高校

          へ行きたかった。

          入学当初に見ていた有馬航の幻は何処かへ消え失せ、今はただ彼しか見えない。

          『恋は盲目』とは本当で、乾のためならばと頑張る自分に正直言って驚いていた。

 


          翌日、家族に那智の家に泊まって勉強してくると、言って自宅を後にする。

          旅行用の大きな鞄を肩から下げて彼の家に向かった。

          歩調が進む度、まだ、何もされていないと言うのに鼓動は高鳴り、本当に彼女の

          家に行きたくなる。

          そんな気持ちとは裏腹に結局、乾家にたどり着いてしまった。

          『はい……』

          インターフォンとは異なった低音の声が響く。

          「あ、あの…です」

          「ちょっと待ってて」

          そう言うと、しばらくして彼が玄関を開けた。

          「良く来てくれたね。さ、上がって」

          「うんっ!」

          平静を保とうとするが、体に力が入ってしまって乾を直視する事が出来ない。
 

          「重いだろ?俺が持つよ」

          そういって大きな掌を彼女の前に差し出した。

          それが今にも襲い掛かってきそうで、急いで首を横に振る。

          「大丈夫!私、こう見えても力あるの。あっ、勉強教えて欲しいところがあるんだ

           けど良いかな?」

          「うん、俺で良ければ教えるけど」

          お邪魔しますと、入ると乾が言ったとおり家の中に人の気配はなかった。

          「おっ、おばさん達は?」

          「あぁ、朝早く出かけたよ。コーヒーが良い?それとも紅茶?」

          台所に入ると、何やらごそごそとやっているのが見える。

          彼のこんな姿を今まで見たことがなかったので、その仕草を廊下に立ち尽くしたま

          ま見つめた。

          「コーヒーもらおうかな?」

          「砂糖とかミルク入れる?」

          「あっ、ブラックで良いよ。乾君もそうでしょ?」

          「あぁ。じゃあ、俺の部屋に行って待ってて。直ぐ、行くから」


          「あっ、うん!」

          少しの間忘れていた鼓動がまた甲高く鳴り響く。

          彼の部屋に入るのさえ、初めてのことで今更ながら自分が足を踏み入れて良いもの

          かと戸惑う。

          しかし、ここまで来て既に後には引けなかった。

          部屋の前で足を止めると深呼吸をする。

          ドアを開けると、結構、整理が行き届いてきれいだった。

          壁のあちらこちらには理解不能な計算式が施されている。

          (ふふっ、……乾君らしい)

          ドアの横に肩から荷物を下ろし、部屋中を見回した。

          ここが、自分が最も愛しく想う男性の生活する場所。

          ここに今いることさえ、何だか不思議にえてしまう。

          「俺の部屋がそんなに珍しい?」

          「きゃっ!?」

          急に後ろから声を掛けられ、思わず体を固まらした。

          その人物は、そのままを後ろから抱きしめて唇を吸う。

          「ん…、っ」

          その感触に覚えがあった。

          「いぬ、……ちょっ」

          唇が深くなるに連れて、彼の眼鏡が当たって痛い。

          首筋に腕を回すと、そっと近づいてフレームに触れそれを取り去った。

          「何をするかと思えば」

          「だって、当たって痛い」

          キスの余韻が残る瞳で乾の顔を見る。

          そこには普通の異性と変わらないものが湛えられていた。

          彼は彼女の手から取り戻すと、何事もなかったように掛けてもう一度唇を埋める。

          「んっ!」

          口内に侵入してきた乾自身はの舌を甘く絡め、理性をどこか遠くの方へ追い

          やってしまった。

          手探りでブラウスのボタンを全て取り去り、下着に包まれた二つの丘を愛撫する。

          「…っ……はぁ、あっ」

          その刺激であふれ出した二人の唾液が、彼女の首筋をゆっくりと流れた。

          白く包まれたそれを強引に押し上げると本来の姿が、彼の前に踊り現れる。

          「あっ、いや……そんなに見ないで…恥ずかしい」

          「きれいだよ」

          「乾君。こんな所じゃ……」

          「解っている。約束どおり、ベッドで抱くよ」

          彼女の体を抱き上げ、自分の布団の上に優しく乗せた。

          「…俺は初めてだから優しく出来ないかもしれないが、それでも良い?」

          頬を擦る手がくすぐったくて瞳を細め、頷く。

          その反動で先程重なり合った証が、首筋で光った。

          上半身に着ていたものを脱いでの体に覆い被さり、そこをキレイに舐め取る。

          「んぁ、いやっ…」

          言葉とは裏腹に、彼の背中に腕を回した。

          「可愛いよ、

          鎖骨に赤い花を咲かせると、頂きを口に含みもう片方は乾の指に弾いたり

          転がされたりして弄ばれる。

          それだけの行為で気が変になりそうで怖かった。

          しかし、今愛し合っているのが彼だと思うと、それでも良いと考えられる。

          「ん…っ……乾…君っ」

          「ダメだよ。抱いてる時ぐらい俺の名前を呼んでくれないと、ここをもっといじめ

           るよ?」

          にやっと笑った彼はもう片方を口に含み先程までいた丘を鷲掴み、揉む速度を

          速めた。

          「あっ!……んっ……貞…あぁ!!」

          「よく言えたね。じゃあ、ご褒美」

          そう言うと、耳に掛けてあるフレームを持ち上げて眼鏡を外し彼女の唇を深く

          求める。

          「んっ…ふぁ……私も……愛しているっ」

          彼は口の端を緩め、放すと今度は触れるか触れないかぐらいのキスを落とした。

          徐々に取り去っていたの衣服も残す所、下半身だけである。

          スカートの上から秘部を触ると、そこは充分湿り気を帯びていた。

          「アァッ!…ダメ……そこは」

          身をよじらせて抵抗を試みるが、すぐに体制を戻される。

          「ダメだよ。もう、逃がさないから。それとも、俺に触られるの嫌?」

          熱気に翻弄された目で乾を見上げると、真剣な表情で彼女のそれを捉えた。

 
          「違うの!本当は……ずっとこうなることを待ってた。だから、昨日電話貰った

           後、今日の事を考えて眠れなくて…」

          「ゴメン、俺がイジメすぎた。俺も、この休みに入ってからずっと、に会えなくて

           限界だった……本当にゴメン」

          四つん這いになっていた体を起こそうとする彼の腕を慌てて掴んで抱きしめる。

          「?」

          「貞治じゃなきゃやだ!あなたには恥かしくて言わなかったけど、夏休み前の三者

           面談で高等部に推薦じゃいけないって先生に言われて……それからずっと

           勉強していたの。貞治と一緒に行きたいから」

          「ばかだな。そんなこと俺、気にしないのに。それに、隠してなければ勉強会

           兼ねてデート出来たじゃないか」

          そう言い終わると、再び唇を求め合った状態でベッドに倒れこんだ。

          「本当に良いんだね?」

          「うん……私をあなたのものにして下さい」

          自分で言っておきながら体中が火照ってくるのを感じる。

          「もし、途中で止めてって言ってもとめてあげられないよ?」
  

          「覚悟してる」

          彼女の残った衣服を全て取り去った後、自分も生まれたばかりの姿になった。

          「あっ……」

          乾自身を見た時、余りの出来事に視界を何処へ置いたら良いか戸惑う。

          そんなが愛しくてその手首を掴み、自らを触らせた。

          「さっ、貞治!?」

          「大きいだろ?お前を感じてこんなになったんだ。今も俺の理性が限界にきてい

           る。射れるよ」

          脚を開かせて彼女の秘部へあてがうと、腰に手を乗せて突き進める。

          「んっ…もう少しだけ、力抜いて」

          「そんなっ……こと言われて、も……はぁ」

          いきなりの刺激で互いに耐えることしか出来なかった。

          二人が動く度にベッドは軋み、肌にはじんわりと汗が浮かんでいる。

          「もう少し……だから……」

          「はぁっ、やぁ…!」

          彼女が絶頂に近くなると同じくらい、彼も限界を迎えていたが、二人を永遠へと

          誘う音色が鳴るまで果てることは出来なかった。

          それは、との約束のようなもので絆でもある。

          「あっ…」

          その時、一瞬布を裂くような音が、聞こえたような気がした。

          二人はそれを耳にすると、倒れこむように果て乾の欲望はその音と同時に放

          たれた。


 

          「んっ」

          「気がついた?」

          彼女が目を覚ますと、隣にいる彼と目が合う。

          先程の出来事が夢ではないことを確信して乾を抱きしめた。

          「どうしたの?」

          「何でもない。ただ、嬉しくて」

          お互いの唇を奪い合うと、の中で異変が起きていることに気づいて瞳を開ける。

          彼はそれを悪戯っぽく笑い、舌を彼女の口内へ潜り込ませた。

          永遠の場所へ到達した乾自身がまた変化を遂げようとしているのだ。
 

          「、もう一度して良い?」

          「なっ!?勉強はどうするのよ!」

          「そんなの明日でも良いじゃない。それに、もう勉強はしているよ」

          「何の?」

          「『いかに、キモチ良くヤルか』」

          「むぅ〜!?えっち!」

 

 

 


          
―――…終わり…―――

 

 

 


          ♯後書き♯

          何とか書いてみました、『俤〜あなたはもう、いない〜』の続編はいかがでしたか?

          いやぁ〜…テスト前に書くとスリルがあっていいですねぇ?←人生を舐めきっていま

          すまぁ、勿論up作業してからするのですが、私にはこちらを優先してしまいます。

          これは(何度も書いてすみません)仕様もない癖です。(汗)

          さてさて、内容に話を戻すとして、彼の襲い方はこれまた大胆だなぁと作成者

          自ら思いました。

          夏休みに入ってからの積もりに積もった欲情の表れなのでしょうね。(笑)

          今度、書く時はもっと純にするからね。(by乾に対しての懺悔)