永続的に愛してる

      ねぇ、跡部。

      俺のこと好きだって言ってくれたよね。

      お前のことを愛しているのは俺様だけだけだって言ってくれたよね。

      だけど、俺...怖いんだ。

      このままだと、跡部にどんどん置いてきぼりされそうで......。


 

      今日は会議の簡単な整理と新たに任されたデータのチェックで頭の中には数字ばかり

      が脳裏を過ぎる。

      時刻は18時22分。

      もう、とっくに勤務時間は越えていた。

      「うぅ...。今日は早く帰れると思ったのに。大体最近やたらと残業の回数多くない?

       あぁ...ここってもしかして俺を過労死にさせようとしてるんだ」

      とある証券会社の総務部で一人の青年がパソコンの画面を見ながら深いため息を吐いた。

      菊丸英二、この部署に配属されてからもう四年にもなる。

      本当ならばプロテニスプレイヤーOnlyで頑張ろうとしたが、恋人の跡部に家業へと入社

      させられたのだ。

      別段、成績が悪くなかった彼は楽々と試験を突破し出だしはともかくとして新生活を

      スタートしたわけだが、元々大して興味の無かった業界。

      世の中はそんなに甘くは無かった。

      「何だよ、このデータ。間違いばっかじゃん。良くこんなで経理が勤まるなぁ」

      会議の整理が一段落すると、軽く目を通した膨大な量のデータに軽く頬を膨らませた。

      勤続四年、電卓が無くても何となく答えが弾き出せる力は習得している。

      「あ、もしかして今年経理に入った子かもしんないなー。まだ一ヶ月が経ったばっか

       だし、それなら仕方ないかも。それにこの時間だとあんま人残ってなそうだし、

       俺が解る所は直して明日あの子にそれとなく確認取れば良いか」

      軽く背伸びをしてからワークデェスクの引き出しに入れてある電卓を片手に軽快なリ

      ズムを奏でた。

      本来ならば、この仕事はさほど急ぎの用ではない。

      だが、忙しく動いていないとどうしようもなく悲しくなってきそうで仕事の量が増え

      る度にこうして残業をしていたわけだ。

      ことはここに入社してからすぐ起きた。

      総務に配属された菊丸とは違って彼は営業の一員となり、その成果はめきめきと伸び

      ていった。

      「本当に君の同期かい?」

      たまに自分と一緒に入れたお茶を課長のデェスクに置くと、そんな遠回しの嫌味を

      言われたりする。

      しかし、それは事実だし自慢の恋人のことを褒めてくれているのだから彼はいつだっ

      て笑って「はい!」と答えた。

      (でも、ね。本当は辛いんだよ?...跡部)

      簡単な計算も終わり、一息つこうと思えば深いため息が出た。

      菊丸自身最初は本当に跡部のことを誇りにも思ったし、自分も頑張らなければならな

      いと奮い起こした。

      だが、入社時は自分と同じく平だったのに、気がつけば部長にまで昇進してしまって

      いたことに今更ながら比較を感じてしまう。

      もし、このまま彼との差が離れていってしまったらどうしよう。

      そんな不安が胸に巣食っている。

      今週は出張やら会議やらで忙しいとこの間二人きりの時間の時話してくれた。

      大学を卒業してからというものデートは限られた時間の元でしているものの抱かれる

      ことはめっきり減ってしまった。

      別に夜毎跡部と一つになりたいと言うわけではないが、あまり傍にいられなくなって

      しまったのは正直寂しい。

      「あぁ、早く明日にならないかなぁ」

      時刻は19時ジャスト。

      あと五時間以上待たなければならないのに、それは無理なことである。

      今週は海外出張に出かけていて、明日の今頃には日本に帰ってくる予定だ。

      それを自室のカレンダーに印を付けるほど首を長くしていると言うのに、彼とは連絡

      の無いまま時が無常にも時だけが流れ、それがまた、菊丸の心に闇を抱かせる結果

      に繋がった。

      (跡部はもう俺なんかどうでも良いのかな?......でも......出張前の日キスしたし)

      前向きに考えようとするが、それが返って現実を冷たく感ぜられた。

      置いてきぼりになった惨めな自分は彼に厭きられたって仕方のないことで、もしかし

      たらムコウに好みのタイプがいたかもしれない。

      その人は多分、自分が足元にも及ばないくらいに仕事が出来て可愛い人で...跡部の

      言うことを何でも利いて上げられる大人の人なんだろうと、自然と構想図が脳裏に

      浮かびそうでいつも頭を強く振った。

      こんなんじゃ駄目だと自身に言い聞かせて。

      (別に目の前に用意されたわけじゃないし、それに俺、一番信じてる恋人を疑ってる

       のなんて何か......イヤだな)

      彼は自分が嫌だった。

      跡部とのコンタクトが取れなくなってからというものそれは日増しになっている。

      あと何日で会える。

      明日になれば会いに行こう、そればかりで気持ちが急いていた。

      本人を目の前にしたらきっとこの不安は消えてしまうから。

      「跡部...」

      今日はここまでにしよう、そう思った時ふと誰かに背後から抱きしめられた。

      「えっ!?だ、誰っ?」

      会社でつい彼の名を呟いてしまった。

      一応部署外だが、会社内でそれらしく振舞えるほどオープンな会社ではない。

      菊丸が慌てて今どうしようかと考えていると、背後からは懐かしい囁きが笑いと共に

      耳元をくすぐった。

      「はっ...まさか恋人の温もりって奴を忘れたんじゃねーだろうな」

      「跡部?」

      「何故、疑問形が付く?」

      「......だって、この一週間連絡くれなかったから」

      「なんだ、拗ねてたのか」

      「うっ...そうだけどさ。でも、何で帰国早めたの?明日の今頃じゃなかったっけ、

       予定では」

      「お前は俺様に早く会えなくても良かったのかよ」

      そんな訊き方はズル過ぎる。

      彼は口を開けばいつだってこんな調子で相手を追い詰めて本音を吐き出させる。

      でも、それは自分だけだと解ったのはこの会社に入社した頃だった。

      上司には謙譲語、部下には命令形、同僚には一応職場の付き合い程度に弁えている。

      そんな微妙な動きに何だか可笑しくて一人、声を殺して笑った。

      「ううん。ずっと、会いたかった」

      「やればできるじゃねーか」

      跡部はため息のような笑いを漏らすと、そのままの状態で菊丸の顎を掴み、後ろに

      振り向かせた。

      「あっ」

      彼には敵わない。

      ぐいっと引き寄せられた先には唇が待っていた。

      「ぁ...ふ...っ」

      互いのものを塞ぎ合えばいきなり舐められ、僅かに開いた隙間から跡部の柔らかで

      温かな舌が入り込んでくる。

      懐かしい刺激に思わず体が反応してしまったが、どうやらそれは戦法のようだった

      らしく、動揺を隠し切れない彼の舌を問答無用で絡め取った。

      「はっ...」

      「ふっ、もう感じてるのかよ」

      舌と舌が絡み合うことなんて何十回もしているのに、自分は況して彼の吐息が耳元

      を掠めるだけで頭の芯が溶けてくる感覚がした。

      唇を至近距離で一端放してから大好きな強気な笑みを湛えながら囁く。

      「ちがっ!」

      「俺様を誰だと思っているんだよ。オラ、ここなんて素直だぜ?」

      そう言って遠慮なく菊丸の張り詰めた昂りをズボンの上から触った。

      「あっ!んんっ」

      「良い反応だ」

      「でっ、でも...っ...ここ......会社っ」

      「何だ。そんなことを気にしているのか。誰もいないぜ。俺とお前以外はな」

      くくっと低い声で笑いながら菊丸をどんどん脱がせていく。

      「止めろよ、跡部」

      「イヤだね。それにでけぇ声なんて出して良いのかよ?事件かと思って駆けつけて

       着たらどうするんだ」

      「うっ」

      完全に支配されている。

      もう、彼の中ではこの場所で久しぶりにすることが決定されているようだ。

      「は、んっ...ふ」

      乱暴に脱がされたシャツの隙間から現れた胸の突起にちゅっと音を立てて吸われる。

      口の中では舌で掠めたり押し潰したりして弄ばれている。

      「あ、やぁ...」

      その官能的な動きに思わず声が漏れてしまい、慌てて口を両手で覆った。

      うかうかしていると、本当に警備員や残業しているやもしれない社員達に聞かれて

      しまいそうだ。

      一方、そんな彼の抵抗を見て笑う跡部はすでに主張し始めている下半身の衣服を

      脱がしに掛かっていた。

      「あっ!」

      ベルトをカチャリと外されただけでも気持ちが楽になったというのに下着と一緒に

      脱がされた場所からはそんな菊丸の行動を空しくさせるかのように分身が現れてし

      まった。

      「イヤだイヤだ言っている割にはしっかりと感じてるじゃねーか、アーン」

      先端の窪みからは先走りが根元を目掛けて逆走している。

      今日は朝から気温が21度しか上がらない五月としては寒い一日だった。

      「あっ、駄目!」

      それは夜まで続いていて社員が少なくなってきた所為なのか暖房もすっかり切られ

      てしまった。

      「そんなことを聞くわけねぇだろうが。オラ、無駄な抵抗するのは止めろ」

      イスに座らせたまま首筋、鎖骨、胸の中心へと紅い華を咲かせる愛撫に思わず腿の

      力を緩めてしまった。

      「ぁんっ!」

      一気に濡れている所に指を射れられる。

      もう、ここがオフィスだろうと関係ない。

      早く彼と一つになりたかった。
      
      溢れ出した蜜は菊丸の素直な部分が露になっているように跡部のことを煽っている。

      いつもなら指を数本差し込んでから射れるのに、今日はそれとは違ってすぐそれは

      抜かれた。

      「あと...べ...?」

      「わりぃ...っ...もう、限界だ」

      「うぇ?......あぁ!」

      突然脚を今以上に開かせられたかと思えば、いきなり腰をひんやりとした手で掴ま

      れ一気に衝撃が菊丸を襲った。

      「にゃあ、...ん、うう、あっ」

      「キツっ......おい、そんな...っ...締めるなよ」

      「俺、だって、締めたくて締めてるわ...っ」

      一番敏感な部分を攻められている所為か言葉が思うように続かない。

      頭の中が久しぶりの刺激で快感と激痛が区別できなくて霞んで何も考えられない。

      ただ、今は体がしたいように腰を動かしている。

      もっと深くを抉って欲しいと自分の中に入っている彼に強請っている。

      瞳からはぼろぼろと涙が毀れて来てはまるで子供のように抱きしめた体に回した

      腕に強い力を込めた。

      こんな向かい合って一つのイスに座ったまましたことは一度も無い。

      しかもここはいつも菊丸が働いているオフィスだ。

      そんなことが頭を掠めるだけでも体が熱くなり、羞恥心が理性を呼び覚ました。

      「はっ」

      さっきよりも体内に侵入した跡部を強く締めた気がした。

      思わず顔を歪めた彼から漏れる吐息が愛しい。

      「く、うぅ...っ」

      ギシギシと金属音を何度か立てた後、蜜と同じく滑った熱いものが菊丸の中に放たれた。


      「お疲れ、跡部」

      「あぁ。これで今日のスケジュールも終わったことだし、帰ってヤるか」

      「〜っ、スケベ!」

      翌日、二人の姿は会議室から出てきた。

      「えっ?」

      痙攣がやっと治まった彼は言われたことは理解できたが、その凄さに聞き返してしまう。

      「明日から俺は常務になる。だから、俺様専用の秘書が必要なんだ。イヤとは言わ

       せないぜ」

      身動きが自由に取れない菊丸と自分の体をキレイに拭き取った彼はこれまた偉そう

      に自信満々な笑みを顔中に浮かべた。

      「アイツは出来る奴なんです。菊丸を私の秘書にすることを許可して下さい」

      跡部の話によると、これまでの異様に仕事の量が多かったのは全部彼の仕業による

      ものだった。

      今から二年前から常務になることはほぼ決まっていた。

      それならば総務にいる恋人を秘書にしたいと上に話したのだが、実績も経験もない

      彼に担当させることは出来ないと言われたらしい。

      だから、頼んで仕事を増やしたわけだ。

      それに相応しいか、はっきりと見せつけるために。

      「愛してるぜ、菊丸。瞬間的なんかじゃなく永続的に、な」

      「跡部…んっ」

      エレベータのドアが閉まると、いきなりキスを強請ってきた。

      彼のプロポーズの意味するかのように口づけは再びドアが開くまで長くそして、

      深く互いを求め合った。



      ―――・・・終わり・・・―――



      ♯後書き♯

      皆様、こんにちは。

      私の二年ぶりのBL「永続的に愛してる」はいかがだったでしょうか?

      今まで書こうとはしていたのですが、なかなか自信が無くて作業できずにいました

      がやっと再活動することができました。

      これも私のBLを心待ちにして下さっている皆様のおかげだと思っております。

      しかも、ずっと手を出したくて出せなかった裏ものですv

      こちらはお友達サイト様や柊沢が事前に収集したBL資料に大変お世話になりました。

      詳細には申し上げられませんが、本当にありがとうございます。(深々)

      Trialの方でも十分リハビリをさせて頂きました。

      跡菊裏BL小説はいかがだったでしょうか?

      このキャラを選んだのは私の中ではあまり有名でないのと私が二年前に仕上げてい

      るのは青学と他校(氷帝)同士だったからです。

      悩んだ挙句「ミックスで行ってみよう!」と思い、跡部君を攻めに選びました。←馬鹿

      そして、菊丸君とこの設定の話なのですが、ぶっちゃけ去年某サイト様の日記を

      拝見したことにより決めました。

      今、この後書きを見ていらっしゃるかと思うと笑いと一緒にしてしまいましたと

      言うちょっと後悔に似たようなものが…。(苦笑)

      具体的なことは敢えて申しませんが、柊沢は誰かが「出来ない(にくい)」とか

      「やってくれないか」とかに弱いです。(笑)

      いえ、絶対無理なものは燃えないのですが、変に使命感が燃えやすい方なので。(爆)

      長々と書いてしまいましたが、こんな柊沢の門出を祝って下さると嬉しいです。

      それでは、ご感想お待ちしております。