雲煙過眼―――土方編―――

      「おい、

      文久三年長月、新選組の屯所内でその声がした一室では長身の男性がまだ寝具の中で熟睡中

      の少女の顔を覗き込んでいた。

      「う…んん…」

      傍から見れば、とても何かが起こりそうな場面に思えるのだが、当の本人にはまだそんな

      気はなかった。

      今から振り返れば、あまりにも歳の離れた彼女に自然と好意を持つなんて無理な話かもしれない。

      しかし、それ以上に幼すぎる顔からは彼らが予想も出来ないことが幾千も飛び出し、その度

      に激怒したり問答無用でその細い手首を掴んで歩こうとしたりする。

      そんな気にさせるこの少女が当時は不思議でしかたがなかった。

      朝方の屯所では考えられないほど静かで、それがまた彼女に睡魔が襲い、余計起きられなくさせる。

      だが、顔中にシワを寄せた人物はそれ以上に強烈だった。

      「おい、。早く起きねぇと減給だぞ」

      「きゃっ!」

      その一言で目を覚ましたは目を大きく開け、それと同時に渋い彼の顔を見て一気に眠気から

      覚めた。

      その表情はやっと起きたか、とでも言いたそうに見える。

      「ひ、土方さん!?あの…何の用ですか?」

      彼女とて女性の端くれだ。

      いくら新選組と言う男だらけの所帯に身を置いていてもそれを捨てたわけではなかった。

      内心鼓動を高鳴らせながら彼を見つめ返したが、やはりと言おうかその表情には何の感情も

      浮かばれてはいない。

      こんなにドキドキしているのは自分だけなのかと思えば、悔しい気持ちでいっぱいになる。

      「お前に話しておきたいことがある」

      そう言って腰を下ろさず、仁王立ちしたままなのが、何とも土方らしい。

      最も、その姿勢も静けさが保たれた屯所内だから出来るのだろう。

      他のみんなはどうしたのかな、と思いつつ彼が次に放った言葉に我が耳を疑った。

      「芹沢さんの死因は長州の間者による暗殺ということになった。分かったな」

      「『なった』って…つまりそれは、そういうことにしておけって…」

      「そういうことですか?」

      一つ一つ言葉を縫い合わせていくように発した声は自身信じられないほど落ち着いていた。

      芹沢を暗殺する当日、新選組は酒盛りを挙げた。

      それは盛大なもので、ある意味違和感があり過ぎた。

      他の隊士は知らないが、彼女だけはその不自然さにゆっくりとお茶を楽しむこともできないま

      ま何時間か経ち……そして、事件は動き出した。

      隊士中が寝静まる中、それまでフリをしていたのか、土方歳三が立ち上がったのを合図に

      沖田総司、山南敬助、永倉新八、原田左之助がその後に続いた。

      その気配に後を着けたは、事の真相を目の当たりにすることになった。

      「そうだ。対外的には急病という話になるだろう」

      「…そうですか」

      彼は胸の前で腕を組んだまま目を逸らせている。

      芹沢鴨…決して、良い人ではなかったけれど、悪い人ではなかった。

      だから、先日も事の真相を当初聞いた際、説得をしようとした。

      なのに、彼らの決定事項を阻止することはできなかった。

      その視線の中に明日を見たからなのかもしれない。

      自分も少なからず、それと似た夢を追いかけているのが伝わって、止める方が間違っているよ

      うな気がしたからだ。

      後押しした雨の中、これが新選組を守るということならば、と何度も彼に謝罪の言葉を

      思い続けていた。

      見送ってしまったことに許して欲しいなんて言わない。

      ただ、五人の暗殺者を無事に帰して下さい、と祈りのようなことを考えていた。

      「どれだけ血で汚れようとも、それが正しい道を作っていくなら」

      あの時、決心した誓いを口にする。

      もう、すっかり冷え切ってしまった寝具の弾力を確かめるようにその端を両手で握った。

      血判や根性と言ったものは、この少女に到底、出来そうもない。

      「私も…その道を歩きます」

      ただ、顔には大きすぎる瞳で土方を凝視することが、揺るぎない志を唯一表す方法だった。

      「少なくとも、俺はそう信じてる。この道の果てに俺たちが目指す高みがあるんだってな…」

      もしかしたら、泣き出しそうな顔をしているのかもしれない。

      事情はどうであれ、仲間を失ったのだ。

      それも目の前の人物は、暗殺班の一人だ。

      なのに、自分は彼に手を引かれるまま何処までも付いて行こうとしている。

      瞳に薄っすらと過ぎった哀愁は影を落とし、はあの場所でしたように勢い良く立ち上がった。

      その幼い瞳には、元から悩みなどはない。

      「なら…私も、信じます」

 

 

      「土方さんっ!」

      庭から走ってきた彼女は勢い良く一室の障子を開け放った。

      彼が道場前で山南と完全にすれ違ってしまった彼のことが気掛かりでここまで走ってきてし

      まった。

      だが、いるはずの彼の姿が部屋中を見回しても見当たらない。

      時刻は夕刻。

      ひょっとしたら、食堂の方へそのまま行ってしまったのかも知れない。

      「どれだけ自分の手が血まみれになろうとも、俺はその手でメシを食い、女を抱く!」

      不意に、土方が吐き捨てて言ったことを思い出す。

      今更ながら見事に動揺してしまい、気のせいか鼓動が先程よりも高い音を奏でているように

      思えた。

      彼は一体、どんな女性をあのたくましい腕の中に誘うのか。

      整えられた顔を甘く歪めさせてしまうのは、誰だろう。

      あの冷静で時に、冷酷なことを言う唇に酔わされてみたい。

      (って、私ってば何を考えているのよ!!)

      自分の考えたことに頭を勢い良く振り、部屋の中に足を踏み入れた。

      あの言葉にどれだけの思いを込めていたのだろうか。

      辛さ…絶望…。

      どんな言葉で傷つけても、良い。

      アレから共に戦い続けてきた山南敬介と言う人物を同じ視界の中に戻すことができるのなら

      ば、それでも良かった。

      今の隊長格は、ほとんどがこの新選組を作り上げた仲間だった。

      その中の二人がこんな形で別れるなんて絶対にイヤだ。

      こんな考え方は今まで生きてから強く思うようになったのは、きっと、芹沢暗殺事件からだ

      ろう。

      あの夜の雨は、何だか隊長格のそれも暗殺班の涙のように感じた。

      延々と降る雫はとても冷たくて、一滴だけでも心を凍りつかせる。

      それはあの時、土方の瞳の中で輝いていたものかもしれない。

      だから、自分はあの朝、事前よりも泣きたい気持ちになったのだ。

      その解けない氷がとても美しく、とても悲しかったから…。

      「人の部屋の中で何をしている」

      「土方さんっ!」

      突然、背後で聞き覚えがある声がしたかと思えば、強く抱きしめられ、それと同じくして

      障子が物凄い音を立てて閉められた。

      それが時を止めてしまったかのように廊下を踏みしめる足音も話し声もとても遠くに感じる。

      取り残された二人はそのまま動こうとはしない。

      彼は一体、何を考えているのだろう。

      この留められた羽間でを抱き締め、何を感じているのだろうか。

      鼓動は意識しなくても速くなり、頭の中がぼぉーとしてくる。

      この状況に翻弄されないほど理性は強くない。

      今、あのたくましい腕に抱きしめられている。

      いつも遠くから聞いていた土方の体臭に包まれ、背中には筋肉質な胸板が密着している。

      「どれだけ自分の手が血まみれになろうとも、俺はその手でメシを食い、女を抱く!」

      それに追い討ちを掛けるように彼のあの言葉が脳裏に甦る。

      もし、その女性が自分ならば…もし、この場で愛されても自分だけは傷つけたくはない。

      「土方さん…」

      吐息にも似た声で呼ぶ。

      「男の部屋にのこのこと入ってきたからにはどうなるのか分かっているのか?」

      声色の熱が耳に掛かる。

      彼がこんな言い方をするとは思ってもみなかった。

      「…はい」

      土方を愛しているから……。

      彼女の返答を待たずに片手は懐の中に潜り込み、もう片方の手で袴の結び目を解きに掛かった。

      その動きは見事なもので、直接胸を揉みしだく掌は優しいのに下半身に垂れ下がっている紐

      は荒々しく解かれている。

      「あっ……んんっ」

      その刺激に声を漏らせば、あの冷静で時に酷なことを平気で言う唇が塞ぎ、本能的に後退りを

      したモノを舌先で絡み取った。

      障子と襖で囲まれた室内で半ば強姦のように立ったまま愛される自分が恥ずかしくなって、

      強請るように彼の首に腕を回す。

      それは、副長である土方歳三が仕掛けた罠か彼女の同意の合図か分からなかった。

 

 

      「はぁ…っ…土方さん」

      辺りから人の気配が全く感じられなくなったことを確認した後にの唇を自由にし、そのまま

      畳の上に押し倒した。

      まるで、刹那の時も許さないと言うように乱雑に開いた着物から現れた白い柔肌に口づけて

      赤い花を咲き散らかす。

      「はぁ…」

      「

      啄ばむような感覚がこれから何が起こるのかを予想させ、彼女の華奢な体は熱を帯び始めている。

      それが彼にはとても魅力的に映ったのか先程の息苦しかった接吻により汚してしまった

      首筋を官能的な動きで舐め上げた。

      「んっ、ん…ぁ」

      「…美味いぞ、

      「あ…そんなっ耳元で言わなくても、ああっ」

      「感じるのか?」

      「やっ……」

      まだ、男を知らない柔肌をキツク吸われただけでも大きく息を吐いていると言うのに、耳元

      でそんな羞恥心を煽るようなマネをされては身が持たない。

      しかし、それを頭では思っていても、体の方はもっと刺激が欲しいと強請っている。

      吐息を感じた耳を甘噛みされ、彼女を抱き起こせば着物と一緒に袴を脱がせた。

      「ん、恥ずかっ……ああっ」

      上半身同様に赤く火照った下半身の中心は、既に潤っている。

      抱き起こした姿勢から後ろ向きに倒れさせ、丸見えになった茂みを分け開き、泉を今も溢れさ

      せている場所にその繊細そうな指を一本差し込んだ。

      「土方さ、あ…」

      あまりの出来事に気絶してしまいそうになったが、体内で傍若無人に動き回る土方にその暇

      を与えられずに攻められ続けられる。

      「あ……いっ」

      心のどこかではもっと壊して欲しい、と言う淫らな想いがある。

      それは処女だから仕方のない欲望なのかもしれないし、違うのかもしれない。

      一本の指を二、三本増やされ、空いている唇はイヤらしくもその花弁を攻め始めた。

      「…っ……あ…」

      その性急な衝撃に背筋は弓を描くように反り、指が蜜壷から抜かれたと思えば、代わりに差

      し入れられたのは、先程、の口内を犯したあの湿り気を帯びた舌だった。

      指の時とは違って何度も抜き差しが行われ、それだけでも意識が遠くに飛んでしまいそうになる。

      「んっ、土方さん……」

      「……っ」

      既に、羞恥心はどこかに遠退いてしまっている。

      今はただ、彼が与えてくれる刺激を体中で感じていた。

      「そんな声で呼ぶな……お前より先にイっちまうじゃねぇか」

      怒ったような照れたような声が一番敏感な部分から言われた方は堪ったものではない。

      「ん…っ、ぁああ」

      吐息が直に肌に掛かり、びくびくと反応する蜜壷はまるで渇きを知らないかのように想いを

      溢れさせ、それがまた彼を淫らに誘っていた。

      勿論、この場で湧き上がらないほど土方歳三と言う人物は理性が強い訳ではない。

      着ていたすべてのものを乱雑に脱ぎ捨て、彼女をこの腕に抱きしめた時点から疼き始めていた

      欲望を秘部に宛がい、一気に貫く。

      「はぁ……んっ、あ…土方さんっ」

      「ん…くっ」

      アレだけ艶かしくも濡れていた所為だろう、は初めての刺激に驚いたものの苦痛で顔を歪めた

      りはしなかった。

      逆に、その衝撃を待ち浴びていた内壁は侵入してきた彼を優しく包み込み、新たなる痛みを

      煽るように締め上げる。

      「ふ、うん……」

      一気に貫いたため、今度は正面から抱きしめられた形になって初めて土方の顔を見た。

      端整な表情はシワを刻み、頬はまるで火が噴いたかのような勢いで赤い。

      いつも冷静な彼をこんなにも余裕をなくさせてしまったことがとても嬉しくて、吐息を吐き

      出している唇を自ら強請った。

      それはすぐに深いものへと変わり、まるで互いの渇きを潤し合っているかのようにも見える。

      「やぁ……ひ、土方さんっ」

      唇が腫れるほど強引な口づけをされ、腰を激しく動かされる度にイヤらしい水音が耳を犯す。

      「いやぁ」

      「……いい声だ」

      その淫乱な調べは彼女に「快感」と言う言葉を教え、自らの足で土方のたくましい体を抱き

      寄せ、思わず甘い乱れた声を上げてしまった。

      熱に浮かされた声ではなく、はっきりとした彼の声がして瞳を閉じようとした際に、いきなり

      今までのことが嘘だったかのように引き抜かれてしまう。

      「土方さんっ…イヤ、ですっ」


       の下腹部の中ではまだ疼きは治まってはいない。

      物欲しそうな瞳を潤ませる姿は、先程まで処女だったとは思えないほど色っぽい。

      彼女をこんなに変えてしまったのは、不敵に笑っているこの男性の所為だ。

      「俺の部屋に入ったが悪い」

      四つん這いの姿勢で畳に両手を着かせたの泉からは、溢れ出した感情がだらしなくボタボタと

      新たなシミを作る。

      「あ、あぁ……ひっ」

      後方からまた、一気に貫かれた刺激で背を反らせる。

      常に、何の感情もなさそうな土方がこんな抱き方をするなんて思いもしなかった。

      腰の代わりに双丘を?まれ、その人差し指と中指の間でイヤらしく頂を攻められる。

      最初は両手を着いていた姿勢も強すぎる刺激に耐えかね、今ではい草の上に胸を突っ伏せた

      形で彼の動きに腰だけを動かしていた。

      はぁはぁ……っ」

      彼の切なそうな声が背後からする。

      初めて名前を呼ばれたことにより、本当に自分が愛されていることが解る。

      土方の中をもっと自分だけにしてしまいたい、と意識して内壁を締め付けた。

      「ふぁ…っ…ああっ

      「ああああっ」

      何かが彼女の中で放たれた瞬間、目の前は銀世界に誘われ、意識はその中に消えて行った。

 

 

      その日の深夜、が目を覚ますと寝具の中に寝かされていた。

      真っ白な夜着に身を包んだ彼女は起きたばかりだからなのか、意識が朦朧としている。

      今日は塾で剣術の稽古をして、とあったことを辿れば彼に淫らにも畳の上で抱かれてしまった

      ことを思い出し、身を起こそうとすれば激痛が下腹部から体中に伝達された。

      寝具には勿論、の匂いがするわけはない。

      もう、昨日までの自分ではないことを知って、嬉しくもあり不思議でもあった。

      あの新選組の副長である土方歳三が、十以上も離れた小娘である彼女を余裕がなくなるほど

      荒々しく抱くとは予想外の出来事だ。

      今も尚、痛みを訴えている場所に鼓動を高鳴らせていると、当の本人が障子を開けて室内

      に入ってきた。

      先程までの行為を思い出し、どう声を掛けたら良いのか解らず、黙って俯けばあの時と同様

      に寝具の傍に腰を下ろした彼が抱き寄せる。

      たくましい腕の中、それが確かに愛してくれたことを告げていた。

      「今宵は七夕だ。にも見せたかったのだが…無理をさせてしまってすまない」

      竜頭蛇尾とは全くこのことで、文末に近づくにつれて、声が口の中で篭ってしまっている。

      顔は、常の土方歳三と言う人間を把握している者ならば信じられないほど優しく微笑んでいた。

      「一句、出来たんですか?」

      「いや…いつものように集中できなくて何も浮かばなかった」

      彼の言葉や赤みを帯びた頬が、先程までの情事を思い起こさせ、その度に再び湧き上がる

      気持ちの存在に驚かされた。

      自分はこんなに色欲が強かったのか、と不安になれば、直に違うと解って胸を撫で下ろす。

      土方があんな激しい求め方をするからそれに合わせても敏感になり過ぎていた。

      こんなことを知ったら、彼は喜んでくれるだろうか。

      「あの…私、季語が入っていないのですが、一句…そのぉ、出来ました」

      「ほお、聞かせて貰おう」

      心なしか俳句を何年も趣味としている者の個人的な気の高さか、何だか怒っているように見える。

      勿論、初心者の彼女は今、胸にしている一句が正しいものかどうかは判らない。

      ただ、意味的にはずっと土方に伝えたかったことで、今までそうする勇気がなかったためそれ

      を口にすることを恐れていた。

      だが、今ならそれを実行に移すことができる。

      「『心寄せ つれなしづくる 燃ゆあなた』……」

      「っ!?…っ」

      意味がそのまま伝わったのか、彼は彼女を抱きしめる腕に力を加えた。

      それは苦しいと文句を言うために見上げるの唇を故意的に奪う策略なのかもしれない。



      ―――…終わり…―――



      ♯後書き♯

      「雲煙過眼」の土方編はいかがだったでしょうか?

      今作は、私の友達であるめいめえ様の「『幕末恋華 新選組』フルコンプ記念」に作成しました。

      リクエストは「山南VS土方」の「錆びた心」のイベントで、彼女を巡っての勝負だったらとい

      う設定で作業しましたが、お楽しみ頂けたでしょうか?

      文中に何度もあります「どれだけ自分の手が血まみれになろうとも、俺はその手でメシを食

      い、女を抱く!」宣言にはヤラレた方も多いはずv

      と言うことなので、彼女に暴走して頂いたわけです♪←どういうことだよ

      VS小説を依頼されたのは今作が初めてなので、緊張してしまいましたが、今まで「テニスの

      王子様」だけで取り扱っていたため新しいジャンルが開拓できて頑張って良かったなぁ、と

      振り返っています。

      心苦しいと言えば、最後にあります彼女が自分の想いを俳句にする場面ですね。(沈)

      アレは古語辞典片手に無い頭を捻って作ったものです。(爆)

      意味はそーいう意味ですvv←説明しろ

      我ながら俳句の知識が無いので、合ってるか解りません。←待て(爆)

      最後になりましたが、めいちゃん『幕末恋華 新選組』フルコンプおめでとう!