ホワイトクリスマス

      今夜は、12月25日。

      クリスマスである。

      駅前の商店街はそれ一色に染まり、歩く人々だけでも一夜限りのパレードに参加する

      ことが出来た。

      市内のホテルは皆満室で、その多くはほとんどが若いカップルではないだろうか。

      恋人達にとっては最大のイベントであるこの日は、最高の場所で思い出を作りたがる。

      それはこれからも変わらぬ愛を誓うのか、はたまた本当の意味で最後にするのか

      理由は様々であった。

      その中でも有名な高級ホテルのラウンジに二人の男女がいる。

      窓際のテーブルに着いた彼らは既に暗くなった夜空に光るネオンを見つめている。

      その場にはやはりちらほらとさほど年も変わらないものが何人かいて、それぞれ

      が幸せそうに笑っていた。

      それは向かい合わせの席に座る彼の髪にそれが映ってとてもきれいだとつい、

      見惚れてしまう。

      テーブルの上には小皿に乗ったカップから湯気が優雅に立ち上っていた。

      少女はそれを眺めて事の始まりを遠い昔を思い出すような目をする。


      「ねぇ、。今夜クリスマスだよね」

      それはいつもの帰り道だった。

      「うん。そうだけど、どうしたの?」

      六角中の三年生である佐伯虎次郎とは付き合いだしてから三ヶ月経って、ようやく

      恋人らしくなってきた。

      いきなり吹いて来た風に彼女は、茶色いハーフコートに首を縮める。

      それと対になる様に彼は制服姿のままで顔中を真っ赤に火照らせていた。

      「だったら、......俺と一緒にクリスマスを過ごさないか?」

      「えっ...」
  

      思いもしなかった言葉に開いた口がなかなか声を発しようとはしない。

      だが、目の前では真面目な顔をしたどこか大人の男性の顔をした少年がいた。

      少し前までなら即答で返事ができただろうに、今はその意味が何を指しているの

      か理解でき、することが少なからず怖い。

      最初は恥かしかった部活が終わるのを待つ行為も今では習慣になってしまい、それが

      嬉しかった。

      誰かを待ちそして、会えた時の幸福感が好きだ。

      初めは恥かしそうに頬を染めていた佐伯も、今ではの唇に軽くキスをして感謝を

      示すようになった。

      そして、彼女もあの頃よりも彼のことを愛していた。

      周りは紳士と淑女ばかりでどんなに着飾っても二人は少年と少女に過ぎなかった。

      上品なカップに注がれたロイヤルミルクティーを飲みながらは佐伯の両親に複雑

      な思いで感謝していた。

      こんな形でクリスマスを過ごせるとは思わなかった。

      それもこれも、彼らのお蔭である。

      このホテルには、本当は、商店街の福引で当てた彼の両親が宿泊するはずだった。

      しかし、従兄の結婚式と重なってしまい、使わないのも勿体無いので息子に譲り

      渡したというわけである。


      「きれいだな」

      「ほっ、本当にキレイね」

      ふと、佐伯が呟いた。

      彼女は窓の外で輝く無数のネオンを見つめて答える。

      彼に見惚れていたなんてとても恥かしくて口に出せずに、急いで視線を逸らした。

      声もなるべく平静を保ったつもりだったが、やはり意識してしまう。

      この場所に来る前に一度別れ、時間を決めて現地集合することになった。

      家に帰るなり、自室まで走り勢い良くドアを閉めると、胸を抑える。

      今さっきあったことが信じられなかった。

      心臓は激しく脈打ち、傍から見れば体中火照っていることだろう。

      制服のスカーフを解き、自分自身に落ち着きを促しながら普段着に着替え、今何

      をすべきか無い知恵を絞って考えた。

      まずは一番大きい鞄に衣服を詰め込み、親友の渡辺雪野に電話をしてアリバイを

      作り、母親に断って出かける。

      そこまで考えてふと振り返れば、心のどこかでそれを期待している自分がいる。

      佐伯を異性として見ていないわけは無いが、そう捉えてしまうことで何かが音を立て

      て変わるようで怖かった。

      『そっかぁ、あんたもついに女になる日が来たってわけね。よっしゃ、親友として一肌

       脱いでやろうじゃない。では、健闘を祈る』

      受話器越しの彼女はいやに明るい声で一通りはしゃぎ回ると突然電源を切られた。

      明朗な雪野とは対照的なは大人しく一言口にするだけでも数分は考え込んでしまう。

      次の言葉を言い迷っていた少女は受話器を握り締めたままうなだれた。

      結局、最小限の必需品を持って彼の待っているはずのこの場所へと向かった。

      佐伯は飲み終えたカップをソーサーに戻すと、優しく微笑んで首を左右に振る。

      「えっ?」

      「違うよ。俺がきれいだなと言ったのは、のことだよ」

      そう言って彼女の小さな掌を握って椅子から立たせる。
 
      その掌は今さっき温かいものを飲んだというのに冷たかった。

      「戻ろうか。俺達の部屋に。ここも段々大人が増えてきたし」

      言われて見て初めて見回したが、佐伯が言う通り、辺りにはちらほらいたはずの

      彼らと同い年ぐらいの恋人達は姿を消し、代わりに成熟した男女が味わい深いムードを

      漂わせ手を握る彼は真剣な顔で、それに妙に反応してしまった彼女は俯いた。


      二人の泊まる部屋は最上階のスイートルームである。

      今は不景気で高級ホテル故にここを予約する人物もおらず、常に「開かずの間」を

      保っていた。

      だが今回はオーナー達の話し合いの結果、福引の特賞として取り上げることになった。

      室内をガラス張りにしたような広い窓に清潔そうな白いカーテンを閉め、内から鍵を

      閉めたまま体を固くしている少女を後ろから抱きしめる。

      その途端、華奢なそれはびくっと震えた。

      「佐伯君...駄目...」

      「何が?俺はもう、が欲しい......良いだろう?」

      耳元にそっと囁かられ、彼女の鼓動はどくどくと脈打っていた。

      彼の息が首筋に掛かり、妙に体が反応してしまう。

      心の準備をしてきたはずなのに、いざとなるとそれは脆く崩れ去ってしまう。

      胸の鼓動がうるさく聞こえるのが嫌で俯けば、背後から別の位置からテノールに

      似た高い音が奏でられていた。

      それを確かめようと抱きしめられたまま振り返ると、恥かしげに微笑む少年と視線が

      合い軽く口づけを交わした。


      「馬鹿だよな。俺だって初めての癖にこんな所にを誘うなんてさ。本当はいつ切り出す

       かって考えていた時から緊張してたんだ。こんな所に滅多に来ることなんて無い

       だろうし、それにお前と過ごすクリスマスは最高の場所で過ごしたかったんだ」

      「馬鹿...」

      そんなことを言われてしまったら、彼にこんなにも恋焦がれている少女は成す術

      がなくなってしまう。

      自分の事で頭を悩ましてくれた佐伯が愛しくて思わず、唇を自ら求めた。

      それだけなのに何故かこのキスはいつもと違う味がする。

      「好き...」

      「俺も、お前のことが好きだ」

      「
だから...」

      「ん?」

      彼女が何か言い迷っているようで表情を曇らす。

      彼は出来るだけそれを自分に伝えてくれるよう少女の長い髪を優しく撫でた。

      勇気が出ないのはだけではない。

      こうして彼女の体を抱きしめている少年だって、いつ心臓が破裂しても可笑しくない

      くらい狂気に刈られていた。

      「だから......私をっ......佐伯君のモノにして下さい!」

      「っ!?」

      「本当はね...、私もあなたにずっと溺れていた。佐伯君が誰かと親しくしていれば

       それだけでやきもきしてた。こんな私って醜いよねって自分で思っていた」
 

      「...お前もそーとうな馬鹿だな」
 

      「ふふっ、お互い様でしょ?」

      「ああ...そうだな」

      私も、と開きかけた唇に彼は微笑みながら人指し指を当てる。

      「「佐伯」じゃない。「虎次郎」だろ?」

      「でっ、でも!......恥かしい」

      「何が恥かしいんだよ。今は俺達二人きりしかいないよ」

       良いから呼んでみてよ、と目配せして彼女に促す。

      その笑顔に弱い少女はやはり、彼は意地悪だと心の中で思った。


      「こっ虎次...郎......やっ、やっぱり駄目っ!?」

      頬を赤らめて彼を見上げようとしたら、いきなり体を抱き上げられてしまった。

      宙を飛ぶ感じとはまた違った感じがする。

      彼に気が付かれないように胸を両手で押さえるが、顔中に熱を覚え彼女は渋々と

      それを諦めた。

      いかにも高級そうなベッドに寝かされ、その上に覆い被さるように組み敷かれる。

      前髪をそっと分けられ、怯えないように額に軽く唇を寄せる。


      「愛している...だから、の全てを俺は知りたい。それでも駄目というのなら俺を

       抜いてみろ」

      悪戯そうで真剣な佐伯の口調が心に響いた。

      もう、迷わない。

      いや、迷えないの方が正しいのかもしれない。

      彼の瞳の中にいる自分が嫌で瞼を閉じた。

      YESと言って......。

 

      首筋に赤い花を咲かせると、彼女は色っぽい声を上げる。

      涙目で見上げれば、そこは既に大人の男性のものへと変貌している。

      ブラウスのボタンを器用に外しながら胸を揉み、舌は校内を侵し続けた。


      「んっ......あ...待って佐伯......ひゃっ!?」

      それをずらすと、今度はブラジャーのフォックに手を掛ければ、難なく上半身を表す

      ことに成功した。

      「だめだよ。俺を「佐伯君」って呼んじゃ。「虎次郎」だろ?」

      「あんっ...そんなことっ...!!」

      鋭く尖った頂きを口に含み舌先で突っついたり舐めたりして弄ぶ。

      空いた掌はまだ洋服で守られた下半身をその上からひと撫ですると、まるで、それ

      が合図だったかのようにその場所を攻め始めた。


      「何?ここが一番良いの?」

      「そっ...そんなっ...」

      「正直に言ってくれないと俺、解んないよ」

      「意地悪ぅ......んはぁ...んんっ......良いっ」

      「何?よく聞こえないんだけど」

      「あっ、いや......そこ...だめぇ」

      「は我が儘だね。良いって言ったり、駄目だって言ったり」

      「んぁ...やっ...ぱり......私をイジメて楽しんでる」

      「あっ、こんな時にそんなこと言うかな。俺、傷つくなぁ」

      彼女は一瞬、しまったというような顔をすると、唇を噛んで覚悟した。

      彼が拗ねるような真似をすると何かが身に降りかかる前兆である。

      男性の顔をしていた少年は今までがウソだったかのように、少女を優しく抱きしめた

      まま体を切なそうに震わせた。

      「えっ!?こ...虎次郎?」

      「やっと、呼んでくれたね」

      「きゃっ!?」

      履いていたスカートごと一気に下ろされると、露わになったの秘部に指を一本

      差し込んだ。

      少女の中に差し込まれたそれは、ひくひくと動く内壁に締め付けられ、それだけで

      イってしまいそうだった。

      だが、こんな恥かしい思いをしてまで自分の身を捧げている彼女を愛しい気持ち

      がそうはさせなかった。

      「愛しているよ......このままっ...を壊してしまいたいぐらいに」

      彼女の中でやはり、と思うのもあれば彼を満たしてあげたい、と願う気持ちがあった。

      佐伯のために壊れるものなら何度も抱かれても惜しくないというのは、危ない考え

      だろうか。

      指をそこから抜くと、少女から見えるように蜜を滴らせて舌先で舐める。

      「いやっ...あっ...汚いよ」

      「汚くなんかないさ。のは甘いよ」

      また、ちろちろとそれを舐め取る彼から顔を背ける。

      すると、下半身が嫌に静まり返り、彼女が少年を次に捉えたのは、二人が一つに

      なった頃だった。

      「......射れるよ」

      「えっ...んっ......こじ...」

      押し寄せてくる激痛に両の手はシーツを掴む。

      しかし、どこか頼りないそれは直ぐ彼女の中でしわと化してしまった。


      「ほら、俺に捕まって」

      そう言って少年はその腕を自分の背中に回させる。

      「首はきついけど、ここなら引っ掻かれても我慢する」

      「虎次郎っ...んぁ...アッアアッ」

      最初は雷鳴の如く部屋中に轟き渡るものだったが、次第にそれはなくなり、代わり

      に甘い女性の声が彼を虜にした。


      「っ・・・好きだっ」

      「ふっ...私も......んあっ」

      昨日よりも愛している。

      そして、これからも...。

      その刻印を少女の中に刻みたくて最奥を目指していた。

      「もう...っ...イクよ」

      「んっ...一緒に...」

      彼自身は内壁にきつく包まれ、意識が遠退きそうなの堪えながら彼女にその有無を

      聞く。

      少女も押し寄せる快感に自我を保つ自信がなかった。

      「んぁぁぁぁっ!!!!」

      「くっ......っ」

      白い欲望は、まるで、佐伯自身の意識のように最奥の彼方に消えて行った。


      「......」

      「......」

      今は夜中の何時だろうか。

      彼は先ほど気がつき、隣で眠る彼女をそっと抱き寄せた。

      聖夜に二人は心身ともに一つになった。

      「愛している」

      何回囁いても足りない。

      シグナルを聴きながら小さな寝息を立てる彼女の唇にそっと自分のものを押し当てた。

      「んっ」

      寝言のような甘い吐息に驚いてそれを放す。
 
      まさか、あんなに安らかな寝息を立てていた少女が、ささやかなキスに起きるはず

      はないはずだった。

      だが、現に視線が合ってしまう。

      どうするか迷い、とりあえず出来るだけ優しく笑ってみることにした。

      こんな時に、妙に明るくしたりして話の腰を折るような真似はしたくない。

  
      「夢...じゃないんだ?」

      「夢なんかじゃない。俺とは一つになったんだよ。その証拠に......お前の中にま

       だ俺がいる」

      「えっ?...きゃっ!?」

      ベッドから起き上がろうとした彼女の手首を引っ張って連れ戻し、その上に覆い被

      さるように組み敷かれた。

      「虎次郎?」

      頬を赤く染めて見上げる。

      「っ...もう一度しよ......お前の中が俺を締めつけてくるっ」

      「ちょっ!こたっ...はぁ」

      抵抗をしようとしたが、今の状況でまともに彼に叶うわけはなかった。

      「愛しているよ。世界中で一番、を愛している」

      聖夜に鳴り渡るのは何よりも甘いメロディー。

      互いの欲しいものを求め合う二つのシルエット。

      吹き替えとは異なる鳴き声。

      それが甘く室内で響いた。

      漆黒の闇で覆われていた天空からは白い雪が舞い降りてくる。

      もし、朝までこれが積もっていたら一日遅れで彼女に伝えよう。

      「Merry Christmas!」を……。



 

 

 


      ―――・・・終わり・・・―――



      #後書き#

      初佐伯裏ドリでした。

      ちょっと、どきどきしながら彼の手口にはまってしまいました。←ある意味、罠?

      やはり、不意打ち(?)と言おうかそう言うのが似合いますねぇ。←開き直ってるし

      え〜と、それではメリークリスマス!(逃げ!?)