抱かれるイミ抱くワケ

      十月二十三日。

      今月も残り少なくなり、空気も何処となく寒くなってきた。

      駅前の店でもウィンドウを飾るのは温かそうなニットやふさふさとした毛皮に覆われた

      服を身にまとうマネキンばかりで、既に秋という言葉は消え失せていた。

      それは昼休み中の青春学園高等部にも言え、グランドにてサッカーボールを追いかけ

      ていく少年達はラフに着崩しているが、半袖から長袖に姿を換えている。

      それから視線をずらした先にはこの学園が最も力を捧げている男子テニス部の部室

      があり、すぐ近くにはマンモス部であるため、テニスコートが四つも設備されている。

      だが、昼休みはまったく誰も近寄らず、ある意味好都合な場所でもあった。

      「くっ…ああっ」

      艶かしい喘ぎと怪しい水音が所々染みの着いたカーテンで締め切った部室内で二つ

      のシルエットが激しく動いている。

      一方は、棚に手を置き苦痛に顔を歪め吐息と一緒に気持ちとは裏腹な声色を発している。

      もう一方は、その腰を掴み己の昂りをもう何度も通った道に宛がい行き来を繰り返し

      ていた。

      シャツを全開に肌蹴出た胸には無数のしゃぶりついた跡が残っており、相手に差し出す

      ような下半身は白い靴下以外床に捨てられてしまった。

      その相方はと言えば何を考えているのかこんな情事の際も深い青のサングラスを

      手放さず、本能に従っているのはズボンのジッパーの締め付けから開放された熱い塊と

      荒い呼吸だけだった。

      「ふっ…君の中は…狭いですね」

      「はぁ……んんっ、ぶちょ」

      自分のこんな恥ずかしい姿を大和に見られ、眼鏡を外された瞳から自然と涙が頬を伝う。

      本来ならばその通路は閉ざされているべき道だ。

      肉壁に包まれている彼自身は容赦なくその現実に顔中にシワを寄せ、更なる高みを

      覚えるために一気に引き抜く。

      「ああっ」

      「…おや、気持ち良いんですか?いつもより腰が動いている気がしますが」

      「ちがっ……はぁ」

      「声を出して御覧なさい。ここはどうせ僕達しかいないのですから」

      「ふぁ…あ、ああ」

      荒い呼吸を肩で繰り返す。

      何故、自分はこの人に体を委ねてしまうのだろう。

      頭で理解していても本能に任せて腰がそれ以上にも反応し、逆に誘っている。

      強請るようなその動きに手塚の最奥を目指す大和自身もより形を変え、今にも弾けそうな

      ほど硬い塊となっては顔を快感と苦痛とで朱に染める。

      「んっ……あ、熱いですね。このまま溶けてしまいそうです」

      床には白い液体が淫らにも放出された上にまたぼとぼとと新しいものがシミを

      作っている。

      それは行き場のない彼の先走りが根元を伝って落ちた物であり、数え切れない快感へ

      の涙のようでもあった。

      「んんっ、手塚君っ……手塚君っ」

      体内で脈打つ塊を本能的に締め付ければ、背後から大切な人の何とも言えない声で

      自分を呼ぶ。

      それにどうしても答えたくて押し寄せてくる激しい動きと体中に湧き上がる気持ちの昂り

      に脳内が真っ白になって何も考えられない。

      「やまと…ぁ……ぶちょ、ぶちょう!」

      ただ彼の名を無償に呼びたくてすぐそこに見える絶頂が怖くて手を恐る恐る腰に添え

      られたものの上に乗せる。

      しかし、大和はそれに気づかないのか何度目か起ち上がった彼自身に触れ、体内に

      埋め込んだ己が弾けるのと同時に強く握り締めた。

      「はぁはぁ…」

      床を汚した白い液体に尻を着いている二人の少年の他誰もいない狭い密室にまだたっぷり

      と余韻を残した熱い吐息が木霊した。

      「さぁ、私は五限に行ってきますね」

      余韻からなかなか抜け切らない目で互いの体を拭き終わると、大和はそう言って

      立ち上がった。

      「あ、俺も行きます」

      「手塚君はもうしばらくこちらで休んでからの方が宜しいでしょう。いつもとは違った

       あなたにまわりが必ずしも気づかないわけではありませんからね」

      「何にですか?」

      制服を第一ボタンまで留めた彼は不意な疑問に首を傾げた。

      十六歳に成り立ての少年にはあまり世間体等は理解しにくいのかもしれない。

      しかし、その前に手塚は天然過ぎた。

      大和はふっと唇に笑いを込めると、先程まで甘噛みしていた耳に近づけ私達の関係です

      よ、と呟く。

      「なっ!?」

      さすがにこの意味は理解できたのか顔中を瞬時に赤く染めてそれ以上何も発しよう

      とはしない。

      その姿を見て彼はどう思ったのか行って参ります、とその体をキツク抱きしめてから

      部室を後にした。


      もう、何度この人に抱かれたことだろう。

      閉ざされた扉の向こうに消えた背中が何故だか遠くに感じる。

      こんなに幾度なく体を重ねていると言うのとは別物のようで悔しい。

      ただ、手塚は憧れの彼に近づきたくてどうしたら誰よりも傍にいられるか考えて

      今に至っている。

      それなのに、離れている時よりも切なく感じてしまうだなんて想像すらしなかった。

      きっと…大和は男の自分よりも女性の方が良いに決まっている。

      高等部に入学してからもうすぐ七ヶ月、体は愛されても唇を愛してはくれない。

      もし、あの人にキスをされたら彼はこんな疑問も持とうとはしなかっただろう。

      細長いしなやかな人差し指を唇に押し当ててみる。

      やはり、何の感触も思い出せない。

      本当はここに大和が来るはずだった場所。

      その思いが強すぎて温もりを自らも求めてしまう。

      どんなに激しい羞恥心が襲っても、彼にとっての一番が自分であって欲しいと願わずは

      いられない。

      呼吸も落ち着いてきた手塚も部室から出る。

      しかし、心はいつまでたっても鎮まりそうにはない。

      もし、自分が女性だったら何の迷いもなく彼は愛してくれただろう。

      だが、この少年はとても重要なことに気がついていないことがすべての鍵を握って

      いることを後にイヤでも知ってしまうことになる。

      部室から出て足早に教室に向かうが、それでも重たい気分を抱えている所為か時折足を

      止めてこのまま早退したくなったが、あまりの自分勝手さに腹が立って常に保って

      いる無表情に少々の怒りを浮かべて二、三歩踏み出した頃だった。

      「っ!?」


      ドクッ…ン。

      「……じゃあね」

      「えぇ」

      それは一瞬で終わったが、手塚の瞳にはずっとその映像が残って離れない。

      鼓動は彼に抱かれている時とは違った嫌な高鳴りが呼吸を自由に吸えなくて…。

      速くこの場を立ち去らねばと強く思うほど体は自由に動くことが出来なくて足がガクガク

      と震える。

      今、何が起こったのだろう?

      部室から少し離れたところにあるテニスコートはその設備で校舎からは死角と

      なっている。

      だから、五限で誰もいないこの時間ともなれば恋人達が愛を語り合っているのかも

      知れないと安易に考え通り過ぎようとしていた。

      しかし、相手の男性に嫌な胸騒ぎがして遠くから見てしまったのだ。

      大和が女子とキスしている現場を…。


      夜、手塚家は他の住宅街と同様に明かりを灯しているというのに、長男の部屋は夜を

      招き入れていた。

      「国光?何処か具合でも悪いの?」

      ドア越しから心配そうな母親の声が聞こえてくる。

      「いいえ……ただ、中学とは違ったハードな部活動に疲れているだけですから

       大丈夫ですよ」

      今は誰にも会いたくない。

      あんな場面を目撃してしまった所為で胸はざわめいたままで、授業を適当に受けて

      部活も休んで帰宅した。

      本来ならば、今日だって活動日に該当していた。

      しかし、テニス一筋に生きてきたはずなのに心は暗くとても平静を保ってはいられない。

      彼は部長。

      部活に出れば嫌でも顔を合わす。

      あんな場面を目撃してその張本人を直視できるほど人間はできてはいない。

      ベッドに寄りかかるように座り込み、慣れた瞳で窓の外にある暗い夜空を眺めた。

      日が沈んで現れる月だけれど、今日はあいにくの天気でそれは雲の中に閉ざされている。

      それはこの狭い部屋の中で身を縮めている自分と同じだと思えば、不意に笑いが

      こみ上げてきた。

      閉じ込められているのはどっちなのだろうか。

      厚い雲に遮られたとしても宙は遥かに広い。

      それとは違って一軒の民家である手塚家の一室である自分の部屋に閉じこもっているの

      とは全く異なる。

      闇の色に染まって微かに解る雲の中にいる琥珀色の月は必ずどこかで誰かが眺めている。

      …トントン。

      だが、自分は違うと悲観特有の比較をしていると、今度は扉を叩く音が聞こえてきた。

      「母さん?」

      そう、尋ねてみるが扉の向こうにいる人物は黙ったまま入ってきた。

      暗い部屋の中に廊下の明かりが差し込んで思わず、瞳を細める。

      自由の利かない視界にはシルエットがぼやけて見えるが、その姿は小柄な母では

      なかった。

      逆に自分よりも長身の男性が何の躊躇いもなく部屋に侵入してきて、ご丁寧にも扉を

      閉めてすぐ傍にある電源のスイッチをONにする。

      「くっ!?」

      暗闇に慣れた瞳にいきなり光が戻ってきたのだ、彼は本能の赴くまま瞼を強く伏せ

      次に待っている現実から逃避を試みる。

      こんなに心が荒れているのに、誰にも会いたくは無かった。

      それも、本人に…。

      「こんばんは、手塚君。夜分遅くすみません」

      「…何のようですか?」

      ワンテンポ遅れて発した声は彼が去年までいた中等部の越前リョーマみたいだ。

      「何のようとは随分なご挨拶ですね。部活を休んでおいて」

      「届けは出したはずです」

      「確かに、体調が思わしくないのは欠席された方が安全のためにも宜しいと僕も思い

       ます。しかし…」

      「っ!?」

      扉を背もたれに言葉を続けた大和が近づいてきたかと思えば、それまで俯いて聞い

      ていた手塚のすぐ傍まで歩み寄り、腰を下ろすと同時に顎を指先で捉えられた。

      「嘘はいけませんね」

      「嘘ではありません!」

      「では、お母様にどうして「部活で疲れた」と仰られたのですか」

      「聞かれていたのですか!?」

      「えぇ。それに、見てしまったのでしょうね。あの後のことを」

      「あっ」

      深い青で閉ざされた瞳は、先程まで眺めていた厚い雲の中にいる琥珀色の月と同じだ、

      と彼から顔を逸らしてそう思う。

      自分はこの人には到底敵わなくて、彼が無償に欲しくて仕方がないのだ、と……。

      「大和部長…」

      「何ですか?」

      顔を背けたまま彼の名を掠れた声で呼ぶ。

      けれど、本人は聞き漏らすことなく返答を口にしてくれる。

      それはいつだって……

      「大和部長!俺は絶対、高等部に入ります。そしたら、また「部長」って呼んで良いです

       よね?」

      「ふふっ…高等部で待っていますよ、僕の愛しき君」

      アレは今から三年前の卒業式、梅の香りがちらほらとしてそれがまた哀愁を誘った。

      その日もサングラスを外さず、渡された卒業証書の入った筒と一輪の黄色いチュー

      リップを抱えた大和は部活の仲間で別れの挨拶を言いに来ていた彼に誰も見ていないこと

      を確認してからまだ柔らかい頬に口づけを落とした。

      彼はいつも自分だけ見つめてくれている。

      それから逃げていたのは不安だったから。

      涙腺に何か熱い物がこみ上げてくる。

      長い前髪で大和に見られないように努力してみたが、それは空回りで顎のラインまで

      きれいな一直線を描いて落ちた。

      「どうしましたか、手塚君?何処か痛いですか?それとも僕がキツイ事でも申して

       しまいましたか?」

      そう言って雫を受けて輝いている彼の指先が離れようとすれば今度は自ら彼の首に腕を

      キツク回し、それしか解らないとでも言っているように唇に自分のものを押し当てた。

      「っ…」

      どちらからともなく鼻から漏れる息が何だかとても情緒的で気がつけば自然と胸が

      高鳴り、体中が赤く火照りだしてくる。

      初めてのキスは無我夢中で自分の仕出かしたことなのによく解らなかった。

      月を欲しがって泣いている子の気持ちは今の自分を指しているのではと思えて、唇を

      離そうとした。

      「……んんっ」

      しかし、いつの間にか後頭部回されていた手によりそれは未然に終わり、逆に押さえつけ

      られて息がうまくできない。

      唇を無防備のまま吸われてしまったため、舌を受け入れる形になってしまう。

      躊躇いがちにそれに近づけると、やっと見つけたかと言うように情熱的に絡められる。

      「んっ…んんっ」

      唇と唇の間に挟むような形にされ、舌を無意識に動かすたびに触れ合った証が彼の

      口元から零れて一筋の道を作る。

      「手塚君…」

      「大和、部長…ふぁっ」

      唇が突如離されて行き場を失って軽いめまいがする。

      先程までのイヤらしい水音がまだ耳に残っていて恥ずかしい。

      一瞬、頭が白くなりかけたが、天を仰いだ瞬時に首筋に鈍い痛みが生じて体がビクっと

      跳ねた。

      「君からキスをしてくれるのをずっと待っていました」

      「えっ?」

      思いも知らない声が痛みの次に発せられて、目の前にいる彼に視線を合わせる。

      「あの時、僕はあなたに告白をした。ですが、手塚君自身からは具体的なOKを頂け

       ませんでした。ですから、僕はずっとあなたにキスしなかったんですよ」

      あぁ、こんな理由があったから…。

      今までのことが一気に頭に浮かび、たった二歳しか違わないのに自分がこの人よりも

      子どもだと判って涙が出て来そうになるなんて、身勝手で愚かだったのだろうか。

      大和はずっと傍で待ってくれたというのに、障子の隅を開けることさえできなかった。

      「あのっ、今からでも遅くないですか?…告白…しても」

      「えぇ、もちろん」

      「好きです…俺はあなたを愛しています」

      「ふふっ、僕も手塚君を愛していますよ…ですが」

      「えっ?」

      大和は口元に笑みを含んだまま制服姿のままの彼を一枚一枚丁寧に脱がせると、自ら

      も脱ぎ始めた。

      「ぶ、部長、あのっ……ここでヤるんですか?」

      「えぇ、君は今日、勝手に部活を休んで僕を心配させました。その報いです♪」

      シャツのボタンを楽しげに外していく彼を朱に染めながらこの人には敵わない、と

      微笑む。

      大和がベルトを外し、チャックに手を掛けたのを見計らって部屋の電気を落とそうと部屋

      の隅にあるスイッチに手を伸ばすと、手首を誰かに掴まれ阻止された。

      「部長?」

      それは、他の誰でもない彼だった。

      「ダメですよ、消しては。下にいるご家族の方々にバレてしまいますよ、僕達の関係」

      「うっ」

      「それにこれは贖罪です。僕に見せてもらいましょう、君が乱れている所を」

      すべて脱ぎ終わると、その言葉を現実に大和はフローリングの上に仰向けになり、

      こちらにと両手を掲げる。

      頬を余計に蒸気させた手塚も数分それを見て観念したのか、彼に覆い被さり唇に再び

      キスをした。

      三度目の口づけは何だかすべてのタガを外させるほどの威力がある。

      先程までいつもとは全く異なった形に困惑していたのに、もうどうでも良くなっていた。

      「おっと、つい嬉しくなって忘れてしまうところでした」

      鎖骨に自分と同じメルクマールを付け終わると、大和が急に思い出したかのような

      口ぶりであの青いサングラスの縁を摘み上げて外し、机の傍まで爪で弾いた。

      再び顔を元に戻すと、そこには大人びた黒い瞳が細められていた。

      「ふふっ、手塚君に私の素顔を見せるのは初めてですね。幻滅しましたか?」

      「そんなことはないです!ただ…嬉しいです」

      「そう素直に悦んでいただけると何だか照れてしまいますね」

      白い前歯を出して笑った彼は、まるでいつもとは違って見える。

      サングラスを外しただけでこんなに異なった気分を味わうなんて想像していなかった。

      ドキドキしながらもう一度口づけを交わす。

      今度は先程とは違って深くて濃厚なキスだ。

      舌を互いに絡め合い、息が詰まりそうなほど長くそのままでいた。

      「…凄く情熱的ですね。それほど僕が欲しいですか?」

      「はぁ、はぁ、はぁ…はい、……あなたが欲しいです」

      乱れた息を整えてから酔った眼差しで彼を見下ろす。

      甘くて逃がしてはくれない眼差しが胸を余計高鳴らせた。

      大和の手をぎゅっと握り、小さな胸の飾りに挨拶をする。

      「っ、あぁ…」

      切ない声が耳に触れ、それが彼のものだと解った時にはちゅっと音を立てて

      吸い上げていた。

      もっと、この人を悦ばしてあげたい。

      強く握り締めあう掌は熱く、それだけで気持ちの昂りが伝わってくる。

      舌を下腹部まで這わせると、他の肌とは違う硬くて反り返った熱いものに変わった。

      先端まで舐めると苦いものが次から次へと溢れてくるのが解る。

      いつも愛してくれる場所。

      味はまだ消えてはいないのにも関わらず、先走りが恋しくてその塊が愛おしくてそれを

      何の躊躇もなく口に含んだ。

      「可愛いよ。手塚君」

      身を起こし、顔をゆがめながら自分に夢中でしゃぶりついている彼の頭を撫でる。

      その手つきはよほど感じているのか、時折髪の毛を掴んでくる。

      それが嬉しくて裏の筋に舌を這わせると、容赦なくその塊は引き抜かれた。

      これ以上は次の機会に残しておきましょう、と乱れた呼吸で窘められる。

      だが、それは良かったよ、と言われているようで嬉しかった。

      彼に促されるままその上に馬乗りになる。

      「あっ…部長…っ、恥ずかし…い」

      先端がツプリと、手塚の一番敏感な部分に侵入してきた。

      「んっ」

      壁に擦り付けるような動きが何度かされると膝が耐え切れなくてそのまま大和に向かって

      倒れ込む。

      「ふっ……っ、あぁっ」

      「くっ…あっ、力を……抜いて」

      先程まで握られていた手から背中に回された腕に強く抱かれる。

      この力が息苦しいのに何故か落ち着く。

      言われた通り意識してみれば、一気に最奥を貫かれ、背を弓反りに添乗を見上げた。

      白く柔らかい光は、今は、赤く見える。

      艶かしい水音が彼をこの部屋を犯し、体内に轟く脈が二重奏となって互いを攻めた。

      「やぁ…」

      大和が腰を激しく動かす度、彼は首を左右に振る。

      片手は肩にもう片方は差し出された手にしがみ付いた。

      もう何回も感じている心地良さが痛みを伴い、それが嬉しくて自らも腰を揺らして

      しまうことが恥ずかしい。

      「ふぁ……やっ……ぁあ」

      「はぁ…っ、あ……はぁ…はぁ」

      自分だけではない乱れた息で彼も感じてくれていることが解る。

      握られた手は強く結ばれ、それが、限界が近いことを知らせた。

      「やぁ……あっ、ああ」

      「ん…あ……ああああっ」

      腰に添えられた指先に力が込められるのと同時に大和が手塚の中で弾けた。

      何か熱いものが放たれると、ビクっ、と背筋を伸ばしそのまま彼の腕の中に倒れる。

      「あ、はぁ、はぁ、はぁ……」

      その胸が荒く呼吸を繰り返していてそれが乱れた欲望を安心させた。


      「……」

      「すみませんってば」

      翌日、いつもの登校時、一人の少年はあからさまに怒りを顔に浮かべていた。

      その後ろを歩く長身の青年はどうしたものかと、頬をぽりぽりと掻いている。

      先日、彼が見たキスシーンは、やはりと言おうか手塚が原因だった。

      二人の仲を勘付いた新聞部の女子がちょうど部室から出てきた大和に取材をしてきた

      そうだ。

      普通の彼ならば簡単に交わしていたが、部室に行こうとした彼女を引き止める代わりにキス

      したらしい。

      自分を守るためとは言い、取引で好きでもない相手にファーストを奪われるなんて、と

      可愛いことを原因に怒っていた。

      「怒っていますか?」

      すっかりしょげてしまっている声色に父性が反応してしまって思わず振り返る。

      二歩下がった位置には、それを連想させたとおりの彼が長身を折り曲げていた。

      「はぁ…もう、怒ってなんかいませんよ。俺を思ってして下さったことですし」

      「それは本当ですか!?」

      その言葉を真に受けてぱぁっと、まるで花が咲いたかのように笑う大和が眩しい。

      この人にはずっと恋し続けるのだろうな、と心の中で笑い返す。

      不意に、彼の手が頬に触れ、躊躇わずにキスをする。

      手塚の頭の隅でまだもやもやしている昨日は、実は、ファーストじゃないことを知る

      のはもっと先のことだった。



      ―――…終わり…―――



      ♯後書き♯

      「抱かれるイミ抱くワケ」はいかがだったでしょうか?

      今作は私の友人である「is’nt it?」の管理者上月ちせ様の誕生日プレゼントとして

      作成させて頂きました。

      約五ヶ月ぶりの私の裏ものはいかがだったでしょうか?

      私自身、大和塚を書いてみたかったので、今回も勉強させて頂きましたv

      大和君には不思議な魅力があるので、今回ではキスしないのと後日談のちょっとした謎

      を付け加えました。

      皆様は一体どうこの謎を解き明かすでしょうかv

      それでは、足跡お待ちしております。