澎雨―――乾編―――


      「乾さん負けないでっ!」

      「さんっ!?…………はいっ!」

      黄色い残像が見えたかとそれは一瞬で終わった。

      テニスコートにいる二人の少年は両の肩で息をしながらその場に立ち竦んでいる。

      あまりのことでこの決着にどちらが勝ったのか解らない彼女は、おろおろして見守る

      しかなかった。

      「…………貞治。この四年間で強くなったな……完敗だ」

      「えっ?」

      「いや、後もう少しで俺はお前に負けそうだった。次に勝負したらお前が勝つかも

       しれない」

      月の変わりに照らすライトがまるで、乾だけを照らしているように見える。

      先程の自分の行動が信じられなかった。

      好きと気持ちを告げられただけでおかしくなった思考回路がそうさせたものだろうか。

      そう自分で考えておきながらカウンターのように否定した。

      彼女は弟と呼んでいた彼の傍にいた少年へ寄せてはいけない想いを抱いている。

      あれから四年の歳月、乾と別れてから忘れていなかったのは、単に忘れることが出来な

      かったからだ。

      蓮司もそうだが、他人の異性にこんなに必要とされることはなかった。

      『さんっ!』

      この場所に来れば可愛らしいけれど、大きな夢を描いている彼に会える。

      それは、単にこの少女の周りにいた人間が何かを諦めているからではない。

      『どうしたの?まだ学校ではないのですか?』

      『はい。だけど、これを早くさんに見て欲しくて』

      そう言って幼い少年がズボンのポケットから取り出したのは、一つの小箱だった。

      『何でしょう?』

      『へへっ…これです!』

      彼は勿体ぶるように悪戯な笑顔を浮かべると、彼女に向かってその蓋を開けた。

      そこに入っていたのは、先日弟から見せてもらった優勝メダルである。

      『キレイですねぇ……』

      『これを見せたかったんです。蓮司とダブルスで優勝したからもう、見ているかもしれ

       ないけれど』

      自信満々に笑ってみせる少年がどこか哀しそうに見えたのを今も覚えている。

      あれ以前に自分を想ってくれていた。

      その事実がこの曖昧な気持ちを後押ししたのかもしれない。

      「さん…」

      あの時よりすっかり男性の声になってしまった乾を見上げる。

      その顔はまるで熱にうなされているようだ。

      「きゃ!」

      それを移されたのか彼女が頬を火照らせると、彼はいきなり腕に抱き上げる。

      された側は何が起きたのか戸惑ったが、彼の顔の間近にいることが解った。

      「さっきの俺の気持ちは嘘ではありません」

      「えぇ」

      「先程、さんが応援してくれたから俺は蓮司に勝つことが出来たんです」

      「もう、俺は子供ではありません。そして、さんも…………それでも良いですか?」

      「はい」

 


      乾家に辿り着いた二人は少年の部屋に入った。

      室内は四年前より個性的なものへと変身したが、あの頃の匂いが彼女を待っていた。

      己のベッドに座らせた少女の唇を啄ばむように軽く触れると、どちらかもなく振るえ、

      何度も重ねると次第に激しくなる。

      「ふぁ……んんっ」

      首筋には艶かしい唾液が流れ、の青地のチェック柄ノースリーブにシミを作った。

      口内を堪能している彼の手がボタンに伸びると、その上に小さな掌が覆いかぶさり、

      行く先を阻止する。

      「乾さんっ…ダメっ……私…」

      だが、彼女の言おうとしていることが解っていたのか、顔色一つも変えずただ首を左右

      に振った。

      「背中の傷跡のことなら蓮司に聞きました。俺はあなたとその消えない過去も愛してい

       ます。ですから、俺にさんを抱かせて下さい」

      「……解りました」

      彼の掌を阻止していた戒めの紅葉は掃われ、代わりに姿を現したのは薄いシャツに覆わ

      れた上半身だった。

      「あっ!」

      下着の上から二つの丘を揉まれ、思わず吐息とも似つかない声が唇から零れる。

      リズミカルにその感触を楽しんでいる乾はそっとシャツを持ち上げ、急激に変化した頂

      を口に含んだ。

      「あぁ!」

      舌先で突いたり上下に舐めたりしての鳴き声がもっと聞きたい。

      「っ…もっと、声を聞かせて」

      「んっ…あ……っ」

      まぶたを強く閉じた瞳からは雫が一筋こめかみに向かって流れた。

      荒くなった呼吸からかそれとも彼を感じているからか二つの丘は激しく揺れている。

      その動きにあわせて乾も片手で頂を摘み、指で転がすように弄ぶ。

      「っ……キレイだ…………愛してるっ」

      「嬉っし…い……あっ」

      彼はそう言うと新たな刺激を求めるように下腹部へと掌を下ろした。

      「そこっ、ダメっ!」

      「どうして?こんなに濡れているよ?俺をそんなに感じているの?」

      彼女が目を背けている間に花柄のロングスカートを捲くり上げ、下着越しに秘部へ指

      を入れた。

      その中は熱くて肉壁に痛いほど締めつけられ、彼自身も感じてしまっているのか唇の

      端を緩めた。

      もう、限界だった。

      一番敏感な部分を誰かに弄ばれることなど想像もしていなかった。

      彼は指を抜くと彼女の衣服と一緒に自分が身に着けているものをすべて取り外して

      から唇にキスを落とす。

      「はぁっ、どう……したの?」

      予想していた痛みが得られず、不安を感じて恐る恐る訊いた。

      乾は何かを考えているように顎に手を当てている。

      蜜壺は既に艶かしいほど湿っていた。

      それを目で確かめるだけで顔を赤らめてしまう。

      「すまないが、四つん這いになってくれるか?」

      「乾さんっ?!」

      「頼む。俺が本当の意味でと一つになるためにはそれしかないんだ」

      「で、でもっ」

      背中にある異物を感じながら黙り込んだ。

      その姿勢になることは彼に恥ずかしい部分を見られるだけでなく、黒い痕跡を見せる

      ことに繋がる。

      しかし、目の前には苦笑しながら自分を宥める大好きな少年がいる。

      恐らく分身が乾を激しく締めつけているのだろう。

      厚いレンズで覆われているため心が読めなかったが、彼もそろそろ限界を感じている

      ようである。

      「はい…」

      恥じらいも覚悟の上で四つん這いになる。

      彼の掌がそれに触れるの感じてビクッと震えた。

      「大丈夫。俺はあなたもこのさんだった記憶も愛していますから……」

      傷を撫でてから舌で丁寧に舐め上げ、キスを降らせる。

      雪のように白い肌に不釣合いなその黒翼は恐らく心臓一突きで即死させようとしたの

      だろう。

      腰を撃ちつけるのと同時に彼女の消えない記憶を愛撫するのを止めなかった。

      「くぅ…………もうっ」

      その内にもの限界が近いのか乾のモノをキツク締め上げる。

      彼女の中に絶頂を感じた彼は、思いのすべてを解き放った。


 

      夜明け前、一人の少年は愛している少女と一つになることで大人の男性へと変貌

      した。

      それは故意ではなく、データーマンである彼としては認め辛い必然だった。

      目の前ですやすやと寝息を立てる愛しい女性の目元にキスを落とす。

      「んっ」

      「気がついた?」

      「乾さん……あっ!時計っ、今、何時ですか!?」

      気を失ってから意識を取り戻したは一瞬何かを思い出したかのように辺りを探った。

      室内はカーテンに締め切られているため、暗闇で視界が遮られている。

      「えっどうしたんですか?」

      「まだ六月三日ですかっ?」

      「えっ……後、3時間26分で四日に変わりますが、それがどうかしたんですか?」

      「よかったぁ」

      彼女は安堵の息を漏らしたが、それがまた、藪の中だった。

      「お誕生日おめでとうございます」


      の囁きが耳に入ったと思ったら、頬に唇が押し当てられたのを感じた。

 

 

 

      ―――・・・終わり・・・―――

 

 

 

      ♯後書き♯

      『澎雨―――乾編――― 』をご覧下さり、誠にありがとうございます。

      今回初めてVSドリを作業したのですが、どうだったでしょうか?

      ちょっと彼らしくするために台詞がかなり冷静すぎて変な感じになってしまい

      ました。(爆)

      それでは、ここで失礼致しました。