淫欲

      季節は九月。

      町のあちらこちらで、夏を名残惜しんでいる期間限定品を売る店が目に映る。

      「ごめんね。私の所為で…」

      その中の中央公園の噴水を目の前に、ぼやくような口調で隣にいる少年に言った。

      「お前の所為ではない。それに見舞いに行ったのは、俺の意思だ。だから、

       心配することはない」

      そう言って彼は彼女の肩を抱き寄せる。

      今から五年前、家族旅行から戻ってきたは交通事故で頭を強く打ち五年もの間

      昏睡状態だった。

      その間に両親は離婚し、彼女が五年ぶりに目にした現実は悪夢の続き。

      自分より五歳年下の子供と勉強をし、家では父親のいない時を血の繋がらない女性と

      過ごさなくてはならなかった。

      外に一歩出れば、自分と同い年くらいの人が子供を持っていたり職に就いていたり

      している。

      唯一そこから逃れられたのは本を読むことだった。

      当時は手にする事をためらっていた分厚いものだって、今では読める。

      手塚はそんな心を打ち解けないを気に掛けていた。

      ある日、彼女の事情を知りそれは愛に変わり、二人は自然に付き合いだした。

      しかし、それも束の間で急にが再びこん睡状態へ戻ってしまう。

      彼女の意識が戻っても何ヶ月か入院する事は余儀無かった。

      彼は学校があった時は練習後の短い間来て、夏休みに入ると面会時間ぎりぎりまでいて

      くれた。

      そして、昨日ようやく退院が許され、今日はこうして遅くなったバカンスを過ごしている

      と言うわけだ。

      とはいえ、青学は明日から二学期である。

      夏休みの最後が、の唯一の自由な時間と思うと、心苦しいものがあった。


      「手塚君…」

      彼女が不意に彼を呼ぶと、胸の中に抱きついてくる。

      「どうしたんだ、

      入院中すっかり伸びた髪は腰の上辺りまであった。

      「私のこと好き?」

      「当たり前のことを訊いてどうする?」

      「良いから答えて」

      彼女が何を考えているのか解らない。

      しかし、の瞳が真剣だったので腰に手を回し、額に口づけた。

      「好きだ……愛している」

      唇を放すと彼女が自分を熱く見つめる視線と合い、また唇を吸う。

      「ん、私も愛している。……ねぇ……今から私の家に来ない?」

      「それは構わないが……ご両親は?」

      「今日は二人とも夜勤が入ってるから大丈夫」

      そう言って恥かしげに頬を染めるの両親は医療関係に就いていた。

      父親は彼女がこん睡状態に入ってからどうすれば娘を救えるのか医療器具を作る仕事に

      没頭し、それが離婚の原因となり、当時担当看護婦だった今の妻と再婚。

      何時か彼に笑って話してくれたことがあった。

      その顔は今も忘れることが出来ずにいる。

      愛する我が子に永久に消えることのない傷痕を残してしまった。

      彼の中ではそれは重罪であり、今まで通り彼女を愛することができないという

      処罰を下す。

      その代わり、家族には以前より何不自由させることなくしようと今の豊かな生活が

      物語っていた。

      しかし、娘はそんな事情は勿論、父親の痛みを知らない。

      彼女は元凶の彼を憎んでいた。

      いや、憎しむことで過去の幻影を常に胸に宿している。

      だが、一つだけ解らないことがあった。

      どうして他人の自分にこんな内密なことを教えてくれたのだろうか。

      それは、初めて会ったあの日、付き合っていることは確かに伝えた。

      最初は心底驚いたような顔をしたが、再び戻ってきた表情には父親らしさが浮かんでいた

      ことを覚えている。


 

      「手塚君…」

      彼の頬を優しく撫でた。

      「…」

      彼女の唇に軽く触れる。

      「……抱いて」

      「っ……あぁ」

      彼女が何時間かして気づいたあの日、あまりのことで手塚は感動していた。

      もし、目覚めなかったらどうしようと心配だった。

      不安な気持ちを取り去るために目が覚めたらあそこに行こうと随分飛躍した事も考えた。

      そして、が目覚めた瞬間、余りの愛おしさに欲情してしまった。

      お互いに身に付けているものを全て取り去り、生まれたままの姿で抱き合う。

      彼女の柔らかい膨らみが直接、自分の胸に触れてドキドキした。

      体を離すとそのままベッドに押し倒し、唇を深く奪う。

      「んっ……んんっ」

      角度を変える度に鳴き声が増して、それだけで自身を締め付けた。

      舌で唇をこじ開けようとすると、自ら口内を差出し、後頭部の方へ手を回す。

      「…あふっ……んっ」

      焦らすように歯列を舐め、彼女のものとようやく絡み合った。

      それが進みにつれて唾液が混じり、互いにごくごくと飲み干す。

      時々、その量が溢れての首筋を濡らした。

      「あっ、手塚君」

      「俺の名前を呼べ……でないと」

      潤んだ彼女の瞳を見ると、首筋に付いた唾液を舌で舐め取り、胸の間に赤い花を咲かす。

      「はっ、そんな……こと……さ、れたら…私」

      頬を上気させ彼の髪を強く掴んだ。

      二つの丘にそびえる頂きを口に含み、もう一方を指の腹で弾いたり形を変えたりして

      弄ぶ。

      「……んっ、くに…みつ、あっ!」

      「良い子だ。声を殺すな……の声を聞かせろ」

      そう言ってそのスピードを速めた。

      「あっ……ぁんっ……いや」

      「何が嫌なんだ?教えてくれないか」

      彼はの胸を揉みながら意地悪く、そう尋ねる。

      「……ぁ、そ…んなっ……意地悪しない、で」

      次第に潤んだ瞳から涙が溢れ、彼女から唇を強請って来た。

      それが手塚のささやかな悪戯心を消し飛びさせ、再び深く求め合う。

      「っ……んっ」

      名残惜しそうに離そうとするが、自身がそれを拒んだ。

      彼女の口内から舌が先ほどの彼のように甘く絡める。

      病室で今まで眠っていたとは思えないほど積極的で、意識がどこかへ飛んでいきそう

      だった。

      「悪い。魔が射した」

      「ううん、……いいの。私ずっと、国光とこうなりたかった。だから、今とっても

       嬉しい」

      彼女が瞳を細めて笑うと、それが愛しくて軽く口づける。

      「俺があんなことを言ったからか?」

      「それもあるけど……もっと、あなたと繋がっているんだって実感できるものが

       欲しかった
の。それはあなたを縛りつけてしまうものだけど…」

      「そんな訳ないだろう。むしろ、俺はお前を欲していた。俺の方こそお前を独り占めに

       したい……良いか?」

      彼の瞳が彼女を捉えた。

      それはYESしか言わさないものに思え、もし断ってしまえば手塚が残り香を後に

      しそうで胸が熱くなる。

      だが、普段は恥ずかしさで浮かべない微笑みを口の端に見つけ、その迷いは一気に

      消え去った。

      「はい」

      下部に指を忍び込ませ、状態を確かめる。

      そこは既に、たっぷりの湿り気を帯びていた。

      「あんっ!」

      彼のそれが、彼女の花弁に当たって甲高い声をあげる。

      「ここが一番感じるのか?」

      「いや……そんなこと訊かないで……ひゃあっ!?」

      足を広げさせ細長い指の出し入れを繰り返した。

      「あっ、あぁ……」

      「良いぞっ。……のその厭らしい声は俺だけのものだ」

      「ひっ、……国…み……つ……んっ」

      「イキたいなら良いぞ。俺は後からイク」

      彼女の秘部に差し込む指を一本から序々に、二,三本と数を増やしていく。

      「……やぁ!……あ、なたと……イキたいのっ!!」

      潤んだ瞳で体制を起こし、下部にいる彼を見た。

      頬には何度涙が伝ったか分からないくらい、濡れている。

      「わかった…それでは少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」

      既に硬くなって欲情している己を取り出し、の秘部に宛がい、腰に手を置いて

      思い切り突いた。

      「あぁっ!……くっ……に、みつ」

      彼女は顔にしわを寄せて首を勢いよく振る。

      「っ、っ……愛している」

      「……ふっ、あぁ……私も」

      最奥を突けば、彼女は晴れて彼だけのものだ。

      愛するを誰にも渡したくなかった。

      それは日頃隠している、本当の手塚自身である。

      「あ、あぁ…もっ……ダメ」

      「…も、すぐだ……頑張って……くれ」

      「きて……んあっ」

      既に、二人は達していて気力だけで動いていたが限界を超えていた二人はそのまま

      果てた。

      手塚の想いと共に…。

 

 

      「……にみつ!……国光ってば!!」

      彼が気づく頃辺りは闇に包まれている。

      念のためカーテンを閉めて置いたため、街灯の明かりが唯一の照明になった。

      「気づいた?私たち、ねっ、見て。あれから三時間も寝てたのよ」

      彼女がそう言って手塚の前に差し出したのは、イルカのキャラクターがプリントされて

      いる小さな目覚まし時計である。

      それは、八時をちょうど過ぎていた。

      さらに、異変に気づいた彼は今も繋がっている場所を見て瞳を大きくする。

      「どうしたの?……あっ」

      手塚の視線を追うと、繋がった場所を見たまた凍った。

      そこは外から見ても分かるように最奥まで達している。

      「…

      「国光」

      二人は呼び合うと唇を静かに重ねた。

      言葉にすることが苦手な彼らには、それは一種の表現方法である。


      「お前はまだ、お父さんを憎んでいるのか?」

      「きゅ、急に何を。あの人は私なんかいらないのよ。お母さんは優しいけど……私の

       ママを捨てた人なんか大っ嫌いよ」

      彼の名を耳にしたとたん、の顔色が一変した。

      「お前が停滞したあの日、俺はお父さんに会っているんだ。そして、悲しそうな顔をして

       全ての元凶だと言っていたぞ」

      「そんなっ…そんなこと言うはずないよ……あの人が」

      「自分の親を「あの人」と呼ぶな。良いか。彼はのことを一番に考えている。五年前

       だってお前を何とか目覚めさせたくて仕事に没頭した。それが返って家庭崩壊に

       繋がったと今も苦しんでいる。それを救えるのはお前しかいないんだ」

      隣にいる彼女の顔を捉える。

      その瞳はいつの間にか涙が溜まっていた。

      「でも…」

      「大丈夫だ。一人が怖ければ俺がいる。ゆっくりでも良い。一緒に時を歩いていこう」

      瞳の端に浮いた雫を唇で拭う。

      「国光……ごめんなさい。私、ちょっと興奮しちゃった」

      「良いんだ。が辛い思いをしたんだ。当然のことだ」

      「分かった。今度、パパが休みの時に話してみる」

      彼女が再び、笑顔になる。

      「……もう、離さない」

      「うん……」

      いろんなことが脳裏を掠めたが、どんな言葉よりも彼女に伝えたいことがあった。

      「世界中のだれよりも愛している」

      「ふふっ、……それって、プロポーズのつもり?」

      満面の笑みを浮かべてそう、聞き返してくる。

      「あぁ」

      「…私もあなたを世界中の誰よりも愛しています」

      二人が愛を囁いている中、空では蒼い月が笑っていた。

 

 

 


      ―――…終わり…―――

 

 

 


      #後書き#

      手塚初裏ドリはいかがなものでしょうか?

      はわわ…随分と強引な彼ですなと書き終わった後に思った私。

      こんなプロポーズはいかがなものでしょうかね。(笑)

      皆様は、裏ものをお読みなさる時は最初から最後までじっくりとお読みになられるのだと

      思いますが、意地汚い私は裏と表示されているものは「裏」という所 を見てから上から

      下まで読みます。

      そう言えば、最近そういうのばっかだなと私のくだらない独り言で失礼致します。