君子危うきに近づく

      既に秋風が吹く頃、羽ばたき学園のとある学級では抜き打ちテストが

      行われていた。

      教室の片隅に立つアイロンの掛かったスーツで身を固めた男性は心ここに在らず

      という表情で腕時計を見ている。

      約束の時間は深夜12時。


      それまでに仕事を切り上げ、あの曰く付きの教会で待ち合わせだった。


      (…俺は、どうすればいいのだ)

      今までこの男性、氷室零一にはありえない最大のピンチだった。

      彼には胸を焦がす女性が二人いる。

      一人ははばたき学園第三学年の常にトップへ位置する女生徒

      ちなみに言えば、氷室が担当するクラスに三年間も在籍している。

      そして、もう一人は、今世間を騒がせている怪盗Shine。

      彼女と出会ったのはある春の夜だった。

 


      帰宅しようかと思うとふとあの教会のことが気になり、駐車場に歩み寄る

      足を向ける。

      その日は仕事が夜遅くまで続き、ようやく終わった頃には十二時近くを

      回っていた。

      空には環境汚染で時代が変わるごとに見えにくくなった天体が光を放っている。

      月が蒼く輝いているのを見てふとピアノを弾きたくなった。

      そう言う職業を目指していたわけではないが、彼は小さい頃から習っていた。

      それ以前に両親はピアニストでそれを見聞きしていた氷室が自然と弾くように

      なったのは言うまでもない。

      彼が向かっている教会にはちょっとした噂があった。

      それにはいろいろとあって詳しくは解らないが、中には前理事長の友人が施した

      ステンドグラスがあるらしい。

      そんな噂や伝説など科学的根拠がないものはあまり興味がなかった。

      校舎の隅にある教会はうっそうと雑草に包まれた形でひっそりとしている。

      何のために立てられたかなんて作った本人が居ない今、真相は闇の中だ。

      ここに来るまで、すっかり慣れてしまった目でそれを仰ぎ見た。

      内装はどうであれ、やはり教会は優雅な建築物である。

      古びた屋根に蒼い月がツーショットに並び、氷室は目を細めた。

      最近知ったがこの時間帯が最も教会を美しく彩らせる。

      天之橋理事長は昼間、時々ここへ来るようだが、今は、彼だけが知っていた。

      ……のはずだった。

      視界に小柄だけど影が見える。

      ついにこの場所を他人にも見つけられたのか、と少々がっかりしながら

      それへ近づいた。

      もしかしたらこの瞬間を嗅ぎつけた生徒かもしれない。

      『そこで何をしている?』

      『っ!?』

      その影はびくっとしてその場に固まった。

      氷室はゆっくりとした足取りで近づくと、それは大きくジャンプをして教会の

      屋根の上に舞い降りる。

      彼はそれに心底驚いたと言うようでその状況に目を見張っていた。

      月光に照らされてその人物の姿が露わになる。

      黒い服に身を包み、顔は仮面で覆っていた。

      『君は一体何者だ!』

      『私の名は怪盗Shine…』

      彼の問いに答えた彼女は暫くその場を動かず、そのまま氷室を見下ろす。

      それは彼も同じで、何故この人物がこんな所にいるのか、そして、何故

      あそこまで飛べたのか考えていた。

         

         
         

      怪盗Shineがこの世に現れたのは最近、はばたき学園の入学式の夜からである。

      その名の通り、光のような速さで狙ったものを奪い、去った後には必ず「Shine」が

      印刷されてある小さな紙切れが残されたそうだ。
         
      彼は朝刊でこのことを知っても対して興味はわかなかった。

      実際、この手の輩は自分が目立ちたいがためにこんな推理小説のキャラクターの

      真似をしたがって直ぐに捕まる。

      そんなことが過去に何度も起こったことを頭の片隅で思い出した氷室はモーニング

      コーヒーを飲んで出勤した。

      しかし、それから一週間経ち、一ヶ月経ち、一年経ってもShineは捕まらない。

      特別番組やドキュメンタリーが放送されてもそれは変わらず、もう直ぐ三年が

      近づいていた。

      何にも心を動かされなかった氷室も、この手の輩がただのこそ泥とは違うことに

      気づき、彼女に関する番組を録画し雑誌を買ってその記事のみ読み耽る。

      Shineの行動と技術には毎回度肝を抜かされた。

      どんなに困難なトラップが仕掛けられても何事もなかったかのように獲物を

      盗んで行ってしまう。

      唯一、性別が女性とわかったのは警備員が見た月光で伸びた影だった。

      しかし、彼女を見たものは誰もいない。

      警護していた誰一人もだった。

      誰も見えない光。

      一部の学者や研究者からは「New moon」と呼ぶ者がいる。

      「New moon」、新月は今の科学では地球からは見ることは出来ないが、宇宙に

      行ってようやくその姿を見ることが出来た。

      地球から見る月とは違う岩がごつごつとしたそれは、Shineの心なのかもしれない。

      そんな彼女が目の前にいた。

      緊張で胸が高鳴っているのが解る。

      誰も見ていない光を今、自分が見ているのだ。

      ずっと会いたかった大切な何かを探し当てた気分だった。

      『降りて来い!Shine。お前に聞きたいことがある』

      『…だめよ。私は誰にも見られてはいけない光。本来ならばあなたにも会っては

       いけない咎人なのだから…』

      そんな悲しそうな声が氷室の心を何かが刺す。

      甘い痛み。

      それさえも大切にしたいと考える自分がいた。

      『私ははばたき学園の教師、氷室零一だ。君に興味がある。だから、

       こっちに来て欲しい』

      『……ごめんな、さいっ』

      そう言うと、彼女は月に帰るようにまた高くジャンプする。

      このまま逃すものか。

      『私はこの時間には大抵ここにくる。だから、私と会ってくれるだけで良い。

      勿論、毎日ではなくて良い。…だから』

      『……わかった』

      そんな消え入りそうな声で呟くのが耳に入った。

      その時ほど、自分が地獄耳だと感心したことはない。


      それから二人は深夜十二時に会うようになった。

      最初は教会の屋根の上からだったShineは他人に聞かれてはまずいと思ったらしく、

      次に会った時は茂みの中に隠れていた。

      「君は何故、そのような悲しそうな声をしているんだ?」

      「……」

      しかし、話すのは彼が一方的で彼女は多くを語ろうとはしない。
         
      まるで、自らがこの世の罪だというように……。


      「…ねぇ、氷室先生」

      何度目かの時、珍しくShineから話しかけてきた。

      「君は私の生徒じゃないだろう?その呼び方はどうかと思うが」

      「じゃあ、何て呼べば良いの?」

      そう言い返されて彼は心底悩む。

      一応、職業柄「先生」と呼ばれるのに慣れてしまった。

      時々、近所の住民と鉢合わせになると、「氷室さん」とか「氷室のお兄ちゃん」とか

      呼ばれたりする。

      真剣に悩む彼の耳に微かに笑う声が聞こえる。

      まるで、それは氷が少し溶けたように感じた。

      「ふふっ…では、「零一さん」ならどうですか?」

      その言葉に一斉に振り返ると、彼女が口元を押さえて笑いを堪えているのが

      目に付く。

      これまでShineと会って初めて彼女が笑う所を見た。

      それは氷室に対しても言えることだが、彼は自分に関心がない。

      氷室自身、完璧でなければならないし、それは生徒達にも生活にも求めていた。

      「「零一さん」……か。何だか、くすぐったいが、仕方がない。そう呼びなさい」

      こう呼ばれると、恋人か何かのようでドキドキしたが、当の本人はありがとう

      ございます、と言ってまた笑っている。

      咳払いをして高ぶる感情を抑え、再びShineの方へ向き直ると、今日いおうとして

      いた言葉を発した。

      「君は一体、何処の誰なんだ?」

      その言葉を聞いた彼女は、笑い止む。

      仮面の中の瞳をこちらに向け、じっと見つめた。

      まるで、最初に出会った夜のようだ。

      しかし、あの時のように黙り込まず、Shineは唇を開いた。

      「私の正体が知りたいの?」

      「いや…別に君が嫌なら強制はしない」

      「……ふふっ、零一さんって、本当に優しいですね。良いでしょう。但し、

       条件があります」

      「条件?」

      彼女の思いもよらない返答に言葉が上手く出てこない。

      だが、Shineは何でもないように笑みを絶やさなかった。

      「えぇ……私を探して下さい」

      「は?」

      彼女の条件とやらが上手く理解が出来ない。

      「私を…本当の私を探して下さい」

      そう言うと、助走を付けたShineは教会の屋根に跳ね上がり、蒼い月を見上げた。

      「待て。本当の君とは何だ?」

      「さて、何でしょう」

      「……」

      その返答はあの頃には考えられなかった行為だ。

      悪戯を含んだような言い回し。

      それは、氷室が担当する大人に成りつつある生徒達のようだった。



      (ふぅ…)


      あれからと言うもの彼はこうしてため息交じりで考えている。

      しかし、一向に終わりのないラビリンスでこうして困り果てていた。

      「よし。それでは抜き打ちテストを終了する」

      「はぁ〜……」

      そんな声がクラスのあちらこちらから聞こえてくる。

      「氷室先生、テストです」

      「あぁ、すまない」

      教壇と向かい合わせのような状態でが後部座席から集めた数量の紙を彼に手渡した。

      抜き打ちをやったとしても、今回もやはり彼女がトップを獲得するだろう。

      柔らかく笑う笑顔が胸をくすぐったが、そんなことが外に出さないよう咳払いを

      して受け取った。

      それでも顔色を変えずに微笑んでくれるを教師としては頂けない視野で見ている。

      それを理解している上でこの気持ちを止めることは出来なかった。

      しかも、彼女と同じくらいだ。

      「……」

      職員室のデスクに向かい、今日の抜き打ちテストの採点をした。

      やはり、氷室の想像していた通り、はまたクラスを抜きん出る記録を生んでいる。

      彼女は彼が担当している吹奏楽部でフルートを担当していた。

      銀の調べが奏でるメロディーは、聴くもの全てに甘く切ない何かを与える。

      三年間の文化祭の演奏を思い出しながら、再び採点するためテストに視線を走らせた。

      「っ!?これは…」

      職員室の中に聴きなれたメロディーが流れてくる。

      それはどこか物悲しげで何かを訴えているように感じた。

      氷室は手にしていた赤いペンを落とすと、何かに弾かれたように走り出す。

      「先生?どちらへ?」

      入れ違いで職員室に入ってきた中年体育教師はそう、尋ねた。


      「音楽室へ行ってきます」

      吐き捨てるように言い残した彼が階段を駆け上って消え去るのをぼーっと見る。

      「どうしたんですか?」

      室内の他の教師が彼に近づいて同じく尋ねた。

      「あぁ、…結構、熱い人だったんだなぁって関心しちゃってさ」

      「誰がですか?」

      「氷室先生だよ」

      彼は階段を上り詰めると音楽室の扉を勢い良く開ける。

 

 

      「っ!」

      窓際に一人の少女を見つけると、そう叫んだ。

      「っ!?氷室先生」

      黄昏に染まった室内には彼女しかいない。

      今日は休みと掲示板に書いたはずだった。

      「何故、ここにいる?今日は、部活は休みだぞ」

      「知っています。先生、私に何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

      彼女はフルートを片手に彼をじっと見る。
         
      その瞳には一筋の光が見え隠れしていた。

      「その……あぁ、私と一緒に帰らないか?」

      「えっ?」

      「話しは、車内でしよう」

      「……わかりました」

 



      ブロロロロ・・・・・。


      シートベルトを締めると、行き先も決めずに走り出す。

      車内の二人は何も話そうとはしなかった。

      ただ、沈黙がお互いに重く圧し掛かって時間だけが過ぎる。

      声を掛け様にも何から切り出せば良いのか解らない彼はあることを思い出して

      スピードを速めた。

      「氷室先生、どこへ行くんですか?」

      「秘密だ」

      しかし、彼の口元には笑みが浮かんでいる。

      疑問に思った彼女もそれに解った様子で微かに微笑んだ。

      氷室がを連れてきた場所は、疲れた彼女を気遣って連れてきた丘である。

      夕暮れの今は太陽光線の悪戯が見られる時間帯だった。

      「少し、話が長くなると思うが聞いてくれるか?」

      重たい空気を切って隣のに言う。

      「……はい」

      彼女もそれを望むように応えた。

      「私は以前から興味を持つ人物がいる。その人物は今の世を騒がす怪盗Shine。私は

       彼女が最初現れた時、どうせ直ぐ捕まるだろうと思っていた」

      「しかし、Shineは鮮やかな技術でどんなトラップも破り、狙った獲物を盗んで行く。

       私はその技術の高さに興味を惹かれ資料をあさった。そんなある日だった、

       彼女と出会ったのは」

      「私はやっと見つけた……自分のかけらかのようにShineを見ていた」

      「……」

      「彼女の悲しみに満ちた仕草や声が、次第に私の中に入ってくる……そして、

       ようやく気づいた……私はShineを愛し始めていることに」

      「っ!?」

      思いもよらぬ言葉だったのだろうか、は口元を掌で覆って次の彼の言葉を待っている。
         
      それを確認すると、真新しい真実を口にした。

      「彼女は最後に会った時に正体を聞きだそうとする私に条件を出した。『本当の私を

       探して下さい』…と。それがShineの条件。私は先程までそれをずっと考えていた。

       君のあの調べを耳にするまで……」

      「何をですか?」

      棒読みのような台詞。

      少女の瞳に振り返ると、それを離さないようにじっと捕らえる。

      それは彼女も同じようで氷室を凝視した。

      「以前、私に見せた楽譜に『Shine』とタイトルに書いてあったことを思い出した。

       私は君が彼女なのではと考えている」

      「それだけですか?もし、私が偶然ですと言えばそれは仮説で終わってしまうんですよ」

      「あぁ。そうだな。けれど、私は君がそうなのではないかと確信している」

      「その根拠は何ですか?」

      それを尋ねられ、覚悟していたとはいえこんなことを口にするなんてと、ためらう。

      これを口にしてしまえばが音も立てずに消え失せてしまうのではないか。

      そんな不安が彼の胸の内にはあった。

      「……零一さん」

      「今、なんて言った?」

      隣にいる彼女の肩を強い力で掴む。

      「先生がそこまで言い切る根拠を教えてくれたら言います」

      しかし、常に氷室が宿している冷静は、の味方をしていた。

      顔中を赤く染め、深呼吸を何度か繰り返す。


      「私は…同じように愛している女性がいた。それは君だ、。君とShineを想う度二人は

       重なる。最初はまさかと思ったが、綿密な計算と月日が経つ度、それは確信へと

       
変わった」

      「私を…こんな薄汚れた私なんかを愛してくれるんですか?」

      途切れ途切れの声が俯いた顔から発せられた。

      彼は、はっとして彼女の顎を掴む。

      頬には数的の涙が流れ、瞳からは次々に生み出されていた。

      「泣かないでくれ。君は薄汚れてなんかいない。むしろ、『光』だ。私に、光を与え

       こうして私をただの男にした」

      彼女のシートベルトと自身のものも外し、華奢な体を抱きしめる。

      消えないように腕に力を込めた。

      「零一さん……ごめんなさい。あなたを騙す結果になってしまって…」

      「やはり、君がそうだったのか。まぁ、そんなことは良い。……聞かせてくれるか?」

      「はい?」

      「その答え……というか、の気持ちを」

      彼女はここまでの経緯をまるで、知らないというように話しの腰を見事に折る。

      頬を染めて話しを戻すとようやく理解をできたと言うように氷室の胸に顔を押し当てた。

      「…きです。…… 零一さんが……好きです」

      彼女が恥かしそうに顔を少しずつ上げる。

      それは頬を微かに赤く染めていつものように優しく微笑んでいた。

      「あっ…ごめんなさい。私、先生の生徒だから「零一さん」は変ですよね?」

      「良いんだ。「零一さん」で。私は既に君の教師ではない」

      「氷室先生?」

      彼の返事に瞬きを繰り返す少女に、軽く口づけてはにかんだように笑う。

      「私はの前ではただの男になってしまった。もう、以前のように戻らない。どうだ?

       それでも私のことを想ってくれるのか?」

      そんな答えが解りきっている今は、単なる友人と交わす軽い確認に過ぎなかった。

      「零一さんが「想ってくれる」なんていう必要なんかありません。それを言うべきは

       私なんです。私は今まで罪を犯し続けた。どうでも良い家柄のために…」

      驚いて自身の唇を手で覆った彼女は、悲しそうな瞳をして俯く。

      「…私は、窃盗は良い事だとは思わない」

      「……」

      少女の振るえる肩に両手を添えてこちらを向かせた。

      その大きすぎる瞳からは涙が溢れている。


      「だが、悪くも思っていない。それは、マスコミが面白おかしく企画を練った番組を

       見ていた所為かもしれないが、私は世間にさらけ出し、見世物にするつもりは全くない」

      「零…一さん」

      「それ以前に私はこうして君を愛してしまっている。先程言ったと思うが、私は既に、

       ただの男だ。社会の規律を乱すのが不快に思っていた氷室零一ではない」

      少女の小さな顎を長い指で捕らえた。

      彼女は彼の行為にびくっと背筋を震わせるが、至近距離に氷室を感じて抵抗を止める。

      「愛している……」

      「っ!?先生、今私のことを…んっ」

      慌てて喋ろうとする彼女の可愛らしい唇を自分のもので塞いだ。

      少女の悲しみがどこまでのものか知らない。

      興味がないと言えばそれは嘘になる。

      けれど、氷を溶かすように自分がそれを和らいでやりたいと心の底から思っていた。

      いつもが彼をそうしてくれたように…。

      「……零一さん…」

      「……愛している」

      「私もあなたの事を愛しています」

      そう言うと、どちらからともなく唇を合わせる。


 

 


      それからといいうもの怪盗Shineはこの世に現れなくなった。

      一番捕まえて欲しい相手に捕らえられてしまったのだから……。

      それと変わるように現れたのは怪盗darkness。

      闇に紛れて活躍する彼の姿を見るものはいない。

      文字通り闇は彼の味方なのか、darknessの去った後には彼女同様に紙切れが残っていた。

      しかし、Shineと違う所は、それに名前だけではなく警察をあざけ笑う文章が書かれて

      いるそうだ。

      この時も同じく特集が組まれたり、週刊誌が忙しく発売されたりして賑わっている。

      夜に紛れた闇。

      一部の学者や研究者達の中では彼を「kid」と呼ぶものがいた。

      大人をからかう姿が子どものようで、親近感を覚えた人々も本当の名よりそっちを口々に

      呼んでいる。

      …その姿は本当に子どもであったりした。


      「ねぇちゃんは、どうして家業が嫌いだったか知らないけれど、俺はこうして世界中の

       女の子から注目されていてこの家業が好きなんです」

      いつか、の家を訪問した時、はばたき学園中等部一年の弟の尽が氷室にそう話した。

      「そんなことを他人である私に話して良いのか?」

      そう、真剣な眼差しで言うと、彼は笑って答える。

      「何ですか、そんな顔をして。氷室先生は身内になる人なんですよ。俺のねえちゃんを

       盗ったんだからもう、兄貴も同然です」

      ちょうど彼女が母親の料理の手伝いに行って、本当に良かったと心の底から思った。

      今、彼の顔は火が出るほど赤く火照らせていたからだ。

      それを見る尽は他人事のように笑っていた。


 

 


      ―――…終わり…―――

      
♯後書き♯

      初夏に考えついたものがようやく終わったのは季節が過ぎた秋。

      前作とは違い、裏ではありませんが、如何なものでしょうか?

      やはり、私としてはミステリアス路線のヒロインが書きやすいようです。


      最後にちらりと登場させた尽が何だか、可愛かったなぁと自作ながら思ってしまいました。

      私には弟や妹という存在はいないので少し書き上げるのに苦労しました。(汗)

      四作目を書き上げて一言。
         
      彼以外、作ってな〜いっ!(哀)