年齢と身長の間で


      それは去年の四月。


      私、が青春学園中等部に新任したあの日から始まった……。


      「今日からこのクラスを副担任することになったです。まだ、教師に成り立てで

       皆の足手まといになるかもしれませんが、この一年間精一杯頑張りますので

       どうぞ宜しくお願いします」


      クラスからは口笛と拍手が上がった。

      「せんせぇ〜い!歳、いくつぅ?」

      そんな質問に来たかと、心の中で拳をわなわなと震わせ表情は何でもない

      ように微笑んだ。

      実際、がこの年頃の時、年に一度やってくる研修生達(特に女性)に質問をする

      男子がいた。


      「こらぁ!女性に年齢を聞くもんじゃないよ。大学出たてだから対して 

       皆とは歳の差は ないと思うわ」

      その反応に満足したかのように質問した本人はケタケタと笑い出した。

      就任してまだ一日も経っていないと言うのに、教師より学級の方が多いとの理由で

      いきなり三年生を受け持つ事になった。

      この大切な時期を新米教師である自分に体験させようとのことだろうか、と考えていた

      彼女は、単に空いていた溝を埋めようとした理事長達の思惑など知る由もなかった。


      「じゃあ、まず自己紹介してくれるかな?」


      「は〜〜〜いっ」

      クラスメート達は子供らしく、元気な明るい声を返した。

      廊下側から続々と名乗りあげていく生徒達は個性溢れる面々で、時々、クラス中の

      笑いをさらう人物が登場したりした。

      そして…。



      教壇の正面、その席から長身の眼鏡を掛けた少年が何かの号令が掛かったかの

      ようにすっと立ち上がった。

      「生徒会長の手塚国光です。得意科目は数学です。苦手科目は特に在りません。

        一年間、宜 しくお願いします」

      新任の自分より丁寧に挨拶するこの少年につられてこちらも深々とお辞儀をした。

      それが、彼との最初の出会いだった。







      
日を追うごとに、は年齢が近い関係もあって男女問わず、人気者になっていた。

      昼休みには大学時代の話を聞きに来たり遊びに誘いに来たりした。

      しまいには、ほとんどの生徒から『先生』とか『ちゃん』と呼ばれるように

      なっていた。

      しかし、一名だけ何にも染められず自我を守っている生徒がいた。


      「
先生。宿題を集めてきました」


      
…手塚だった。

      やはり生徒会長と言うのか、手塚と言うのか彼は常に理性を保った行動をするので

         
馴染んでくれているのか分からなかった。


      「
手塚君…」


      
放課後。

      今までやった所の復習テストに丸をつけ終わったは気分直しにテニスコートに

      行ってみた。

      時刻は五時を回った所だろうか、長く続いた冬の影は既に遠退いていた。

      薄暗がりの中で彼の名前を呼んだ。

      「!?先生、どうしたんですか?こんな時間に」

      広いコートには一年生であろう学生達が、至る所に散らばっている

      テニスボールを拾っている。

      彼女はにこっと笑顔で、ご苦労様と呟いた。

      「うん。今日、復習テストやったじゃない?それを丸付けしていたらこんな時間に

        なっちゃっ ていたって訳」

      「そうですか。いつも、お疲れ様です」

      そう言うと、軽く会釈した。

      それを見ていたのか男子テニス部の部室から部員達がぞろぞろと出てきた。

      「あぁ〜!ちゃんにゃ〜〜っ!!」

      菊丸はそう叫ぶと一目散でに抱きついてきた。


      「
きゃっ、…き、菊丸君、びっくりするじゃないっ!」


      「
だってぇ、ちゃんがウチに来るのなんて珍しいじゃん」

      ぎゅうと抱きしめる腕に力を入れた。

      後ろから抱き付いているため、彼の呼吸が耳に掛かり、どきっとした。

      心臓がばくばくする。

      歳の差が多少あってもやはり異性に近寄られると、ときめきを感じずにはいられない。

      それも、とても中学生とは思えない容姿ぞろいの青学テニス部とくれば訳が違う。

      「菊丸。先生が困っているじゃないか。放れろ」


      
それを見ていた手塚は赤面しているを後ろから抱き付いている彼を一瞥する瞳が

      険しかった。


      「ほ〜い。ったく、手塚は相手がちゃんだとすぐムキになるんだから」

      「えっ?」

      彼の言葉に渋々、から放れる菊丸は捨て台詞を残して他の部員の方へ走り去った。

      「……」

      手塚は一瞬、目を丸くしたが、彼が去っていった方をじっと眺めていた。

      彼女は先程の菊丸の言ったことを考えていた。

       彼の横顔を見つめながらぶつぶつと考えていると、それがいきなりこちらに向いた。

      「先生。こんな時間なので、一緒に帰りませんか?女性が一人で帰るのには

       危険ですから」

      「あっ、ありがとう。じゃあ、私は職員室にある自分の荷物を持ってくるから

       昇降口で待って いてくれるかな?」

      「わかりました」

      急なことにドキドキしながら、返答すると、手塚は踵を返して部室の方に歩き始めた。

 

 



      時刻は既に六時に差し掛かっていた。

      横を歩く手塚は一言も話さずただ黙々と歩みを進めていた。

      暦の上では春だと言っても、やはり、日が落ちれば冬が牙をむき出す。

      指先が段々、悴んでくるが、は今話題を考えるのに精一杯だった。

      そっと吹いてくる風に梅のほのかな香りが鼻をかすめる。

      はっとして、顔を上げれば明かりが点いていない民家に立派な梅の木が花を

      咲かせていた。


      「
……あっ、見て」


      
彼女の声にその方向を見た手塚もまた、梅に釘付けになった。

      昼間ではないから色まで認識できないが、その姿には見惚れる物である。

      一般に『夜桜見物』と言うものがあるがこれもあっても良いのではないかと思う。


      「
もうすぐで、お別れね」


      「
……」


      
今まで時を止めていた手塚は、の声を聞くなりこちらに顔を向ける。

      その顔は何か真剣なものが感じられ、鼓動が速くなる。

      「先生…」

      「何?」

      精一杯、平静を装う。

      気がつけば、今は二人きり。

      住宅街の中央にいるとしても、二人の仲を知っている人物は誰もいない。

      今、この場を歩いているとしたら、疲れたサラリーマンや家路を急ぐ人が

      足早に通り過ぎていく。

      外見からすれば、実年齢より五歳下に見えるほどの童顔なので、
相場がついても

      学生同士だと
思われているだろう。


      「先程は、菊丸が大変失礼しました。部長として配慮が足らない
ばかりに、結果として

       
先生を困らせてしまい、申し訳ありま

       せんでした」

      「そんなっ!そんなに仰々しくならなくても良いんじゃない?

        ほら、頭を上げて。私は 怒ってないから。ね?」

      最初に出会った頃のように、深々と頭を下げる手塚に はあたふたと動揺する。

      普段、自分より背の高い手塚が俯くと、顔が間近に見える。

      まただと思えば、俯いたままの姿勢で、を見上げた。

      「いいえ。先生を困らせてしまったことに自分が納得しないんです。

       自分がもっと配慮に欠 けていなければ、菊丸の行動を未然に防げ たことが

       出来ました。しかし、それが出来なかっ
た。自分のミスです」

      以前にその場から離れようとしない手塚におろおろしながら顔を覗き込んだ。

      「!?」

      いきなりのことで顔を上げると、はにっこりと笑みを浮かべた。

      「どうすれば、気持ちに整理が付くの?」

      「……いえ…、できません」

      「何でよ。私には言えないことなの?そりゃあ、プライベートに関わることなら

       仕方がないけど」

      子供っぽく唇を突き出すを見た手塚は、次の瞬間思いも寄らぬ行動をとった。

      彼女はその行動を信じられずに瞬きを何回も繰り返した。

      思考回路は既にショートした。

      手塚の長身な体は折り重なるようにを包み込んだ。

      密着したことで彼から温度が伝わってくる。


      「
好きです。……先生が、ずっと好きでした」


      「
!?」


      
声が出せなかった。

      ずっと、嫌われていたのかと考えていたものがその言葉とともに跡形も無く

      消えていった。

      それと同時に鼓動は高まり出す。

      手塚の薄い胸まで響き渡りそうで、彼を引き離そうとするが手に力が入らなかった。


      「
…は、放して…手塚君。私とあなたは」


      「
知っています。ですが、この気持ちは治まらずますます、先生を

       求めてしまいます」

      彼は、腕の力を強めた。

      息をするにも出来ない状態で、は軽い眩暈を感じた。


      「
先生?…大丈夫ですか?」

      気がついたら、目の前に手塚がいていつもの真剣な顔でこちらを除いていた。

      ありがとう、と言うと、顔に笑みを浮かべる。

      手塚が心の底から安心したようで、彼にしては珍しく顔に笑みを称えた。

      それが、また、の心をドキリとさせたことは言うまでもない。

      今、言いたいことは一杯あるのに、理性が先に踊り出た。

      「手塚君。私はあなただけを好きになれないの。クラスの皆が一番好き なの。

       もちろん、あな
たも入っているわ。だから…」

      「もう良いです」

      「えっ?」

      目の前にいた手塚は、長い前髪で顔を曇らせた。

      多分、それはいつもの彼ではなく少年の姿を見られたくは無いからだろう。

      彼女はどうすることも出来ずに、ただその場で立ちすくんでいる事しか出来なかった。


      「
先生」

      しばらくすると、手塚は重くなった口を開いた。

      彼を見上げると、いつもと変わらぬ冷静な顔をして、あの時と同じように深く

      お辞儀をした。


      「すみませんでした。結局、自分が先生を困らせてしまいました」

      私の方こそごめんなさい、と言おうとしたが、手塚はそれを遮るように

      先を
急ぎましょうと歩き出した。


 

 


      あれから何日も過ぎ、今は卒業式前日で本当に最後の瞬間だった。

      これが終わってしまえば、教師は何も口出しは出来ない。

      例え、あの子の第一ボタンが外れていたとしても、それは自分で気づかなくてはいけないのである。

      義務教育は卒業すれば無くなってしまうのだから。


      「
先生」


      
正午に終了したため、校内に残った生徒はいないだろう。

      そう思い、職員室の窓越しを覗き込むと不意に、誰かに呼ばれた。

      いつの間にか入ってきたのだろうか、不二の顔が近くにあった。


      「
びっくりしたぁ…。ちゃんと、「失礼します」って入って来たでしょうね?

        明日、卒業式 だと言っても、あなた達はまだ生徒なんですからね」


      
指を立てて注意したが、彼はそんなことなどどうでも良いという風な面持ちで

      唇を開いた。


      「
手塚を振ったって本当ですか?」


      
あれからと言うものの、彼に関することに触れる度小さな針に刺されたような

      痛みを覚える。

      
まるで、あんなことをした自分に問いただしているように……。


      「
そんな言い方、ないんじゃない?私と彼は教師と生徒の間柄なのよ。だから、私は」


      「
先生。もはや、それは通じないんじゃないですか?」

      不二はそう言うと、普段は開けることの無い瞳をこちらに寄せた。

      職員室には、二人の他は誰もいなく教師達は明日の準備やらで早々と帰った。

      何もすることの無いはこうして窓越しからテニスコートを見下ろす。

      「どういうことなの?」

      手塚と同様、長身な不二を見上げた。

      「明日になれば、僕達三年生はここを卒業します。そうなれば、今のような 関係は何も

       なくな
ります。先生は手塚のことが好きなんじゃないですか?」

      不二はそう言うと、自分の方をじっと見てくる。

      彼女は彼の言葉を聞いたとたん、何も喋れなくなった。

      胸の中から熱いものが込み上がってくるのを感じた。

      その時だった。


      「
……不二。もう、いい。やめてくれっ」


      
勢い良く顔を上げると、見慣れた手塚の顔があった。


      「
て、手塚君…」


      「
先生。不二が大変失礼しました。ほら、帰るぞ」


      「
待って、手塚。……このままで良いの?後悔しないの?」


      
深くお辞儀をして踵を返した彼に不二は声を上げる。


      「
良いも何も、既に答えは出ている。頼むから、これ以上先生のことを

       困らせないで欲しい」


      「
手塚…」


      
力なくそう言う彼の後を追う不二もまた、同じだった。


 

 


      彼らが去った後、は自分のビジネスデスクにアルバムを開いていた。

      卒業生達には当日に渡されるが、教師達には今日、一人一人に手渡された。

      アルバムの中では、手塚がいつもの冷静な顔をしていた。

      部活の集合写真。

      生徒会の集合写真。

      その中で一つだけ、目を引くものがあった。

      それは京都の修学旅行、二人きりでみやげ物店でいる所だった。

      彼女は始めての修学旅行で浮かれていて手塚にどれが似合うかなどと訊いていた。

      あの時は気がつかなかったが、この写真を見ると唇の端を少し緩めている。

      そして、を優しい眼差しで見ていた。

      そう思うと、胸の痛みで息をするのが苦しくなる。

      「何…で?私は教師で彼は大事な生徒よ。それ以上でもそれ以外でもないわ」


      本当にそうなの……?

      もう一人の自分が問い掛けてきた。

      まるで、何もかも見抜いているかのような声での頭に歪を作る。

      あの日、土産も決まって彼を男子の部屋まで送っていったら、クラスメート
達は

      修学旅行
恒例の枕投げ大会を行っていた。

      止めようとはしたが、枕の一つが、の顔面に命中したため職務を忘れて

      楽しんでしまった。

      何分かして見回りの教師がやってきて、みんなは思い思いの場所に身を隠した。

      この中で一番見つかってはいけないを手塚は、二人で布団の中に入ることを

      提案し自分もそれに賛成する。

      本来、一人用の寝具に二人入ると体を密着しなければならない。

      しかも、相手は手塚なので尚更のことだった。

      彼が自分の腰に手を回して体を任せた一瞬、このまま時が止まれば良いなんて

      考えていた。

      「!?」

      いきなり立ち上がったは荷造りすると、学校を足早に出た。


      今、本当の気持ちがわかった。

      足に力を入れて走った。

      こんなに力強く走るのなんて学生時代以来だ。

      もっとも、昔から足には自信があるというものではないが…。



      手塚君っ!



      
心の中で彼の名前を叫ぶ。

      校門を過ぎる頃には、既に息を切らしていたがその思いが曇ることはなかった。

      ただ、彼に会ってあの日のことを謝りたい。

      許してもらうつもりなんて更々無いが、自分の気持ちを伝えたかった。

      もう、理性はどこへやら忘れ去られていた。

 

 



      連絡網を便りに探し当てた手塚の家は、普通の一軒家だった。

      彼の装う思考や行動から察すると、何かの家元か堅苦しい家柄に生まれた
のかと

      自然に考えて
しまう。

      ピ〜〜ンポ〜〜ン…。

      想いとは裏腹にのんきなインターホンが流れた。


      「
はい」


      
それからすぐにしっかりとした男性の声が返ってきた。

      「あっ!あのぉ…私、青春学園中等部の教師のと申しますが…」


      「
っ!?ちょっ、ちょっと待っていて下さい」


      
応対の主は少し慌てた様子で、がちゃりとインターホンを切った。

      彼女が首を傾げるのと同時に、手塚家の玄関がいきなり開いた。


      「
てっ!手塚君っ!?」


      
玄関から出た彼は何も言わず、ただ二人を阻んでいるような門を軽快な音を

      立てて開けた。


      「
どうしたんですか?先生が自分の家にわざわざ出向かれるとは、何か用ですか?」


      
真剣な瞳をこちらに寄せてくるのを見てにこりと笑う。


      「
なっ……」


      「
あの時は本当にごめんなさい。手塚君がどれだけ私のことを想ってくれて いたのか

       重く
考えなくて私、ひどいことをして。本当にごめんなさいっ!」


      
深く頭を下げるを見て慌てた様子の彼に、もう一度微笑んでみる。


      「
許してもらおうとは思わないわ。ただ、あなたに会って謝りたかったの……あれ?」

      泣くつもりなんて無かったのに、涙がどんどん溢れてきた。


      「
先生…」


      「
っ…、ごめんね。泣くつもりなんてなかったんだけど、涙が止まらな くて……

      平然を保ったつもりだが、これでは泣き笑いに近い。

      俯いていると、すっと白いハンカチが差し出された。


      「
えっ?」


      「
さぁ、中に入ってください。大したことはできませんが、お茶でも 良かったら

       上がって
行って下さい」


      そうして、客間に通されたは、目の前で湯気を立てるお茶を見つめている。

      思い切ってやって来たと言うのに、手塚を前にすると何て言えば良いのか分からずに

      黙ってしまう。

      ちらっと視線を彼の方に向けると、の顔を見ていたらしく目が合った。


      「
あっ、あのね。私がここに来たのはもう一つ理由があるの」


      「
?何ですか」


      
真剣な顔をする手塚を前にするとなかなか言い辛いものがある。

      もじもじしているのも、性に合わないので意を尽くすことにした。


      「
私ね、あなたにあんなこと言われて…本当はとても嬉しかったの。 だって、

       今まで嫌われて
いるのかなって思っていたから」


      
その言葉を聞くなり、手塚は勢い良く立ち上がった。


      「
違います。自分は最初に会った頃からまわりの先生達とは違うあなた に段々惹かれて

       いきま
した。ただ、…自分は誰かに気持ちを伝える
ことが不器用で、クラスメートや

       他の生徒同
様に接しられなかっただけなんです…」


      
そう言うと、自分の仕出かしたことにすみませんと言ってソファーに座った。

      彼女はまた高鳴ってきた胸を抑えた。


      「
じゃあ、まだ、私のことを想ってくれている?」


      
いたずらっぽく笑うのを見て手塚は顔中を真っ赤にした。


      「
すみません……一回断られたのに、女々しいのは分かっています。 ですが、

       この気持ちに
整理をつけるのにはもう少し時間が掛かると思います。ですから…」


      
それを聞くと、今度はが立ち上がり、向かい席に座っていた手塚の方に駆け寄り

      思い切
り抱きしめた。

      彼は何が起こったのか分からず、体を硬直させている。

      その行動がどんなものだが分かっていたが、考えより先に動いてしまったのだ。

      これは彼女が持って生まれた短所であり長所でもあった。


      「
良かった。まだ、振られていなくて…」


      
笑おうと緩めた瞳からは涙が溢れてくる。

      肩が嬉しさの余り、かくかくと小刻みに揺れた。


      「先生……」


      
手塚の甘い声が耳に入る。

      この顔を見られるのが恥かしくて彼を見ようとはしない。

      しかし、そんな希望は空しく、手塚に顎を持ち上げられた。

      「て、手塚君!?」


      
驚きのあまり、涙は後を残して消えてしまった。


      「
先生、それでは自分にそれをわざわざ、伝えにいらしてくれたのですか?」


      
顔の動きが自由に取れないので、は重くなった口を開いた。


      「
……私も、前からあなたが好きだった」


      「
先生!」


      
そう言うと、手塚も強く抱きしめ返す。

      彼女もそれが嬉しくて彼の薄い胸に頬を寄せた。

      それから数分間そのままでいた。

      ふと、彼の腕の力が弱まったのを感じたは顔を上げた。

      
突然降ってきた手塚の顔が彼女の唇を奪う。

      触れるか触れないかのキスだったので、すぐにそれは離れた。


      「
すみません……」


      
手塚がとてもすまなさそうな顔をしている。

      何が起こったか最初は分からなかったが、段々顔が沸騰してきた。


      「
ううんっ!…でも、ご家族の方に見られたら…」


      「
いいえ。今、自分しかこの家にいませんよ」


      
その言葉を打ち消すような応えが返ってきた。


      「
へっ?でも、さっき、インターホンに出たのは……?」


      「
あれは、自分です」


      
強いショックで、現実を忘れている

      今、誰もいないと言うことは、二人きりと言うことなのだ。

      それに気づいたのは、落ち着いてお茶を飲んでいるころだった。


 

 


      ―――・・・終わり・・・―――

 

 

 


      #後書き#

      こちらはsuga様にお送り致しました。

      我ながらすんごい妄想作&駄文。(反省)

      教師と生徒の禁断の愛。

      ドラマなんかで取り上げているのは、『高校 教師と高校生』なのに対し、

      
私の作品は『中学しかも新米教師と中学生』。

      続編である『続・年齢と身長の間で』では何かが起こるかも?!