王子様はやっぱり!?
「あたしやっぱりシンデレラなんてできないっ!!」
はばたき学園3年の、あるクラスで響き渡る声。季節は秋。文化祭十日前の日である。
今年はクラスで演劇をすることに決定。シンデレラ役は鈴木花子という少女が演じることに決まって
いたのだが…。突然、やめると言い出したのだ。
「あんたさ、自分がやるって言ったじゃん?今頃そんなこと言われても困るよ」
花子に厳しくそう言ったのは藤井奈津実。自分の意見ははっきりと言う少女だ。
「できないったら、できないのーーーっ!!」
そう言いながら花子は教室を飛び出す。
十日前に突然主役を変えるのは難しい。今からセリフを覚えるのは大変である。どうしようかとクラス
の者たちが頭を抱えた時、ポン、と手をたたき奈津実が言う。
「。あんたやりなよ」
「…へっ?」
イキナリ指名され、は驚く。
「な、なんでわたし?」
「だってあんた、裏方だけどセリフ完全に覚えてるでしょ?演技の練習の時、誰かがセリフを忘れたら
教えてあげてたじゃん、台本を見ずに!もう歩く台本って感じだよね、」
その途端、「そーよね!お願い、シンデレラやって、さん!」とクラスの皆に頼まれ、は戸惑い
ながらも承諾した。…や、いなや、王子役の佐藤太郎がに話しかける。
「よろしく、さん。いい舞台にしよう」
「う、うん。頑張ろう」
と、その時佐藤は、殺気が混じっているかと思うほどの強烈な視線を感じた。冷や汗をかきながらもそ
の視線の方をみる。と、教室の隅で佐藤を睨む葉月珪の姿があった…。
☆
というわけで、がシンデレラとなった演劇の練習は進められた。鈴木花子から「あたしの分も
頑張って!」などとプレッシャーをかけられながらもはセリフを完璧に覚えており、演技もなかなかの
ものであった。
…が、クラスの雰囲気はぎくしゃくとしていた。中でも、王子役の佐藤の演技はぎこちないものとなって
いた。…無理もない。腕を組み、壁にもたれかかりながら葉月がその端正な顔で佐藤をずっと睨み
続けているのだ。それはもう、「お前じゃ役者が足りない。出直せよ」という感じで。佐藤の顔色はどん
どん悪くなるのであった…。
☆
そしてついに文化祭前日。
「た、大変!佐藤君が熱を出したって!」
「「えぇーーーっ!?」」
教室に叫び声が響き渡る。
「ど…どーすんのよ!?明日よ?本番」
「佐藤君、明日も来られないだろうって…」
「そんなぁ…。今まで練習してきたのに…」
「王子のいないシンデレラなんて出来るはずないし…」
生徒達は落胆し、やがて誰も口を開かなくなる。もちろん、主役のもガッカリしていた。
「…俺がやる」
しーんと静まり返っていた教室で、そう発言したのは葉月。
「珪くん!?けど、明日なんだよ?本番」
驚いたが葉月に駆け寄る。
「大丈夫だ。俺、一度読んだこと忘れないから…」
「そ、そうだった…」
納得したは葉月に台本を渡す。そして…一通り目を通した葉月は、すぐに演技の練習を始めよう
と言った。
見事。葉月王子。本当にセリフを完全に覚えていた。
☆
そしてその放課後…。
「セリフ完璧だね、珪くん!一時はどうなることかと思ったけど、これなら大丈夫。頑張ろうね!」
「あぁ」
いつものようにと葉月は一緒に下校する。
「けど、佐藤君大丈夫かな…?」
「…大丈夫だろ」
他の男の心配をしたためか、葉月は少し不機嫌になる。それには気づかず、は少しうつむき、頬を
赤く染めて言う。
「けど…。わたしの王子様役が珪くんだったらなーなんて思ってたから、この配役になって実はちょっと
嬉しい」
言ってやはり恥ずかしかったのか、は早足になり、葉月より前を歩く。の後姿を見つめながら
葉月はつぶやく。
「…お前の王子は、俺でありたいと…思ってるから…」
「ん?何か言った?」
「…いや、別に」
「?」
―こうして、ハプニングを乗り越え『シンデレラ』の劇を成功させたのだった。
一方、王子になり損ねた佐藤太郎は…。
「くっそー!葉月!絶対こうなることを望んでただろー!ってか、謀ったな!あいつに睨まれ続けたせい
で、俺は頭が痛くなって熱が出たんだ!絶対そうだーー!」
…と、布団にもぐりながら叫ぶのであった…。葉月の睨み、恐るべし。
〜おわり〜
●あとがき●
この文章を書こうと思ったきっかけは…。
1、私自身、演劇が好き
2、何でそんなに上手く主人公ちゃんと葉月王子が姫と王子役になれたのか疑問に思った
3、葉月君はかなり嫉妬深い人!?と思った。
以上です。
脇役キャラ、ものすごく単純な名前にしております…。ひどい扱いです…。
†柊沢のありがたくもない感謝状†
今号もやってくれました、れなさん♪
私もナンパ君の登場の際、そう思いましたよv
しかし、学園演劇にそんな裏話があるとは。(笑)
王子、恐るべし!
それでは次回も宜しくお願いしますね。