Present


      11月の日が暮れ、既に煌々と照らす月が昇った頃、マンションの一箇所から

      良い匂いを漂わす家が在った。

      周囲の住民から知るところによれば、そこは独身男性が一人住む場所で、

      
質素な暮らしぶりをしている彼は常にパン食である。

      では何故今夜に限って料理をしているのかと言えば答えは簡単で、料理をして

      いるのは青年ではなく、今年になってこの
辺で良く見かける彼の彼女だった。

      二人で話しているところを偶然に耳にした近所の人は、あまりの事実に
持って

      いた不燃ごみを落としそうになった。

      なんと、どう見えても女性とは見えない少女は、今年の三月まで青年の
働く

      はばたき学園の生徒だったのだ。

      だが、あの規則を重んじる人物が未成年のしかも自分の教え子とそう言う

      
関係になるのが不思議で仕様がなかった。

      氷室家内では、キッチンに立つはばたき市では有名な一流大学へ今年の
春から

      通っている彼女は鼻歌を口ずさみながら食器棚から小皿を
取り、オタマで

      鍋の中から何かをすくい上げ、それに移すと息を
吹きかけそれを口に含む。

      「うんっ!後は零一さんを待つだけだね」

      とても嬉しそうな顔をする少女は早速、深い皿を取り出しサイバシとオタマの

      連携プレイでそれは数分間で終わった。

      鍋の中から移したのは彼女特製肉じゃがである。

      これは去年の吹奏楽部の合宿で、が料理当番の時に作ったものである。

      あの頃、彼女としては彼に恋焦がれる自分を理解して欲しかった。

      そのために、必死で母親に教わった最初の一品がこれである。

      その後、その想いが通じたのか二人きりの社会見学が始まった。

      そして、今日は彼の誕生日である。

      今夜は何を作るかとあれこれ候補が上がったのに、二人を繋いだこれを
作ること

      の方が当たり前に思えた。


      「ふふっ、今年の誕生日プレゼントに合鍵を頼んでよかった」

      誰に聞かれるわけもなく、口元を掌で覆い隠す。

      この提案をした当初は顔を赤くして否定したが、彼女にめっきり弱い彼


      渋々渡した。

      それがどういう意味か良く解っているつもりだ。

      ただ、もう、「教師と生徒」の間にいるのは嫌だった。

      氷室は付き合いだしてからも大して何も変わっていない。

      もしも、彼に変化が訪れたとしたら、それは「社会見学」から「デート」


      言うようになり、公的に彼女をデートに誘うようになったことだろう。

      その代価に、氷室は小学校からの親友の益田に、は弟の尽に嫌と言うほど

      
冷やかしを受けた。

      今夜も彼の家に行くと言えば妙にニヤついて両親には適当に言っておくと
快く

      送り出してくれた。

      …ガチャ。

      玄関の方で鍵を開ける音がして急いで廊下を走り抜ける。

      「零一さんっ!お帰りなさいっ!!」

      扉を開けて入ってきた人物に飛びつく。

      清潔感溢れる石鹸の匂いに混じって彼自身の体臭も鼻をくすぐった。

      「!?」

      玄関を開けていきなり抱きつかれた人物は既に呼び慣れた彼女の名前を呼ぶ。

      見上げると、びっくり箱でも開けたように驚いていた。

      しかし、それは一瞬で曇った表情の中に消えてしまう。


      「こんな時間に何をしている。早く、家に帰りなさい。ご家族の方も
心配する」

      台本に書かれた台詞をそのまま言っているような言葉に氷室の背に回した

      
腕に力が入った。

      「嫌です。それに恋人の誕生日を一緒に過ごしたいというのは、万国のカップル

       共通の考えなのではないですか」

      「それなら私は保護者の立場から言うが、君はまだ、未成年だ。男の家

       女性である君が来て良いわけがない。君の誕生日には仕方なくスペア
を渡した

       が、使っては良いと言った覚えがない」

      「では、先生は私が嫌いなんですか?私は先生の何なんですか?」

      思わず、はばたき学園に在籍中の彼の呼び方を口にしてしまって決まりが

      
悪くなったが、瞳に涙が滲んでいることに気づいて俯いた。

      やはり、口では敵わない。

      そんなことは充分承知だが、氷室に自分がどんな思いでここにいるのか
解って

      欲しかった。

      「…ごめんなさい……やっぱり、私がいけなかったんですね。…私、帰ります。

       肉じゃがを作りましたので冷めない内に食べて下さいね」

      彼を抱きしめていた腕を解き、お気に入りのブーツのファスナーを下ろす。

      それが、氷室が自分に寄せている想いを表しているようでまた、涙が
溢れてきた。


      (だめだよ……こんな所で泣いたら……)

      すっかり冷えた靴底に脚を入れ、立ち上がりドアノブを握り締める。

      「待ちなさい」

      「へっ?」

      その上に被さる様に彼の掌が触れた。


      それだけの行動にドキドキしてしまう。

      何せ、二人はもうすぐ付き合いだして八ヶ月経つというのにキスさえして
いない

      清い仲だ。

      「な、何ですか?」

      平静を保ってみても声が上ずってしまう。

      今ほど、異性とこの空間で二人きりだと言うことを深く感じたことはなかった。

      「・私を見て答えなさい…っ!?」

      「いや…っ」

      強く目を瞑ると雫が頬を伝い、床を濡らす。

      彼に玄関に押し当てられた形になっているため顔を反らすしか選択肢はな
かった。

      ちょっとした口論で泣いている自分を見て欲しくなかった。

      そんなに弱い人間なんだと今更気づいて嫌になる。

      「私はまた君を独りで泣かす所だったな」

      氷室に言われたことに瞬きを繰り返した。

      独りでなら何回も彼を想って泣いたことはあるが、彼の前ではそんな
行動は

      一切したことがない。

      それなのに、何故、そんなことを口にしたのだろうか。

      「…零一さん…何で、私が独りで泣いていたことを知っているんですか?」

      そんなことを言うと彼は深くため息を着いた。

      「えっ?私、変なこと訊きましたか?」

      身動きの取れない体の代わりに瞳をきょろきょろさせて慌てる。

      「尽に聞いたんだ。君を泣かせるなとこの前、留守電に入っていた」

      「あの子ったら本当にお節介なんだから…」

      「しかし、そのおかげで私はまた君の事を知った。今まで何で教えなかったんだ。

       知っていたら私は…」

      「言えなかったんです。…何だか、自分があなたが思うより弱くて惨めな人間

       だったらどうしようって」

      そう言うと、唇を強く噛み俯いた。

      氷室は片手での顎を掴み、顔の自由さえ奪う。

      「零一さんっ!?」

      「君は強い。尤も、私の知っている女性の中ではだが。だからこそ、君の弱さも

       俺に教えて欲しいんだ」

      彼は彼女の前では「私」ではなく「俺」になったのはごく最近のことだった。

      それは今まで何十年も渡り歩いている悪友にしか言ってない呼称だ。

      だが、少女が青年自身を強く求める度に壊れそうになったのは他でもない

      
事実だった。

      「寂しかったか?」

      「寂しかった……です」

      垂れ下がったままの手をぎゅっと握り締める。

      氷室はそっと彼女を抱き寄せた。

      「すまない…君のそばにいたいが仕事で遅くなる場合がある。だが、

       
決してのことを想わない時間など私は持ち合わせていない」

      「零一さん…」

      体を伝ってお互いの鼓動が解る。

      こんなにドキドキしている自分が恥ずかしくて少女は瞳を伏せた。

      「…」

      聞こえるか聞こえないかの声で少女の名を呼んだ彼は、彼女の顔に近づき

      
唇を軽く吸う。

      永遠にも思えた一瞬、次に氷室を見た時は、今年の卒業式で告白してきた
ように

      真剣な顔をしていた。

      「す、すまない。つい、……その…」

      「良かった…」

      唇を離された少女はポツリと言う。

      「はっ?」

      「だって、零一さん、ずっとしてくれないから…私、嫌われているのかなって

       思ってました」

      「そんな分けないだろ!俺はを壊すかもしれないからって何もしないだけで、

       君が成人した日には結婚しようと……っ!!」

      何も考えていなかったのにこんな言葉が沸いて出てきた。

      彼女は呆然として彼をじっと見ている。

      言ってしまったから仕舞ったと思っても既に後の祭りだった。

      この交際は決して遊びなんかではない。

      だから、いずれはそうなりたいと常に思い描いていた。

      しかし、今はまだそれを言うべき時期ではない。

      まして、婚約指輪も買っていなかった。

      ついとは言え、言葉にしてしまった以上、もう後戻りはできない。

      「俺と結婚してくれないか。もちろん、今ではない。が成人してから言おうと

       思っていたんだ。俺は君がいなくては何もできない男だ。それ
でも良かったら」

      「はいっ!喜んで」

      今度は彼女が氷室を抱きしめる番だった。

      「っ!?」

      「ありがとうございます。零一さんにそう言われて嬉しいです」

      彼女の声はどこか湿り気を帯びている。

      きっと、涙を流しているのだろうと、顔を覗き込むように身をかがめた。

       その様子に気づいたようには彼の首を抱きしめてキスを強請る彼女に大きく

      理性が揺らぎ始める

      「大好きです…零一さん……愛しています」

      そう言った彼女の顔は確かに泣いていたが、何だか照れ隠しのように見えて

      こちらまで恥ずかしくなってきた。

      だが、ずっとオフにしていたはずの心がオンになる始まりだった。

      「帰るな…俺と一緒に祝ってくれるんだろ?誕生日を」

      「……はい」

      唇を離した後も至近距離にいる氷室に大人の色気を感じてドキドキしている。

      それを確認するようにふっと微かな音を出して笑う。

      「何が可笑しいんですかっ?」

      先程まで味わった唇を尖らせて抗議した。

      「いや…それでは頂こうか……君を」

      そう言ったのが早かったか彼はの脚からブーツを脱ぎ去り、彼女を腕に抱き上げる。

      「零一さん!?」

      「すまないが、俺はもう、我慢ができそうにない。が欲しい……」

      「あっ…」

      「俺が怖いか?何ならここで俺から逃げることもできるんだぞ」

      「そんなことはっ!…でも、……初めてだから……その…恥ずかしくて」

      「それなら心配はない。俺も初めてだ」

      「えっ!?」

      思わず叫んでしまった彼女の声はキッチンを通り越した彼の寝室に響いた。

      「どうした?まさか、俺が経験済みだと思ったのか?」

      「…すみません……零一さんが緊張してないのでてっきり」

      「緊張など先程からしているその証拠に…」

      彼はベッドに横たわらせた愛しい女性の手を自らの左胸に触れさせる。

      その場所は早鐘のように忙しく脈を打っていた。

      「……嘘」

      「臓器が嘘ついてどうするんだ」

      「だって、零一さん全然、顔に出さないから…」

      「どうでも良いが、今の状況がどうなっているのか解っているのか?」

      そう言われてみて初めて気づいた。

      愛しい男性に組み敷かれ、長袖のYシャツボタンが2・3個外され、ロン
グスカート

      は太ももの辺りまで捲れ上がっている。

      「いやっ!」

      「ようやく、自分の立場が解ったようだな」

      「うぅ……何か零一さん人変わっています?」

      「何故だ?」

      「だって、さっきから私の反応を楽しんでいるように思えますよ」

      「どうでもよろしい。君は俺のものだ…」

      吐息のように甘く囁いたかと思えば、細い首筋を軽く吸った。

      「あっ!」

      彼女が今までに感じたことのない傷みで体がびくっと震えた。

      「怖いか?…俺が……」

      火照った顔で見上げれば、氷室が優しく微笑んで髪を撫でている。

      いつもの彼ではないような気がして恐怖感を抱いている…だが、それはど
うやら思い

      違いだったようだ。

      こうして氷室の瞳をじっと見ていると、自分のことを壊したいほど愛して
くれ

      ているのだと解る。

      先程まで抱いていた気持ちが瞬時で愛しさに変わり、もう一度自分から
キスをした。

      「っ!?」

      「好きです。……零一さんを愛しています。だから、……私を抱いて下さい」

      「本当に良いのか?」

      彼女は答える代わりにYシャツのボタンを外し始める。

      白い布地の間から薄い緑色のブラジャーが露わになった。

      「…」

      「零一さん…」

      お互いの名前を呼び合い、唇を求め合う。

      歯列をゆっくりと舐めとってから自身を絡め、下着の上から秘部の湿り
気を

      確かめた。

      「っ…」

      そこはうっすらと湿り出していた。

      彼女が短く叫び声を上げると、それが合図だったかのように唇を離しブラ
を押し上げ

      て二つの丘にある頂きを口に含む。

      「んっ!…はぁ…」

      頬を染めて今まで感じたことがないだろう甘い痛みに堪えている少女が愛しい。

      既に、尖ったそれはそれぞれに主張し合っていた。

      口に含んだ頂きを放すと、指の腹でそれを弄んで、もう片方はアイスク
リームの

      ように舐めて愛撫を繰り返す。

      「っ……はぁ、あ……れい…ち……ぁん」

      快楽へと溺れた鳴き声に、彼自身が敏感に反応している。

      気がつけばお互いの息が荒くなり、生まれたままの肌が汗ばんで吸い
付いていた。

      「…射れて良いか?」

      小さな肩で小刻みに呼吸する彼女の頬に優しくキスをして強請る。

      「えっ?……あっ、ふぁっ!」

      拒むことは決して許さないと氷室の分身が秘部を刺激した。

      触れた瞬間、はっとして見ればそこはいやらしい泉と化している。

      「ふふっ……もう、こんなに濡らしているのか?」

      「……いや……恥ずかしい…」

      「恥ずかしがらなくて良い。……こんなに…俺が欲しいのか?」

      「いや…そんなにいじめないで……」

      潤んだ瞳で出来る限りの抗議をしてみせるが、彼は微笑んだままで見ていた。

      「うぅ…やっぱり、いじめて楽しんでるぅ」

      「楽しんでないと言えばウソになるが、私はどんな姿のも知りたいだけだ。愛して

       いる女性の全てを知りたいと思うのは男の本望だと思うが……」

      「それ以上、言わないで下さいっ!そんなに言われたら私………きゃ!?」

      彼女が火照った顔で文句を言っている間に彼は脚を開かせ、その中に入り腰を

      しっかり掴む。

      「零一さん…」

      「愛している………お前が欲しい。俺にお前の全てをくれないか?」

      「はい……私もあなたを愛しています…」

      彼の首を離れないように抱きしめると、異物が混入する気配が脳裏を過ぎった。


      (これで私は本当の意味で、零一さんと結ばれるんだ……)


      強く瞳を閉じるのと同時に激痛が下部から体中を駆け巡る。

      「あ!!………んっ…やぁぁぁぁっ」

      「くっ…!………っ、っ……」

      氷室が短く叫ぶと彼女の腰を掴む手に力が入り、少しずつ上下に動き出す。

      初めて感じる痛みに耐えながら耳に入るのは自身の発する淫らな音色とい
つもの

      冷静な彼からは想像も出来ない熱い囁きだった。

      「ふっ……んっ………んんっ!」

      刺激に犯されそうな意識で氷室の首から広くて大きな背中に腕を移し、自らも

      腰を動かし始める。

      「っ……好きだ…愛しているっ!!」

      「あんっ……私もれ………いいちさん……がっ!!」

      啄ばむようなキスが体中の至る場所に赤い印を残し、震えるたびにそれは生々しく

      刻まれていることに気づかされた。

      何も考えられないほどに思考回路はショートしている。

      初めは激痛だった彼自身も次第に彼女の中へと侵入すれば形を変え、それ
が快楽へと

      代わった。

      潤んだ瞳からは大粒の涙が頬を伝わり、シーツを濡らし、それが彼の中
で欲する想いが

      強くなっていく。

      「あっ…はぁ……んっ、んっ……」

      甲高くが鳴けば唇を深く求め、それさえ忘れていると、耳を甘く噛んで思い出させる。

      まるで、血を吐くまで鳴きつづけるといわれるホトトギスのように…。

      「くっ!……そんなに締めつけるな!!」

      「ふぁっ……っあああ!!!」

      既に互いの理性を無くした頃だろうか、彼女自身が彼を強く締め付け急かす。

      「…くぁ!……もう………出すぞ!!」

      「んぁ………っ……キてっ!!」

      昂ぶった氷室自身はの中に尽きない想いを放ち、二人はそれを頼りにしていたのか、

      彼方へ姿を消したのを見送らずに気を失った。

 

 

      「もう……、零一さんってば……私をいじめてそんなに楽しかったですか?」

      最近買った二人用のテーブルにレンジで温め直した肉じゃがを取り皿に装いながら

      ぼやいた。

      まだ腰が痛いが、そうは言っていられない。

      今夜、彼の自宅へ乗り込んできた本来の目的を果たさねばと、台所へ向かった。

      彼女とは対照的に、氷室はだらしなく黒のズボンを履いて上半身にYシャ
ツを

      羽織っただけで、優しく微笑む。

      「先程も言ったが、楽しんでいないと言えばウソになるが私はどんな姿も知りたい

       だけだ。それ以外何ものでもない」

      綺麗に装った取り皿を彼に渡すと、再び顎を引き寄せられ、唇を塞がれた。

      「今日は…いや、今年の誕生日は最高のプレゼントをもらったな」

      「くすっ……さっ、今度こそ冷めない内に食べちゃって下さいね」

      「何を言っている?私たちに『冷める』なんてあり得るわけないだろう?

      これを頂いた後は、食後のデザートと行こう」

      「っ〜〜!……はい……今日はお誕生日、おめでとうございます。零一さん」

      「ありがとう……愛している」

      そう言って、再び強く彼女を抱きしめる。

      Hだと、心の中で思いながらそれは自分の中でもあると気づいて口にする
ことが

      出来なかった。

      もっと、彼を感じたい。

      自分だけに見せる氷室零一という男を知りたい。

      それがどんな代償を払ってでも手に入れたい彼へのPresentのよう
な気がした。

 



      ―――…終わり…―――



      ♯後書き♯

      またもや、徹夜しちゃいました。(爆)

      あうっ、今日も学校あるのに〜!←後々にやることを延ばしているとやる
気が失せると

      いう風上にも置けない奴です(笑)

      初めて書きましたお誕生日Dreamです。

      氷室先生、暴走まっしぐらです!

      いや〜、ヒロインが何だか、大人の男に遊ばれているようになっちゃいました。

      これって、20禁!?って自分で書いておきながら考えちゃいました。(反省)

      このようなもので宜しかったらご感想宜しくお願い致します。