愛するへ…

      私がイシュヴァールの内乱へ行くことが決まった時、君は涙を堪えながら気丈にも

      見送ってくれたな。

      あの時、私は少々臆病になっていた。

      いや、お前の前では私はただの無能な一人の男になってしまうか。

      そんなに私は強気でいても無意味というものだな。

      私は所詮、一人の人間だ。

      例え、並の人間より錬金術が使えたとしてもだ。

      だからだろうな…本当は、心の奥底では、お前に止めてほしかった。

      一緒に逃げようと言って欲しかったのだ、今では軍の大佐までに上り詰めたこの私がだよ?

      こんなことを部下達に知られたら何を言われるか解かったものではないから敢えて、

      私の胸に留めている。

      だが、君だけは解って欲しい。

      私が逃げ出したいとさえ思ったわけを。

      私はイシュヴァールの内乱に人間兵器として送られることは知っていた。

      だが、上の人間は平気で人間を殺すことを楽しんでいた。

      実際、奴らの馬鹿げた高笑いを偶然耳にした私は恐ろしくて身震いがした。

      こんな軍部にはもう、イタクナイ。

      そう思い、君へと走り逃げていった。

      だが、

      お前はそんな私を包み込むように抱きしめたかと思うと、静かに首を振ったな。

      「あなたが逃げてどうするんですか?このまま無力な私たちと逃げてもいずれは戦わなければ

       ならないのですよ?そんなことより、これ以上の血を流させないで下さい」と…。


      私はその言葉を聞いて嬉しいようで寂しかった。

      お前は私などただの臆病な男として見てしまったのだろうか。

      そう思うと、以前より数段にも増して恐ろしくなった。

      の胸に顔を埋めていた形で抱きしめられた私は、スローモーションのように顔を上げ、

      そして、言葉を失った。

      君の両の瞳からは渇きを知らない泉のように、綺麗な雫を頬に伝わせていたから。

      私は、あの時ほどを愛しいと思ったことは恐らくないだろう。

      外見では気丈な態度をとっておきながらも、中身は私以上にロイ・マスタングという

      存在を求めていた。

      あれから何年か過ぎ、私は大佐になり二人の間はあの頃より確実なものになった。

      だが、まだ、結婚はできない。

      すまないが、私が大総統になるまでは待っていてくれ。

      私が大総統になりたがる理由。

      それは愚問だと言いたいが、これはお前に宛てて出さない手紙だ。

      隠せることなど何もないだろう。

      私は、私と君に人殺しをさせた軍を則る。

      そして、もう二度とあのような惨劇が繰り返されることのないようにする。

      だから、…。

      君は、その時、私の隣にいてくれるか?

      夫人として…。

      私を支えて欲しい。

      いつかのように私を抱きしめて欲しい。

      こんなことを言ってしまうと、また、お前に怒られてしまうか。

      では、

      私と結婚してくれるだろうか…。




      #後書き#

      皆様、こんにちは。

      なかなか忙しいといってはサボっている柊沢です。(汗)

      紅野手紙を作成後にこの作品を書き上げました。

      今回の作品は、かなり弱気なものに成り下がってしまいましたが、どうでしたでしょうか。

      私の中では、TVアニメ『鋼の錬金術師』の大佐が忘れられなくて今回の手紙を書いて

      しまいました。

      私事で本当に恐縮なのですが、イシュヴァールの内乱時、彼の妙に怯える姿がとても

      印象に残りまして、大佐を癒す女性をと思い立ったのが、元です。

      このようなところまでお読み下さいまして誠にありがとうございます。

      今後とも「光と闇の間に・・・」を宜しくお願い致します。