最後の夜だから…


      九月中旬の京都の夜は盆地とのこともあってか、秋だというのに夏の暑さが残っている。

      駅に近いホテルの一角では男子生徒たちの声で賑わっていた。

      普段は大人の雰囲気が漂う内装が施されているにも関わらずそれは次第に、盛大になっていく。

      一人のスーツ姿の男性が廊下をカツカツと鳴らして歩みを速めていた。

      彼ははばたき学園の教師氷室零一。

      毎年のことながら続くこの騒ぎには一番頭を悩ませている。

      そうしなくてもほぼ毎年この地にやってくる彼は不満を感じていた。

      しかし、これは教師である義務だしやらねばならないと強く思っている。

      騒ぎの源になっているドアノヴをゆっくり掴んで思いっきり開いた。

      「静かにしなさい!君たちは高校生だろうが!!」

      開け放つと物音がしたかと思うと闇の中で静まり返っている。

      こんな風景を何度も目にしている氷室はこれが狸寝入りだと解っていたが、その場に深く息

      を吐いて後にした。

      彼が教員室に帰るとベランダに出て夜景を眺める。

      はばたき学園の引率教員には、各一人の部屋が与えられた。

      だから、修学旅行最後の夜である今日の空はまた、しばしの別れと言うわけになる。


      コンコン…。


      ドアをぎこちなく叩く音が聞こえたような気がした。

      「はい?」

      「零一さん…」

      そのか細い声に聞き覚えがあった。

      「 か?」

      急いでドアを開ける。

      すると、そこには一人の女生徒が頬を染めて立っていた。


      「どうした?こんな所でもう、消灯時間だ」

      「しゅっ…修学旅行の最後の夜だから一緒に、いたくて……」

      そう言うと俯いていた顔を彼に向ける。

      その瞳は恥じらいに混じって氷室をじっと見つめていた。

      彼女ははばたき学園二学年トップの

      彼は密かに彼女と付き合っている。

      しかし、教師と生徒の禁断の関係を犯しているためそれ以上には進めなかった。

      そう言うわけで、口づけも男女の契りを交わしたこともない今では珍しい清い仲である。

      だが、氷室に男性としての本能がないわけではなかった。

      今までだってどれだけ のことを欲していたのかなんて数え切れないほど在る。

      しかし、自らの欲望のために彼女を汚したくなかった。


      「零一さん?」

      恐る恐る小首を傾げてこちらを見つめている少女が愛しい。

      彼はその瞳から離せなくなった。

      周囲には水を打ったように静かで誰もいない。

      「……質問があるのか?仕方がない。入りなさい」

      その欲情を追い払うように咳払い一つし、平静を精一杯装った。

      「あっはい。ありがとうございます」

      彼女はその言葉に最もふさわしい返答を返して軽く会釈する。

      中に入ると、学生に用意された部屋と同じ作りだった。

      強いて言うなれば、広さだろう。

      玄関の入った所でスリッパを脱ぐと四畳くらいの部屋に小さなテレビと木製の机があった。

      「あっ!」

      小さく叫ぶと は先程まで氷室が居たベランダの方に走り、外へ出る。

      「走っては危ないぞ」

      「零一さんっ!来て下さい。綺麗なお月様ですよ」

      氷室が心中の欲情を抑えながら注意しても、当の少女は呑気なもので煌々と浮かぶ天体を

      眺めていた。

      月光に映し出される彼女がいつもより美しく感じる。

      隣に立つ彼も黙って月を見つめた。

      あまりにも蒼いので、思わず夜に解けてしまうのではと考えてしまう。

      「さっ、天体観測は終わりだ。そろそろ寝なさい。明日はいよいよはばたき市に戻る」

      「……」

      しかし、 はその場から動こうとせず、じっとそれを眺めていた。

      呆れて息を吐くと急に彼女が彼を強く抱きしめてくる。

      「っ!?

      ようやく抑えた欲望がまた膨らみ始めた。

      「零一さん…私のこと……好きですか?」

      「なっ、何を言っているんだ。だから、私たちはこうして…」

      「違うっ!違いますっ!」

      「何が違うんだ?話してみなさい」

      つい、いつもの口調になり彼女の肩に掌を置く。

      すると、それが震えていることに今更ながら気づいた。

      「 ?何かあったのか?私にできることなら何でもする。だから、ちゃんと話して欲しい」

      今もまだ小刻みに震える肩を強く掴み、少女の曇った顔を覗き込もうと顔を近づける。

      それと同時に、瞳に涙を浮かべる彼女と視線が合った。

      聖水のような雫で濡れた唇。

      恥じらいで赤く染める頬。

      今にも吸い込まれそうな瞳。

      そんな顔をしないでくれと心中で強く叫ぶ。

      自分の中の制御装置が無残にも外れて取り返しのつかないことになったら、そんなことを

      考えると今も掴んでいる肩を軽く押し返した。

      「どうして?……どうしてなんですか、零一さん。私の事嫌いになったんですか!?」

      「そんなはず、あるわけないだろう!……あっ……すまない。こんなことを言うつもりはな

       かった。今のは忘れてくれ…ともかく、今夜は寝なさい。明日も早い」

      制御装置の一部が緩んで、つい、友人と話す口調になってしまう。

      これは彼が捨てきれない感情。

      これが露わになる頃、氷室はただの「男」と化す。

      そんな姿を彼女に見られたくなくて、背を向けた。

      隣の部屋の窓は既に暗くなっている。

      少女はまだ、高校二年生。

      高校を卒業しても彼女の成績ならば一流大学に行けるし、これからの人生があった。

      そんな芽を自分が摘み取っていいはずがない。

      そもそも、教師と生徒の関係を超えてしまったのが悪かったのだ。

      しかし、ここで縁を切ってしまえばこれ以上、お互いを傷つけることはない。

      今なら修正はいくらでも利く筈だ。

      まだ、何もしていない今なら…。

      すると、背後からいきなり強く腕を回してくる存在がいた。

      それは……

      「 っ!?」

      長身の彼が後ろを振り向くと、小さな彼女が必死に、自分を抱きしめている姿がレンズ越しに映る。


      「私っ…私、零一さんが好きですっ!」


      顔中を真っ赤にしてたまたま帰りが一緒になったあの日のような口調で言った。

      あの時はいきなりで急ブレーキを掛けてしまったことを思い出す。

      その後、少女の自宅を通り越し、氷室のお気に入りの場所で自分の気持ちを伝えた。

      太陽光線の現象が見える頃、少女は泣き笑いのような顔で抱きついてきたことを今でもしっか

      り覚えている。

      「外はまずい。中に入ろう」

      「……はい」

      窓を閉め、深緑のカーテンでシャットアウトした。

      再び の方へ振り返ると、やはりこちらをじっと見つめている。

      少女の瞳の端に残った涙の粒をそっと指の腹で拭った。

      彼女はびくっとして両目を閉じる。

      その仕草も彼の欲望をくすぐるものだった。

      だが、それをぐっと押さえて改めて言う。

      「私も が好きだ。世界中で一番愛しいと思っている」

      「だったら、何で私に触れてくれないんですか!」

      「…え」

      予期せぬ言葉に自分の耳を疑った。

      しかし、少女はまた瞳を潤ませてやはりこちらをじっと見ている。


      「私だって普通の女の子なんですよ?好きな人とキスしたいし、……抱かれたいと思ったりし

       ます。けど、時間が過ぎるだけで私たちの間は固い壁で仕切られている。そんなのいやなん

       ですっ!名前ばかりの「恋人」は」

      泣きながら自分の意見を述べる彼女を見ていて胸にしまい込んでいる欲情が出たがっていた。

      しかし、そんな隙を与えて溜まるものかと理性が行く手を遮る。

      「すまない。そんな辛い思いをさせて……しかし、君と私は教師と生徒の仲だ。今はこの

       関係だが、いずれは…」


      君を壊したい。

      心の中で渦を巻いているもう一人の氷室零一が呟いた。

      彼が現れるのには二つの理由が在る。

      一つは親しい間柄には姿を見せたこと。

      現に、友人といる時の一人称は「私」ではなく、「俺」だ。

      そして、もう一つは、理性が保てなくなるほど を愛してしまっているということだ。

      「いやですっ!今すぐ、私を抱いて下さい!!修学旅行の思い出で終わらせるんじゃありま

       せん。これからの二人のためにして欲しいんです」

      強く結ばれた唇が愛しい。

      ふと我に返れば、彼女の顎を掴んでいた。

      「すまないっ。急にこんなことをして」

      もう、限界だ。

      ぱっと手を離すと、少女は慌てたような顔をしてその掌を掴み、ジャージの上から胸に押し

      当てる。

      「なっ!?やめなさい」

      「いいえ!やめません」

      そう言うと二つの丘の片方に摺り寄せた。

      「あっ」

      少女が今まで氷室に聞かせたことのない声で鳴く。

      それが男の本能を擽ってくるのに顔を歪めながら聞いていた。

      掌には柔らかな感触。

      それでいて一人で感じている愛しい女性。

      二人の間に障害があっても今はただの男と女である。

      そんなことが頭に浮かんでくると、目の前で彼の手を自分の胸に摺り寄せている少女が哀れに

      思えた。

      「 ……すまない」

      その掌を再び彼女の顎を掴ませて唇を押し当てる。

      「んっ!」

      初めて味わう感覚にもう、「私」はいなかった。

      「 …愛している。誰よりもお前を愛している」

      唇を離して短くそう言うと再び、深く求める。

      「んっ……ぁ」

      彼女が息つぎに困難な表情をさせたが、もう、そんなことは気にせず、角度を変えて味うこと

      に精一杯だった。

      次第に顎の力が抜けていくのを素早くキャッチして、口内に舌を侵入させる。

      歯列を舐めると 自身を探り当て、甘くそれに吸い付き絡めた。

      「ん……ふっ…」

      初めは体を強張らせたものの段々、慣れてきたのか彼女の方からそれを絡ませる。

      その行為に嬉しくなり、薄い体操着の上から二つの丘を触った。

      「んっ!?…ふぅ……んんっ」

      触れたとたん、背筋を反らしたがそんなことお構いなしにその場所を攻め立てる。

      「あっ……零、一さん…ぁ…好き……」

      「俺もだ…… を淫らにさせるのは俺だけだっ」

      体操着の上からもわかるように彼女の二つの突起は鋭く尖がっていた。

      荒い呼吸のまま布団を敷き、その上に彼女を寝かせる。

      氷室は上半身を脱いで体操着を捲し上げた。

      ピンクの可愛らしいブラジャーが彼の前に現れる。


      「あんっ…そんなに、見ないで…」


      身をよじらせてそれから逃げようとするが、彼の唇が首筋を吸ってそれはできなくなった。

      「あっ……れいいち……さん…っ」

      その場所は軽く吸い上げて普段着るものからは決して見えない二つの丘のふもとを強く吸う。

      「あぁ…だめぇ……そんなとこ」

      「俺以外にこの場所を見せるなという印だ」

      その声に笑みを浮かべると、少女の上半身に身に付けていたものを全て取り除き、耳にキスす

      るよう近づいて甘く囁いた。

      「きれいだ…」

      「い…やぁ」

      計算どおり、彼女は頬をほんのり赤く染め、顔を背ける。

      その仕草がとても可愛らしくていじめたくなり、耳朶を甘噛みした。

      「っ!?はぁ、ぁ……んっ……零一、さん」

      本当にこの子は高校生なのだろうかと、疑問に思いたくなるほど大人の女性の声を出す。

      「良いぞ……もっと、俺をお前で酔わせてくれっ」

      すっかり堅くなった胸の突起を口に含んで、ころころと舌で回しもう片方を指の腹で摘んで

      揉んだ。

      次第に彼女自身の体が火照ってきてそれは自分がさせていると思うと余計に燃えてくる。

      「ふぁ…ぁ……んんっ」

      声を押さえても体は正直でまた形を変えようとしているのが解った。

      「イヤらしい体だ……こんなに俺を感じているのか?… もっと、俺に溺れろ」

      「はぁ…ぁ…んっ…っ」

      シーツをぎゅっと握って必死にこの名の知れない感覚に耐える。

      呼吸したからなのか氷室が鷲掴んでいるからなのか、少女の胸が大きく揺れた。

      お互いの吸いつく肌はもう、一体化している。

      しかし、まだ本当に一つではなかった。

      ジャージのズボンの上から一番女らしい場所に触れる。

      「あっ……」

      短く叫ぶと、その上に自分の掌を乗せた。

      「どうした?怖いのか」

      「違うのっ零一さんだから怖くない。けど、私…そのぉ……初めてだから」

      頬を染めている が伝えようとしている言葉が脳裏に浮かぶ。

      彼は出来るだけ優しい顔をして、彼女の頬を撫でた。

      「大丈夫だ。俺も初めてだ…… …」

      「はい…」

      「俺の…初めての女になってくれるか?」

      「っ!?……はい」

      瞳を輝かせて自分を見る少女がどんなことよりも愛しい。

      氷室は彼女の唇に軽くキスを落とすと、下着と一緒に最後に を守っていたジャージを

      脱がした。

      そこは既に蜜を溢れさせ、シーツにシミが付着する。

      翌朝のことを考えると頭が痛いが、今はそんなことを考えないことにした。

      彼もベルトを外し、生まれたままの姿になって の足を開かせる。

      「……零一さんっ」

      「濡れているな……」

      「や……恥かしい…」

      既に、欲望に刈られている自身を彼女の秘部へ宛がい、蜜の中へと沈めた。

      「くっ…」

      「あっ!?…んぁ」

      少女はシーツに跡が残るくらい鷲掴み、必死で声を殺している。

      「 っ…」

      「れ……いち、んっ……」

      「俺に掴まれ…」

      「…ぁ…は、い……あっ!」

      言われるがまま彼の首に手を回して引き寄せた。

      それを確認した氷室は、小さく呻き声を上げ、さらに最奥を目指す。

      上下から締め付けられるのは快楽を感じたがその度にディープキスを交わした。

      「あっ……はぁ……っ」

      必死に痛みを堪えながら自分を受け入れようとしてくれる彼女が愛しい。

      大切にするべき女性。

      でも、壊したい。

      そして、新しい「 」を作り上げたい。

      この少女の中に消えない刻印を焼きつけたい。

      なんて自分勝手な考えだろう。

      だが、一度火が着いてしまったこの感情を押さえることが出来なかった。

      「 …動くぞ」

      「えっ?…あっ……んんっ…」

      彼女の中に己を全て沈め、異物を排除しようときつく締め付ける内壁に顔を歪めて動き出す。

      少女は一瞬、何のことかわからなかったみたいで繋がった場所を見ようとしたが、氷室はそれ

      を許さなかった。

      「れ、いち……あぁぁ……んっ」

      「 …好きだ…っ…愛している」

      「ふぁっ…私も……いして、る……アアっ!」






      そのまま二人は果ててしまった。

      次に意識を取り戻す頃もやはり蒼い月が空で微笑んでいた。

      隣で静かに寝息を立てている少女が、愛しくて眠るのが惜しくて結局は起きている。

      深夜というのに、外からはうるさいバイクの音がかすかに聞こえた。

      明け方になる頃、彼女を起こして風呂場に行かせてそのまま女子学生用の大部屋へ返そう。

      そして、自分は何もなかったかのように布団を片付け、お茶を飲んでから風呂に入ろう。

      男女の契りを交わしたと言え、彼と は教師と生徒だ。

      もし、顔を鉢合わせたとしても、「氷室先生」と「 」と呼ばなければならなかった。

      「…零一…さん」

      彼女が夢心地で彼の名を呼ぶ。


      (一体、君の夢の中で俺は何をしているのだろう…)

      何度目かのキスを額に施すと、暫く生まれたままの姿で抱きしめた。

      瞳を閉じれば優しく微笑む女性が映る。


      …零一さん

      そう呼ぶのは今自分の胸の中にいる彼女だけだ。

      卒業まで後もう少し。

      そしたら、本当の意味で二人の世界が始まるのだから。

 

 

 


      ―――…終わり…―――

 

 

 

      #後書き#

      初氷室裏ドリです。

      こちらはあすな様にお送りしました作品です。

      ふふふっ…ようやく言わせましたよ、「俺」。←絶対、言わせたかった人。

      ふふふっ…壊しましたよ。←危ない。

      全作品がかなり短かったので今回は頑張ってみました。(くっ!お疲れ、自分)

      こんな暴走満載なものでも宜しければ、ご感想を下さい。