SAKURAドロップス


      入学式。

      今年もこの季節がやって来た。

      はばたき高校の正門からは、新しい制服を身にまとった学生達。

      今はまだ、板につかなくてもこれが卒業式ともなれば嫌でもそうなるだろう。

      「そこ、廊下を走るのではない」

      また、私の憂鬱な一日が始まる。

      「君達、既に式は始まっている。急ぎなさい」

      どうも、新入生と言うのは浮かれ、羽目を外しすぎるものが多い。

      しかし、私は何にも染まらない。

      それは、例えて言うのであれば、『無色透明な世界』。

      そう私は呼んでいた。

      これからも、何ら変わらないだろう。

      ふと、体育館へと続く廊下から窓を見る。

      小学校とは違い、すっきりとしたグラウンドからは桜の花びらが風に揺れていた。

      「まさに、桜吹雪だな。今年は」

      こんな入学式ははばたき高校に就任してから初めてだ。

      「っ…!?」

      教会の方から誰かが歩いてくるのが見える。

      あそこは何人も立ち寄らせない空間だ。

      そんな場所に何をしに行ったのだろうか。

      校庭のあちらこちらに植林された桜は、今しがた入ってきた新入生を吹雪で包む。

      私は窓に釘付けになった。

      今、舞い散っている桜と同じぐらい桃色の短めな髪が風にさらわれている。

      それによって、少女の素顔が顔を出した。

      雪のように澄んだ肌。

      伏せた瞼に伸びる長いまつげ。

      強く噛み締める血の様に赤い唇。

      (……おいおい。それではまるで、彼女が『白雪姫』のようではないか)

      自分の考えにやれやれと首を振る。

      気分直しに再び窓の外へと視線を寄せたが、少女はいなかった。


      「夢……か?それとも幻だったのか?いや、待て。何か訳があるんだ。第一、

       私が真っ昼間に夢を見るはずはない。すると、幻覚か?しかし、私自身

       疲労感はない。それではやはり…」


      あの少女は実在していた。


      こともあろうが、私のクラスに……。


      「です。どうか宜しくお願いします」


      …というのか。

      心中、復唱しながら私は正確に自分の受け持つ学級の顔と氏名を覚えていた。

      彼女は教壇の近くに座っているため何故か目がそちらに言ってしまう。

      「氷室先生、何でしょうか?」

      遂に、それは彼女に見つかってしまった。

      私は、咳払いをするとこう言った。

      「スカーフが曲がっている。気をつけなさい」




      ―――…終わり…―――

 

 

 

      #後書き#

      …何と言うか短すぎです。

      こちらの作品はあすな様に謙譲させて頂いたものです。

      月に沿ってお題をお出しになり、月末が締め切りなんです。

      ちなみに、この時のお題は「出会い」でした。