夏は良いよな。

      この時には、祭があるから屋台がいっぱい出て食い物がいっぱい

      ある。

      勿論、ヨーヨーや金魚すくいもあるから俺は良く小遣いが尽きる

      までやっちまうんだよな。

      お前に会ったのもソン時だった。


      は真っ赤な浴衣を着て何人かのダチと一緒だった。

      俺が射的屋のおっちゃんが難しいと言っていた将棋のデカい

      王将を見事落とした瞬間、「天才的?」って言う前に後ろから歓声

      と一緒に拍手された。


      ぎょっとして振り返ると、やっぱりお前が大きな瞳を余計大きく

      してこっちを見てたよな?


      俺は今まで知らなかったフリをして驚いて見せた。

      だけど、はそのわざとらしい演技に見事に騙されたまま俺の傍に

      駆け寄ってきたよな?

      『丸井君っ!凄いね、あんな大きなのクリアしちゃうなんて

       やっぱ、天才だよぉ!!』

      あの時のお前はまるで、自分のことのように頬を火照らせて

      喜んでいた。

      俺もそれにつられて笑っちゃいそうになるのを理性的に抑えた。


      これが年頃になった男がやっちまうプライドってやつなのか?


      けど、はそんなことを気にしないで何かを思いついたのか急に

      どこかに走っていった。

      俺に待っててと伝言を残して。

      お前はいつも何かを起こす良く言う台風の目のようなヤツだった。

      だから、惚れたんだろうな。


      …、お前の姿を目で追うたび俺はいつしか恋をしていたんだ。

      『冷てっ!?』

      俺が珍しく深く考えていると、急に、頬に何かを感じて

      片目を瞑った。

      夜といってもまだまだ熱気のこもった時刻だ。

      肌もイヤでも汗でべとついて来る。

      けど、今、感じたものはそれとは180度も違う刺激だった。

      もう、片方の目に映ったのは、赤い色が食欲をそそるイチゴの

      カキ氷だった。

      ウチのメンバーの中では、小さい方だけどそれでも身長は160cm

      以上ある。

      だから、俺にそれを押し当てたヤツの顔が拝めるはずなのに、

      その目線からは当たり前に見えるわけは無かった。

      俺の頬に押しつけた犯人は、150cmだから。


      「、何すんだよ」

      『へへっ。驚いた?』


      俺が見下ろすと、お前はいつものように人懐っこい顔で笑って

      いたよな?


      そんな不意打ちやめろよ。


      そんな表情されちまったら何をするかわかんねぇぞ?

      それでなくても、いつもと違うの姿にドキドキしてるっつぅ

      のに、さ。

      けど、はそんな俺の気持ちなんてこれっぽっちも知らねぇから

      その笑顔を崩さず言ったよな?


      『はい、最優秀賞』

      『はっ?』

      初めそれを言われた時は何のことか理解するのに時間が

      掛かったぜ。


      『だから、はい。パチパチパチ……おめでとうございます!』

      そう言って俺に持っていたかき氷を押しつけて拍手をしたお前を

      見ても、何を言われているのか解らなかった。


      『だ〜か〜ら〜、「射的で王将を取ろう!グランプリ」

       優秀おめでとう!』

      いつになっても鳩がマメ鉄砲を喰らったような顔をしている

      俺を見て痺れを切らしたはやっと理解できることを言った。


      つぅか、誰がグランプリしてるんだよ?

      寂しすぎだろ?

      こんなの。

      でも、お前はありもしない大会を口にしているけど、俺を精一杯

      祝っているんだよな?


      『あ…ありがとな』

      『どう致しまして』

      俺が頬を染めながら礼を言うと、はまた笑って待たせていたダチと

      どっか行っちまいやがった。

      なぁ、


      お前のくりくりしたそのビー玉のような目に俺は映っている?


      上手くいえない言葉が俺の中に段々、溜まっている。

      けど、これを声にして言うことは、まだ、俺には出来ない。


      でも、いつかはを攻略してみせるぜ?

      だから、

      俺を勝ち続けさせてくれよ?

      お前があの時みたく俺を祝うように…。

 

 

 

      ♯後書き♯

      今回は「原石」の初出発なので、ちょっと長めに作業しました。

      いえっ!いつも手を抜いているわけではありませんよ!!

      もう、お解かりでしょうが、今回のヒロイン設定は三年で初めて

      一緒になったクラスメートです。

      しかし、これまた個性的なヒロインにしてしまったなぁと、後書き

      になった今、反省しています。(滝汗)

      それでは、この場を借りまして、今後とも「原石」をどうぞ

      宜しくお願い致します。