出会いは朝。ちょうど学校へ行く時、近所に住むヒカルに出会った時だった。

        「あ、おはよ、姉ちゃん」
        「おはよ、ヒカル…って、…え」
        「?俺の後ろがどうかした…?」
        「…まさか。私が見えてますか!?」
        「ハイ、かなりはっきりと」
        「え?佐為、俺にしか見えないんじゃなかったのかよ?」
        「…そう思っていたのですが…」

        はっきり見えるけど、すでにこの世にいる人じゃないことはわかった。けど、
        たしはその幽霊を見て怖いと思うよりも…綺麗、だと思った。


        ☆今はただ☆


         あれから年月が流れ、わたしは今高校二年になった。ヒカルもずいぶん大き
         くなったけど…あの人、佐為は変わらないままだ。

        (はぁ…。わたしも佐為と同じ時代に生まれたかったな…)

        なんて、叶いもしないことを考えながら歩いていると、向かい側からヒカルが
        歩いてきた。もちろん、その後ろには佐為が。ヒカルと立ち話をしていると、
        碁の話になる。そうだ!前からお願いしたいことがあったんだ。ここは頼んで
        みよう!

        「ねぇ、暇なときがあればわたしに碁を教えてほしいんだけど。できれば佐為に」
        「はい、よろこんで。碁に興味を持って下さるのは嬉しいことですしね!いいで
          すよね、ヒカル」
        「もちろん。いつか姉ちゃんとも対局してみたいしな」

        わたしは佐為と出会ってから必死でそれまで全然知らなかった囲碁を勉強
        したけど、まだ弱い弱い。まぁ、そんなことで、今度の日曜日にヒカルの家
        で囲碁を教わることになった。さて、家に帰ろうとしたその時…石につまづく。

        「危ない!!」

        とっさに佐為がわたしを抱き止めようとする…が、当然のことながらすりぬけて
        しまう。
        ドサッとわたしは見事に転んでしまった。

        「あ…」
        「だ、大丈夫か!?」
        「う、うん、あぁ、恥ずかしい…」

        心配する佐為とヒカルに大丈夫大丈夫と言い、逃げるようにわたしは家に
        帰る。
         …わかってはいたんだけど…。実際すりぬけたりすると思い知らされる。あ
        の人はこの世の人ではないのだと。わたしのこの想いは、決して報われるこ
        とがないのだと…。


           

         次の日曜日、さっそくヒカルの家で佐為に碁を教えてもらう。ヒカルは今
        別の部屋にいるから、この部屋はわたしと佐為の二人きりだ。といっても、
        傍から見ればわたし一人なのだけれど。

        「うーん、難しい」

        碁盤を前に、わたしはうなる。佐為の教え方は丁寧でわかりやすいけど、
        囲碁って奥が深い。

        「何度も打って、上達してゆくものですよ」
        「じゃ、佐為がこの先ずーっとわたしと対局してね」

        そう言うと突然、佐為が悲しそうな顔をする。

        「それなら、きっとヒカルが相手をしてくれますよ」
        「…佐為は、嫌…なの?」
        「え、いえ!!決してそういうことではなく!」
        「じゃあどうしてそんな風に言うの?」

        佐為は、困った顔をしながら、しばらく黙っていた。が、ようやく決心したよう
        に口を開く。

        「本当は言うつもりはなかったのですが…。私は、おそらくもうすぐ消えます」
        「…どういうこと?」
        「私は、ヒカルの碁の才能を目覚めさせるためにここに存在したのだと、
          最近になってようやく気づいたのです。ヒカルが成長した今、もう私はここに
          いる理由がありません」

        実際に、ヒカルは佐為と出会わなければ囲碁とは縁のない生活を送っていた
        かもしれない。そして最初は佐為の言うとおりにしか打たなかったけど、今
        では自分の力で打っている。ヒカルの碁の才能は優れたものだ。けど、だか
        らって。

        「佐為が、消える…?嫌だ。そんなの絶対嫌!!!」
        「わ、な、泣かないで下さい」
        「わたし…わたしが佐為の言うとおりに碁を打つよ。佐為はまだ碁をうちたいん
          でしょ?わたしが佐為のために存在する!だから消えるなんて言わないで!!」
        「私は…もう随分長い間この世に留まりました。いつまでもここにいるわけに
          はいきません」
        「じゃあ…じゃあ、わたしが死ねば…そばにいられるかも…」
        さん!!」

        佐為が声を荒げたのは、これが初めてだった。

        「そんなこと言わないで下さい。貴女が死ねば、多くの人が悲しみます。ヒカルも」
        「佐為が消えたらわたしもヒカルも悲しむ」
        「……」
        「こんな…こんな悲しい思いをするくらいなら、いっそ…」

        (見えなければ、よかった…?)

        そうすれば最初から…。…でも、わたしは。

        「私は貴女と会えて良かったと思います。一緒に碁ができて、話せて。幸せです」

        そう言って佐為は微笑む。あぁ、なんて綺麗に、儚げに、笑うんだろう、この
        人は。涙があふれてはっきり見えないのが残念だよ。

        「…うん。そう、だね。わたしも佐為と一緒にいて、楽しい」
        「そうですか。良かった」

        わたしはきっと欲張りなのだ。大好きな人がこんなに近くにいて、幸せなのに。

        「佐為、わたしずっと忘れないからね。貴方が、確かにここに存在したこと」
        「はい、ありがとうございます」
        「それから!ここにいる間はちゃんとわたしに碁を教えてね」
        「喜んで」

        涙をぬぐい、再び碁を教えてもらう。しばらくすると、何も知らないヒカルが
        部屋に入ってきた。

        「あれ?姉ちゃん目赤いような…。いくら姉ちゃんの碁が下手だか
          らって、泣かせるなんてひどいだろ、佐為」
        「ヒカルぅ〜。私がそんなひどい人間だと思っていたのですか…?」
        「冗談だって。にしても、何かあった?」
        「あー、目にゴミが入ったみたいで。わたしってほら、目が大きいから入っ
        ちゃったんだよ」
        「あはは。よく言うよ」

        佐為は消える。おそらく、そう遠くない未来。それでも、今は…。

        「よーし。ヒカルより碁が上手くなってやる!」
        さんなら必ず上達しますよ」
        「え〜?本当かよ、佐為」
        「そのうちヒカルをギャフンと言わせてあげるからね」
        「『ギャフン』は古いって、姉ちゃん…」
        「あはは」

        今はただ、共にいられる時間を素直に笑って過ごそうと思う。

        〜Fin.〜


        ●あとがき●
         佐為様好きだぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!
        …失礼しました。とにかく佐為様大好きです。美しい。
         この話、以前書いたブリーチの浦原さん夢『今を大切に』とよく似た内容であ
         ることを…書いている途中で気づきました(汗)。
        しかしまぁ、かなり前から佐為様夢は書きたいな〜と思っていたので実現で
        きたことでよしとしましょう。
          佐為様消える少し前の設定です。あえて消えるところまでは書きませんでした。
         完全に悲恋になってしまうので…。

           †ありがたくもない柊沢の感謝状†

           れなさん、今回も参加してくれてありがとうv

           私も佐為が好き〜〜〜〜〜っvって皆様すいません。(土下座)

           しかし、彼が消える所まで書かなくて私もほっと一息です。

           当時は佐為が消えてヒカルと一緒にパニくりましたvv(笑)

           我がサイトで念願を果たされたとのことで、とても光栄に思ってます。

           これからもよろしくお願いしますね。