「あ〜、寒いっ!」
              「…、お前そのセリフ何度目だよ…」
              「何度も言って、気を紛らわせてるの!」



              大切な人



               季節は冬。いつものようにわたしは赤也と一緒に登校する。
              学校に到着すると、友人が話しかけてきた。

              「よっ!お二人さん!今日もお熱いですねぇ」
              「…そーゆー言葉はカップルにかけてあげて」
              「あははっ!ごめんごめん。二人はただの幼馴染だったね」
              「大切な幼馴染、ね」

              赤也とは小さな時からずっと一緒だ。絆も深いと思う。「ただの」ですまされるのはちょっと
              嫌だった。

              「大切な、ねぇ…」

              そうつぶやくと、赤也は自分のクラスへと向かった。わたしとは違うクラスなのだ。…なんか
              赤也、複雑な顔をしてたなぁ…。ひょっとして、「大切」だと思っているのはわたしだけ!?
              うわ〜、だとしたらショックだ…。
               ヘコんだ気分のまま、一日が過ぎてゆく…。

                 ☆

               放課後。わたしは帰宅部だから、赤也とは下校は別々。けど今日は用事があったため、
              遅くまで学校に残っていた。もう学校にいる人も少なく、外も暗くなっていた。そして…。

              「うわ、雪降ってる…」

              どうりで寒いと思った。傘持ってきて良かったよ…。傘をさして歩き始めると、テニスコートの
              方から、ボールを打つ音が聞こえてきた。まだテニス部やってるの…!?わたしの足は、
              自然とコートの方へと向かっていた。そして、テニスコートでひたすらボールを打っていたのは…。

              「赤也!?」
              「…?」

              それはまぎれもなく、赤也の姿だった。慌ててコート内に入り、今更意味がないとわかっていて
              も、赤也の頭上に傘をさす。

              「雪降ってるのに何やってんの!風邪ひくよ!?」
              「雪?あぁ、降ってたんだ」
              「き、気づいてなかったの!?」

              はぁ…。それだけテニスに集中してたってことか…。

              「ってかお前こそ何やってんだよ。俺の方に傘さして、自分は雪かぶってんじゃん…」
              「そんなことより、早く部室に行って着替えて!傘持ってないんならわたしの傘に入れてあげる
              から、一緒に帰ろう!」

              けど赤也は、傘から離れ、再び練習を始めようとし、わたしには「先に帰れ」とだけ言った。

              「な…なんでそんな無茶するのよ?体調崩したら意味ないでしょーが!」
              「No.1になるためには、これくらいやんなきゃ駄目なんだよ!」
              「……。そりゃ、上を目指すことは良い事だと思うよ。けど…」
              「…お前を振り向かせるためなら、これくらい何ともねぇ」
              「…え?」

              聞き返すと、赤也はわたしにコートの外へ出るよう言った。赤也自身はそっぽを向いていたけ
              ど、声に威圧感があったため、仕方なくコートから出た。けど、このまま帰る気にはなれない。
              じっと様子を見ていると、ボールを持ちながら、赤也は話し始めた。

              「お前、いつか言ったよな。上を目指す奴は魅力的だって」
              「うん。今でもそう思うし、小さい時もそんなこと言ってた気がする」
              「それを聞いてから、俺はテニスでNo.1になってやるって決めたんだよ」
              「え…」
              「幼馴染って関係には満足してねぇ。単刀直入に言うと…俺はが好きだ」
              「!?」

              勢いよく赤也がボールを打った。パコォン!とコートに音が響き渡る。同時に、わたしの心臓
              がドクン!と跳ねる。まるでボールを心に打ち込まれたみたいだ。…落ち着け、わたし。赤也が
              言ったことはつまり…。つまり、赤也はちゃんとわたしのこと大切に思ってくれてたってことだよ
              ね…?そう思うと、無性に嬉しい気分になった。…あぁ、そうか。わたしは今の関係を壊したく
              なくて、自分の気持ちに鍵をかけてたんだ。

              「…赤也!帰ろう!」
              「は!?お前、今の聞いてなかったのかよ…?」
              「聞いてたよ。…わたしは、好きな人に無茶をしてほしくないの!」
              「……」
              「幼馴染としての『好き』じゃなくて、それ以上の『好き』ね」
              「…マジ?」
              「大マジです」

              すると赤也は猛スピードでボール等の片づけをし、帰る準備を始めた。そして部室で制服に
              着替えてから、わたしのところへやって来た。

              「んじゃ、お言葉に甘えて、傘に入れてもらうッス」
              「どうぞどうぞ」

              ちょっとふざけた口調でそんなことを言いながら、相合傘で帰る。相合傘は今までにもしたこと
              はあったから、いつもとあまり変わらない感じだけど、距離はますます近くなった感じだ。
              そして…、朝よりさらに寒いはずなのに、寒さをあまり感じなかった…。

                 ☆

               翌日。赤也は風邪で熱を出し、学校を休んだ。学校が終わった後、赤也の家に行った。

              「まったく、何やってんだか…。風邪で休むってことは、わたしがテニス部の人に伝えといたよ。
              『体調も管理できないとはたるんどるっ!』って真田先輩がご立腹だった」
              「わ、ワリっす…」

              …ま、これからもずっと傍で応援し続けるよ。わたしの大切な恋人を…。


              〜FIN.〜


              ●あとがき●
               シリアスに書こう!と思って、見事玉砕。…赤也君は勝ちに対する執着がすごいな〜と思った
               ので、こーゆー話にしてみたのですが…。トホホ…。

              †柊沢のありがたくもない感謝状†

              れなさん、二回目も参加してくれて本当にありがとう♪

              いえいえ、れなさんの作品傾向を考慮しますと、甘さ控えめでなかなか素敵なRaw Oreを見

              せて頂きましたよ。(笑)

              ジャンル外に敢えて挑戦することは良い事ですよ。

              ある人は限界を感じて自分の才能を見つけられますし、ある人はそれを転機に向上心を高め

              たりと人それぞれですからね。

              切原君の口調と彼女の口調で、場面は寒いのにどこかほんわかと温まる作品でした。

              彼の強さへの拘りがこんなにも可愛いものとはっ!(笑)

              でもでも、彼にだって何らかの理由があってのことだと皆様にも解かって欲しいのは私とて

              同じです。

              それでは、次回も宜しくお願いしますね。