雲煙過眼―――山南編―――



      「大丈夫ですか、山南さん…。まだ寝ていた方がよくないですか?」


      元治元年水無月。

      夜の闇に紛れた一人の男性は布団から起き上がり、眼鏡をかけ直した。

      今宵は後にも有名になる池田屋事件が起こった日である。


      「それより…古高の自供は…」


      「……」


      目覚めの一言がそれでは呆れてすぐには何も話す気にはなれなかった。


      「自供は…取れました」


      しかし、自分の身よりも新選組のことを考えるのは、何とも彼らしい。

      闇に映し出された所為か月明かりに照らし出されている所為か、夜着に

      着替えさせた姿は青白く見えて何処か儚げに感じられる。


      「既にほとんどの隊士が出動して、京に潜伏した尊壌激派を探索中です」


      「そうか…私は、取り残されたか…」


      「何言ってるんですか…そんな体調で出動なんてしちゃいけませんよ!」


      病気の所為か気まですっかり弱くなってしまっている。

      山南の傍にも関わらず、大声を出してしまった。

      病は気からだと昔、聞いたことがある。

      どんなことだって良いから彼を元気付けたかった。

      例え、自分が一時凌ぎの傘になってもあの笑顔が見たい。

      アレが本当の山南敬助だから。


      「あっ、そうだ!何か食べませんか?」


      普段使わない思考回路を駆け巡らせて出た答えに我ながら名案と、

      感心してしまった。

      食事は、単に空腹時に食すだけものではない。

      こうやって気が滅入ってしまった時こそ第二の力が発揮される。

      美味しいものを口にしただけで気が明るくなるのを誰だって感じたことだろう。


      「お雑炊や玉子酒でよかったら、作ってきますよ!」


      「いや…あ、やはり…雑炊をもらおうか」


      「はい!」


      の笑顔に押し切られたのか、一度出した拒否を取り下げる。

      もしかしたら、彼女には誰もを元気にしてしまう力があるのかもしれない。


      「久しぶりだな、雑炊を食べるのも」


      割烹着に身を包んだのも何年ぶりだろうか。

      実家にいた頃は貧乏とは言え、道場の娘として恥ずかしくないくらい母親に

      仕込まれた。

      その彼女は一体、何処でどんな生活の中にいるのかはまるで解らない。


      「何か色々入れてあげられたらよかったんですけど、卵とネギしか見当たらなくて…」


      割烹着姿のまま俯く。

      山南が自分の作った料理で滅入っている気分を少しでも晴らしてくれたら、と

      腕を振るおうとしたのに、どうやら神は見ていたらしい。

      普段、やらないことをやろうとするからその怒りに触れてしまったのだろう。

      だが、彼は膝の上に乗せたお盆から立っている白い湯気から顔を上げ、目を

      細めて笑った。


      「いや…十分だ。ありがとう…とても美味しい」


      それはいつもの物ではないが、確実に赤みが肌に戻ってきている。


      「えへへ…」


      何だかそう言われてしまうと、今度はどんな顔をしていいものか悩んでしまう。

      山南の役に立てたことがこんなに嬉しいとは思ってもみなかった。

      彼の手が雑炊に進む度、本当に良かった、と心から思う。

      これで少しでも元気になってくれれば何も言うことはない。


      「最近、あまり寝ていなかったんだ。それで…倒れてしまったんだろう」


      お盆を膝から畳の上に下ろすと、彼はまた声色を戻してしまった。

      茶碗の中で湯気を立たせていた雑炊は見る影もなく、米粒でさえもキレイに

      完食されている。


      「何かあったんですか?」


      「いや…いろいろ考えてしまってね」


      訊いても山南は答えてくれる訳がない。

      彼はこの新選組でも何番目かに口が堅い男性だった。


      「何を考えてたんですか?」


      「…たいしたことじゃないよ」


      況して、一隊士に過ぎないに理由を語るとは思えない。


      「私でよかったら、話をお聞きしますけど…」


      こんな時、同じ隊長格の存在ならば何でも話せたり相談したりするんだろうなぁ、と

      思えば、今度はこちらが空しくなってしまう。

      しかし、それでは、何のために自分はここに残されたのか、と思い歯を強く噛んだ。

      黙って俯いた彼の肩に掛かっていた羽織が落ちそうになっているのを見て、

      そっと掛け直す。

      まるで、看病と言うよりも夫を心配する妻である。

      「あっ、もちろん…そういう気分になれないんでしたら全然…」


      「…いや、気遣ってくれてありがとう」


      笑った瞳には頬を染めている自分の姿が映っている。

      その言葉でほっと胸の中の異物が取れたような気がした。

      ただ、彼女は山南のことが心配で、それでいて出た言葉なのだろうと把握している。

      それなのに、先程からどこかで何かを叫ばれているような気がしていた。

      それは既に、この少女の中で準備されているのかもしれない。

      彼は何かを考えた仕草をした後に、眼鏡のズレを直しながら重たくなった唇を開いた。


      「今は言えないが…考えをまとめることができたら、必ずきみに話すよ」


      だが、それはが待ち浴びていた答えではなかった。


      「それでは駄目だろうか?」


      自分で決めて口にしたと言うのに、山南は母親に隠し事を訊かれている子供のような

      顔をして遥か年下の彼女を見つめた。

      その視線が何とも母性を擽るようなもので、思わず頭を強く左右に振ってしまう。

      彼を否定しているわけではなく、あくまでも伝えるために。


      「あんまりつまらない話で、笑われるかもしれないがね…」


      「いえ…そんなことないですっ!私は…山南さんのことを聞かせてもらえるなら、

       それで…」

      目の前で苦笑する彼に胸の中にあった感情が沸き上がって、言葉がすらすらと迷うこと

      なく、唇を後にする。

      自分が何を言っているのかも理解する前に発したため、時間が経つ内に耳まで

      赤くなった。


      「それで、嬉しいです…」


      「君…きみは…」


      俯いた際に耳に聞こえたのは、今までのものよりも優しくて甘い声色だった。






      「土方君が、ああ言うのも無理はないな…」


      「えっ?」


      彼の部屋に戻ってくると、突然、ため息交じりにそんなことを呟いた。

      道場からここまで会話はなかった。

      また、山南が考え込んでいるようだったので、も黙っていた。

      こうしてその後を着いて歩くのも慣れた。

      この時代、まだ女性が男性と肩を並べて足を運ぶことが常識ではない。

      しかし、仕事ではそんなことは言っていられず、死番の日は誰よりも前に出て

      道を均した。

      それは彼女の中で芽生えている「志」であり「誠」でもある。


      「あ、ああ…さっきの話ですか」


      彼のぽつりと言ったことに敢えて、気にしていなかったような声を出した。

      山南は新選組の総長となった男である。

      彼の思考の深さに着いて行ける者とすれば、酔った十番隊組長である原田左之介くらい

      しかいないであろう。


      「彼は本当に新選組を愛している。近藤さんを盛り立てて、新選組を真剣に

       成長させようとしている」


      それはでも解る。

      土方がどんなにこの組織を思っているかなんて芹沢鴨暗殺事件でそれが身に染みていた。

      だが、山南が何だかとても悲しそうな顔をしているのが気になってその瞳から目を

      逸らせなかった。

      そうでもしていなければ、このまま彼が消え失せてしまいそうで怖かった。


      「私の方が…ここでは異分子だ。それは分かっているんだ…」


      「山南さん…」


      自分を真剣に心配する彼女の視線に気づいたからか、いつものように笑おうと

      するが、その表情は引きつっていた。

      山南敬助と言う人物もなかなか正直な性格をしているのかもしれない。

      暴走した感情を巧く抑えられずにいる彼が哀しかった。


      「私は感謝しているよ。きみにも、子供たちにも…」


      障子で締め切られた室内には蜩の声だけが届いている。

      その物悲しい響きだけが今の山南を支えているようで、イヤだった。

      もし、彼の目の前で正座をしていなければ、抱きしめていたかもしれない。

      あなたを支えられる私はここにいます、と伝えたい。


      「こうして教えることがなければ私は自分の中にあった葛藤に気付くことは

       なかっただろう…」


      淡々とした口調で自らを語る山南を黙って見つめるのが、唯一、にできることだった。

      彼もまた彼女を見つめ返していることで、まだ大丈夫だと分かる。


      「私は…武力というものが唯一の方法だとは思えない」


      「いや、思いたくもないんだ」


      自分が言ったことに即答で、前言撤回をする。

      その行為は以前も目にしたことがあった。

      山南が真剣に考えを披露してくれていると言うのに、は全然違うことを考えていた。

      こうして少しずつでも良いから自分の知っている彼を出してくれれば、

      まだ、が愛した山南敬助が居ると判るから…。


      「多分、私は剣より書物の方が似合っているのかもしれないな」


      思わず笑ってしまいそうになって視線を泳がせていると、その本人と目が合い、

      かぁと、顔中が勢い良く朱に染まり出した。


      「やだ…恥ずかしい」


      「ん?どうしたんだい?」


      それを知ってか知らずか彼が不思議そうな顔でこちらを直視する。


      「!いいいえっ!何でも在りません、何でも…」


      そんな瞳で自分を見て欲しくなくて、どもる声で制したもののそれもなかなか

      切ないものがあり、心の中で深いため息を吐いた。

      いつからこんなはしたないことを平気で考えられるようになったのだろう。

      今まで彼と過ごした時間が甘い音色を奏でていたことに彼女だって、全く

      気付いていないわけではない。

      ただ、それを確実にこうと呼べるものが一つもなかった。

      懐に閉まった更紗眼鏡がそうでないかと言えない事もないが、一番隊組長である

      沖田総司と並んで山南の作品に触る自分への気持ちの品なのかもしれない。


      「あ、そうだ」


      「は、はいっ?」


      いきなり彼が今までと違ったいつもと何ら変わりのない声色で何かを思い出したものだから

      は驚きを隠せず素っ頓狂な返答をすれば、やはり笑って言葉を続けた。


      「土方君と試合していつもよりも疲れてしまったからね。甘いものが欲しくなったよ」


      その顔にはもうこの話は終わりにしようと無言で告げているように感じられる。

      もう、この話題は良そう。

      これ以上、続けて山南を遥か遠くに追いやりたい訳ではない。


      「生徒の母親にもらった甘納豆がある。一緒にお茶でも飲みながら、

       ゆっくり話でもしようじゃないか」


      寧ろ、ずっと傍にいたい。


      「もちろん、付き合ってくれるよね」


      この気持ちは彼には届いているのだろうか。

      無邪気に笑う顔は時に妖しげで、彼女をこれ以上身動きができないほどにさせる。


      「はい!私、お茶いれてきますねっ!」






      池田屋事件の当日のようにお盆を山南の部屋まで運ぶ。

      ただ、あの日と違うのは、その上に乗せている白い湯気を立てた急須と二つの

      湯のみ茶碗だった。

      彼が平静を取り戻してくれるのなら、何だって良い。

      こうして茶を注ぎ、会話が弾めばもう一度あの笑顔に会えそうな気がした。


      「お茶、淹れてきましたよ…」


      障子を閉めて向き直ったを山南が熱く見つめる。

      そんな表情を見るのは勿論初めてで、無意識に頬が火照ってしまうのが分かった。


      「…君」


      彼が自分を呼ぶ声が何だかとても甘く感じられる。

      こんな時、何て返答すればいいのだろうか。

      ただ普通に返事するだけでは物足りなさ過ぎる。

      そう考えていれば、山南がこちらまで歩み寄り、体が過剰にもガクガクと

      震え出した。

      彼は一体、何をするつもりだろう。

      考えれば考えるほど、自分に都合の良い事ばかりが脳裏を過ぎる。

      山南がそんなことをするはずがないと解っていながらも瞳を逸らせない。


      「君」


      もう一度、囁かれた声に我に返れば、目の前に彼の端整な顔立ちが至近距離を

      保ったままこちらを凝視していた。

      本能に逆らっているの理性を一触させた。


      「山南、さん?」


      ようやく彼の名を呼べたのも束の間、その腕に抱きしめられ一切の身動きを

      封じられてしまった。

      鼓動は先程よりも高鳴り、逆流した血の巡りは彼女の思考回路を破壊する。


      「きみに聞きたいことがある。君…きみは一体、私をどう思っているのだろうか?」


      「えっ…」


      「少なくとも私は以前からこうして君を抱きしめたかった。きみが他の誰も

       瞳に映さないように…」


      埋めた胸からは激しく脈を打っているのが聴こえる。

      「もし、私のことが嫌いならば、この場で突き飛ばして欲しい。でなければ、私は」


      赤らんだ頬は、いつもの山南とは違う魅力を鼓動と共にへと伝える。

      最早、これが出来過ぎた芝居か遊びの類とは考えられない。

      その前に彼がそんな遠回りで何かを求めてくるだろうか、と不意に思えば即答で

      首を振った。

      そんなことをする人物ではない、と信じる気持ちと隊士生活の中で垣間見ている性格から

      容易に理解している。

      何かの間違いの類だと意識的に願ってしまうのは、この幸せに自分が値するわけが

      ないと非難しているからだ。


      「愛して…います…」


      彼女は抱き締められた体に今度は抱き締め返すと、同じく赤みを帯びた顔で

      彼を受け止めた。


      「んんっ…」


      寝具の上に優しく押し倒され、その上に覆い被さるような姿勢で唇を求められる。

      初めての口づけなのにそれは序所に動きを激しくさせ、いきなり舌を差し込まれた

      ことで、本当に抱かれるのだなと今更ながら確信した。

      容赦なく、絡め取られた動きからは温厚な山南の性格が想像もできなくて、これが

      本来の荒々しさとすれば、少し彼が知れたようで嬉しかった。


      「あ、山南さん」


      唇を離され、再び彼を瞳に宿すと辺りが滲んで見えた。

      血のように唇の端を流れる互いの赤い糸が艶かしい。

      見下ろす視線が何だかとても遠くに感じられる。

      夕刻の屯所は賑やかなはずなのに、今は、体中に響く鼓動の速さしか耳に入らない。

      腕を伸ばせば優しく微笑む山南が幼子をあやすように接吻をし、濡れているの唇を

      ゆっくりと舌先で舐めた。


      「あっ、あぁっ」


      着物の上から触れられた胸の頂を確かめると、指の腹で弾かれる。


      「…きみが欲しい。君のすべてを僕に委ねてくれないか?」


      頬に触れた手は熱を帯びている。

      それは先程まで彼と共に飲もう、と盆に乗せて運んでいた急須とは全く違ったもの。

      こんな時に確認してくるだなんてズルイ、とは思ったが、何だかとても山南らしくて

      吹き出してしまった。






      「っ」


      「やっ」


      突然呼ばれた名前が耳元に囁かれ、体を大きく動揺させてしまった。


      「はぁ……ん、あぁっ」


      先程まで口内を犯した舌先は首筋を舐め、彼女の飲み込めなかった唾液がだらしなく

      流れる部分を強く吸われる。

      彼がわざと音を立て、赤々と火を灯すかのごとく、肩口を開かせたの鎖骨の辺りに

      印を刻んだ。

      その動きだけでも甲高い声を上げそうになって唇を何度も噛みたくなるが、押し寄せる

      熱情と下半身で疼く何かに阻止される。


      「あ、ああっ」


      唇がどんどん下がってきて胸の中心にもイヤらしい水音を立て、まだ形を変えていない

      頂を口に含み、空いている手で弄るように袴の上から彼女の中心を探し始める。


      「あっ、やだ…山南さんっ」


      胸の愛撫を覚えたばかりなのに、大きな掌を添えられたそこはやっと触ってくれた、とでも

      言いたそうに何かを溢れさせている。

      羞恥心がぼやけたの頭を呼び戻し、荒々しく袴を結び留めている腰紐を解いている

      手と彼女を扇情的な姿にさせている舌に抵抗することはできなくて、体を震わせながら

      その刺激に耐えた。


      「んぁ…あ……んんっ」


      待ちきれない指は半ば強引に割れ目を擦り、その中へと侵入した。

      片手で袴を取り去れば淫らにも指に犯されている場所が彼の目に飛び込む。

      そこは差し込まれた指を十分に濡らし、寝具の上に欲望をボタボタとイヤらしく

      垂らしていた。


      「あっ、ああっ」


      「大丈夫、力を抜いて…」


      優しい言葉とは裏腹に侵入した指は勢い良くの中をかき混ぜ、彼女が背を反らせる度に

      その本数を多くしばらばらに動かした。


      「…そろそろいいかな」


      「ひゃう…!」


      独り言のようなことを言ったかと思えば、指を引き抜かれた。

      まだ、下半身の火は消えていない。

      それを失った場所は、はしたなくもヒクヒクと新たなる刺激を待っている。

      思わず甲高い声を上げてしまった自身の口を手で塞ぎ、乱れた吐息を篭らせた。

      これ以上、山南にこんな声を聞かれたくない。

      だが、そんなささやかな抵抗も無駄で、股の間に腰を下ろした彼に両手首を

      拘束されてしまった。


      「いたっ!」


      宛がわれた欲望が一突きすれば、自然と表情を歪めて短い叫びを上げる。


      「力を抜いてご覧」


      「はぁ……あっ、ああ!」


      こんな格好は恥ずかしいと言いたいのに、口を開けば喘いでしまい首を

      左右に振った。

      腰を動かされればされるほど、更なる激痛が全身に走る。


      「は…ぁ……くぅ、はぁはぁ……」


      見上げた彼の顔は苦痛で歪み、視線が合えば唇を降らせ熱い舌を絡めてきた。

      きっと、自分のものも山南と同じようになっている。

      腰を進める度に吐息の量が増えても激痛が快感に変わっても、は幸せだった。


      「…やぁ、んぅ」


      「はぁ、はぁ……っく」


      次第に曇ってきた眼鏡を外し、胸の突起を一舐めして甘く噛む。


      「はぁ…っ…愛している」


      内壁が彼女の中にいる彼を締め付ける。

      その力の強さに互いに限界を超えてしまった二人はそのまま寝具の上に倒れ、

      ただ激しい息と共に互いの肌の熱が次第に冷めるのを待った。

      他人の温もりが、汗がこんなに愛しいと思えたのはきっと、相手が山南だからだろう。

      彼も恐らく同じだろうと彼を見上げれば焦点があまり定まらないのか虚ろな目と

      視線が合い、また頬が熱を帯びる前に額に軽く唇を寄せられる。


      「あ……はぁ、はぁ、はぁ」


      「はぁ、はぁ…」


      同時に放たれた彼の想いは、消えていく記憶の中でに向かって囁いた。


      「愛しているよ・・・この先、何があっても」


      「嬉しい…」


      もしかしたら、情事の汗と共に瞳から流れた涙は、何が起こるのかを予知していたの

      かもしれない。

      それを知る由もない二人は、この幸せな時間を互いの熱と呼吸に身を任せて

      眠りに着いた。






      時刻は夜。

      昨日とは違ってしっかりと夕食を済ました山南は先日と同様に塾の模擬試験の採点を

      していた。

      今日は朝から総長としての仕事の量が多かったため、こんな時間まで机に向かっていた。

      その隣には、昨日と同様に茶を運んできた彼女がいる。

      点数を表記してから筆を起き、から湯飲み茶碗を受け取った。


      「お疲れ様です」


      「ありがとう、


      受け取った湯飲み茶碗は温くて今時期ちょうど良い。

      彼は一口含んでから彼女を抱き締め、その唇を奪う。

      昨日とは違って性急な口づけは舌を直に差し入れ、早くも互いを欲し始めた。

      今は、皆が寝静まっている時刻だ。

      寝具は勿論、用意されている。

      それを期待していたのか、茶を運んできたは白い夜着姿だ。

      押し倒された彼女にもう一度、愛しているよと頬に接吻を送る。


      「きみだけが私を癒してくれる大切な存在なのだから…ね?」


      夜はまだ長い。

      今宵は昨日とは違って荒々しいことを予想してため息を吐くと、山南の眼鏡を外した。









      ―――…終わり…―――









      
♯後書き♯

      
「雲煙過眼」山南編はお楽しみ頂けたでしょうか?

      こちらは私の友達であるめいめえ様の「『幕末恋華 新選組』フルコンプ」記念に

      作成したものです。

      設定は「山南VS土方」の「錆びた心」のイベントで、彼女を巡っての勝負だったらと

      いうリクエストでした。

      個人的には彼が荒々しく抱く場面を書いてみたい気もあったのですが、土方編同様に

      話が長くなってしまったのでキリが良いかなと思い、止めて置きました♪←嘘つけ!

      
最後になりましたが、めいちゃん、『幕末恋華 新選組』フルコンプおめでとう!

      今作をせめて夏の思い出の一つにしてくれると嬉しいです。