「さんっ!?承知しました!!」
黄色い残像が何回か互いのコートを行き来したかと思うと、いきなり激しい音が乾の
方から聞こえてきた。
二人は両の肩で息をしている。
着ているものはすべて汗で濡れていて上半身は赤く火照った地肌に吸いつく形に
なっていた。
スポーツに詳しくないは彼らの疲れきった表情を窺うことしか出来ない。
「さすがだな、教授。……完敗だ」
乾は彼女の気持ちを察したように声を発した。
「えっ?」
だが、それは彼達がこのスクールでダブルスとして組んだ時の声と何ら変わっていな
かった。
蓮司は首を左右に降り、右の掌を少年に向けて差し出す。
それは、勝者の特権とも言った形に取られるかもしれない。
「いや、貞治と俺の力は五分五分と言ったところだ。危うく、負けてしまうところだった」
彼は苦笑すると、差し出されたそれを握り締め、彼女に向かってお辞儀をしてからス
クールの方へ走り去ってしまった。
それを見送る二人には何の迷いもない。
コート上に一人残された参謀は汗も拭わずにこちらへ振り返った。
少女は頬を火照らせながらもその傍に駆け寄ると、遠慮がちに長身の少年に身を寄せる。
ずっとこうしていたはずなのに、今日は何故か違う感じがする。
見上げれば、蓮司が降らせた唇と静かに重なる。
その瞬間、彼女はそれが何故なのか解ったような気がした。
これまでの姉と弟ではなく、一人の女と男として触れ合っているからだった。
「……俺にお前のすべてをくれ」
自宅に戻った二人は彼の部屋に行くと、何度も唇を確かめ合った。
今夜は、父親は仕事で母親は高校時代の同窓会で帰るのが遅くなると言っていた。
布団の上に優しく押し倒されると、蓮司に組み敷かれているのがとても恥ずかしくて
瞳を背けてしまう。
彼のことは嫌いではない。
むしろ、「愛している」という領域に到達していた。
だが、彼女にはそれを素直にYesと言えない理由がある。
お互いを求め合うということは今まで誰にも晒すことを許さなかった背中の傷跡を見せる
ということに繋がる。
「でもっ……私には」
どう言ったら、この少年は納得してくれるだろうか。
今だって、視線が注がれているのが解る。
彼を否定しているわけではない。
鏡越しに見るのも厭だった。
背中に残った黒い翼が自分から家族を奪ったのだ。
あの後、病室にやってきた医師から両親が出血多量で即死状態だったと聞かされた。
僅か五歳でそれを理解することは出来なかった。
だが、それでも彼女を抱きしめてくれる二人の存在が遥か遠く手の届かない場所に
逝ってしまったことを何とか理解しようとしていた。
家を襲った犯人の青年は、覚せい剤の禁断症状で殺人鬼と化してしまった廃人だった
らしい。
少女は天涯孤独の身となってしまった自分を守るためにどんな努力も惜しまなかった。
入院している最中、大人たちの話し方に聞き耳を立てながら敬語を勉強し、捨てられ
ないように笑顔の練習もした。
小学校に入ると、毎日下校してから寝るまで勉強をして何とか名門と言われる藍青高校
に入り、いよいよ来年には社会人になる。
このまま偽善と言った仮面を被り続けていたら、どんな未来が待っているだろうか。
だが、その場所には何の可能性も落ちてはいないだろう。
「俺がに好きだと伝えた時に言っただろ?お前の過去を知っていると。だが、俺は
そのすべてを俺の愛しているお前だと思っている。この十五年間生きていた中での
柳
とその三年前のも俺は受け止める気だ」
「蓮司さん…」
答える代わりに彼女の額にキスを落とし、それから口内へ侵入した。
器用な手先で青地のチェック柄ノースリーブのボタンをすべて取り外し、薄いシャツ
をめくり挙げると姿を露わにした胸を攻める。
唇を開放されると二人の間には銀の糸が運命のように見えた。
自らの上半身に着ていたモノを脱ぎ捨て、急激に変化した頂を口に含み新たな刺激
を与える。
それに対して甘い吐息を口にするのが多くなり、少女の体を女性に変えた。
刺激を与えるたびに涙を浮かべる瞳はどこか艶かしく彼自身を一気に昂らせる。
だが、まだを楽しみたいという欲求があり、甘噛みしたり舐め回したりした。
シーツを握り締めながら甘い痛みに耐える彼女の瞳から溢れ出た涙が一筋流れる。
その行為でどこか遠く行ってしまいそうだ。
「んぁ」
花柄のロングスカートの中に手を入れると、ぐっしょりと湿っている少女自身が彼の
訪れを今か今かと待っている。
「あっ…ダメ。そこは…あっ」
「好きだっ……愛している」
秘部を一撫ですると、残った下着を取り去り、自らの昂ったモノを取り出して彼女の足を
開かせた。
自身を宛がった彼は彼女の腰を掴み、自分のモノも激しいリズムを刻むように動かす。
だが、それだけではこの少年の満足には不十分だった。
「っ、俺に…背を見せるように四つん這いになってくれないか?」
「そんなっ…こと……ああ」
「お前を本当の意味で抱きたいんだ。頼む」
その姿勢になることは彼に恥ずかしい部分を見られるだけでなく、黒い痕跡を見せる
ことに繋がる。
誰にも見せたくないその部分たちを少年の前にさらけ出すことはなかなか容易いように
思えるが、そうもいかない事情がこの少女にはある。
しかし、目の前にいる連司は苦笑しながら自分を宥めている。
恐らく分身が彼を激しく締めつけているのだろう。
限界が近いのは自分だけではない。
一つになったことで、気持ちまでもが繋がったようで心の底から嬉しかった。
あれからには心を許せる者など誰もいなかった。
唯一、それが緩んだのは柳家といる時だろう。
彼らと過ごした時間だけは上辺ではない自分でいられた。
そして、今はこの十五年間弟として接してきた男性と一つになっている。
「っ……俺は、この傷もすべてお前を愛している」
恐らく心臓一突きで即死させようとしたのだろう。
今は他の肌のように白いが当時は生生しかったに違いなかった。
それを舌で丁寧に舐め上げ、キスを降らせる。
腰を撃ちつけながら背中への愛撫を止めなかった。
確かにおしとやかな彼女には不釣合いな代物だが、この黒翼も自身である。
舌先でそこを攻めるたび、彼女の声色が次第に快楽に満ちていくのが解った。
だらしなく垂れ下がった胸を腰の代わりに掴む。
両の中指で頂を刺激すると、がさらに速度を上げた。
彼女の中にいた自身をいきなり強く締めつけられ、限界の近かった蓮司は思いの丈を
解き放ち、崩れるように果てた。
「父さん。母さん。俺達、将来、結婚しようと考えています」
翌日、朝食後、彼は両親を前に真剣な眼差しでそう言った。
二人の間には繋がった掌があり、それがその意思の強さを伝えた。
リビングのソファーに腰を下ろしながら食後のお茶を楽しんでいた両親はテーブル
に湯飲み茶碗を置き、TVを消した。
「やはり、もう、解ってたんだな」
「はい」
「後悔はしないわね?」
「はい、俺達は共に生きようと決めましたから」
絡めた指をぎゅっと握り締める。
年老いた夫婦は互いの顔を見てからゆっくりと縦に首を振った。
それは了解を意味するのか、は思わず生唾を飲んでしまう。
本当の両親の実家は彼女が生まれる前に絶えてしまった。
そのためこの少女が天涯孤独に放り出された当初は孤児院に手渡す予定だった。
だが、の父親澪の同僚であり友人であった蓮司の両親が是非養子に欲しいと担当
医師に申し出た為それは見事に阻止されたのだ。
あれから十三年。
自分はこの人達に何を報えるだろうか。
それをずっと念頭に今までやってきた。
だが、それが返って彼らを苦しめていたようだった。
「ふふっ…変ね。ずぅっと昔から娘に「お母さん」って呼ばれていたのに今日からは
本当の意味で「お義母さん」って呼ばれるのね」
「お義母様……っ、ありがとうございます」
目尻に涙を溜めた育ての母に思わず抱きついてしまう。
それは、今までの中で一度も見せたことのない姿だった。
「これからは幸せになるのよ」
「はいっ」
涙を流す彼女を蓮司の元へ戻すと、自らも夫の胸に凭れた。
「法律的には後三年間は待たないといけないが、それでも待てるのだな?今のまま
の気持ちで…」
「いいえ、父さん。それは無理と言うものです」
その言葉を耳にした二人の表情が険しくなったのは敢えて言うまでもない。
だが、彼達にとっては、それは計算どおりだった。
「三年後は、今よりも愛していますから」
―――…終わり…―――
♯後書き♯
こんにちは、冴えない管理人の柊沢です。
今回は初VSドリなので、かなり手こずりました。(爆)
手首の不調が続いて口を開けば、「痛い!痛い!」と繰り返しています。(汗)
この作品の背中の傷は歌詞から頂いてきてしまいました。
と言いましょうか、耳にした途端、こんなヒロインにしてみようと言う気で作業しました。
しかし、私がVSドリを書きますと偏りますね。
実際、乾編は夜明けのシーンで終わっているのに対して柳編は両親に結婚すると宣言させ
ちゃいました。
「ジュン・ブライド」を意識したわけではありませんが、今回の作品で結婚にまで話が
進んだのは手塚作「続・年齢と身長の間で」で二作目です。
それでは、皆様のご感想を楽しみにしております。