夕星 ―Yu_zutu―

      静かな真冬の夜。

      一人の青年は床に就いたまま眠れずにいた。

      男の名は近藤勇。

      新選組の局長を務めてはいるが、普段は気さくで物怖じをしない性格な故、


      隊士達からの 人望が 篤い存在である。

      だが、先日、不意打ち過ぎる敵方の射撃により肩の骨を砕かれた上に今までの


      ように刀を持 つことが できなくなった。

      命からがら逃れて屯所まで帰ってこれたものの彼にとっては死も同然の現実


      が待っていたこと は 言うまでもない。

      しかし、それを表に出せないのは局長の辛い所だろう。

      肩の負傷が新選組内に広がってもいつもと変わらぬようにと務める姿に感動する


      ものもいれば、それ 故に不安に思う者がいる。

      そう、例えばである。

      彼女は入隊した頃から紅一点の存在だったので、近藤も何かと話す機会が

      多かった。

      だが、それがまさか、恋に発展するとは誰が想像しただろうか。

      は今まで近藤が目にしてきた女性とは根本的に覆された逸材かと思えば、本来


      の感受性を露わ にさせる。

      彼が敵方の射撃を受けた当時、肩の激痛を堪えて彼女と少しの逢瀬を土方を

      通して繋いだ。

      薄い障子越しに現れた心の中で惚れている少女は気丈にも泣いてはいなかった。

      だが、目元はこちらを見据えたまま険しくしたままだ。

      あぁ、だから、自分はという女人にここまで愛しさを感じてしまっているの


      だろう、と思わず笑ってしまった。

      今は肩の痛みよりも胸の痛みが逆に苦しかった。

      彼女を手に入れたいと思うほどに江戸に残してきた妻と娘の顔がちらつく。

      彼は独身ではなかった。

      江戸に残してきた妻は、近藤家の財産とも言える天然理心流の道場を守ってくれて

      いる。

      その彼女にすまないとは思わないのか。

      それは今まで遊女に恋をしながらいつ死を迎えることになろうとも苦には

      残らないようにと
逃げていたのかもしれない。

      しかし、彼はいつも真剣で恋をしていた。

      それを相手も返し、いつか散り行く人生に一期一会を感じていたのかもしれな

      かった。

      蛍のように儚く…、桜の花びらのように美しく…。

      もし、その時が来るとしても、誰かは覚えていてくれるだろうか?

      この幕末の世を駆け抜けた新選組という壬生浪士隊のことを…。

      今まで何百とも言える同士達を失った。

      その中には、友人の山南敬介や藤堂平助もいる。

      だから、局長である前に一人の男である自分は、どんなに辛くても想いを遂げる

      ことは許
されない。

      だが、あのまるで猫の目のような感情の早さに追いつけず、気がついていたら咲い


      ていたと言うのが 現実である。


      「近藤さん…」


      何故だろうか?


      彼女が自分を呼ぶ声に次第に惹かれていく。

      きらびやかに着飾った遊女でもなく健気な仕草が可愛らしい町娘でもないのに…。

      それを本人に話してしまえば怒られてしまいそうだが、近藤自身訳が解らな

      いのである。

      何故、隊士であるを選んでしまったのか。

      確かに物珍しさがあったのは事実だ。

      しかし、それだけでは済まないのが恋愛沙汰と言うものである。

      強く閉じていた瞼を一斉に開く。

      目の前に広がるのは漆黒の闇と寒々とした空気。

      まだまだ夜は寒い季節だから仕方がない。

      考えあぐねているからだろうか、それとも単に夕方から寝た所為か眠気がすっかり

      覚めてし
まった。


      「うっ!」


      目が覚めた瞬間に肩の痛みを思い出した体は直ぐに脳に伝達する。

      思わず顔を顰め、左手でそれを抑えた。

      呼吸をする度、この傷も自分と同じく生きているんだなとどうでも良い事を

      考える。

      小さく呻いたつもりだが、何だか部屋中木霊しているように頭の隅々を駆け巡って


      いる気分に さえなる。

      もう、自分は長くはないのかもしれない。

      人間、必ずしも体内には強い心と弱い心がある。

      彼もその中の一人だが、強い心の方が抜きん出てしまうため弱さは微塵にも

      現れない。

      だが、そんなことを他の隊士に口走ることなんてできはしない。

      他でもない局長であるから。

      平隊士ならまだ何でも言えることが許されていた。

      だが、局長ともなれば違う。

      今日は味方でも明日には敵かもしれぬ中で生活を共にしているのだ。

      戦の中では甘えや弱さなど許されない。

      それは十分心得ている。

      だから、いざとなったら自分が身を挺してもこの新選組を守る。

      なのに…、何故、自分はその中の一人の女性をこんなにも愛してしまったの

      だろう。

      彼女がいるから守りたいのかそれとも元よりの事情なのか。

      それさえも今では解らなくなってしまった。


      「はははっ…」


      思わず笑いがこみ上げてくる。

      いつからこんなに弱くなってしまったのだろう。

      一人の女性を深入りするほど愛してしまったから?

      それとも…今更になって弱腰になったのか。

      戦に於いてそんな考えなど許されないことなど知っている。

      だが、今の近藤には何もかもが判らなかった。

      何十年か振りにどうしようもないくらいに愛してしまった異性は、一回り以上も


      離れた年下 の少女 で隊士の中の一人。

      隊士を少しでも多く守りたいと思うのは当たり前だ。

      しかし、彼女を誰よりも守りたいと思ってしまう邪な考えが自分の心を巣

      食っていた。

      それは一般の男なら当たり前なことだし、そうするべきだと諭してやりたい。

      でも…、そんなことをしてやれないのが悲しい現実だというものだ。

      いつかはこの願いが叶う時代がやってくるのかもしれない。

      だが、今の世はそういった個人の思想が果たせないのが当たり前なのだ。

      ならば、この近藤の気持ちが理解できるであろう。

      普通の女性なら泣いて縋りそうなことが待ち受けていても、自ら共に散ること

      さえも選んでし
まうだろう。


      「くっ……ちょっくら、月見とでも洒落込もうか」


      布団から起き上がるとやはり、張りつめたような空気が今もまだ覚えたての

      痛みを攻める。

      軽く羽織に袖を通したまま障子を開ける。


      「うわっ、さみぃ!」


      冷め切った空気がその隙間から溢れ出してくると思わず手を止めてしまった。

      慌てて両の掌に息を吹きかけ、摩擦を起こす。

      昔、冬場の農作業でこうすると温かくなることを覚えていた。

      こんなことを覚えていると、武士の出じゃなくて良かったかなと思えてくる

      から不思議である。

      少し両手に温度を感じると、隙間風を呼び集めている障子の取っ手を掴む


      がそれでも遠慮がちに 押し開いた。

      障子が軽い音を立てて開くと、埃臭いような気の温もりのようなものが鼻に

      立ち込める。

      軽い音のはずなのに今の彼には何故か重々しく聞こえた。

      まるで、弱りきった心を戒めているかのようだ。

      
笑みを漏らすと、何だか泣きたい気持ちになってくる。

      江戸に残した家族には何て言えば良いのだろうか。

      遥か彼方の空を見上げれば上限の月が山の端に消えそうでまだ天のお傍にいたいん


      だと言わん ばかり に浮かんでいた。

      自分も今の状況はあのようなものかと思えばまた笑いが口元を過ぎる。

      今夜は些か変だ。

      いや、あの日から…彼女に出会ってしまった瞬時に何かが音を立てて崩れて

      しまったのかもし
れない。

      何が可笑しい訳でもなく、ただ、消え行く星に別れを告げている。

      いつかは自分もあの中に入るのかもしれない。

      だとしたら、そこで待っていてくれるだろか?

      いつかは解からない終わる人生に、誰かは付き添ってくれるのだろうか。

      そう、例えば

      何故、こんな時でさえ彼女が出てきてしまうのだろうか。


      「なぁ……俺はどうしちまったんだろうな」


      「近藤さん?」


      問いかけても答えが返ってこないはずの月に、迷い子のように話しかけてみた。

      結果的に、このいい歳の大人はこうしてどうしたら良いのか出口がなかなか


      見つからない 迷路の 中から見上げている。

      いつだって月は空にあるから。

      その優しい光に甘えてしまうのは彼だけではないだろう。


      「えっ?」


      しかし、あろうことか返答が掛けられてしまった。

      上限の月を見上げていた目線を円を描くようにずらすと、そこにはもう同期の友人


      たちよりも深く 考えてしまっている人物がこちらを心配そうに見ている。


      「君…」


      彼女はじっとこちらを見つめた後こちらにゆっくりと歩みを進める。

      その歩き方はいつも男臭いこの新選組で剣を振るっている勇ましいものでは


      なく、先程まで近藤の 頭の中にいたはずの妻のものだった。

      自分がこんなにもいつまでもだらしなくグダグダと考えていた所為だろう。

      ついに目にするすべてのものに彼女を感じずにはいられなかった。

      これも天が彼に下した罰なのかもしれない。

      そう思うと、仕方がないと苦笑いを浮かべるほかどうすることもできなかった。

      今、目にしている現実がもし単なる幻覚だとしても、近藤は逃げたくはない。

      これまで何度この禁じられた想いを否定してきたかしれない。

      だが、が傍にいてくれるたびに家族と共にいるように落ち着き、それ以上に


      愛おしさ感じてしまうの は変わりようはなかった。


      「どうしたんですか?こんな時間に…風邪でも引いたらどうするんですか」


      そう言って、自分が袖を通していた羽織を彼に掛けようとする手を握っては首を

      左右に振る。


      「俺は良いんだ。それより君こそ風邪を引いちまう」


      「私は大丈夫ですよ。それより近藤さんの方が駄目じゃないですか!怪我人

       なんですから」


       弱音を心に抱きながら、視線を再び天に戻した。

      正直に言えば、彼女の曇りのない瞳を直視することが怖かったのかもしれない。


      「今夜の月は…キレイじゃねぇか」


      話題を逸らしてみる。

      まるで、自分のような月はまだ天に昇れるはずだと足掻いているが、それでも少し


      ずつ山の端に 消えようとしていた。


      「えぇ、本当に」


      すると、はすっと彼の隣に座る。

      それを知っていながらも精一杯の理性で素知らぬふりをして月を眺め続けた。

      袴の裾を気にしながら腰を下ろす瞬間の布が擦れる音に思わず息を呑んでしまう。

      視線をそっと本人に気づかれないように横へと動かすと、天を仰ぐ少女が悩ましげ

      に月を眺
めていた。

      普段可愛いと思っている存在がこうすると、ほかの女性にも劣らないほど美しく

      なる。

      見上げた瞳に映る月は行き場を失い、ただ彼女の虜になっている。

      それも自分と同じだなと思うと、自然と「キレイだな」と口に出してしまった。


      「はい…」


      少女は天を仰いだまま相槌を返す。

      ほんのりと頬を赤らめながら。

      自身はそれにまったく気がついていないらしく、瞳に月を宿したままだ。

      やはり、は分かってはいない。

      彼女はこれだけの男に囲まれた中で生活しておきながら本来の感情の一部が

      低下していた。

      つまり、鈍感なのだ。

      しかし、自意識過剰よりは数段マシと言ったところだろう。

      その初々しさがまた堪らなく愛しさを募らせる。

      半分は否定して半分は期待をしてしまう。

      そう思っても良いのだろうか?


      「本当にキレイだな…」


      もう一度、言う。

      これ以上、理性を保つことなんてできない。

      少女がこの禁じられた想いに気づくまで何度だって同じことを言ってやる。

      それが妻子持ちの男、近藤勇が決断した瞬間だった。


      「…近藤さん」


      遠慮がちに視線を隣へ移してきたが驚く刹那、彼は勢い良く彼女の体を抱き

      しめる。


      「こ、近藤さんっ!?」


      衣独特の擦れる音と女性特有の匂いが耳を鼻を占領し、青年を次第に獣に変えて

      しまう。

      抱きしめた華奢な体は温かく、時が刻む度に鼓動が早くなっていった。


      「好きだ…君。君がどうしようもないくらいに好きだ」


      ついに言ってしまったからにはもう、後戻りはできない。

      だが、それくらいの覚悟は決めていた。

      だから、その結果がどうであれもう、あの場所には帰れないのだと腹を

      くくっていた。

      抱きしめる両の掌にはびっしりと汗が滲んだが、近藤はを離しはしない。

      逆に想いの分を表すかのごとく、腕に力を入れた。


      「きっ…きついです。近藤さ…」


      片目を瞑って抗議をする彼女の唇を自分のもので塞ぐ。


      「っ!?」


      想像していた以上に少女のそれは柔らかく、また肩の痛みと違った刺激が体中を

      駆け巡った。

      こんなことは妻以外に感じたことはなかった。

      それなのに、は友人達やまして家族よりも自分と出会って日が浅いと言うの


      に、いとも簡単にその枠の中に入って行き仕舞いにはなくてはならない大切な存在

      へと姿を変えた。


      「っ!?君」


      背中にこれまた遠慮がちだったが、その小さな手のひらはしっかりとした力

      で彼を抱きしめ
返す。

      その感触に思わず禁じられたキスを止めて、彼女の瞳を見つめてしまった。

      この展開には慣れたはずだったのに、思わず声を上げてしまったことに自らの

      口を片手で押
さえた。

      月が山の端に沈む頃、それは夜明けを指す。

      こんな場面を他の隊士に見られてしまえば何を噂されるか分からない。

      自分はどんな噂が立てられようと構わない。

      しかし、その方向がに向けられるのだけは我慢ができなかった。


      「…ちょっと、場所を移さねぇか」





      「私も……大好きです」


      自室に入ってから何度も唇が腫れるほどキスを交わした。

      彼女は熱に浮かされたような顔で甘い吐息と一緒に理性を捨てた。

      近藤に心惹かれてしまってからもずっと同じことを悩んでいたようだ。

      だが、先程の彼の姿を見てこの想いを忘れようとしていた。

      そんなことはさせない。


      「きゃっ!」


      背中の裾をぎゅっと掴んだままの彼女をそっと自らの布団の上に押し倒すと、

      こんな時に言うべき 言葉ではないだろうが、素直にその法則に従った。

      近藤が起き上がってから何時間が流れたのだろうか。

      再び戻ってきた主を迎えたそれは使用前の冷たさに戻っていた。

      しかし、は妙に顔を赤らめている。


      「ん?どうしたんだい」


      「あっ…あのっ、近藤さんの匂いがして」


      「そりゃ、俺がさっきまで寝ていた布団だからね。何かな、俺の匂いって臭い?」


      「いえっ、そんなんじゃ……ただ」


      「「ただ」?」


      彼女の手の甲に啄ばむようなキスをする。


      「ずっと好きだった人の匂いがしてとても嬉しいなぁ…って」


      「それは光栄だね。でも、それは俺だって同じだよ」


      赤らんでしまっている頬を撫でる。

      やはり、少しの時間でも外に出ていた所為かその色とは対照的に冷たかった。


      「すっかり冷たくなっちまったな。俺の所為だな……すまない」


      謝罪の意も込めて額にも手の甲同様に啄ばむようなキスを施す。

      自分の唇はとの口づけで温まった。

      後もう一ヶ所温まりきってしまった部分が今、彼女を欲しがって彼から残っ


      ている理性を奪い去ろう としている。

      間違いなくは処女だ。

      それは経験者である近藤にはすぐに分かった。

      だから、少しでも怖がらないように安心させてやりたい。

      これがせめてもの彼が彼女にしてやれることだった。

      だが、いくら経験者とは言え、所詮一人の男である。

      愛しい女性がいれば、触れたいと願うのは極自然な行為だ。

      暴走するこの想いを遂げたいと近藤を締めつけては、自己を主張する。

      を組み敷いてその匂いが鼻を掠めるたび、まるで初めて女性を抱くように早く脈


      打っている。

      頬にある手の上にそれと同じ温度を保った掌をそれに乗せると、彼女は先程

      の彼と同様に首
を振った。

      「いいえ…私、近藤さんならちっとも怖くありませんから」


      「あっ、あ……あんっ…近藤さっ……」


      夜明け前。

      真冬の早朝は遅く、隊士達誰一人も起きてはこない。

      もし、この寒さで目が覚めても布団から起き上がるには時間が掛かる。

      近藤の自室ではそれでも声を殺しているのか、艶かしい音と声が包んでいた。

      生まれたままの姿でじゃれ合っている。

      口内を堪能した絆をいやらしくも引きずり、鎖骨の中心に赤い傷を施した。

      感度の良い体はそれだけの愛撫でも震える。

      そんなが愛しくてつい本気を出してしまいたくなるが、それはできなかった。

      初体験だというのに、嫌な思いをさせることは体のどこかに残っている理性

      が拒んでいる。


      「やっ、やぁ…」


      胸の頂を赤ん坊のように吸い上げるのと同時に舌と甘噛みで攻め、もう片方の手

      のひらで彼女の 膨らみを覚えるまで厭きもせず揉み回した。


      「そんなに俺が嫌かい?」


      硬く尖った頂を指先で突っついてそれを囲むように円を描く。


      「ひゃう!」


      「ははっ……そんなに声を上げると、他の奴らに聞こえちまうぜ」


      「それは…もっと……やですっ」


      つい、愛しさが強いほどこうして確認したくなる。

      本当に自分なんかで良いのか。


      「俺も困るな。君の声が俺以外の奴に聞かれちまうのは」


      頬には滴り落ちる涙が数滴瞳から溢れ出していた。

      きっと、今、彼女の中では視界がぼやけて自分がどんな姿でいるのか分から

      ないのだろう。

      桜色に染め上げた体がとてもキレイだ。


      「はぁ……あっ…」


      既に彼の言うことを忠実に利いているを開脚させ、湿り気を帯びている秘部に指を

      入れ、甘 美な音 を立ててかき回す。

      その度に彼女が鳴き、物欲しげに彼を見上げた。

      近藤もそれに答えるように泉の中の指を休ませることなく深いキスをする。

      下半身と同じく舌を彼女のものと絡めるが、やはり自分の敏感な部分を攻め


      られている所為か、 その動きは最初に交わした時よりも遠慮がちになっていた。


      「……んっ、ぁ…近藤さっ…ああ」


      唇を離せば銀の糸がだらしなく顎を伝っての首筋を濡らした。

      濡れた声が彼を呼んで自ら口づけを求める。

      息が乱れた状態でするキスは深いものよりも自我が保てなくて、それで言っ


      てもっと相手が 欲しくなる。

      もう、十分に潤った秘部から指を抜き去り、彼女に大丈夫と諭すかのように抱き

      しめた。


      「ふあ…っ……ああ、あ…っん」


      自分が抱きしめる力強さとがその激痛に耐える切なさが繋がった場所から伝

      わって体中を駆
け巡る。

      艶かしい水音が確かに彼女が上げる喘ぎ声と共に近藤の中に響き渡る。


      「あっ、あ…あ」


      次第にこの痛みが快楽に感じてきたのかそれとも絶頂を迎えようとしている

      のか、は自ら腰を 動かしてぎゅっと抱きしめていた腕を和らげ今度は何かを強請る

      ように両手で彼の顔を覆った。

      彼女はこんな色っぽい顔をしていただろうか?

      体を桜色に染め上げまるで男を誘うかのごとく、切なそうな目でこちらの

      心意を射抜く。


      「…近ど……う……さっ」


      が自分を呼ぶたび唇にキスをした。


      「あっ、あ…っ…あああっ」


      彼女が甘く鳴く度、その名を呼んだ。

      愛しているから自分のものにしたい。

      愛しているから壊したい。


      「……んぁ、あああ…っ」


      白濁の欲望をの中に放った。

      本当に愛しているから…。






      本当は外に出すはずだった。

      しかし、それでは隊士中に自分達の関係を知られてしまう。

      薄暗かった部屋中に行灯ではない明かりが点される。

      それは目覚めたばかりの天に昇る太陽の寝ぼけた光。

      自分の腕の中で寝入ってしまった少女を起こさないように着物を着させると、


      まるで何事もな かった かのように障子を開ける。

      先程まで見上げていた位置にはもう、上限の月はいなかった。

      だが、それとは違ったものがぽつんと小さく天上に輝いていた。

      それは、夕星。

      遥かな空の上で薄らいでいく金色の光がやがては消え行く運命であることを


      まるで、伝えているよう で戒めているようにも見える。

      先程までの彼ならば打ちのめされていたことであろう。

      しかし、今は、怖くはない。

      確実に自分はこのまま突き進んでも死に直結しているだろう。

      だが、敢えてそれを選ぼう。

      例え、この身が明日で終わってしまっても家族を…愛するを守っていこう。

      近藤がふっと笑顔を返すと、夕星はどう受け取ったのか山の端に消えて行った。









      ―――…終わり…――― 









      ♯後書き♯

      はぁ……久しぶりに「テニスの王子様」以外のジャンルをしかも発売されて


      から二月も経って いない 時点で作業しました。←ホントお疲れです

      今作は、バレンタイン企画によりお届けしました。

      実は以前にも申したかと思いますが、私は山南さんを最初にクリアしたために


      彼のEDは感動 はした もののぐっと来ませんでした。

      ですが、彼とは違って今度は一緒に逝く事が出来たのだから私はそれで幸せ

      なのではないか
と「良かったね」と連呼してしまいました。

      今回、初にして裏Dream小説にしたのはなぜかと仰られますと、やはり近藤さん


      が篠原(あの 件以来 私は徹底的に嫌いになりました)に撃たれてしまって

      屯所に帰ってきたシーンをどうに かしたくてこうして作業したというわけですが、

      いかがだったでしょうか?

      このタイトル『夕星』(ゆうずつ)とは宵の明星…つまり、明け方の西の空に輝く


      金星 を 意味します。

      
それでは、長々となってしまいましたが、バレンタインの甘い夢をご覧下さり

      誠にありがとうございました。