ねぇ、さん。


         「希望」ってどこにあるんだろう。

         また、藪から棒にごめん。

         だけど、俺は、一人ではそんなことさえ解らない。

         閉じ込められた覚めない悪夢…光を遮られた掌……憑かれた体。

         俺は誰にも何かをしてやれない。

         そして、無力な自分を認知していた。

         認めたくないと逃げていても結局は、あいつの掌で踊っているだけ。

         「希望」なんてどこにもない。

         もっとも、俺達になんて舞い降りては来ない。

         そんな風に幼い頃から言われ続けていた。

         好き勝手に生きているように見える紫呉やはとり……兄さんも

         実の所は足掻いている。

         そんなことを知ったのは、君がこの家に来た頃だった。

         俺達は呪いから逃げたくていつも逃げる方法を探している。

         本当は俺だって男の癖に泣きたいほど逃げたい。

         だけど、現実はこの抜け出せないラビリンス。

         出口なんてないんじゃないかって思う。

         だけど、そんな時に限って君の幻を見てしまうんだ。

         あの日初めてさんを見た瞬間に誓ったことから俺は逃げている。

         あの時だって、君を一人きりにしてしまった。

         融通の利くようで「今」から逃げている大人なんかにはなりたくはない。

         だから、パンドラの箱に何も残っていなくたって良い。

         もしも、その中に混沌とした絶望があったとしても俺はさんがそばにいてくれ

         ればそれでいい。

         …自分勝手なことばかり言ってごめんね。

         でも、君が笑っていてくれるだけで俺がこんな幸せな気持ちになること

         なんてないから。

         草摩の家二居れば、確かに何不自由もない暮らしが送れるのかもしれない。

         だけど、そこにはさんがいないんだ。

         笑い声も俺を呼ぶあの声も。

         そんなのはごめんだ。

         あっ……何か、さりげなく凄いことを俺は君に言ってしまっているのかも

         しれない。

         多分、さんは気がつかないかもしれないけれど、この手紙を直接、渡す

         なんてことはできない。

         うっかり紫呉の手に渡っちゃったらお終いだからね。

         あいつは慊人と繋がっているし、名ばかりのようでちゃんと小説家なんていう

         仕事をしている所為か、感が鋭いから一発で俺が今言っていることが

         解っちゃうしね。

         それに、君に渡そうとは思っていないんだ。

         どうしてかって言うと、これは俺の気持ちの整理だから。

         こんな思いつくままの手紙なんて誰にも見られたくないしね。

         だけど、それだからこそ書けることもある。

         それは……



         …好きだよ。


 

 

 


         ♯後書き♯

         皆様、こんにちは。

         不肖管理人の柊沢歌穂です。

         由希君の三作目でようやく名前を呼ばせました。

         彼は普段完全であるので、ちょっと呼ばせるのには、間を置きました。
         
         さりげなくプロポーズもさせてみましたしv         

         少年のほのかな想いが皆様に伝わると嬉しいです。

         それでは、ご覧下さりありがとうございました。