2005年7月8日

ベネズエラ、21世紀の社会主義を構築

 スペインからの独立戦争時、ベネズエラ人たちは同胞たちに「vuelvan caras」と呼びかけた。「顔を振り返り、直接敵に面せよ」という意味である。そして、今、ベネズエラにとり敵となっているのはスペインではなく失業であり、ボーバリアン政権は「ミシオン・ヴェルヴァン・カラス」をもって、敵に直面するようベネズエラ人たちに求めている。ヴェルヴァン・カラスのホーム・ページにはこんな言葉が掲載されている。

 種子を生産できるようになるよう我々は種をまく。口にする食べ物、身につける衣服、必要な物品やサービスもだ。我らの内なる発展を停止させる経済、文化、技術への依存を打ち壊そう」

 多国籍企業が市場の規制緩和を手にしたことで、人民の人権や文化は思うがままに踏みにじられ、環境が破壊されている。労働組合や労働者の人権よりも低賃金労働が優先され、技術や資本の集中によって、地元の労働者たちは、教育、土地、市民社会から疎外されている。成長の利益が広く共有されていないことは明白だ。GDP、輸出、一人当たりの収入増だけを評価するマクロ経済学をもって、エリートが管理する政府は、再び新自由主義のレトリックを取り入れ、米国の企業利益のため、雇用、都市化問題、識字率、栄養失調率といった現実的な政策は放置されてしまっている。

 たしかに、多国籍企業の利益の点だけから考えれば、経済成長には意味があり、新自由主義は勝利していると言える。だが、内発的発展は、人間よりも利益を優先し、排除、貧困、疎外を永続させるこの経済モデルに挑戦し、その転換を描いている。内発的発展は、内なる成長により、国内の天然資源を消費・輸出ともに可能な製品に転換している。そして、教育、対等の労働者の関係、雇用の確保を通じて、人々を犠牲にせずに、社会正義や経済成長が実現できる道を切り開いている。

 リチャード・ゴト(Richard Gott)氏は『解放者の影(The Shadow of the Liberator)』でこう書いている。

「市場の力やグローバリゼーションに依存するのではなく、国家は、それ自身の資源や必要とされる機構を活用し、圧倒的多数のその人民のために国内の開発を促進するように積極的に努力するべきだ」

 チャベス政権は、協同組合と称される内発的発展型の管理を通じて、新たな決定主体を、ベネズエラの実態に親しくなく関係もしない国際企業から、ベネズエラ人の手に取り戻す生産改革にも挑戦している。新自由主義では、成功はマネーでのみ評価されるが、内発的発展では、環境にやさしい政策や文化が尊重され、適正な賃金が利益に優先すると主張されている。

 「私は、その仕事が持続可能で、時とともに実を結び、かつ市場が尊厳を持っていることを確かめるために協同組合と仕事をしているのです」

 関税法を専門とするカラカスの弁護士、ペドロ・アレクサンダーゴンサレス(Pedro Alexander Gonzale)氏はこう説明する。

「私たちは、市場が第一で、社会は二番目である、とするメンタリティから抜け出なければなりません。その順番は反対なのです。社会が最も重要で、それからが市場なのです。私が研究したひとつは、経済成長でもうひとつのものは暮らしの質です。それらは必ずしも関連するとは限りません。そして、これこそが私たちがそれに向けて働いているものなのです。経済成長の数字は素晴らしいですが、暮らしの質は人々が見て感じ、そして生きることなのです。もし、パンアメリカーナ高速道にそって、丘陵地や農村部にいけば、バリオ・アデントロ(Barrio Adentro)を目にされることでしょう。人々が目にするものは実体的なものだし、それは彼らを支援しています」氏はそう断言する。

■ヴエルヴァン・カラスとは

 ミシオン・ロビンソン(Mission Robinson) Iは、中学レベルの読み書きを教えることを目指した2ヶ年の識字率向上プログラムだが、2003年12月27日には、100万人ものベネズエラ人たちが、このコースを終えた。そして、ボリバリアン政権は、ベネズエラ人の「文盲ゼロ領域」を目標として設定し、さらにその上をいくロビンソンII、リバス(Ribas)やヴェルヴァン・カラスといったその他の教育ミッションを創設した。それは、100万人を単なる記念碑的な業績とするのではなく、教育促進を、民主主義への完全参加と、貧困からの自力脱出の基礎とするためである。

 ミシオン・リバスは、2003年11月に開始されたが、高校に入学する機会を逸たり、ドロップ・アウトした500万人ものベネズエラ人を対象に、2年で高校レベルの学習を達成するプログラムである。一クラスは30人以下で、オーディオ・ビジュアル機器も活用され、スペイン語、数学、世界地理、ベネズエラ経済、世界史、ベネズエラ史、英語、物理、化学、生物学、コンピューター、その他の選択科目を学ぶ。リバスは2段階にわかれ、第一段階は基礎となる第9と第10等級、第二段階は、第11と第12等級に相当する。

 すでに80万人以上がクラスに参加して学んでおり、月曜から金曜日は6時から9時まで、土曜日と日曜は終日なされている。5,604の研究センターと24,626人のファシリテーターがいるが、さらに90万人が入学の機会を待っている。

 その評価は、試験よりもむしろ、クラス参加、ホームワークやコミュニティの社会的な労働といったプレゼンに基づいている。参加者たちは2~3人のグループで、個人の経験や研究成果の双方を用い、自分たちのコミュニティ内の課題を解決する提案を行うのである。

 カラカスのヴァジェ・コチェ(Valle Coche)地区の市議会議員、ネストル・エンリケ (Nestor Asdrúbal Enrique Calzadilla)氏は、ミッション・リバスが真に革命的な改革が起こっているところだと考え「ミシオン・リバスは、高校生が専門家として養成される場所なのです」と主張する。

 「それはこの国が必要としていることなのです。新たな血、新たな専門家、自分が専門家になれるとは考えてもいなかった人民。ここは革命とこの国の開発が始まる場所なのです」氏はそう断言する。

 ミシオン・リバスは、ヴエルヴァン・カラスと緊密に協働している。下にいることを自覚したり、失業していた卒業生は、後者に参加することを奨励され、そこでは、内発的な開発のトレーニングを受け、続いて公式経済に組み入れられる。

 「ヴエルヴァン・カラスに参加するランセロス(lanceros)のほとんどは、他のミッションから来ています。それは彼らがなしえた進歩を示しています」と東部のアンゾアテギ (Anzoátegui)州のコーディネーター、エニ・ランヘル(Yenny Rangel)氏は言う。ランセロスとは独立戦争中に戦ったメスティーソのことである。

「ヴエルヴァン・カラス以前には、私たちの圧倒的多数は失業中であるか、パート・タイム雇用者でした」

 行動大工協同組合(Carpenters in Action)の代表、アレクシス・ラヤ(Alexis Laya)氏は言う。

「私は警備員として働いてきましたが、この国では警備員は、社会保障はいうまでもなく、ほとんど金が稼げません。私の仕事ではごく基礎的な家計をカバーできるだけでした。そこで、ミシオン・リバスのために私は警備員として働くことを辞めると決意したのです。ここには学ぶ機会がありますし、今を逸すれば後にはその機会は決してないでしょう。なぜなら私学は高価すぎるからです」

 エリアス・ヤウア(Elías Jaua)人民経済大臣によれば、教育省の一部局である国立教育協力研究所(INCE)がトレーニング・コースを提供し、ヴエルヴァン・カラスは、12か月のコースで358,316人のランセロスを訓練しているという。そのコースは、電気、配線、鉄工、農業、漁業、建設、サービス、観光業、織物、交通、工芸美術に及ぶ。

 エル・レクレオ(El Recreo)733協同組合の組合員、ウィルフレド・モヒジョ(Wilfredo Moxillo)氏も、リバスを通じてヴェルヴァン・カラスに関わるようになった。

「私は、30年間以上の建設の経験を持っていましたが、理論を持っていませんでした。勉強なしにそれをやっていました。私は見て学んでいたのです。ヴェルヴァン・カラスでは教師は私たちに、どうやって2メートルの壁を作るのか、どうやって壁を測定するのか、どれだけの材料がプロジェクトに必要か、それらはいくらかかるのか、計算する方法を教えてくれました。私は、それまでそんな機会を持っていなかったのです」

 一年コースでは、最も貧困な学生の収入を補うため、政府は毎月186,000ボリバレス(bolívares)=約93ドル)の奨学金を与えている。エリアス大臣の言によれば、連帯の価値観を構築する手段として、奨学金の10%は将来ランセロスに奨学金を与えるために控除され、国家発展銀行に貯金される。2004年12月では、228,065人が奨学金を与えられた。

「それは大きなものではありませんでしたが、月には少しの補助金を交付されています」

 エスパニ(Esmapi)454. RL協同組合のホアム・ホセ・ブラチョ(Joam José Bracho)組合長は言う。ブラチョのエスパニ協同組合は、特別の木製処理を必要とする家具、植民時代の家や歴史上の建築物を復興している。

「私たちはそこで苦闘していました。なぜなら、想像できるように、そうした給料では困難だったからです。ですが、私は言われているように、「私たちは勝つだろう」と考えました。私たちは一年間の奨学金も受け取り、卒業し給料を受け取り始めました。なぜなら、ブロックとして、プロジェクトを持ったからです。そこでは私たちは前進していきます」

 1999年には、ベネズエラの全雇用者の52.4%は、インフォーマル・セクターで働いており、ブラチョ氏もそうだった。だが、ヴェルヴァン・カラスのようなイニシアチブによって、この割合は2005年4月には47.1%まで減っている。

 ヴェルヴァン・カラスは、失業対策にも取り組んでおり、失業率は1998年から2001年で16%から14.2%まで減少した。失業率は、2002年4月のクーデターと2002月12月、2003年2月の経済サボタージュによって一時的に急増したが、その後、2005年6月にはさらに12.6%まで低下し、2005年末には1桁になると期待されている。

 2005年の国際労働者デーでのスピーチで、ウゴ・チャベスは、「5月3日にヴエルヴァン・カラスを卒業した26万4,000の人民が、国の発展を促進するため、経済の様々な分野で彼らの学術的・技術的な能力を使うだろう」と指摘した。ヴエルヴァン・カラスを通じて、協同組合は10,000から33,933に拡充され、120万人の失業中のベネズエラ人がミッションを学び、協同組合を結成し、農業、産業、インフラ、観光業、サービスという5分野の内発的発展に自分たちを組み入れるよう励ましている。

 この5つのフロントのそれぞれで進展が見られている。例えば、オリノコ川に沿って位置するMortaco-Tupupita町では、協同組合は100もの漁業農場を設立したが、それは地域の年間漁業生産量を2,400トンまで高めることであろう。プロジェクトは、加工処理、格納、魚の販売といったさらなる900もの仕事を小規模な漁師のコミュニティのために創出し、ボリバール州やアマクロ(Amacuro)デルタまで広げられるだろう。カラボボ(Carabobo)州のプラスチック加工工場とミランダ(Miranda)州のカカオ加工工場は、350以上の仕事を生み出すだろう。インフラ・イニシアチブは、病院、学校、水と衛生システムを建設し、分配と輸送のネットワークを最適化している。観光業では、協同組合は、教育のビジョンから、ベネズエラの自然な美を示し、国の歴史を教え、その文化価値について説明することを目指した教育をデザインしている。エンターテイメント、アート、クラフトとレストラン協同組合も観光分野で形成されており、観光業のフロントのコーディネーターによれば、Amarilda Mergueiroやヴエルヴァン・カラスは、今観光業で48のワークショップコースを提供している。

 5つのフロントは、いずれも人間と環境、技術と文化との間のバランスを達成するために努力している。環境にやさしい政策と文化の尊重が、ヴエルヴァン・カラスのビジョンで重視される重要な2要素である。それらは目標ではなく、協同組合が試みるあらゆる努力のための必要条件である。例えば、農業・土地省は、特別な植林計画を入念に作り、協同組合は、樹木を伐採したり、燃やしたゾーンで植林し、土壌を侵食させたところでは土を交換するよう義務づけている。さらに、ヴェルヴァン・カラスは、牛、ヤギ、羊、馬、ブタ、ウサギと鳥のための環境にやさしく、高い栄養上の代替飼料、水耕法の利点を評価するため、生産通商省と密接に協力している。

 内発的発展は、開発や圧迫の道具ではなく文化が尊敬される創造的なツールと見なされている。彼らのルーツや協同組合を組織する場所の歴史を振り返るようベネズエラ人たちは激励されている。例えば、Barloventoのカカオ、デルタAmacuroの魚、メリダ(Merida)のイチゴとミルク製品、Guáricoのトウモロコシ、スリア(Zulia)の料理バナナ、そして、ボリバル州の観光業である。

■包含モデル

「それは、人民が団結するときパワフルになると理解されている。バラバラではそうではない。平等に働くことで、ベネズエラ人たちは、彼らが集団的なニーズを満たすことができると理解している。生産を活発に、創造的になすこと。そこでは、技術と人民の知識が信念、習慣環境とともに結合される」内発的発展とミシオン・ヴェルヴェアン・カラス(El Desarrollo Endógeno y La Misión Vuelvan Caras)

 国家経済の効率性を高めるため、異なるフロント、とりわけ農業、工業とサービス部門間の結びつきも推進されている。生産サブシステムとして「クラスタ」や「ブロック」は、生産、加工処理、流通、商業化と消費と多様な要素を協同組合を前後に結合している。その代表的な実施例は、チョコレートの製造である。ひとつの協同組合はカカオを植え収穫する。別のものはその殻をむき乾かし、その後、別の協同組合によってそれは異なる製品に変換、パッケージにされ、また別の協同組合が、それを国内や国際的に分配している。こうした前後へのリンクは、織物、農業、漁業、畜産、建築、観光とそれ以外の内発的発展プロジェクト中でも生み出されている。

 ホアム・ホセ・ブラチョのエスパニ454. RL協同組合は、ランセロス・インフラ・ブロックのメンバーで、建築分野において13もの別々の協同組合の147人を結合している。

 「私たちは木工、電気、配線など様々なコースで訓練されています。いくつかの分野があるため、私たちはブロックを形成し、どんな建設作業でも必要な部門を全部網羅できるよう自分たちを結合するように決めたのです。私たちは、前進し、成長し、より多くの仲間たちを組込んでいくつもりです。なぜなら、私たちは排除のモデルには従わず、包含モデルに従うからです」

 大統領のアドバイザーであるミゲル・アンヘル・ニュネス(Miguel Angel Nuñez)の言葉によれば、ヴエルヴァン・カラスは協同組合化を進めるだけでなく、新たな労使関係も重視している。内発的発展では、垂直ではなく水平の労働者関係で新自由主義モデルに挑戦しており、ネットワークが構築され、そこには誰もが平等の条件で参加している。

 ラウル・ウルタルド(Raul Hurtado)氏は、アポセント・アルト(Aposento Alto)452電気協働組合のメンバーで、ナショナル・リザーブ(National Reserves)のメンバーでもあるが、ボリバリアン革命を深めるうえで、ヴエルヴァン・カラスがとても重要だと考えている。ウルタド氏は電気技術者として25年間の経験を持つが、氏の協同組合はランセロス・インフラ・ブロックで働いている。

 「明らかなのは、協同組合が私たち人民誰しもを同等に発展させるベネズエラの開発モデルであるということです。協同組合には上司はいません。もちろん、私たちは決まりがありますし、私たちはそれらに従わなければなりません。もし、協同組合に問題があれば、協同組合自身でその問題を解決するのです」

 ウルタルド氏は、こうした内規が各協同組合で自発的に働く選択の自由を与えた、と説明する。氏の協同組合は朝8時から夕方5時までを勤務時間とし、組合員が責任を持つよう各協同組合に責任もゆだねている。例えば、一週間働きにこなかった組合員がいたとすると、その彼や彼女を解雇するかどうか決定するのは協同組合なのである。

 チャベス政権からの支援なくしては、ヴエルヴァン・カラスはもたらされなかったし、ベネズエラ人たちも協同組合を結成することはなかった。そして、米国や全世界の多くの小規模ビジネスのように、それは破産していたことであろう。しかも、政権からの支援は、たんにトレーニング・コースや奨学金にとどまらない。FundabarriosやFundapatrimonioといった官庁は、以前は大企業に割り振っていた仕事に協同組合を雇い、住宅建設のような遠大なベンチャーで組合を活用しているのである。

■野望は現実となる

「実行可能な未来を構築するには、諸国は、知識を創出・管理し、かつ適切な経験を資本化する内部を見る能力がなければならない。それが自分たち自身のプログラムを入念に作ることを可能にする」

 Hacia una Cultura Global de Paz, UNESCO Manila, the Philippean Islands, November, 1995

 内部成長的な開発は、リチャード・ゴット (Richard Gott)の解放者の影(The Shadow of the Liberator)で、ほぼ半世紀の間残されたラテン・アメリカのナショナリストの想像的な野心で記述される。

 この野望は、新自由主義モデルに挑戦し、金持ちと貧しいものとの間の収入のギャップをただ広げるだけの現在の市場を管理する道を示している。ホアム・ホセ・ブラチョ氏は、内発的発展が直面している最大の緊喫の国内外の障害は、それが以前のモデルとぶつかることだと考える。多くの人々が協同組合を受け入れないのは、彼らが自分たちの頭に既にモデルを持っているからだ。そのモデルとは、サラリーを受け取る労働者のモデルであって、彼らは内発的発展の改革に抵抗していると主張する。

 ベネズエラの経済と社会での内発的発展モデル・チェンジが、新自由主義への代替案として、実現可能なのか、あるいはそうでないのかを評価することは時期尚早だろう。だが、ホアム・ホセ・ブラチョ氏は信じている。

「第4共和国の倒壊以来ずっとベネズエラで生じている改革は不可逆であり、それ以上に、いくつかの国々は、自分たちの国々でこのモデルに挑戦できるよう、この成果を待っているのです」


  Sarah Wagner, Vuelvan Caras: Venezuelas Mission for Building Socialism of the 21st Century, 2005.

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