1999年11月

キューバ政府、全都市で野菜菜園を運営

コンクリートのスプロール。有機栽培の収穫されたばかりの新鮮なホウレンソウを手にするには、ハバナは場違いなところに思える。だが、コンスエロ・トレス(Consuelo Torres)さんは、ちょうど、数多くある国営の都市菜園の一つで、それを買った。いま、キューバでは首都ハバナやその他の各都市と国中で都市菜園が発展している。

 1991年、キューバのパトロンだったソ連が崩壊して以来、キューバは深刻な食料不足と栄養失調問題に悩まされたが、それを緩和する社会主義政府の新たな努力の一部として始められたのが都市菜園なのである。

「たくさん野菜が買えるかどうかは健康上の問題です。いま、私たちは、身体に必要なビタミンをもっとたくさん取れるようになりましたし、食事のバランスも少しは取れています。まだ食料は十分にはありませんが、菜園は確実に状況の助けとなっています」。

 ある午後のことだ。以前はゴミ捨て場だった小区画、ハバナの騒雑な五番通りの作物の前に立ちながら、トレスさんはこう語る。

 こうした考えをいだいているのはトレスさんだけではない。キューバには、ラテンアメリカでも最も大規模な都市農業プログラムがあり、国内の169各市には政府によって点検、運営する2,730以上の菜園がある。そこでは約22,000人の労働者が雇用され、市場の半分の価格で、直接消費者に24種類もの野菜やハーブを販売している。

 また別の午後には、ハバナの革命広場の裏にある都市菜園で、フアナ・ベガ(Juana Vega)さんが、家族のためにおいしいニンジンとナスとニンニクを買った。

「市内にこうした菜園が設けられているのは、創造的な支援です。政府は、キューバの課題を解決する責任として、やれる範囲で私たちの暮らしを改善する方法を見出そうと試みている。そう感じています」。

 先週はベネズエラのウゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領がキューバを公式訪問し、都市菜園についてフィデル・カストロ議長と論じ合った。「ベネズエラでも首都では人民の80%が貧困状態に置かれている。主用食料をより手に入りやすくし、雇用機会を創出するうえで、同様の戦略を考えている」。そうチャベスは語った。

 都市内の小区画菜園に加え、キューバでは、大規模なより集約的な菜園を4,347育成する計画を立てている。これらは、通常、都市や市街地の郊外に位置し、野菜やハーブに加え、果樹生産も行っている。キューバの人口は1150万人だが、10年前には旧ソ連からなされていた年間十億ドルに及ぶ援助がなされ、化学肥料、農薬、家畜飼料、種子、燃料を含む大量の農業製品や農場必需品も寄付されてきた。だが、その援助がストップして以来、従来の枠にとらわれない食料生産方策を追及せざるをえなくなったのだ。

 都市菜園で生産されている野菜のほとんどは有機野菜だが、それは化学物資が欠乏したことが大きい。有機農産物の健康上のメリットを強調しつつ、カストロ政権は、食料に対する多くの不満を米国が37年間も続けている経済封鎖に向けているだが、この問題は実は、ほとんど国営によって行われてきた非効率な農業システムや個人的の意欲不足にも由来する。

 都市菜園は、アグロポニコス(agroponicos)若しくはオルガノポニコス(organoponicos)と呼ばれているが、食料事情の改善に多少は貢献する点で、農村地域の農業が抱える課題やその他の多くの課題を克服することにつながっている。市内で作られた野菜は、その場で人民が購入するから、輸送の必要もなければ、農家と消費者との間にさしはさまれる政府の官僚主義もみんななくなることになる。

「輸送距離や保存時間がほとんどなく、野菜にも手をかけないので、収穫後のポスト・ハーベストも少ないことになります」。キューバの国連・FAO代表フェルナンド・ロバイヨ(Fernando Robayo)氏はそう語る。

 週末になると、ハバナでは都市菜園の前に長蛇の列ができる。国営市場は時間帯によっては、早朝でも農産物がなくなってしまうが、生鮮野菜を買うために消費者たちは待って並ぶのだ。

 都市菜園は、高収量につながる比較的近代的な灌漑施設も備えられている。そして、政府は、大規模な国営農場をコミュニティや個人レベルに基づく農業生産へと分散化するという一連の政策を推進しているが、その中でも優良成功事例の一つとなっている。政府の支援もあいまって、何千もの家族や各個人が家庭菜園を整備し、果樹を植え、鶏やウサギを飼育している。多くの国営企業や学校、病院で、市民たちは必要な食料を自給し、家畜を育てている。中には食料需要の30%を生み出している地区もある。1998年にはこうしたハバナ市民たちによって、540,000トン以上の食料が生産された。

 必要性はあってもまだ都市菜園が設立されていない地区も多くある。だが、最近の都市計画法は、土地利用上も食料生産を最優先している。政府の評価によれば、都市農業全体では117,000人が雇用されており、その菜園から生産される野菜は、キューバ全体の生産量の約半分にも及ぶ。生産量と給与をリンクさせる政策もあいまって、都市菜園者たちの生産は2000年には3倍以上も高まることが期待されている。

「こうした菜園は労働面でも重要なのです。それらは協同組合ではありませんし、国が完全に運営しているわけでもありません。ですから、労働者に少しは多くの賃金を支払えるのです」。ハバナのミラマル区(Miramar)区にある都市農場の責任者、アルバロ・ガルシア(Alvaro Garcia)氏はこう説明する。菜園での収量が伸びていることから、国はほとんどの地区で、2000年には一人あたり日量300gの野菜を摂るよう推奨している。だが、キューバ最大の人口を抱えるハバナやニ番目に大きいサンチアゴ・デ・クーバはそうはゆかない。両市をあわせれば人口は320万人にもなる。両都市圏は、協同組合農場や国営農場のような従来の生産地から供給される野菜に依存しなければならないだあろう。

 キューバの人々は、カストロが革命によって権力を掌握して以来、40年にもわたって、政府からの配給を受け続けてきた。だが、キューバは、1991~95年にかけ、少なくとも60%という凄まじい食料不足を経験してしまった。この低下からはキューバはまだ回復できていない。だが、キューバの緊縮経済の回復に努力してきたカルロス・ラージ(Carlos Lage)国会副議長は、最近の地方政府の指導者たちとの会議でこう語っている。

「食料事情はまだ十分ではない。だが、いくらか進展はしている」。

(カナダのHPシティ・ファーマーからの記事)
  Serge F. Kovaleskihl, Cuba Goes Green:Government-Run Vegetable Gardens Sprout in Cities Across Island,1999.

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