2000年

シエンフェーゴスの都市農業

■概要

オルガノポニコは、キューバの市街地のいたるところで見受けられるコンクリートのコンテナ菜園である

 1990年以前には、キューバでは事実上、都市菜園は存在しなかった。なぜならば、多くの人々が、都市農業を貧困や発展途上の証と考えていたからである(Altieri,1999)。キューバはそれまでずっと、ソ連の同盟国からの貿易援助や輸入に依存していた。だが、1989年からのソ連崩壊によって、キューバはスペシャル・ピリオドとして知られる深刻な経済危機に落ち込んでしまう。1990年には、農業投入資材や食料を含め、キューバはその貿易の85%を失うが、キューバ人たちはカロリー摂取量で57%を輸入食料に依存していたのだ(Murphy,1999)。また、スペシャル・ピリオド以前は、キューバ農業は、輸入農薬に依存する化学集約的なモノカルチャー農法に基づいていた。ソ連がなくなったことで、キューバは輸入化学肥料と輸入農薬の80%を失い、そのの農業は絶望的な状況に陥った(Warwick,1999)。農業輸入が不足したことで、キューバは農法を多様化し、有機農法を採用することを強いられた。最も重要だったことは、この経済危機が、キューバが輸入に大きく依存していたことを明らかにしたこと。そして、食料安全保障が深刻化したことだった。米国議会は1992年に「キューバ民主化法」、1996年に「ヘルムズ・バートン法」を可決するが、これが経済危機をさらに悪化させた(Warwick,1999)。この危機に対し、キューバ政府は、食料のオルターナティブな確保源として、国全体で都市農業運動に着手したのだった。スペシャル・ピリオドに応じ、以下のように様々なタイプの菜園が現れた。

集約菜園 灌漑用水が適切に供給され、汚されない肥沃な土がある都市地域に設置されている菜園(Taboulchanas未出版)
人民菜園 都市地域内の空き地や以前にゴミ捨て場や駐車場に作られ、コミュニティの菜園組織により、管理、耕作されている菜園(Altieri,1999)
工場・企業菜園 国営企業の土地に作られた菜園。キューバでは、ほとんどの職場が、労働者に無料で昼食を提供しているが、この菜園は、その労働者用の食材の一部を生産している(Taboulchanas未出版)
家庭菜園 前庭と裏庭、屋根やバルコニーにある小菜園
ハイドロポニコ 都市内や都市近郊の空き地に位置する菜園。栄養分を溶かし込んだ溶液を使って作物を培養する
オルガノポニコス そのままでは耕作ができない都市内と都市近郊の空き地に作られた菜園。右写真のように高くした棚やコンクリートのコンテナ内で栽培がなされている。人民菜園の多くは、土質が悪かったり、汚染された場所にあるため、このタイプである(Taboulchanas未出版)

■シエンフェーゴス

 シエンフェーゴス市は、シエンフェーゴス州の州都で、キューバのほぼ中心部に位置する。州人口は約30万人だが市の人口は12万人である。市は、地域の流通や加工産業の中心で、サトウキビ、タバコ、コーヒー、米、ラムを生産している。シエンフェーゴス市は、キューバ最大の漁港であると同時に、主な砂糖輸出港である。1998年と1999年、シエンフェーゴス市は都市農業の生産で国の最高賞を受賞したことから、シエンフェーゴスはキューバの「都市の農業」の首都と考えられている。最新の国の統計によれば、シエンフェーゴスのオルガノポニコは、一人あたり日量95グラム以上の生鮮野菜を生産している(Taboulchanas未出版)。

■オルガノポニコ

La Calsadaのオルガニポニコ

都市ではほとんどの土が痩せていることから、オルガノポニコが、キューバで最も一般的に見受けられる菜園のタイプとなっている(Altieri,1999)。シエンフェーゴス市では、市内に簡単に使える空間があったため、オルガノポニコの設置が可能で、1990年代はじめからオルガノポニコが登場しはじめた。市には約102のオルガノポニコがあり、うち63は半官半民で運営され、39は国営企業が管理している(Taboulchanas未出版)。市内では1地区をのぞいて、どの地区にも少なくとも2ヶ所のオルガノポニコがあり、中には21もある地区もある。

■耕作のやり方と生産

 有機物と土とを混ぜたものでコンテナを満たしたり、高くした床で栽培は行われる。原料となる有機物は、たいがい農村や都市近郊の農場から都市へと持ち込まれる。多くの菜園者は、堆肥と土とを同量で混ぜ合わせるが、カチャザ(cachaza=サトウキビの廃棄物)と混ぜるものもいる。コンテナは、セメント・ブロックや建築廃材から作られている(Taboulchanas未出版)。耕作方法は、有機農業の原則に基づいている。菜園がうまくいっているのは、外部からの投入資材をほとんど用いず、アグロエコロジーの原理を適用し、地域で入手できる資材に依存しているからである(Altieri,1999)。それぞれのオルガニポニコには、ミミズ堆肥を生産するためのカンテロ(cantero)があるが、収穫後の作物残渣は、このカンテロでミミズ堆肥となるのである(Taboulchanas未出版)。また、厩肥もミミズ堆肥の原料となっている。スペシャル・ピリオドの結果として、自動車に代わり、公共交通用として多くの馬車が使われるようになったことが、市街地内で厩肥が生み出されることになったのである。厩肥も天然肥料源として、カンテロで堆肥にされる(Taboulchanas未出版)。

輪作と間作 オルガノポニコでなされている重要な取り組みに輪作と間作がある。どの季節でも最低15種類の作物が作付けられているように推奨されているため、各カンテロでは複数の作物を輪作で栽培することが奨励されている

 オルガノポニコで栽培される生産物のほとんどは種々の野菜や香辛料と薬用植物だが、広範にわたる物理学、植物学、農学に基づく、総合防除のアプローチに従っている。政府は化学合成農薬や化学肥料の使用を規制しており、ごく希であるか、生物的、農学的な実践が失敗した場合にだけ使われている。

Calsada オルガノポニコで働くCarlo と Octavio氏
entomopathogens、糸状菌とバクテリアの形の生物学的防除 病害虫防除のためには、細菌、糸状菌、ウイルスが適用されている。例としては、鱗翅類害に対するバチルス菌(Bacillus thuringensis)や種々の細菌、カビ病をコントロールするためトリコデルマ(Trichoderma harzianun)がある
益虫と天敵 アブラムシやヨコバエの防除のためにはカゲロウ(Chrysopa spp.)を含めた様々な益虫が放飼されてたれている。
植物性農薬 植物性の農薬液は、バイオ農薬工場で調合され、感染された作物に用いられている。殺虫剤の植物にはニーム(Azadirachtaindica)も含まれるが、ニームは多くの害虫やSolasolに効果があり、ナメクジやカタツムリも殺す
昆虫トラップ 害虫には黄色を好むものがあるが、粘着性の物質を付けた黄色の板に害虫を引き寄せるトラップもキューバ人たちは使っている。また、カタツムリを引きよせ、ビールや塩の皿でそれを殺してしまうトラップもある(Altieri,1999)。一方、作物が害虫の食害を受けないようにソルガムのような益虫を引き寄せる作物が、オルガノポニコやカンテロの周囲に植えられている
線虫の発生率を減らす耕作 作物収穫後には、カンテロは耕され、線虫を除くために太陽光で乾かされる

■オルガノポニコの将来

 もしも、米国の経済封鎖が撤回され、スペシャル・ピリオドが終われば、キューバはまた化学集約的な農業に逆戻りして、海外からの輸入食料への依存度も増えるのではないか、との懸念もされてはいる(Altieri,1999、Chaplowe,1998)。だが、キューバの多くの科学者、農民、政治家たちは、都市農業や持続可能な農業に取り組むメリットを実感しているし、将来的にも菜園を維持する努力を行っている。国際的に運動が認められていることも、都市農業継続の一助になるかもしれない。1999年12月、スウェーデン議会は、キューバ農業協会に対して「Right Livelihood Award」としても知られる「オルターナティブ・ノーベル賞」を授与している(Warwick,1999)

シエンフェーゴスでの生産量の推移
1994
1995
1996
1997
1998 1999
年間生産(トン)

261

1,290

3,999

7,732

13,350

14,868

収量(kg/m2)

5.43

16.2

19.57

20.41

25.43

26.5


オルガノポニコの最も一般的な栽培品目(Taboulchanas未出版)
雨期(5月〜10月)
乾期(11月〜4月)
通年
キュウリ、セロリ、緑豆、オクラ、パセリ、ラディッシュ ビート、キャベツ、ニンジン、ナス、レタス、トマト フダンソウ、エゾネギ、ニンニク、タマネギ、薬用植物、コショウ

都市農業のメリット
社会益
  • 都市地域での食料安全保障を高める
  • 多くの家族の収入源となる
  • 人民を力づけコミュニティ意識を促進する
  • 都市の美観を改良する
  • 輸送費を削減することで、多くの食料価格を引き下げる
エコロジカルなメリット
  • 有機廃棄物を堆肥に変え、自然の肥料として使うことで栄養分をリサイクルする
  • 都市地域の生物多様性を改善、強化する
  • 菜園者が地元に適した品種を栽培し、多種多様な作物を維持することが奨励されている
  • その見返りとして、様々な鳥類や昆虫、その他の生物を魅了し支える
  • 環境と野生生物に悪影響がある化学合成農薬や化学肥料の使用を減らす
  • 食料が地産地消されることで、輸送により引き起こされる汚染を減らす

■専門用語解説

益虫 害虫を攻撃する捕食性昆虫や寄生的昆虫
Entomopathogens 昆虫の病原体となる細菌や糸状菌
Canteros ふつうセメントブロックで作られ、堆肥や土を満たしたコンテナ・ベッド。1〜1.2メートル幅、15〜44メートル長である。
Raised Bed 15〜20センチに高くした土の山
コンテナ・ベッド セメントや木で囲み、高くしたベッド
ミミズ堆肥・バーミカルチャー 作物残渣や厩肥をミミズ、典型的にはEisenia foetidaを使って堆肥にする農法
スペシャル・ピリオド キューバの主な貿易パートナーであったソ連の解体によって1989年から始まったキューバの経済危機のこと。通常は戦時に限定されている、計画的な停電や大規模な輸送のための自転車の使用といった処置がとられたことから、それは「平和時のスペシャル・ピリオド」と名付けられた
キューバ民主化法(1992) 米国の経済封鎖を米国の海外の子会社まで拡大するもの。キューバに停泊した船舶は、最低6ヶ月間は米国の港に入ることが禁止じられる
ヘルムズ・バートン法(1996) 法の創設者、米国のJesse Helms上院議員とDan Burton下院議員にちなんで命名されたもので、公式には「キューバ自由民主連帯法」として知られている。これは、キューバに対する37年間の経済封鎖をさらに強化するものである
(カナダのDalhousie Universityの論文より)
Organiponicos in Cienfuegos,Cuba,2000.サイト消滅

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