キューバの都市農業

2001年2月

　この2001年の2月、キューバの農場を訪れ、10日間をすごす機会を得た。有機野菜生産農家である私にとって、持続可能な有機農業を社会全体で押し進めるという運動を目のあたりにしたこの旅はとても刺激的なものだった。

　1989年にソ連が崩壊してからというもの、石油や農薬の援助がなくなり、キューバ政府は、なんとかこの損失を補おうと努力してきた。化石燃料が不足したことから、農業の石油への依存度を引き下げなければならない。政府は、食料を生産、輸送、かつ貯蔵するために必要な投入資材を減らすことを目標に掲げ、人口が多い都市に食料生産基地を再配備するという野心的な計画に乗り出した。12年に及ぶ実践の成果は、まことに印象的なものだ。私は、滞在中、ほとんどをハバナですごしたが、市内のあちらこちらで集約的な市場向け菜園を目にした。年間通じて豊かに食料を生産するため、空き地やオープンスペース、その他の未利用地にオルガノポニコとして知られるこうした菜園が作られていた。私が訪ねたのは涼しい時期だったから、レタス、ハツカダイコン、キュウリ、トマトの何百もの畝が目にできた。ウサギや鶏もあたりまえで、それらは菜園から出る残渣で飼育され、市民に肉を供給し、家畜糞は肥料としてまた菜園に戻るのだ。

　都市郊外には、牛やヤギの牧場もあり、農業の多様化が進んでいた。私は菜園での世話ぶりに驚嘆した。私は農場で、物事が私の期待から時々逃げだすことを知っている。ブロッコリやレタスの中には苗床から飛び出るものもあるだろうし、ニンジン畑では雑草も生える。だが、オルガノポニコはそうではないのだ。どれも一様にきちんと管理されており、ちゃんと管理されていない菜園を目にすることはなかった。

　こうした菜園の美しさは、物理的なインフラ不足と対照的だ。概して、ほとんどの建物は、塗装や修復が必要だし、トラクターや農場設備の多くも使われていなかった。現金や部品や資材が不足していることは明白で、なぜキューバ政府が外貨獲得に熱心なのかがわかった。

Viveros de Alamar協同組合農場

　だが、この資源不足は、同時に都市農業が実際にどれほど持続可能なものであるかを知る助けにもなった。私たちは加工処理された有機投入資材を外から購入することで「ごまかす」ことができる。だが、キューバ人たちは、そんなごまかしはできない。地元で手に入れられるまさに再生可能な資源を使うという有機農業の基本原則に基づかなければならないのだ。そして、こうした制約の内でも、キューバ人たちは印象的なまでの成果をあげている。

　キューバ農業省によれば、こうした大規模は有機都市農場で、都市住民の食料需要の約30パーセントが生産されているという。彼らは比較的小面積でこれを成し遂げている。例えば、ロチュンダ・デ・コヒマル(Rotunda de Cojimar)のオルガノポニコは、0.6ヘクタールの市場向けの菜園なのだが、1平方メートル当たり平均20㎏の収量をあげて表彰された。これに近い生産水準は他でも珍しくはない。私は自分の栽培時期が短いことは承知しているが、それでも1平方メートル当たり平均2㎏になれば、幸せなのだ。

レタスの収穫、ﾛﾁｭﾝﾀﾞ･ﾃﾞ･ｺﾋﾏﾙ農場は、平方メートルあたり平均20kgを生産することで賞を受賞した

　都市農業は模範的な事例であって、シンスピレーションにも富む。だが、キューバの農業にまったく問題がないわけではない。多くの農地は、塩害、土壌浸食、その他の持続可能ではない農業の影響を受けている。全体からすれば、農業生産ではまだ多くの農薬や石油が使われているし、とりわけサトウキビ生産ではそうだ。他の非工業国と同じように、キューバも外貨獲得のために、大量のサトウキビを栽培し、その見返りに多くの化学薬品を購入するという輸出入の踏み車のわなに捉われている。

　このやっかいな問題の一部はグローバル化する経済のためだが、一部はキューバの高級官僚たちの発想による。彼らは、いまだに「近代的で進歩的な農業は、工業的で科学的な食料生産方法だ」と考えているのだ。我々、米国の小規模農家は米国農務省やアグリビジネスに、これとは別のやり方があることを納得させるため運動しているが、その意味ではキューバ人たちも我々と同じ課題に直面しているのだ。キューバを訪ねたことで、私は改めて農業をやりたくなった。地域の住民たちを支え、喜びをもたらす提供する持続可能な地元の生産体制の構築が成功した様を目にすることは本当に刺激的だ。

　もっともキューバが完全に有機農業に転換するにはまだまだ時間がかかる。だが、私が知る限り、それ以外のどこよりも、その道に向かって進んでいることは確かだ。米国の農業を転換するため、私自身もささやかだが、実践している。だから、私は元気やインスピレーションを受けるため、今後もキューバに目を向け続けることだろう。

アンディ・ジョーンズ(Andy Jones)氏はバーリントン(Burlington)のインターバレ(Intervale)にある400世帯のＣＳА、インターバレ・コミュニティ農場の農場長である。

（米国の雑誌ガーデン・アクティビストからの記事）

　Andy Jones, Cuba's Urban Farms,2001.　