2001年12月

ハバナの人民菜園のCVM評価

 ...都市農業は地球上のどこでも、生態学上、社会上および経済上に価値を持つように思える。政府は、その時が来たとして、それを見るべきである。」(Rees 1997)

■はじめに

 都市農業は、メリットがあることは広く知られているが、一時的な活動とみなされ、かつ、近代的な都市のイメージと合致しないため、都市計画の中では、片隅に置かれがちだ。都市農業が、もっと経済的価値ある開発ができるとされる場所を占めてしまうからである。だが、都市農業がもたらす市場価値が、それに匹敵するならば、この議論はもっと有効なものとなるだろう。だが、都市農業のメリットに非市場的なものが含まれると、議論は明確にはならない。

 非市場的なメリットを含めることは、環境上の費用効果分析(HanleyとSpash 1993)として一般に知られ、ここ十年で現れた費用効果分析の基礎となっている。このフレームワークでは、開発によって生じるあらゆる社会的、経済的、そして環境上のメリット(またコスト)を計算上で考慮に入れるが、このアプローチにはそれ自体に問題がないわけではない。

 市場商品の金銭価値を測定することは比較的ストレートであるのに比べ、非市場的な価値を評価することは、市場価格が存在しないだけなのだが、ずっと困難である。その上、環境や健康に値段をつけることは不謹慎だし、やるべきでないと示唆するものもいる。だが、その一方で、メリットを金銭化しなければ、意志決定の過程で、それらが無視されてしまうことも認識しておくことが重要だ。都市農業は、いまの市場では価格化されない非市場的な商品要素を持っている。これらに価格をつけることが、意思決定者に対して、より良い意思決定を下すよう多くの情報を提供できる。

 市場外の価値を評価するには様々な方法が利用可能で、そのひとつに仮想評価法(CVM)がある。これは、環境アメニティへの個人の支払い意志を引き出すために広く使用され、都市農業の価値を測定する有用な技術といえる。

■仮想評価法とは

 仮想評価法(CVM)は、非市場的な価値にアプローチする方法として広く認識されているが、「人々の公共財に対する好みを引き出すために、特定の改良された状況に対してどれだけの代価を自発的に支払うと感じるかによって、調査の質問や仮想的な状況を使用する方法」である。したがって、CVMには、非市場的な価値、もしくはモノの改善に対する個人支出の意志の評価が含まれる。この手法は、仮説上の市場を作って、特定の仮想状況で何を行うかを尋ねることにで、ある商品の市場欠陥を補うものである。CVMは、コスト利益分析で用いられる価値測定ツールとして、50カ国以上で35年以上使用され、米国やその他の国々でもかなり受け入れられている。

■ハバナの人民菜園の価値測定

 ハバナの人民菜園は、有機農法と同様の手法を用い、果物、野菜、塊茎類など様々な作物を生産している。1999年では約18,000人もの個人が参加し、25,000トンの食料を生産している(ゴンサレス1999)。誕生して約10年。ハバナの菜園は多くのメリットを生みだしてきた。地域内での食料確保、食の多様化、健康やレクリエーション。廃棄物のリサイクルや緑地空間といった環境上のメリットである。だが、ハバナの都市農業は、いまだに一時的な活動と考えられ、他の都市開発と競合しなければならないと考えられている。したがって、当局が土地利用決定を行う必要がある際には、都市農業は政策課題となったし、問題は今後もより大きくなることであろう。

 社会に対して最大のメリットを産み出す、という社会的に効率的な選択を行うために、意志決定は非市場的なメリットを含め、あらゆるメリットやコストを総計することで導かれるべきである。これが、環境費用効果分析のフレームワークが都市農業の価値について重要な情報を提供できるゆえんである。都市農業のメリットの総合評価に寄与するため、ハバナでCVM調査が実施された。

 支払い意志を含めた調査は、人民菜園の利用者に対して2000年に実施されたが、回答者は、国から無料で提供された農地で農業活動に従事していた。彼らは「農地利用権を維持するため、毎月いくらを自発的に支払うか」との質問を受け、標準サイズの1000m2の菜園を評価するよう依頼された。また、もうひとつの調査目的は、水不足の重要性や窃盗での生産損失を評価することだった。この二課題が、調査前に実施されたテストで大半の人々が言及したことだったからである。そこで、二番目の質問では「水利用の保証や窃盗に対する防衛手段に対して自発的にいくらの代価を支払うか」を述べるよう依頼された。さらに、支払いの意志と特性とを関連づける目的で、菜園や世帯について一連の質的、量的な質問もなされた。

 質問では、うまい回答を引き出すため、「入札ゲーム技術」(ミッチェルとカーソン1989)が使用された。これは、最初の入札が回答者に示唆され、回答者の最初の反応によって、入札を増やしたり減らしたりするものである。

 研究では、土地に対する毎月の料金(ペソ/月/1,000m2)が示され、「その額で土地を放棄する」と回答者が答えると、受け入れられる値段まで、入札が引き下げられた。逆に反応が肯定的である場合は、「土地を放棄するだろう」と回答者が述べるまで、料金が増やされた。それは、給水やセキュリティの改良仮説でも繰り返された。

■都市農地への支払い意志

 ハバナ(カミロ・シエンフエゴスとポゴロティ-フィンライ)の二ヶ所の127人から回答が得られた。「改良がない」場合の中間支払い意志額は23.5のMN/月/1,000m2だったが、灌漑水や窃盗に対する防衛手段がある改良された農地では34.4のMN/月/1,000m2だった。この金額は、家庭の月収のそれぞれ11%と14%に相当する。この結果は、園芸活動への利用者の価値指標であり、これが様々なメリットと関係していることも明らかである。ほとんどの回答者は、菜園の最も重要なメリットとして、家庭での食料確保が高まったことをあげたが、その一方で、回答者によっては、レクリーエション活動、個人の健康増進、環境への寄与といった他のメリットも重要なものとしてあげたのだ。こうしたメリットも少なくとも一部は、価格測定に反映されたことであろう。

(注)MNはMoneda Nacional(キューバ使用されるペソ)の略である。ペソの為替レートは1米ドル=20MNであった。

■ハバナの人民菜園の総支払い意思

 都市農業部局の最近の評価によれば、ハバナではいま2,438.7ヘクタールが耕作されている(ゴンサレス1999)。この情報とこの研究から得られたデータから、すべての人民菜園の価値を推定でき、それは年間688万ペソ(344,000米ドル)になるであろう。灌漑用水が整備されたり、窃盗防止サービスがなされた改良農地は、さらに年間で319万ペソの価値があることになり、1007万ペソ(503,500米ドル=ドル120円で6042万円)となる。こうした価値は、土地利用のために国が求める賃貸料の潜在価値と解釈できるかもしれない。だが、利用者以外が評価する価値は考慮されていないため、人民菜園の価値が実際よりも低く評価されていることは、大いにありうる。

■結論

 社会にとってトータルとして最も多くのメリットを生みだす最適な決定を行うため、都市計画や土地利用計画では、戦略的に都市農業が持つメリットをすべて考慮する必要がある。CVMは、計画的な調査や仮説シナリオを通じて、都市農業が持つ非市場的な価値の情報を提供できるひとつの方法である。ハバナでの事例研究からは、利用者たちが土地利用権を維持するため、かなりの額を喜々として支払うことが示された。非市場的な価値評価にはある程度は不確実性が伴うが、都市農業のような非市場的な物事の重要性を各個人が金銭を通じて完全に評価することは難しい。だが、CVMのような非市場的な要素を評価する技術では、市場以外のメリットの重要性を与えることで、持続可能な都市開発を考えるうえで、都市農業の貢献度を評価する有用な役割を果たすといえるのだ。

(オランダのHP都市農業マガジン12月号からの記事)
  Patrick Henn, John Henning,The value of urban agriculture: the Contingent Valuation Method applied in Havana, Cuba,2001.

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