1997年3月14日


 1990年代初め、人民の基本需要を満たすキューバの能力は、次の二つのファクターでゆさぶられた。

  • キューバの貿易の75%以上を占めていたソビエト圏の崩壊
  • 食料と医薬品を含めたキューバとの貿易を禁止する米国の経済封鎖の強化

 キューバの人々は、1970年代と1980年代には、ラテンアメリカ内でも最高水準の暮らしを享受し、米国とも競争していた。例えば、ハバナで産まれた子どもは、ワシントンで産まれた子どもの二倍も成人まで生きのびたし、いまだにそうである。だが、1989年から始じまった経済危機によって、キューバ政府は、基本需要を十分に提供できなくなってしまう。ディーゼル燃料の欠乏、長い停電、医薬品や化粧品と基本食料の不足は、キューバではあたりまえのものとなってしまった。そして、再発する熱帯低気圧、例えば、1996年10月のハリケーン・リリーが、すでに厳しくなっていた状況をさらに悪化させた。

 深刻なモノ不足に対処するため、キューバの農民や科学者たちは、持続可能な経済を達成すべく、食料、医薬品、エネルギー生産で、様々な伝統技術やオルターナティブで再生可能なテクノロジーに着目する。

 持続可能な開発に向かう決定をキューバ政府がしたことは、より自給的な経済を達成したいという願望と、地球環境保護運動において、キューバが国際的なリーダーシップを取りたいという二つの願望を反映しているものだ。

 ユニークなファクターが組合せられていることで、キューバは、持続可能な発展の分野で、多くの開発途上国の潜在的なモデルに位置づけられている。キューバの人口はラテンアメリカのちょうど2%しかいないが、科学者では11%を備えており、持続可能な目標を達成する上で必要な人材がいるのである。そして、キューバの科学者集団は、いまだかって前例がないほどの政府からの支援を享受している。

 さらに、利益面での動機づけは、キューバの農業やヘルスケアやエネルギーにおいてごく限られた役割を演じているだけなのだ。そこで、貪欲さは動機づけとしては、持続可能性という社会的に広い需要よりも、はるかに少ないのだ。最終的には、国家経済計画は、多くの欠陥があるにもかかわらず、キューバに優先度をつけた政策や国全体に及ぶ実践を実施する能力を与えているのだ。キューバの農学者、医者と科学者たちは、持続可能性を達成する努力のうえで、グローバル・イクスチェンジ(Global Exchange)がパートナーになるよう依頼した。以下は、私たちが重点をおいているプロジェクトのいくつかの紹介で、あなたも参加できるやり方だ。

I. 持続可能な農業

 経済危機以前の1990年代のはじめには、キューバは日あたり1リットルのミルクを14才以下の子どもたち全員に供給していた。だが、いまは、ミルクは7才以下の子どもたちに与えることができるだけだ。政府は、7~14歳の子どもたちのために大豆ヨーグルトを用意することを新たな目標としている。

 そして、1994年の春から、キューバの最高の技術者やエンジニア、そして食物科学者からなるチームは、大豆ヨーグルト生産用になんとか30の乳業工場を一新することができた。そして、1997年はじめにはさらに10の工場が転換されることだろう。

 いま、ほとんどすべての大豆が輸入されていることは、経済上も大きな損失だ。キューバの技術者たちは、キューバの土壌や気候に適した品種の多様性を高める能力を開発できれば、大豆食品の生産コストを75%まで引き下げられると思っている。そして、グローバル・イクスチェンジは、在来の大豆品種の種子バンクを開発するのに必要な情報、技術と資金を提供することで、キューバの科学者たちを支援している。キューバの大豆食料工場が年間に必要とする10,000トンの大豆を供給するため、種子バンクは、小規模農家や協同組合が大豆を作付け、収穫できるように種子を提供することになるだろう。

 熱帯農業基礎研究所(INIFAT)の副所長トム・デ・エルナンデス(Tom Guzm de Hernandez)博士が、大豆プロジェクトを率いているが、博士はキューバ有機農業協会の共同創設者でもある。博士の大豆農業の将来モデルには、大豆工場の近隣に位置し、有機農業で大豆を生産する多くの小規模農場が含まれている。

 化学肥料や農薬を輸入する外貨が不足しているため、キューバ有機農業協会の支援も受け、キューバは全国規模で有機農業に取り組むことを強いられているが、それはとても刺激的な結果をもたらしている。現在、ハバナだけで30,000もの有機都市菜園があり、全国では10万あると評価されている。

 グローバル・イクスチェンジとフード・ファーストは、持続可能な農業に重点を置き、キューバへの初めての米国からの派遣団を組織した。そして、このテーマについて書物も共同執筆した。The Greening of Cubaである。その後も、我々は教授や有機農業の実践者からなる数多くの派遣団を組織してきた。そして、彼らは大学やコミュニティを通じて交流プログラムを発展させている。米国とキューバとの間で、科学者や農民たちが自分たちの共同プロジェクトを広げており、こうした関係はいま増えつつある。

II. オルターナティブ薬品と伝統的な薬品

 何十年も、キューバの公衆衛生システムは、世界保健機構やその他の国際機関から国際的に賞賛されてきた。キューバは、ラテンアメリカで最高の健康指標、最低の乳児死亡率、最高の寿命と、発展途上国では突出した統計数値を達成した。だが、キューバの最近の経済の苦難は、公衆衛生システムにも破滅的な影響を与えている。とりわけ、医療機器のスペアー・パーツや医薬品の輸入において影響が大きい。

 キューバ厚生省は、研究、医学校でのトレーニング、ファミリドクター診療所、ケア病院と「緑の薬品」が今では容易に入手できる地元の薬局と、その公衆衛生システムのすべてに、オルターナティブや伝統的な実践を総合的に満たすべく大きな力を注いだ。

■ホーリスティック医療のためのキューバへの支援

 グローバル・イクスチェンジは、キューバのホーリスティック医療治療のためのセンターも支援している。そこでは、中国の伝統医療(鍼、指圧、漢方薬)、ホメオパシー、心と肉体のリラックステクニック、水治療法、カイロプラクティック、伝統的なキューバのハーブ療法の研究や実践が行われている。私たちは1996年にセンターに文献や専門家や資材を提供することで、センターの取り組みを支援した。

 1996年4月、グローバル・イクスチェンジは、この分野におけるキューバの成功を評価し、キューバ側のニーズを知るため、米国の医師、ホーリスティックな医療クリニックの院長、その他のヘルスケアの専門家からなる派遣団を組織し、そして、派遣団は、様々なオルターナティブ治療に専念しているキューバの諸機関を訪問した。

 キューバの医学校での訓練にこうしたテクニックの紹介する皮切りとなったヒロン()医科大学、オルターナティブ技術と伝統技術を用いた歯科クリニックとトレーニングセンター、健康温泉、鍼クリニック、精神社会面から健康を研究する研究所、そして、慣行療法にテクニックが導入されているその他のセンターを訪れた。派遣団のメンバーは、いま、キューバで期待されているこの分野で、資材面と知的ニーズに応じて支援するにあたり、グローバル・イクスチェンジと協働している。

■食事療法と病気の教育

 グローバル・イクスチェンジは、ダイエットや病気についての教材開発で、ハバナの国立癌研究所の食事改善を通じて、ガン予防委員会とも協働している。グローバル・イクスチェンジは、この問題についての委員会が30分のビデオやスライド・プログラムを作るのに援助を行ったし、これらは現在、医師やその他のヘルスワーカー向けのワークショップで活用されている。私たちは、委員長に知的資産や管理・技術面での資産を提供した。そして、このテーマでハバナのガン病院の外科部長ヒルベルト・フレイテス(Gilberto Fleites)博士が米国やその他の国で会議に出席できるよう招聘を確実にした。また、私たちは、野菜や穀物食、有機食品、ヨガや瞑想のような反ストレス訓練と活動を推進するキューバのベジタリアンやウェルネスセンターも支援している。

III. 再生可能エネルギー

 キューバの全エネルギー需要をソ連が石油で提供してきたため、ソ連が崩壊すると、エネルギーがキューバの発展を抑制する第一の課題となった。キューバは自国内でも多少は石油を生産しているが、それは需要のごく一部を満たすにすぎない。シエンフエゴス市近郊ではソ連の支援で原発が建設されていたが、完成するまで10億ドルの資金が不足したまま、その建設はずっと遅れたままだ。キューバの科学者たちは、十分な研究開発資金があれば、再生可能な手段を用いて、そのエネルギー需要のすべてを満たすことができると主張している。

■クーバ・ソーラルへの支援

 グローバル・イクスチェンジは、クーバ・ソラールともパートナーシップを作り上げてきた。クーバ・ソラールとは、風力、水力、バイオマス、ソーラー・エネルギーを利用した再生可能エネルギー・プロジェクトを推進しているキューバの第一のNG0である。グローバル・イクスチェンジは、サトウキビのバガスを電気に変換する先進技術を議論するため、バイオマス転換で世界的にも名高い専門家がキューバを訪ねるよう手配した。

 その科学者は、適正技術を用いることで、キューバはサトウキビのバガスだけでその電力需要のすべてをまかなえると考えている。会議の結果、この専門家は、キューバでバイオマス転換のパイロット・プロジェクトを実施するため、UNDPへの350,000ドルの補助金申請書を書くことも手助け、それは上手くいったのである。この最初のネットワークの努力が成功した後、グローバル・イクスチェンジは、1996年6月にキューバで開催される国際再生可能エネルギー会議に参加するため、オルターナティブ・エネルギーの専門家からなる派遣団を組織した。派遣団は、クーバ・ソーラルから招待され、ハバナやキューバ東部でのソーラー、風力、小規模水力、バイオマス・プロジェクトが取り組まれている多くの場所を訪れた。こうした米国の専門家たちは、現在、キューバがこの分野で、その資材面と知的ニーズに応じて支援する諮問委員会を結成している。

■ソーラーパネルと風力施設

 国民の4%には、まだ、電気が引かれていないが、彼らにいくらかの電気を供給しようと、キューバの僻地のファミリードクター診療所の屋根にソーラー・パネルを導入するプロジェクトもある。このプロジェクトによって、診療所は医薬品を冷蔵できるようになり、教育的なワークショップを開催したりテレビを見たり、文化イベントに集まるためのコミュニティ・センターとして診療所が使えるようになる。グローバル・イクスチェンジは、いくつかの僻地にあるコミュニティのファミリー・ドクターの診療所にソーラー・パネルを導入することで、導入されなければ遠隔地にあるため健康問題で苦しむことになるかもしれない農村部の何千もの人々に電気をもたらすため、クーバ・ソーラルに資金提供をしたいと望んでいる。

再生可能エネルギーの学校

 クーバ・ソラールは、モデル的なオルターナティブ・エネルギーの職業校やコミュニティ・カレッジを開発しようとしているが、グローバル・イクスチェンジは、この取組みを支援している。学校を改築し、カリキュラムの基本を身につけさせるのにかかる経費は、1校あたり10,000ドルである。こうしたモデル校は、国全体のモデルとなるが、その大きなポテンシャルを満たすには資材援助を必要としている。

コンピュータの収集

 私たちは、再生可能エネルギー技術を開発しているキューバにある何百もの研究センターのため、米国の中古のコンピュータやモデム、プリンターを集めるための公式の要請をクーバ・ソーラルから受け取った。私たちが、キューバに持参していったコンピュータの多くは、この部門の助けになっただけでなく、彼らは国内の医療施設や研究機関が活発に機能することも実証したのだ。

■アルメンダレス川を救う

 キューバの若手技術者チームは、主に生物学的なコントロールによって、ハバナ最大の河川であるアルメンダレス(Almendares)川を浄化する彼らの仕事を助けて欲しい、とグローバル・イクスチェンジに依頼してきた。ハバナの汚水の半分がこの河川へと流れ込んでおり、排水処理の割合もごく少ない。このことが、とりわけ河川に沿いで暮らすコミュニティ住民に、健康上の公害をもたらしている。

 ハバナにある唯一の大規模な下水処理場は、数年前から壊れているし、もう一つの処理場も未完成で、まだ完成を待っている状態にある。

 技術者たちは、小規模な処置施設を数多く導入したり、生物学的方法を用いて処理したいと思っているが、前進するために資材や情報の支援も必要としている。科学チームも河川に沿う工場を移転させたり、環境的により優しい新技術に投資するべきだと考え、働いている。この河川浄化プロジェクトは、400平方キロの広さの首都公園を開発する大きな計画の一部で、首都公園は大西洋の河口から内陸部7キロにまで及ぶものである。首都公園は、都市計画者たちの長年の夢であり、環境教育、レクリエーション、その他のコミュニティ活動の目的のため、森林再生、有機農業、ベジタリアン・レストラン、建物の修復計画も含んでいる。チームには科学者と同じく社会学者を含まれ、教育的なワークショップを開催し、地域に密着して水質をモニタリングするシステムを設置することで、地区に住む住民たちの環境意識を高めるために、かなりの時間を注いできた。

「ここで暮らす人々の参加なくしては、私たちは前へ進むことができない」

 そう彼らは口にする。これは、キューバで最も重要な河川の浄化プロジェクトであり、ハバナの帯水層が汚染される前に、アルメンダレス川を救う時間はまだある。グローバル・イクスチェンジは、浄化に向けて努力する、こうした理想主義的な若手技術者とともに働くことを願っている。

 それは、この地域で何千人もの住民に影響を及ぼしている重要な天然資源を保全するだけでなく、キューバや世界各地のその他の浄化努力に重要な教訓を提供することだろう。

■ポジティブなオルターナティブに加わろう

 世界がひとつの危機から別の危機へと全力疾走しているように思えるこの時、人々が環境破壊へのポジティブなオルターナティブとなるものを打ち立てている場所に焦点を置くことは、私たちにとって重要だ。キューバでのエコロジカルな発展へのこの幅広い支援キャンペーンにあなたも参加されてはいかがだろうか?。

(米国のグローバル・イクスチェンジの記事)
  Global Exchange,A Patch of Green: Supporting Sustainable Development in Cuba ,1997.

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