2001年2月27日

キューバの印象

 40年以上にわたってグローバルな資本主義に耐えることができた島国国の成果。キューバへの初めての旅は短かったが、私たちを感動させた。

 革命の多くの限界、米国の経済的、軍事的圧力でもたらされた悪化、そして、来たるべき年にキューバが直面する困難についての懸念に気づき、私たちもまた家路へと付くことになるのだろうか。

 ハバナのホセ・マルティ空港に入ると、私たちはすぐさま「ここはそれ以外の場所とは違う」と直感した。コーラを飲もう、ラッキーを吸おう、マスターカードで支払おう、ヘルツを賃りましょう、と催促する広告がなかったのだ。実際のところ、キューバには商用広告がない。

 ちなみにフィデル・カストロへの個人崇拝もない。私たちは、ケニヤでダニエル・モイ大統領の肖像を見るよりも、はるかにカストロの肖像を目にすることがなかった。キューバのどこにでも見られる肖像は、1890年代にキューバ革命をリードした詩人、作家でもある国家的英雄のホセ・マルティなのだ。

 私たちは、ヘルス・ケア、デイケア、教育、その他のサービスで大きな成果をあげた国を目にした。キューバの乳幼児死亡率や寿命は米国その他の豊かな国々のそれに相当するし、国の主な健康問題は、現在では豊かな国のものと同じになっている。

「たとえ私どもが貧しい人民として暮らしているとしても、私どもは豊かな人民として死ぬのです」

 さる病院の院長は私たちにこう語った。キューバは、ハバナだけに集中させず、国全体の病院への投資を行い、高度な医療システムを維持している。さらに重要なことは、予防での健康への対応と初歩的なコミュニティケアを国家的に重視していることだ。あらゆる人がコミュニティ内で医師や看護婦を利用できるし、彼らは地区の数百世帯のために働き、患者すべての健康上の概要を知っている。キューバ女性連盟やその他の大組織が地区レベルで組織され、それが、ヘルスケアをまんべんなくゆきわたらせる一助となっている。例えば、どの妊婦もお産の前からケアを確実に受け取れる。そして、キューバは生医学の研究にも大きな投資を行い、それが開発途上国では唯一、本格的な生医学の研究や開発能力へとつながっている。

 私たちは、経済面での平等主義にも遭遇した。ソ連崩壊後、キューバは1年でその国民所得の三分の一以上を失った。もし、米国が同様の状況に少しでも苦しめられたとしたら、最も大きな負担が労働者階級や貧しい人民のうえに科されることは、ほぼ間違いない。だが、キューバでは、その痛みは等しく分散されたのだ。

 人々はヘルスケアや教育、住宅への自分たちの権利を維持し、生きる上で最低限の食料が、配給として与えられた。正真正銘、食料不足の最中でさえ、私たちが知る限り、誰一人として飢えなかったのだ。

 以前のキューバ経済がソ連に依存していたことは明白である。かつては「そうではない」と論じた人々にとってさえ、今となっては明白だし、それは、革命の大きな過ちのひとつだった。もちろん、これは経済封鎖に引き続く軍時的な脅威により、米国によってキューバに押し付けられた依存ではあった。

 これとも関連するが、キューバは、小規模農家が所有する協同組合によって、国内消費用の食料を生産するかわりに、広大な国営プランテーションで生産される輸出農産物、とりわけ、砂糖に依存するという誤りも犯した。

 だが、ここ10年にわたり、政府は、農民に多くの自治権をゆだね、新たに有機農業を重視することで、この過ちを修正し、間違いを修復するうえで、かなりの前進をなしとげている。キューバは、現在、有機農業分野では世界のリーダーとなっているのだ。とはいえ、いまだに食料は不足しているように思える。

 そして、キューバの成果にとって最大の脅威となっているのは、観光業とドル経済である。キューバが外貨を獲得する可能性として最も大きいのは観光業だ。もし米国が経済封鎖を止めたならば、観光業が急成長することは間違いない。ペソ経済では月給は、20~30ドルと定められているが、住宅、有用品、食料、ヘルスケア、教育に補助金が支給されたり、無料であることで、これでも十分だし、少なくとも十分であるに近い。観光業に従事する労働者は、ドルでチップを渡される。メイドやウェイターは、チップによって簡単に30ドル以上を月に稼げてしまう。そこで、医師、看護婦、教師、その他が自分の仕事をほうりだ、観光部門で働く誘因となっているのだ。それがもたらす結果は、プロの熟練労働力が割り当てられなくなり、社会的な階層分化が始まることになる。革命が達成した基盤を維持するというこの課題に対する明白な解決策はない。

 問題は、マイアミに住むキューバ・アメリカ人が、キューバの家族に提供する送金やおもちゃ、デザイナーの衣服、その他、商品で悪化している。ハバナのベダド(Vedado)地区を歩けば、企業文化が子どもたちを引き寄せる磁力を感じられるだろう。そして、子どもたちは、自由に手に入れるために、彼らの社会が作らなければならない劇的な犠牲が、ヴェルサーチやナイキの商品であったことを理解する手段をほとんど持っていないのだ。

(San Francisco Bay Guardianの記事)
  Russell Mokhiber and Robert Weissman,Impressions of Cuba Health care is a model, but tourist economy brings changes,2001.

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