キューバは、この経済的に衰退した島全域で優れたヘルスケアを提供している。僻地の山岳地域においても適切なヘルスケアを担保するために、キューバは野心的な太陽電池による電化プログラムに乗り出している。
■キューバのヘルスケア
200万人を越す子どもたちが、ワクチンさえあれば防げる病気で毎年死んでいる。20億もの人々は電気を使えずに暮らしており、開発途上国では、多くの医師が懐中電灯やロウソクの明かりの中で手術を行っている。そうした悲惨な世界の中で、人民の健康を最優先している「開発展途上国」を目にできることは胸踊る。
1959年の革命以来、キューバのヘルスケア・システムには、ライバルがいない。平均寿命は76.1歳で、乳児死亡率は1000人の誕生児につき7.2人だ。これは、ほとんどの先進工業国と同じか、さらにその上をいく。政府のヘルスケア・システムには、全国民にサービスを提供する機関のネットワークさえ含まれている。どのコミュニティ内にも、そこで暮らし働くファミリードクターや看護婦がいる。1992年時点では、キューバ国内のファミリードクターの数は18,500人以上にもなっている。
1959年から1989年にかけ、キューバは電化プログラムを推進し、人口の95%まで電化率をあげた。だが、国の送電線や小規模水力発電からの送電を受けていない遠隔地の農村地帯で、まだ300人以上のファミリードクターが暮らし働いている。
キューバは海外からの輸入石油に大きく依存し、国産石油はごくわずかしかない。そして、輸入石油の大半は、有利な条件で旧ソ連からもたらされていた。そして、ソ連崩壊後の厳しい状況に、30年以上に及ぶ米国の経済封鎖に起因する難しい条件がさらに加わる。キューバは、その石油消費量をすさまじく削減する必要におかれた。だが、こうした状況にもかかわらず、キューバは全人民に適切なヘルスケアをもたらすという計画をもって前進しているのだ。
■クーバ・ソーラル
1988年、ウラジミル・ディアス・デニス(Vladimir Diaz Denis)氏とその妻は、エル・ムラト(El Mulato)と称される小さなコミュニティに医師と看護婦として着任した。コミュニティの人口は400人で、非常に遠隔地にあったため、電気もなく、一年前に診療所が建設された時には、建築資材はヘリコプターで到着したほどだった。 ウラジミル氏が最初の年に仕事をするため、診療所は照明用に灯油ランタンを使っていた。夜間に治療する際には、懐中電灯を使った。だが、ある晩、氏の妻が懐中電灯を持っていたが、彼は2才の子どもの体内にスイッチを入れてしまった。言うまでもなく、状況は雑だった。 クーバ・ソーラルは、再生可能エネルギーの利用やエネルギーへの意識啓発を促進しているNGOである。1989年、クーバ・ソラールはコミュニティの評価を実施する。そして、政府はこの評価を分析した後、エル・ムラトを太陽電池で電化することを決定する。ウラジミル医師の診療所が、キューバで太陽電池で電化された最初の診療所となった。こうして全農村のファミリードクターのすべての診療所に太陽電池を導入するというクーバ・ソラールの野心的なプロジェクトが始まったのだ。 「集中的でハードなエネルギー、あるいは慣行エネルギー。それは石油、石炭、原子力なのですが、武器なのです。大昔から、世界の戦争の主因はエネルギーでした。エネルギーを制するものが世界を制したのです。それは、キューバ革命に対しても使われました。キューバに対してとられた最初の処置のひとつは、我々を石油供給から切り離すことでした。従来のエネルギーは、力のある者、金持ちの利益に応じ、貧しい者をより貧しく、より借金を負わせ、より隷属させました。
再生可能エネルギー、ソフト・エネルギー、もしくは、従来とは違うエネルギー。それはソーラーなのですが、資本主義と帝国主義に対抗する武器なのです。そして誰のためのものでもあるのです。太陽は、中国人、黒人、インディアン、そして白人のために光輝きます。女性、男性、老人と子どものためにも、貧しい者、そして、お金持ちのためにも光輝くほど気前がよいのです。太陽は封鎖されることも、支配されることも、破壊されることもできません。太陽エネルギーは、人民のための武器なのです...。人間が必要とする本当の経済的、社会的な発展を産み出すことができる唯一のものなのです」。クーバ・ソラールのルイス・ベリス(Luis
Berriz) 代表はこう語る。
■太陽電池で電化されたコミュニティ・センター
1998年5月、キューバの遠隔山岳地にある診療所のうち、170が太陽電池で電化された。このシステムは暮らしの質を高め、こうした地域での乳児死亡率を減少させた。初期のシステムは、照明、ワクチン用の冷蔵庫、心電計やX線機械といった他の医療設備をすべて含んでいた。だが、各診療所には住込みの医師がいることから、TVとラジオも備えるよう修正された。クーバ・ソラールは、コミュニティの子どもたちが夜にTVを取り囲んでいることに気づいたのだ。TVは診療所にあったことから、これは医師に時間のゆとりがないことになった。今では、クーバ・ソラールが診療所に電気を導入するときは、TVやそれ以外の社会的な機能を果たすため、太陽電池はコミュニティ・センターにも導入されている。
■命を救う無線電話
■太陽電池システムの構成要素
各診療所のシステムには幅があるが、典型的なシステムは次のようなものだ。
*300~400Wの太陽電池配列
*30Aの充電コントローラ
*400Ah、12Vのバッテリー
*20W光の14ヶの蛍光灯
*15Wのテレビ一台
*25Wの無線電話一台
*3つの電気医療機器
*1台のDCワクチン冷蔵庫 |
クーバ・ソーラルの電化プログラムがなされると、僻村では直ちに多くの健康改善がなされた。だが、まだ見逃されていた点もあった。システムが導入された場所はいずれも遠隔地にあることから、状況が深刻な場合に医師が救急車や病院と連絡する手段がなかったのである。こうして、太陽電池で電化された各診療所に、無線ラジオを付加するプロジェクトが始まった。こうして今では170の診療所のうち、130が無線電話を備え、大きな町の病院と通信できるようになった。この無線電話が多くの生命を救った。通信システムは、25Wの無線電話で、アンテナ、自動中継装置、救急車や病院への連絡に必要な通信機材からなるが、870ドルである。無線電話は、ハリケーンや洪水時に、救急車やヘリコプター援助を要請し、生命を救うために使われた。病院の患者の状態を親戚に知らせ、予防接種キャンペーンの状態を病院に知らせ、クリニックが必要な特別の医薬品を求め、医療の専門家からの援助を求める。こうした通信設備は、太陽電池システムの全コストを少し増やすしかかからない。
■太陽の利用
ウラジミル氏は診療所の電化の重要性は理解するものの、送電線を使うことには反対している。彼は、送電線を使うともっと値段がかかると指摘する。それでなくとも、キューバは、日々米国に経済封鎖されているのである。クーバ・ソラールから「エル・ムラトを電化するため太陽を使いたいと思っている」と、最初に耳にしたとき、ウラジミル氏は彼らが狂っていると思った。だが、今では氏は自分が狂っていた一人であったことを知っている。氏は、経済封鎖から自立するには、キューバが太陽、風、水を使う必要があると思っている。
「太陽エネルギーを使うとき、経済封鎖もエネルギーで私たちを傷つけることはできません。こうした資源を使うことで、孤立集落も良い暮らしをおくれます。そして、世界も助けられることでしょう。もしも、太陽エネルギーを使わないとしたら、最もお金のある人々でさえ貧しいのです」。
■改善された生活様式
グアンタナモ州で最近電化がなされたバエス(Baez)の診療所の医師は、太陽電池で動く電力が、コミュニティ医療の質の向上に大いに貢献したと思っている。彼は、ソーラーの導入が「いかに暮らす世界を汚染せずに発展するか」を実証していると確信している。 診療所の電化は、山岳地域でのヘルスケアの改善以上のものをもたらした。ウラジミル医師は、暮らしのあらゆる領域で大きな改善がなされたことに気がついた。例えば、氏がわずかなコーヒーや果物を生産するだけのエル・ムラト・コミュニティに着任した時は、人束の新聞すらなかった。14歳以下で妊娠した少女が6人おり、うち3人は12才以下だった。11人の学習障害児と151人のアルコール中毒の子どもがいた。
1989年、クーバ・ソラールは、診療所、コミュニティの店舗、コミュニティ・センター、そして二軒の家に電気を提供するため、48台のモジュール、1.5Kwの太陽電池システムを導入する。また、個別の400Wのシステムが30戸に追加導入された。ウラジミル氏は、コミュニティの変化は、まるで夜と日の違いのようだったと語っている。
エル・ムラトの健康状況は、ワクチン冷蔵庫と電気医療設備が追加されたことで、大いに改善された。健康状態の改善は地域経済にも影響を与えた。コーヒーや果物の生産高が劇増したことに加え、電気は女性たちにも参加の機会をもたらした。結果として、女性の平均出生率は5~6人から2~3人まで減少したのである。
子どもたちの幸福感も改善された。ウラジミル氏は、子どもたちが曲がって歩くことがなくなり、そのかわりにまっすぐに立っていることに気づいた。電化の前と後でエル・ムラトで撮られた写真を見れば、目にみえた違いがわかる。ウラジミル氏は、これを電気とともにコミュニティに持ちこまれた文化に帰している。子どもたちは、現在、外界にも接しているし、社会的となる機会が多くある。そして、こうした改善はエル・ムラトだけに特有なことではない。キューバにある100以上ものコミュニティが、同様の経験をしてきたのである。
外からの情報が使えることで、教育も進んだ。教師の仕事は容易になり、新たな学校も建てられた。学習障害をもつ11人の子どものうち、低い学習水準にとどまっているのは2人だけだ。ティーンエイジで妊娠するものもいなくなり、アルコールの危険にさらされるのも40人以下になり、5人が深刻なアルコール中毒ケースなだけである。
■隣人から隣人へ・太陽電池
キューバは、ラテンアメリカの隣人をも支援している。クーバ・ソーラルは、最近ボリビアに太陽電池で電化されたヘルスケアを持ちこんだ。ラ・イグエラ(La Higuera)は、ラテンアメリカの革命家、チェ・ゲバラが1967年に殺された校舎があるボリビア僻地のコミュニティである。クーバ・ソラール、キューバ政府と国際的な支援のおかげで、学校は太陽電池で電化された診療所となったのである。キューバのおかげで、この町の675人は、いまでは良い福祉医療を利用できるようになっている。
■太陽電池の展望、革命と現実
太陽電池を利用し、遠隔地のコミュニティのヘルスケアを改善する。このキューバの驚くべき計画は、まさにビジョン以上のものだ。それは現実であり、きわめて厳しい条件下でも着実に実施されている。ヘルスクリニック・ラジオ・コミュニケーション・システムの指導者ペドロ・フエンテス・パドロン(Pedro
Fuentes Padron)氏はこう語っている。
「経済封鎖というキューバに対する強い圧力がかかっているため、高い健康指標は、極めて困難な状況下で成し遂げられたのです。そして、非常に質が高い医師のトレーニングと極めて困難な遠隔地でのファミリー・ドクター診療所の建設は、真の革命が何をやれるのかを示しているのです」。
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