2004年5月

思想の戦いと社会主義の改善

アベル・プリエト大臣

 キューバのアベル・プリエト(Abel Prieto)文化大臣は、内閣の最若手メンバーのひとりで、現在、10年以上もその地位に就いている。以前は、全国作家芸術組合(UNEAC)の代表だったが、CLACSOの招待を受け、ブエノスアイレスを訪問。キューバで行われている「思想の戦い」について語った。観光の解禁、マイアミ住民との大規模な家族交流、インターネットの導入でもたらされた問題は、多くの人々が頭に描いたりイメージするより、ずっとキューバを開かれ、知的にしている。

「情報の凄まじい流れを止めることができると考えることは幻想です。唯一可能なことは、人生に対する良り良き思想でそれらに打つことです」大臣はこう主張する。

ルイス・ブルーシュティン キューバ政府はいま思想の戦いを進めていますが、その戦いのシナリオはどのようなもので、どのような考えが議論されているのですか。

アベル・プリエト いわゆる「思想の戦い」は教育と文化を高めることと関連する一連のプログラムです。文化的教育的な目的のためのテレビの利用、教育水準を高めるための教育分野での新たな努力。こうした一連の事項が私たちが「思想の戦い」と称しているものです。

ブルーシュティン そのやり方では、戦いというより、キャンペーンのように思えますね。争点はどこにあるのですか。

プリエト すべてはマイアミで誘拐された少年、エリアン・ゴンサレスの帰国キャンペーンから始まりました。当時は、そうした違法な移民を操る米国の傾向に対し、強い対立がマイアミとあったのです。これが新たなテレビ番組が創設された時でした。とても大きな影響を及ぼす教育番組が創設され、全員のための大学という重要なプログラムとともに始まったのです。いずれも、いわゆる「文化的なグローバリゼーション」と関連しています。この政策の基礎には、それがどこからもたらされるかにかかわらず、消費社会のメッセージ、人民を操るメッセージや情報操作に直面する人民に準備させることがあります。人民は、強固に、そして、深く文化に根づく準備がなされていなければなりません。そのため、人民の文化水準を高めることをとりわけ重視し、私たちは15の新たな芸術インストラクター校やソーシャルワーカー校を創設したのです。思想の戦いは、格差社会に対応したものだからです。

ブルーシュティン 教育計画以外にも、失業に対応する経済計画、政策があるのですか。

プリエト 失業問題と戦うことも、思想の戦いと関連しています。例えば、少年や少女に学ばせながらの有給雇用が創設されています。これらは、今、学びながら給与を得ている何万人もの若者への奨学金と似ています。私たちは失業率を実際にゼロまで減少させました。もちろん、かなりの予算支出を伴っています。コンピュータは国内の全校に導入され、小学校を含め、全校にコンピュータとビデオがあります。言い換えれば、私たちは思想の戦いにあらゆる新技術を用いているのです。

 とりわけ、私の担当省と関係する課題では、同時にいかなる種類の「ショーヴィニスム」(Chauvinism)にも屈しないように慎重でありながらも、こうした文化的、芸術的、文学的な政策の地盤は、まず第一に、私たちの芸術と文学のアイデンティティの防衛と、キューバの文化の伝統の防衛とキューバの作家と芸術家の表現です。

 私たちは国家の価値を守らなければなりませんが、人民がユニバーサルな文化にアクセスする権利もまた守らなければなりません。ふたつの教育的なテレビ・チャンネルが創設されています。キューバの4つのテレビ・チャンネルは国が所有し、商業広告を放送しませんが、こうした2つの新たなチャンネルは、ユニバーサルな文化に応じた映画や新シリーズをずっと放送しています。その考えは、文化を陶冶されたキューバ人自身が自分たち自身の文化、自分たち自身の伝統を支配すべきだ、ということですが、同時に、他国の文化とも関係しなければなりません。いわゆるグローバリゼーションのきわめて深刻な問題のひとつは、世界の文化遺産の質の低下なのです。

ブルーシュティン グローバリゼーションは、情報や文化面でキューバにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

プリエト それはあらゆる方面からやって来ています。私たちにとって、このプロセスのまた別の本質的な考えは、私たちがガラスケースで、試験管では思想の戦いを発想できないということです。現在と将来のキューバ人は、汚染されない環境で、孤立した形では形成できません。なぜなら、1年に約250万人もの観光客を受入れているからです。私たちは、いつの日にか経済封鎖に打ち勝つことを待ち望んでいますし、いつの日にか、現在、米国人がキューバを旅できないという障壁が取り除かれることを願っています。こうした禁止がすべて取り除かれたとき、私たちはもっと晒されるようになることでしょう。現在、マイアミで暮らす何万人ものキューバ人が私たちを訪ねてきています。私たちの社会は開かれた社会です。ビデオはわが国に入ってきますし、インターネットもそうです。私たちが開かれた社会であるために、その文化的な爆撃に操られないよう人民にはその準備をさせなければならないのです。私たちは操られないように人民の文化を高めなければなりません。

ブルーシュティン カストロは、経済面での重要な革命の改革を行うことは比較的短時間でも可能だが、文化的な改革は数世代かかると口にしていますね。

プリエト そのとおりです。こうした革命の歳月のあと、例えば私たちは今でもキューバに根強く残る人種的偏見について議論しています。革命は人種差別を制度上では完全に撤廃しましたが、にもかかわらず、40年以上もたった後でも、人種的偏見はいまだにあります。それが、私たちが徹底的に議論しているものです。こうした新プランのいずれにも、脇に置かれたメスチーソや黒人の若者に重点をおいた特別な努力があります。例えば、大学入学試験をやるときには、最も成績が良い者が入学しますが、こうした、脇に置かれた家庭のメスチーソや黒人の若者は、その教育で不利な立場にいるのです。専門家たちは、子どもたちを研究し、彼らがよく準備されることを担保していますが、こうした若者たちは深く裂けた家庭の出身で多くのトラウマを抱えています。そして、試験結果に基づく大学入学などのように、明らかに公正なものでは、ごくわずかな黒人やメスチーソしか入学できていないのです。

ブルーシュティン その社会が社会主義に変化した後でさえ、資本主義的社会の価値観は残るのでしょうか。

プリエト それはそうでしょう。例えば、消費思想です。その思想は、世界にある巨大な操作機の核心にあります。消費能力と幸せとを関連づける傾向があり、もし、車を買うことができるならば幸せで、もしそれを手にしても新しいものにそれを買い換えることができるならばもっと幸せであると。私たちは、その考え方に対して可能な解毒剤が、文化、暮らしの質の文化的な次元であると思うのです。

ブルーシュティン その思想は、物質的な富より、むしろ精神的な富の重要性を強調することになっていませんか。

プリエト 私たちには食料、基礎材料のニーズ、住宅、そして、まだ解決していない問題と、多くの予算がかかるものについて解決しなければならない課題がありますが、人民にはきちんとした生活水準を提供しなければなりません。ですが、同時に、人生のとても早い段階から、暮らしの質は精神的、文化的な次元にあるという文化的習慣と思想を促進しなければなりません。さもなければ、私が述べた消費操作メカニズムは、人工的な需要を生み出し、永久的なフラストレーションを引き起こしてしまいます。

ブルーシュティン マイアミのキューバ人によって促進されるイメージは、仕事に関してだけではなく、社会の進歩の可能性についてもどのように劇的にキューバに影響しているのですか。

プリエト もちろん、マイアミの幻想はあります。私は、思想の戦いが、どこに行くかをよく知らずに海外に移住する若者たちの数をかなりの程度まで減らそうとしていると思います。親戚が米国、とりわけ、マイアミにいて、そこに行けば生活水準が高まると考え、移住したがっている多くの人々が潜在的にいるのです。あるものは、その件について、とても安易な視点で海外移住します。それは防げません。私たちは、米国への法的な移住は支持していますが、彼らが、最近、法的な移住協定対談を中断しているのです。

 私たちは少なくとも毎年20,000のビザを要求していいますが、不法な移住を促進する扇動的な努力から、彼らはそれを制限し、しばしば専門家だけにビザを与えました。

 いわゆる「いかだの人々」の不法な移住の際には、彼らは大メディアキャンペーンを実施します。この問題については多くの宣伝がされていますが、私たちの考えは人民はどこでも、自分が欲するところに旅し、海外移住し、住むべきだということです。私どもはこの点では完全にオープンですが、彼らの命をリスクにさらさず、それを法的に安全にして欲しいと思うのです。

ブルーシュティン キューバの医師、ヒルダ・モリナ(Hilda Molina)の息子がブエノスアイレスに住んでいて、ここに旅するためのビザが与えられていないという状況で、この問題が取り沙汰されていますが。

プリエト それは私の責務ではないため、この問題には精通していません。ですが、キューバ人民の動きは大規模です。いたる所にでかけ、戻って来る人民が多くいて、多くがマイアミを訪問し、そして、戻ってきています。現在、キューバは制限をもうけてはいません。軍やMININT(内務省)にいたために旅行ができないキューバ人は少しはいますが、これはセキュリティ上の理由によるものです。それが、おそらくこの女性のケースです。ですが、こうした制限を受ける人々の数は取るに足らないものです。法的な過程やその他の理由で旅行できないそれ以外の者もいるかもしれません。ですが、多くの運動があります。芸術分野では、文化省を通じ毎年、1万3千人以上の芸術家や作家が旅しています。とにかく、考え方は、彼らがごまかされて海外移住するのではなく、確信して海外移住するということです。人民がだまされていることから、私たちは海外移住のポテンシャルを高めないようにしなければなりません。私がとても好きなBalseros(いかだの人々)と題する映画があります。それはカタロニアの映画制作者グループによって作られたのですが、とても面白いものです。

 思想の戦いは、このすべて、消費主義の考えと関係しています。それは、世界の人々を馬鹿にするという考えと関係し、米国文化の産業論のヘゲモニー的な思想を通じて知性を抑圧するという凄まじい機械操作なのです。

ブルーシュティン 経済の巨大な消費主義のメカニズムと競争するのはとても難しいですね。

プリエト ええ、それは難しいのですが、この戦いは始まりました。大学生やその他の若者たちがこの問題について議論しています。そして、私は、今15年前に比べれば、人民はよく準備されていると思います。ベルリンの壁が崩壊したとき、社会主義の思想にこだわることは不可能だし、不合理だと考えた知的集団がキューバにもいました。彼らは「それは不可能だ」と言いました。ですが、今、多くの人民は、ソ連や旧社会主義諸国で起きたこと、ソーシャルコストが何であるかを眼にしています。そうした国の平均寿命はとても高かったのですが、今は第三世界の水準に落ちています。そのいくつかはアフリカ諸国と比較すらできます。人民はラテンアメリカで何が起こったかを見ましたし、ネオリベラルモデルの過程や結果を密接にフォローしました。

ブルーシュティン 90年代前半のベルリンの壁の崩壊は、金融のグローバル化とネオリベラルモデルの盛り上がりと一致していました。それはキューバにとってとても困難な時期だった。

プリエト 1992年に、私はフィデルとともに、スペインで開かれたイベロ・アメリカ・サミットにでかけました。それは資本主義勝利の瞬間で、すべての壁が崩れ、社会主義は何かしら古臭いものとなり、市場がすべてを解決するということで、私たちはまるで恐竜のようでした。国は民営化や経済成長に感謝し何ら干渉する必要がないと。後のアルゼンチン大統領カルロス・メネム(Carlos Menem)やメキシコ大統領カルロス・サリナス・デゴルタリ(Carlos Salinas de Gortari)がいて、こうした人々の話を聞くことはとても印象的でした。

 キューバ革命の生存に10セントすら賭けるものもいないだろう。私たちはまだ生きていましたが、彼らは弔慰を私たちに示しました。その時、フィデルは自由主義哲学がもたらそうとしていた社会的なカタストロフィーについて話したのです。フィデルは、金持ちと貧乏人のギャップが意味することについて話しました。アルゼンチン、ベネズエラ、ラテンアメリカで10年後に何が起こったか。極端な貧困で飢餓で人民が死ぬ大金持ちの国。キューバの人民はそうした出来事の後を追っており、それについてすべてを知っています。

 ベネズエラには、1万人の医師がおり、ハイチ、ホンジュラス、アフリカには数千人がいます。こうした医師たちはハリウッドで描かれるのではない資本主義のバージョンを眼にした後に帰国します。彼らは、カラカスの地区や丘の資本主義、その最も残酷なバージョン、ハイチの資本主義、そして、発展が不十分な世界の資本主義を眼にしています。人民は、これが安っぽいプロパガンダでないことをわかっています。彼らは、それが真実であることを知っています。こうした証言はキューバでの議論を豊かにしました。

ブルーシュティン その意味で、世界現実に開かれることは前向きですね。ですが、メディアはキューバでのインターネットのアクセスを防ぐ障害についてのニュースを公表しましたが。

プリエト それは真実ではありません。それどころか、今では国内の全ムニシピオに若者コンピュータ・クラブがあります。

ブルーシュティン インターネットにはアクセスできるのですか。

プリエト もちろんですとも。すべてにお金をかけています。私たちはムニシピオの文化省の全支所で既にインターネットをしており、多くが自分たちでホームページを発信し、国内、州の芸術・作家組合の全事務所でもインターネットをしています。私たちは大規模にインターネットを用いていますが、それは社会的な利用で、ソーシャルサービス、専門家、医師にもそれがあります。私たちは、インターネットを社会的に利用する政策を立てています。私たちの情報発信は理想的なものではなく、まだ解決しなければならないものがありますが、100ものテレビのチャンネルがあっても、ニュースが階層的に組織化されていない他国と比べるならは、キューバ人民には、今とても高水準の情報があります。この問題に関係する哲学は、禁止することではないことです。もし、情報入力を制限するならば思想の戦いはありません。

ブルーシュティン それは戦いではなく、むしろ勝利の代わりに敵を無効にする試みだと。

プリエト そのとおりです。今の新技術やグローバリゼーションで、代替手段が禁止だと考えることは幻想でしょう。それは不可能だからです。私たちはキューバ移民たちの作品を出版しています。私たちは、並はずれた小説だと考える「El palacio de las blanquisimas mofetas」をキューバで出版しようと繰り返しレイナルド・アレナス(Reynaldo Arenas)と交渉しています。これはまだ達成できていませんが、それを成し遂げた時には、それを買い入れ、私たちの図書館にそれを納入することになっています。カブレラ・インファンテ(Cabrera Infante)と一緒に私は「Tres tristes tigres」や「La Habana para un infante difunto 」も出版したいのです。

(キューバナウからの記事)
  Luis Bruschtein, An interview with Abel Prieto, Minister of Culture of Cuba, “There’s no battle of ideas if we restrict information” ,May 3, 2004.

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