2004年9月

思想の戦いと社会主義の改善

アベル・プリエト大臣

ブラウンストーン 昨年のハバナのイベントの水準はとても高く、ヨーロッパでそれに匹敵するイベントを行うには数百万ドルの経費がかかることでしょう。キューバの経済状況を考え、どうやって資金調達をしたのですか。

プリエト 私は詳細を知りませんが、多くの団体が互いに協働し、とても少ない資金で奇跡をなしとげました。私たちの開催前にEUは資金を引き上げましたが、これは、イベントを成功させる決意を強める助けになっただけでした。120人もの国際芸術家たちがとても良い仕事をしたのです。私たちが外からの援助なしに成功をおさめることが、象徴的に重要で、私たちは続けるつもりです。また、参加するアーティストたちにとっても、キューバのような小さな国が西洋からの援助なしで、かつ、ひどい国際的制裁下のもので、そうしたイベントを行えたのも重要でした(キューバ政府はイベントに15万ドルを費し、その総経費は20万ドルだった)。

ブラウンストーン 「芸術と人生」というタイトルはキューバで芸術が果たす役割を反映しています。キューバ人たちはどう思いましたか。彼らは参加したのですか。

プリエト イベントの目的は第三世界出身のほとんど知られていない芸術家たちを元気づけることにあり、キューバ人民はそれに応じました。 私たちは人民の参加レベルにおおいに満足しました。私たちは現代芸術で人民を教育しています。私たちの最高の芸術家のなかには、大きな社会イベントに参加し、教育テレビ番組に登場する人もいます。

ブラウンストーン カストロは「思想の戦い」や「文化の大衆化」などのフレーズを用いることで良く知られていますが、これを定義し、その意味するところを例示してくれませんか。

プリエト 全世界で人民の生活はメディア操作によって消費に基礎づけられてしまっています。これが、キューバがいわゆる「思想の戦い」を行うことが重要な理由なのです。「教育されることが唯一自由になる方法だ」とのホセ・マルティの言葉を引用し、カストロが文化の大切さを重視する理由なのです。言葉をかえれば、文化があれば人民は自分自身の考え方を持ちます。私たちは、キューバ人民が、自ら考える能力、批判的な独立心と自由を失わずに、あらゆる種類の影響に対してオープンであって欲しいと願っているのです。

ブラウンストーン キューバは97%の識字率という世界で最もよく教育された国ですが、カストロは、10年後にキューバ人を世界で最も文化化された人民にするという計画を立てました。この目標は近づいているのですか。

プリエト 劇場、コンサート・ホール、展示会、博物館や多くの人民とともに私たちはこれを達成しようとしています。研究によれば、人民の文化要求は80年代でよりも高いことが示されています。私たちは90年代の危機を克服しました。また、これと別の指標は、年に一度開かれるブック・フェアで何百万人ものキューバ人たちが質の高い本を購入していることです。テレビも人民を教育する上でとても重要な役割を果たしています。

ブラウンストーン カストロの有名な「革命の内部こそがすべてであり、革命の外部にはなにもない」とのインテリ化宣言の今日的な意味はどこにあるのでしょう。現在、インテリはどう定義されますか。その作品で評価するのですか。

プリエト このよく誤って引用されるフレーズは、1961年にフィデルが行った私たちの文化政策の基礎となる長い演説からのもので、状況を考えてこの引用文は読む必要があります。その内容は幅広く、独断やドグマに反論した議論なのです。キューバのあらゆるインテリに革命の教育的、文化的作品に献身するよう呼びかけたもので、「革命家」と「非革命家」に新たなキューバの一部になるように求め、明らかに反革命的な彼らを非難しているだけなのです。

 それはソ連に大きなダメージをもたらした「社会主義リアリズム」の政治とは無関係ですし、画一化を課すものではありません。そうした画一化の政策の結果は明白です。これに対し、キューバの芸術や文学には、創造性のための余裕があります。キューバの芸術家は私たちが抱える問題に対してとても批判的ですし、芸術は、私たちがそれに対応し、向上する一助にもなっています。

ブラウンストーン キューバのインテリや芸術家が国家によってどれほど検閲されているかを外国のプレスはしばしば報じていますが、これは本当なのですか。

プリエト それはこれまでキューバに対してなされてきた最も攻撃的なメディア・キャンペーンのひとつです。こうした偽りが繰り返されるのを眼にするときそれはとても困難で、私たちは自衛策として訴訟を起こしています。こうした「反ジャーナリスト」たちは、私たちの地球を見下す超大国、私たちに経済制裁を加え、私たちに宣戦布告をしている外国の権力のために働いています。こうした反対者は、世界のどの他国でも裁かれ、罰を受けることでしょう。興味深いのは、こうしたキャンペーンが米国に対してはまったく反対しないことです。例えば、グアンタナモでは、囚人が想定上のテロ行為で残酷な状態で閉じ込められているのにです。

ブラウンストーン キューバには検閲がありますか。

プリエト キューバのあらゆる文化団体には、政策を決める芸術アドバイザーがいて、その作品の質を評価しています。彼らは優れた有能な個人です。確かに、国家は文化を支援しなければなりません。近年の最も劇的な文化の変化のひとつはラテンアメリカにおける新自由主義の採択です。

ブラウンストーン 文化とイデオロギーはキューバにどのように相互作用しているのですか。

プリエト キューバでは、私たちは、芸術を政治的イデオロギーのプロパガンダとしては使っていません。これはダメージが大きいのです。芸術がひとたびプロパガンダに変わるとき、それは芸術であることをやめると誰かが口にしましたが、それは、同時にプロパガンダであることもやめるのです。もちろん、あらゆる芸術には、時には明白な、時には微妙なイデオロギーのベースがあります。ですが、それは、芸術的な創造性に損傷をもたらすそれ自体を決して課すべきではないものなのです。

ブラウンストーン キューバの経済発展において文化はどのような役割を果たしていますか。

プリエト その当初から、革命は識字力を向上させるという重要な仕事に取り組んできました。革命は出版社を設定しただけではなく、多くの本を製作し、幅広い購読者層を作り出しました。小説家、アレホ・カルペンティエル(Alejo Carpentier)が、国家出版局の最初の所長でしたが、1960年か1961年にこう言っています。「作家だけが去るときが来た」と。

 いま私たちは年に5000万冊以上の本を発行しており、キューバや海外の文学を大衆に広めるため多くの仕事に取り組んでいます。識字力能力向上キャンペーンの結果、読むことを学んだ人民たちは世界の古典を読むことができます。こうした努力は編集・生産力が劇的に落ち込んだ90年代には妨げられましたが、その生産はここ3年で回復しています。ハバナのブック・フェスティバルは国家イベントで、それは国内の40以上の都市を旅しました。テレビも文化的で教育的なツールとして私たちが読書を促進する一助となっています。

 私たちはコンピューター研修をキューバ全校にも広げ、キューバ全域の60以上の文化センターがいまインターネットにアクセスでき、それ自身のウェブサイトを持っています。どの州の図書館もオンラインで、新技術は教育や文化を助けています。また、私たちはキューバについての正しい情報に海外の人々がアクセスできるためにもそれを用いています。

ブラウンストーン 芸術は必ず革命を必要とするというアンドレ・ブルターニ(André Breton)の見解には同意されますか。

プリエト 正統な芸術は破壊的な分子であり、今日では、今まで以上にこれが真実となってきています。芸術の持つ解放力、人間の解放力や人間自身の運命をコントロールできるというその急進的なメッセージのことを考えてください。確立された思想を破壊し、新たなものを探求する力、平凡を拒絶し、個々人や集団的な記憶の保存に果たす芸術の役割を考えてみてください。人民の心を圧倒的に操作するこのグローバル化された世界の中で、真の芸術は、革命的な破壊分子でなければなりません。世界を席巻するこのシステムは、すべての批判的感覚や自分自身で考える能力を殺しています。それは普遍的な現代性に名を借りて国家のアイデンティティをつぶし、軽薄な商業的「エセ芸術」を促進しています。

ブラウンストーン フランスと米国当局は最近、ポルノと反宗教芸術を批判しましたが、どう思われますか。

プリエト こうした国々にさらに大きな害をもたらしているもっと一般的な「検閲」と比べれば、これはわずかなことでしかありません。私たちが糾弾すべき「検閲」とは全世界で市場の力によって広がるそれです。多くの真の芸術家が主流からははずされ、ゲットーに閉じ込められ、「オルターナティブ」として苦しい生活を送っています。市場がどれほど骨抜きにするかは数え切れないほど多くの痛ましい事例があります。60年代の抗議運動やカウンター・カルチャー運動の美しく活発な芸術をだれが忘れることができましょうか。市場が北米のラップを奪われた表現にしてしまったことを見てください。多くの米国のラッパーたちがハバナのヒップ・ホップ・フェスティバルにやって来て、「最高のラップがいかに全滅させるマシンによって検閲され、慰めることすらできないほどだ」と私たちに語りました。今あるのは、「ラップ・ライト」、その根源性が薄められ、気の抜けた感じの音楽があるだけです。歴史上のそれ以外の検閲、スペインの尋問やスターリンの官僚すらも、これほど異端を鎮圧し、公式の芸術にしてしまうパワーはありません。

 最近、「自由な聴衆とともにはどんな創造的な自由もない」と、私たちの国際シネマ校の何人かのラテンアメリカの学生たちが言いました。これは言い換えれば、もし、聴衆が選択の自由が全くないという点で操作されたならば、味わいと批判する感覚が最悪のハリウッドによって鈍くされてしまったならば、芸術的な創造性がどんな目的に役立つだろうかということです。

ブラウンストーン 作家、そしてインテリとして、あなたは死刑をどう考えますか。

プリエト 私を含め、キューバの誰もが死刑を好むとは思いません。それは大嫌いです。ですが、最近フェリー・ボートを強奪した3人の誘拐犯のために死刑を実行しなければなりませんでした。私たちは、キューバに対するマイアミのファシスト・グループからの攻撃を防ぐためにそれをやったのです。 1100万人のキューバ人の命が危険であったので、行動しなければならなかったのです。

パリで財団を運営し、キューバとフランスの芸術家のための居住計画を特に組織しているギルバート・ブラウンストーン(Gilbert Brownstone)は、最近、キューバの文化の大臣、1997年に任命されて、カストロへの親近なアドバイザーであるインテリ、小説家のアベル・プリエト・ヒメネス(Abel Prieto Jiménez)との単独インタビューを行った。
  Interview with the Cuban Minister of Culture, Cuban Libraries Solidarity Group,2004..

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